TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



第三勢力の青写真(足りない人手は兄から借りる)

 

 ソフィアの目的は、これから起こる悲劇の数々を回避すること。

「今後を見据えた、中長期プランを練る必要がある……か」

 根源…までいかないが、様々な悲劇の引き金となるエアルの大量消費。その要因のヘルメス式魔導器(ブラスティア)の開発は、ヘルメスの研究の方向性を消費エアルの軽減に舵取りしたため、回避できる見込みが立った。

「他にも色々と仕込みたいけど……帝国評議会の貴族がねえ……」

 我欲で動く者ならば対処しやすいのだが、ディノイア家の台頭が気に食わないという理由で邪魔する者は対処のしようが無い。

「カクターフの一派が前者で、キュモールの一派が後者と言ったところ。利益提供してカクターフ公が防波堤になっている間に、体制を整えないと…」

 貴族対策として、ディノイア家の地位の確立。これは廉価版通信魔導器(コールブラスティア)とアレクセイの騎士団長就任でクリアできた。

 しかし、魔導中継筐体(エアルコンテナ)の利権をディノイア家が独占すれば、貴族からの攻撃が激化するであろう。エングリスを介してカクターフ勢力に利益を流す予定ではあるが、カクターフが全利権を望む危険性もある。何より、カクターフの反対勢力もそれなりにあることから、そちらから睨まれる危険性が大きかった。

「貴族対策が先か…派閥を超えて利権を配分できる第三勢力…魔導中継筐体(エアルコンテナ)の改良や利益の分配を調整する機関として設立する方がいいか。そうなると、幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)を巻き込みたいところだが…」

 ギルドの成り立ちを考えると、帝国貴族が積極的に関わりを持つのは…

 

「なーに難しい顔してんの?」

 背後から聞こえたダミュロンの声で、ソフィアの思考が中断する。

「…ずいぶん砕けた口調になりましたね。ダミュロン様」

「アンタはまだ『様』付けが抜けないんだな…」

 そう言うダミュロンの声は、何処か気遣うような優しさを含んでいた。

「呼び捨てにしようものなら、婚約者が確定したように認識されます。それは互いに避けたいでしょう」

「なるほどねえ…で、何を悩んでた? 婚約者候補らしく、相談に乗ってやってもいいぜ」

「廉価版武醒魔導器(ボーディブラスティア)の骨幹技術、それを一部の帝国貴族だけが抱えるのを避けたいと考えていて…」

「アンタは面白いな。普通そこは独占しようと考えるものだが…」

「それは国中の妬みが集中するのと同義。そんなもの、対処できる訳無いでしょう」

 ソフィアの言葉に「そりゃそうだな」と同意しつつ、ダミュロンは向かいに座った。

「で、ギルドも巻き込みたいと」

「……帝国が独占したらバランスが崩れる。どちらも恩恵が流れるようにしたい」

「で、第三勢力を作りたいと言うわけね」

 最初から聞こえていたらしいと、ソフィアは思わず苦笑する。

「それについて、俺から一つ耳寄り情報」

「ん?」

「帝都の外の貴族は、中央から軍備を制限されていることから、ギルドを利用しなければ立ち行かない部分も多々ある」

「対魔物の都市防衛、流通を維持する隊商、そしてその護衛というところですか?」

「ご名答。ギルドとの密な関係について中央からの追及をかわす必要はあるが、自身らの手で制御する必要がある。そのために、切り捨てても問題ない身内を、契約先のギルドに送り込むのよ。長男とそのスペアの次男以外、娘や三男以降はそう言う駒に使われることが多い。家の意向に反して、派遣先のギルドの方に与して絶縁された令嬢も居るって話だ」

 その話はソフィアも聞いたことがあった。

 通信魔導器(コールブラスティア)の開発で世話になった海精(セイレーン)の牙の首領のアイフリードがその本人だったわけで、彼女から実際にその話を聞いたわけだが、流石にその話はダミュロンにはできなかった。

