TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



ザーフィアスでの日々(変形武器は男子の浪漫)

 

 帝都に訪れてから、ダミュロンは幾つか驚く事があった。

 

 一つ目、帝都であろうとソフィアの言動がぶっ飛んでいる事。己が被害は記憶に留めないにも拘わらず、相手の醜態に関しては忘却していないところはタチが悪い。祝賀会で半ば絡んできた、帝国評議会に属する高位貴族をその醜聞をチラつかせて撃退した。

 二つ目、アレクセイとデュークの夢の中と目の前の姿との違い。初対面である自身に対してもソフィアの言動に対してアレクセイは疲れ切った様子を隠そうとしなかった。それどころかダミュロンを、ソフィアのやらかしの後始末をする同士と認定していた。

 夢の中のアレクセイは、自身の弱みを滅多に見せず、他者へ協力を求める姿は見た事が無かった。

 吹き出し笑いを堪えたデュークもまた、夢の中では感情を見せず、より作り物めいた姿であった。

 

 ソフィアに協力する事で、何か開けるかもしれない。

 ダミュロンの中でそのような期待が芽生えつつあった。

 

 ダミュロンはソフィアの婚約者候補として、ディノイア邸の一室を貰い、そこで滞在するようになった。

 家庭教師による教育や鍛錬を受ける以外は基本自由。時折、ソフィアに頼まれて共に狩りや街で買い物をしたり情報収集をするくらいで、婚約者候補となるも友人関係は変わらなかった。変わったことと言えば、正式な茶会や夜会に出席するくらいで、それももう1人の婚約者候補のデュークと交互で参加する形であった。

 ソフィアは婚約者候補という関係は、立場上のものと割り切っている様子であった。今まで経験した貴族子女からのアプローチのように、甘い言葉や贈り物をダミュロンに要求することは無かった。女の子と甘い関係を持つのはダミュロンとしては吝かではなかったが、今の友人と言うか悪友のような関係も、居心地よく感じていた。

 

 この日ソフィアと共に迎えた客人は、最近ソフィアが友好を結んだキャナリ・フォン・エングリスと、彼女の婚約者であるステル・フォン・ガデニアであった。

 キャナリを見た時、ダミュロンは微かな胸の痛みと共に頭の隅に引っ掛かるような既視感に襲われた。そして今日、彼女が連れてきたステル、そして二人が持参した物を見て、その既視感がより強まった。

「これが、先日の狩りの一件で家から持ち出しを許可された、家宝のディヴァインキャノンですね」

 ダミュロンの心情など知らずに、ソフィアは机の上に鎮座された重量弓を眺める。純白の弧の所々にある金具は装飾にしては数が多く、この弓に施された仕組みと関与しているのは明らかだった。

「これは剣にもなるのだけど、変形の仕方がわからないの…」

「「変形……」」

 ダミュロンとステルの声が重なる。互いに互いの様子を伺う視線がぶつかる。男子としての浪漫は、似ているらしいとダミュロンは思った。

「弧の両先端の刃が刀身となるとすると…中央が内側に折れる形でしょうか? もしくは外側へ90°以上移動して軸を支点に交差するか…どちらにせよ中央横のハンドルが怪しい…っと」

 そう言いソフィアは手に取ろうとするが、重量弓は彼女にしては重く、片手で持ち上げることはできなかった。

「弓という事は、片手で持つことを前提としているはず。重さ的にキャナリには無理じゃないですか?」

「大丈夫よステル。これでもそれなりに鍛えてあるわ」

 キャナリの言うとおり、彼女はこの年頃の娘にしてはそれなりの筋力はある。ソフィアが悪戦苦闘していた瓶の蓋を、軽々と開けてみせたこともあった。しかしそうだとしても…

「矢を番えるには利き腕だよな。となると、変形した剣を振るうのは逆の手になっちまうな」

 ダミュロンに指摘され、キャナリはハッとした表情を見せる。

「素早く持ち替えるか、両利きになる必要になるわね…」

「どれ…ふむ……」

 ゆっくりとディバインキャノンを片方で持ち上げ、ハンドルと弦を見比べるステル。帝国の武具管理を担うガデニア家の次男であるステルは、慣れた手つきでハンドルの具合を見ている。

 

 ガコッ! キュインっ‼︎

 

 音を立ててハンドル中央あたりで弓の弧は折れ曲がり、幅広の刃を持つ片手剣へと形を変えた。

「ステル⁈」

 半ば叫ぶキャナリの視線の先、ステルの二の腕あたりの袖が裂けていた。

「内側に折れるタイプでしたか」

「変形時に刃が当たったみたいだな。大丈夫か?」

「直ぐに治療を…」

「大丈夫、服が裂けただけです。収納される弦に巻き込まれないように気をつけていた反面、弧の動きまで気が回りませんでした」

「面白い武器だけど、慣れるまでは怪我に気をつける必要があるな」

「そうね……ここから弓に戻すのは…」

「想像以上に大きく開くから気を付けろ」

 この場に居る4人以外の声が聞こえ、ダミュロンはその声が聞こえた方を向く。

 白亜の麗人…デュークの姿がそこにあった。

「……この武器、見た事があんの?」

「……いや。剣へ変形したところを目撃した。ここからだと全体像を俯瞰できただけに過ぎん」

 問いかけてきたダミュロンから視線を外し、デュークは静かにそう答える。そして本来の行き先へ向かうらしく、静かに部屋を後にしていった。

「ちょっと硬い!」

「力任せに引かない方が……」

「キャナリ、ハンドルは少し傾けてロックを外さないと…」

 元の弓の形に戻そうとするも上手くいかない様子で、キャナリたちは言い合いつつ弓に触っている。

 このままだと下手をすれば壊れるかもしれないと思い、ダミュロンはひょいと机の上から弓を持ち上げた。

 重さ、感触……ダミュロンは無性に懐かしく思う。

 

