TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



ソフィアの起業(株式会社を創ってみよう)

 

 廉価版通信魔導器(コールブラスティア)。その発明で魔導器研究の第一人者となったヘルメス。天才の名を欲しいままにしたヘルメスは魔導中継筐体(エアルコンテナ)の公表に踏み切った。

 最初に発明されたのがこの魔導中継筐体で、周囲の影響の大きさを考慮して機能を制限したのが、廉価版通信魔導器であった。そして今回、魔導中継筐体の量産体制が整い発表に至ったのであった。

 

 この魔導中継筐体(エアルコンテナ)。数多な時間のループ内でデュークが見てきたヘルメス式魔導器(ブラスティア)とは真逆で、エアルの消費量は増えるどころか単一使用よりも消費エアルが削減される代物であった。

 ヘルメスは魔導器研究で天才であることは間違いなかった。

 彼の能力を活かす方向を少し変えただけで、デュークが見たことがない未来へと繋がろうとしている。

 今までの時間のループの中でのこの時期のデュークは、人間社会は自身とは関係がないものと切り捨て、エルシフルとの再会を願い無為に過ごした。アレクセイとの接点がある以上、彼の友人であるヘルメスとの接点は作れたはずだ。彼やアレクセイを「個」と見て、健全な関係性を築き、注意喚起することもできた可能性を、デュークは今更ながら気づいたのであった。

 

 やがて魔導中継筐体が発表され、その管理と運営をする組織が設立される。

 設立された帝国とギルドを結ぶその第三者組織は、「黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)」と命名された。

 暁期の西の空に微かに輝く「残月」。新たな月へと引き継ぐ消えゆく月、終わりと始まりを象徴する女神(トリウィア)。伝承で世界を救った「満月の子」の別称でもあった。

 

 黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の構成員は地方貴族と帝都貴族、それぞれの騎士団賛成派と反対派、計4グループ内の派閥から集めた約20名。地方貴族側のまとめ役としてダミュロン、帝都貴族側のまとめ役としてキャナリが収まっていた。

 しかし、キャナリはいずれ騎士団へ完全に移行することから、代わりにキャナリの婚約者であるステル・フォン・ガデニアが帝都貴族側のまとめ役になる予定であった。ダミュロンは並行して籍を置く予定だが、キャナリだけではなくナイレンも含む何名かは、黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)が軌道に乗り次第辞める予定となっているのだが…

 

「人手が足りない…」

「設立間もないのに、手をひろげたからでしょうが」

 近くで資料を捲っていたダミュロンが、尤もな指摘をする。

 

 魔導中継筐体(エアルコンテナ)の発表にあたって一番懸念していたのは、武醒魔導器(ボーディブラスティア)兵装魔導器(ホブローブラスティア)の中で、ジャンク品とされた物の再利用による、武器や兵器の拡散であった。これは、事前に情報提示した帝国やギルドユニオンが、現在確認されているジャンク品の魔導器(ブラスティア)の大部分を、先回りして確保する事で対応した。

 続いて懸念したのは、ジャンク品の魔導器や、動力源として期待される使用可能な魔導器の価値の乱高下であった。しかしジャンク品の精査と調整が可能な機関は黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)に限られており、それも一気に大量に対応できるわけでは無いため価格は微増にとどまった。

 そもそも、魔導中継筐体(エアルコンテナ)の流通自体は、帝国側は黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)に委託、ギルド側は 幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)が主導で行っている。魔導中継筐体(エアルコンテナ)が手に入らなければ、上記の事象は発生しないことから、これらの懸念は回避することができたのであった。

 最初の一山を越えたが、前述の事態はそのまま黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の業務が当分無いことを意味していた。そのためソフィアは、構成員を文官の補助として、騎士団やアスピオそしてギルドへの人材派遣の業務を提案したのだが…

 