「……つまり、嫡子に関わらない貴族の者ならば、ギルドと密になっても問題はない。ついでに、捨て駒扱いされている現状に不満を抱く者も多い」

「で、俺はそう言う貴族との接点は多く持っている。人柄を見抜く術もそれなりにある」

「…人材確保をお願いしたいのは山々だけど、見返りは?」

「俺は騎士団に入りたい」

 ダミュロンの言葉に、ソフィアは一瞬言葉を失う。

「それは…なぜですか?」

「俺はファリハイドに戻りたくない」

「……アトマイス家の次男として飼い殺される生活は、二度と送りたくないと言うこと? でも、貴方は…」

「騎士団に入れば、家に戻らなくても親父殿は納得する。たとえアンタの伴侶となれなかったとしても」

 そのダミュロンの言葉に、ソフィアは完全に言葉を失った。

「アンタは…誰かを伴侶にする気は無いんだろう?」

 降参と言わんばかりに、ソフィアは深い深いため息を吐き出した。

「…そこまで見抜かれているのなら、人員の選抜を信頼してお任せできます。そして兄様にお願いして、貴方が18歳になったら騎士団に入れる旨を、アトマイス卿に打診します」

「助かる」

 そう言いダミュロンは深く頭を下げた。

「確かに俺は、アンタのことを異性としては見ることはできない」

「失礼な言葉ですね…」

「だが友として、少しは君の荷物を任せて貰いたいと思っている」

「……ダミュロン…」

「初めて『様』を取ってくれたな。まあ俺様の活躍、期待してちょうだいな」

 そう言いダミュロンは握り拳を作って掲げる。ソフィアもそれに応えて、作った握る拳をダミュロンに軽く当てた。

 

  §

 

 ソフィアが帝都に戻って2年が経過した。

 それはデュークとダミュロンがソフィアの婚約者候補となって、2年経過したのと同義であった。

 

 この日、ディノイア邸に呼ばれたデュークは、屋敷の離れにあるソフィアの作業場の地下会議室、防音の廉価版魔導器(ブラスティア)が完備された内鍵の部屋に通された。

 

 部屋には既に、ダミュロンの姿があった。

 

 デュークの知っている時間のループの中で、このダミュロンは数奇な運命を辿り、精神が壊れるほどの苦難を味わう。しかも彼は、自分と同じように時間のループでの記憶を持っていた。

 ダミュロンは、彼なりに悲劇を回避するために動いていた。共闘したり、対立したり……デュークが人間に見切りをつけた後でも、ダミュロンだけに対しては仲間意識を抱いていた。

 彼が輪環の記憶から逃げ出すまでは。

 時間のループ内でダミュロンが記憶が無くなった後も、デュークは彼を人間全体の一部と見做して切り捨てることができなかった。自身と同じ「記憶持ち」の立ち位置だった事を引き摺り、彼を「個」と認識して期待を抱くことをやめられず、勝手に裏切られたと判断して「死人」や「道化」とレッテルを貼り、そして関与しないようにしてきた。

 

「何?」

 デュークの視線に気づき、ダミュロンの翠の瞳が向けられる。

「いや……」

「そんなことないでしょうが。ソフィアのことで何か聞きたいことがあんの?」

 デュークと共に婚約者候補となっている、アレクセイの妹の名を挙げたダミュロンの翠の瞳には、影も澱みもなかった。「死人」でも「道化」でもない本来の素の姿に、デュークは少し気まずさを感じる。

 その時扉が開いて、ソフィアと共にクリティア族の男…彼女の師であるヘルメスが入室した。

 

「それでは、魔導中継筐体(エアルコンテナ)の量産に目処が立ちましたので、作戦会議を開きたいと思います」

「最初に私から」

 そう言いヘルメスは魔導中継筐体(エアルコンテナ)について説明する。

 先に発表された廉価版通信魔導器(コールブラスティア)の骨幹とも言える発明品の存在を、初めて聞いたデュークとダミュロンは驚き目を見開いた。

「なるほど…ジャンク品の魔導器が全て使用できるようになるのか」

「……マナの消費効率はどうなる?」

「安全性を考えて、1つの魔導器に対して魔導中継筐体の同時使用は3つまでと制限を掛ける方向です。余剰エネルギーの放出回路ができて、エネルギーの相殺処理に使うエアルが不要ですので、単一使用よりも消費エアルが削減される見込みです」