 ジャッ! キュワン‼︎

 

「お!」

 ほぼ無意識にダミュロンは手首を返しながら操作し、何処も巻き込むことなく、ディヴァインキャノンを元の弓の形に戻した。

「……え?」

「流石は器用ですね。ダミュロン様」

「ちょ…ちょっと、もう一回! もう一回やって見せて、ダミュロン‼︎」

 やり方を教わろうと半ば縋り付いてくるキャナリを見て、ダミュロンは茶目っ気のある得意げな笑みを浮かべた。

 

  §

 

 ソフィア、そしてキャナリ繋がりで、ダミュロンはステル・フォン・ガデニアとも交流するようになった。

 ステルはキャナリがソフィアを訪ねる時の付き添いで来ることが多く、キャナリとソフィアが2人で会っている間、ダミュロンが彼の相手をする事が多かった。しかし会って接するほど、ダミュロンの中の既視感は強まる一方であった。そして時折浮かぶ一つの名。

 

 イエガー

 

「は?」

 声が漏れていたらしく、反応したように突っ伏していた頭を上げるステル。

「いや……なんでもない」

「……真面目に聞いているのですか?」

「聞いてる聞いてる。キャナリに誘いを断られただけの話だろう?」

 今日は珍しく、ステルは1人でダミュロンに会いに来ていた。

「……そうではなく、同じ日に市民街でキャナリを見たと言う人が居たのですが…赤髪の男と一緒だったそうです」

「付き添い従者の線は?」

「赤髪、赤目の男はいません」

「友人では?」

「貴方やソフィア以外に、友人は居ません」

「その言い方はどうかと思うぞ…」

 ステルの言葉に、ダミュロンは思わず苦笑いする。キャナリにせよソフィアにせよ、気質や考え方が一般的な貴族令嬢と違い過ぎて、建前上の表面的付き合い以外は難しいことは、ダミュロンもよくよく理解していた。

「で、今日も1人で出かけていて、例の男と会っている可能性はあるから、その正体を突き止めたい…と。んなコト、1人でやってくれ」

 

 その時、中庭の生垣を上から覗き込むように、長い黒髪の顔が覗かせた。

「あ……ステル、来ていたの?」

「キャナリ⁈」

 自身らが話題にしていた相手が突然出現して、驚きつつも駆け寄る。そしてキャナリの隣にいる人物を見てさらに驚いた。

 キャナリの隣には、肩より少し長い赤髪を無造作に下ろした、自身らと同い年くらいの男子の姿があった。驚き声を失うステルを横目に、ダミュロンは赤髪の男子をマジマジと見つめる。どこかで見たような…

「……貴方が直ぐに分からないとなると、それなりにいい変装みたい」

「……ソフィア?」

 声を聞きようやく正体に気づき、ダミュロンがその名を呼ぶと、肯定するようにソフィアは一つ頷いた。

 