「…人材派遣依頼がこんなに殺到するなんて、想定していなかった…」

 ゆくゆくは黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)を、帝国とギルドの調整弁として働く第三勢力と位置付けるための布石だったのだが…これが予想以上の大当たりとなってしまった。

 警戒を示す帝国評議会や貴族らに、所属する身内を介して、魔導中継筐体(エアルコンテナ)の優先譲渡と得られる恩恵で黙らせる目的で入れた構成員であったが、こうなってしまっては積極的に人材を入れるしかなかった。

「で、人員増やすのはどうすんの? 構成員への希望者が殺到してんだけど」

「時間差で次から次へ来るから、当初の予定通りに、決まった時期に求人を出して、そのタイミングで入れる方針は変えられない」

「でも、人員増強は急務じゃ無いかしら」

「キャナリの言うことはご尤も。でも一度例外を認めたら、収拾がつかなくなってしまうわけで…」

 その時、幹部執務室の扉にノックが響き渡る。

 

 入るように促すと、濃鼠色の髪の優男が顔を覗かせる。その顔を見るや否や、キャナリの雰囲気が一気に華やぐ。

「ステル…」

 ステルは自身の名を呼んだキャナリの側へと真っ先へと寄る。

「キャナリ…」

 成長して年頃の男女に成長した婚約者同士の二人は、偶に周囲に甘い雰囲気を撒き散らす。このまま二人の世界に入る前に、ソフィアはそんな雰囲気をぶった斬るように口を開いた。

「書類ができたのなら、さっさと渡してください」

 ソフィアに促され渋々書類を渡しつつ、ステルは尋ねる。

「そう言えば何か真剣に話していた様ですが、何か問題でも?」

「人手が足りないけど、求人のタイミングは予め決めてあって、直ぐに増員できないのよ…」

「下手に例外を作ると収拾がつかなくなるわけなんだわ」

「それでしたら、求人の機会を年に2回にしては?」

「それ、採用‼︎」

 ステルの提案で一回目の求人を早めることにした。

 

 こうして予定より2倍速で人員を集めるソフィア。

 貴族の家での穀潰しが稼ぎ頭へと変わっていった結果、貴族の一般市民への過剰な税の搾取が減少するという副次効果が起きるようになるのだが、それは別の話である。

 

  §

 

 黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)は、帝国とギルドからの出資を募って運営資金を確保している。

 起業時はディノイア家が保有していた廉価版通信魔導器(コールブラスティア)関連の利権を移譲することで、当面の資金を確保した。以降は黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の経営陣が算出した経費総額の内、30%を皇帝が、15%を幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)を窓口としてギルドユニオンが、15%をディノイア家が出資する形となっている。残る40%が公募だが、黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の在籍者からの紹介に限られる上、出資額の上限に制限が課せられていた。

 出資者には出資額に合わせて配当金が与えられることが知られると、多くの貴族からの問い合わせが殺到した。さらに出資者と黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の経営陣で年に一度会議を開き、運営を決定する方針となった。出資者に与えられる票数は出資額に比例する…つまり、出資額はそのまま黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)への影響力に反映される事から、貴族たちは出資制限の上限撤廃どころか、出資したように見せかけるように書類の改ざんを要求する事もあった。

 

 そしてこの日も、要求を掲げた1人の貴族がソフィアへと面会に来ていた。ソフィアの身の安全を危惧してか、アレクセイの要請でダミュロンだけではなく、デュークも同席していた。

 訪問者はキャナリの父親でもあるラゴウ・フォン・エングリス。彼は自身に課せられた出資上限の制限がより厳しいことについて、抗議に来ていた。

 それについてソフィアは、先行して風属性限定の廉価版武醒魔導器の利権を与えていた事を考慮した結果と伝える。ラゴウは現在進めている彼の家の家宝である「ディヴァインキャノン」を元にした、変形弓の量産について許可を撤回することをチラつかせたが、ソフィアは一歩も引かなかった。

 