 デュークの問いにヘルメスが答える隣で、ダミュロンは興味深そうに魔導中継筐体(エアルコンテナ)を手に取る。

「それぞれの属性に合った物が必要と言う話だが、確立された物理、地、水、火、風、光で当面は充分ではないかと。一つの使用できる照明魔導器(ルクスブラスティア)で複数の照明を…いや、転用できると言う方が凄いか……ジャンク品の武装魔導器《ホブローブラスティア》を使えるようにするとか」

「改めて考えると、とんでもない代物だ」

 ダミュロンの言葉を聞き、半ば唸りつつアレクセイがそう呟く。

「一部の貴族はおろか、帝国が独占するのは非常に危険かと思います。その恩恵をギルドも受けるようにもしなければ、後々の禍根になる危険性もあるかと」

「それで仲介となる組織を作ると言うわけだな」

「その通りです、デューク様。そもそも、魔導器(ブラスティア)の発掘では遺構の門(ルーインズゲート)魔導中継筐体(エアルコンテナ)の部品や筐体の量産では魂の鉄槌(スミス・ザ・ソウル)、販路では幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)、各物品の流通の護衛や素材集めでは紅の絆傭兵団(ブラットアライアンス)、ギルドの協力なしで安定した共有は不可能です」

「……ギルドとの協力が不可欠なことは分かった。資金は魔導中継筐体(エアルコンテナ)の利益を当てるとして、人員はどうする?」

「それについては俺から」

 アレクセイの疑問に答えるべく、ダミュロンは一つ一つの名を挙げていく。

 魔導中継筐体の発表にあたり、ソフィアはディノイア家への風当たりを軽減するため、そしてギルド側にも益を分配するために、第三者機関の設立を模索していた。その相談をダミュロンは受けていたらしく、人員確保を水面下で進めていたらしい。

「…ナイレン・フェドロック、ステル・フォン・ガデニア。以上が俺の方から声がけをして、良い返事をもらえた者です」

「なるほどな…ダミュロンが実家へ頻繁に手紙を送ったり、茶会や夜会に参加していた理由はそれか。しかし…」

 呟くようにアレクセイはそう言った後、半ば呆れるような視線をダミュロンに向ける。

「ナイレンは騎士団で無くてはならない存在だ。それを頭数に入れるのは止めたまえ!」

「帝都の各派閥、地方の貴族からバランス良く人員を確保する足掛かりですので、兼任は一時的の予定です。ナイレン隊長の奥様を始め何人かに打診していますので、その人員が確保でき次第こちら側の兼任を解除する予定です」

 ソフィアの言葉を聞き、アレクセイは腕を組んで静かに口を開いた。

「…そこまで準備をしたのなら、私から言うことは無い。だが条件がある」

「条件ですか?」

「さっきダミュロンが挙げた人員の中で、何人かを騎士団の方へ回せ」

「ナイレンの兼任は一時的で、俺とキャナリも騎士団へ入る予定ですが」

「まだ足りん。あと数名欲しい」

「善処しますが…本人の希望を優先させてくださいよ」

 そう言いダミュロンは肩をすくめた。

「資金と人員よりも一番問題なのは、根回しの方では無いのか?」

 そう口を開いたのはデュークであった。

「その通りです。皇帝陛下の方は覚えめでたいアレクセイ兄様に丸投げして…」

「やはりそうなるか…」

「そして、ギルドユニオンの五大ギルドの大半を巻き込む事業です。筆頭である天を射る矢(アルトスク)とも話をする必要があります。ギルトユニオンの元首、大首領(ドン)ホワイトホースと」

 





 アイフリード(パティ)が貴族出身であったことは、ゲームのサブイベントで明かされます。また、人の行き来が著しく制限されているこの世界で、地方都市が維持されるのにはギルドの力がないと難しいのではないかと考えた訳です。実際に劇場版では、シゾンタニアでナイレンはギルドの人たちと共同戦線を張っていたわけですので…
 小説「虚空の仮面」で、デュークはダミュロン(レイヴン)に対して、辛辣な態度(エルシフル殺されたばかりで気が立っていたとは言え、蘇生したばかりで混乱しているレイヴンに対して「死人」と呼び捨てる)を見せます。それには何か別の要因があるのではと考えて、話に盛り込んだ次第です。
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