「ソフィアの身元がバレていて、買い物しにくくなったから、最近は変装している。そういうことなんね」

 中庭に入ったソフィアから事情を聞いて、ダミュロンが簡単に纏める。

「しかし、男装までする必要はありますか?」

「女だけだと絡まれるのですよ。その度にキャナリが騎士の詰所に突き出すから、ゆっくり買い物も出来なくて…」

「それにしても、屋敷に入る時によく止められなかったな」

「出る時は既にこの姿だったから。それに我が家の私兵は、これくらいの変装は直ぐに分かります」

「……屋敷で雇っている使用人、能力が異常に高くありません?」

「ステル、今更の話だ。それにしても…髪の色と髪型を変えるだけで、かなり印象が変わるな…」

「私の髪と眼は珍しい色の組み合わせだから髪色を変えました。そうでなければ、髪を下ろしたり結ぶだけで、簡単に印象を変える事が出来るのですがね」

 そう言いソフィアは、髪を一つに縛って、髪の束を捻ってハーフアップの状態にしてバレッタで留めた。髪の色は違うが、それだけでもいつものソフィアに近い姿になった。

「へえ……髪を伸ばせば色々試せそうだな」

「貴方の場合は、碌な事をしなさそうですね…」

「この前の仮面夜会のことか? なんだ、お前も参加してたの?」

「………キャナリには言わないで下さいよ」

 過去に4人で街へ出かけた時、ダミュロンが女性に声を掛けていた事を指したつもりが、若者らしい興味からの素行が知られステルは苦笑いした。

「で、何を買いに行ってたの?」

「ファリハイドから魚介類が帝都に入荷するって、マリーさんから情報を貰ったんです。兄様、最近疲れているみたいだから、シジミが手に入らないかと思って…」

「シジミ?」

 聞き覚えのない単語でステルは聞き返す。

「食用の貝だよ。スープにすると美味い」

「よく知ってますね、ダミュロン」

「ダミュロンはファリハイド出身ですからね。街の東には、南北に伸びる回廊海岸があって、そこで多種多様な魚介類が採れるんです」

「回廊海岸で採れた魚介類は、ファリハイドで一度集積されて各街へ売買される」

「魚介類が名産の一つと言うわけですか」

「で、手に入ったのか?」

 魚介類が好物であるダミュロンは、期待を込めてソフィアに尋ねる。

「佃煮に加工した物は買えました。少しだけですけど、後で分けますね」

「キャナリの買い物は?」

「まあもう少し経てば分かるから…」

 そう言いソフィアは、意味深な笑みを浮かべた。

「それはどう言う……」

「そういえば、キャナリは?」

「彼女は厨房にいますよ」

 ソフィアの言葉を聞き、ステルの表情はピキリと固まった。

「まさか……料理しているわけじゃないですよね?」

「え? そうですが…」

 そう答えるソフィアに対して、狼狽した様子でステルは詰め寄る。

「今すぐ止めてください! そうしなければ…」

 直後、ディノイア家の厨房から爆発音が鳴り響いた。

 

「……で、今度は厨房を半壊させたのか?」

「私ではなくてキャナリです。私が頻繁に破壊行為をしているような言い方は、やめて下さい」

「……私の寝室を破壊したことは忘れたのか?」

「そこまで頻繁ではありません」

「発生すること自体が、異常だと何故分からぬのだ?」

 そう言った後、アレクセイは大きなため息を吐いてダミュロンの方を見た。

「で、ソフィアの言った内容で間違いないのだな?」

「何故ダミュロン様に確認を取るのですか?」

「お前は嘘は言わんが、余すことなく全てを言う事が少ないからだ」

 ソフィアは、彼女自身が「大事件」と判断した事象に対して包み隠さずに話してくれる。ただソフィアの感覚がズレているため、一般的な「大事件」に当たる事象の大半を些細な出来事と済ませてしまう事が問題であった。

「ソフィアの言葉に間違いは無いですよ。キャナリが手作り料理をステルに振る舞いたかったみたいですね。だから少なくとも今回の件は、彼女は無関係です」

「……ソフィアに脅されての発言では無いみたいだな」

 ソフィア自身は明確に脅すことはない。ただ彼女の言動にドン引きした者が、間接的に怯えて自主的に口を閉ざすことがそれなりにあった。

「ダミュロン様、今回の件“は”ってどう言う意味ですか? 兄様、庇ってではなくて“脅されて”って、妹に対してどう言う印象を持っているのですか?」

「「自分の行いを振り返ってよく考えろ!」」

 アレクセイとダミュロンの声が、見事に重なった。

 

「全く……色々と面倒な時期故に、襲撃の可能性を一瞬考えてしまったぞ」

「騎士団で何かありましたか?」

「本日付で決定事項が伝えられた。皇弟レギン・ジェミナイ・ヒュラッセインが近衛隊の隊長職を辞す。魔物討伐に特化した部隊を、編成すると言う話だ」

 レギンはアレクセイに対して理解がある数少ない騎士団の中での味方であった。レギンが騎士団を去るとなると、次の近衛隊長次第ではアレクセイが掲げる改革に支障をきたす恐れがあった。

「次の近衛隊の隊長は?」

「それが今揉めているところだ。その候補の1人に、デューク・バンタレイが挙がっている」

 





 キャナリは貴族令嬢達とソリが合わないでしょうから、親しい友人が居なかったのではないかと…。早めにダミュロンに出会い、さらに女友達がいたらどうだっただろうかと考えて書いた文章です。
 キャナリもダミュロンも自身の出生である「貴族」が嫌いだったため、それとは異なる身分でもある「騎士」に憧れたのではないかと考えました。本作では「貴族」ではなく「貴族の責務をこなしていない愚者」に嫌悪を抱いていると気づく感じですね。
 イエガーは見るから裕福な生家だったと考えられるので、キャナリと当初から婚約者で、彼女について家を出たんじゃないかと考えて、貴族の設定にしました。実名が不明だったので、イエガーの名の由来と思われるトウゾクカモメ(pomarine jaeger)の学名(Stercorarius pomarinus)の一部から「ステル」と言う感じにしました。
 ファイハイドを含めて人魔戦争で滅んだ街の場所は不明ですが、移動式の宿屋の「冒険王」の各場所が、過去に街があった場所ではないかと考えました。加えてレイヴンの魚好き、生魚も抵抗がないことから、魚が獲れる海岸近くにファリハイドはあったのではないかと考えられます。北は氷に閉ざされ、南は魔境扱いされていることから、西か東の海岸近く。そこでアスピオの北東にある「冒険王」の地点にファリハイドがあったのではないかと思ったわけです。
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