「ラゴウ・フォン・エングリスが急死?」

 ラゴウがソフィアに詰め寄った数日後、デュークは突然の訃報をアレクセイから聞いた。

「そうだ。エングリス家はフィアレンが継ぐことになった。彼からソフィアへの謝罪と、引き続き変形弓の協力を続ける旨の手紙が届いている」

「フィアレン…カクターフの遠縁の養子が継ぐのか?」

「ラゴウとしては実子のキャナリに婿を取らせて継がせたかったようだが…まあ、これで彼女は大手を振って騎士団に入れるだろう」

 キャナリが騎士団に入る事が本題だったらしく、笑みをこぼしつつアレクセイはデュークに告げた。

「では、ガデニアの庶子との婚約は破棄か?」

「継続させるらしい。フィアレンは婚姻関係による家同士の連携強化は望む所だろうし、何より当人同士の関係は良好だ。ステルもキャナリと共に騎士団に入るつもりらしいからな」

「……そうか」

「それにしても、お前の口から貴族家の話題が出るとは驚いたな。そう言う世俗的なことは嫌厭していると思っていたが」

「……婚約者の交友関係ならば話は別だ」

 アレクセイから視線を背けデュークはそう言うが、本当はフィアレンを警戒していたからであった。

 

 騎士団本部爆破事件。

 常の時間のループであれば10年程先に起きる出来事。

 何回かの時間のループの中でデュークがダミュロンから聞いた話によると、評議会の一部の貴族によるアレクセイ暗殺を狙った凶行というのが、事の真相であった。アレクセイは辛くも命を拾うが、彼が苦心して育て上げた人材は、任務で不在であったダミュロンを除き全て亡くなるという凄惨な結果となり、アレクセイが狂う最後の一押しとなる出来事であった。

 そしてその主犯がフィアレンであった。

 しかし不思議な事に最近の時間のループでは、その役割は別の者がこなすようになっていた。その理由は、フィアレンはカクターフの部下の立ち位置から、いつの間にかエングリス家の養子に…キャナリの義兄の位置に収まるようになっていたからだ。

 今まで気に留めていなかった事象が、この時間軸で初めてデュークは、何かしらの引っ掛かりを感じるようになっていた。

 

「どうした? 何か気になるのか?」

「……キャナリが家を捨てることなく、騎士団に入れる事がそんなに嬉しいか?」

「家から出ようが出まいが関係ない。出自や経緯に関わらず、志高い騎士が増える事は大歓迎だ」

 デュークが辿った時間のループでは、騎士になるために貴族籍を捨てた心意気を買って、アレクセイはキャナリを認めた。今の流れのままでは貴族籍のままで騎士になりそうだが、アレクセイはキャナリを認めている様子であった。

「キャナリの事を随分買っているようだな」

「当然だ。ソフィアが生み出す影響力や利益に惑わされる事なく、妹と健全な交友関係を続けてくれている事自体、どれほど稀有なことか…」

 その言葉を聞きデュークは、ソフィアを介した関係性からアレクセイはキャナリの人間性を認めている事に気づいた。

「だからダミュロンも、婚約者候補を継続しているのか?」

「それもあるが、彼は優秀だ。彼抜きではソフィアの業務に支障が出るほどにな」

 その言葉を聞き、デュークは何故か胸の奥がチリチリ痛むような不快感を感じた。それがダミュロンに対する嫉妬であること、その理由すらもデュークは気づくことはできなかった。

 





 黎明の残月の経営はいわゆる株式会社スタイルです。株を買わせる相手を調整することで、帝国評議会の貴族に利権が集中することを防いだ形です。
 ゲームで悪事を働くラゴウですが、この時点で退場となります(早めに対処しないと人的被害が酷いので…)。ラゴウの家名とキャナリやフィアレンとの関連性は捏造となっています。キャナリが目をかけていた孤児院(ゴーシュとドロワットの出身)の場所と、孤児院が借金していた先が「名家」なっていることから、カプワ・トリムの執政官だったラゴウが関係しているのかな…と考えた次第です。
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