TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始から25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



下町のジリ(継続的人材確保は長期計画で)

 

 生前にやり込んでいたゲームに似た世界へ異世界転生を果たし、ソフィア・ディノイアに成り替わってから10年の年月が過ぎた。

 ゲームで起きる悲劇の要因を取り除くべく行動してきたソフィアは、21歳を迎えていた。

 

 ソフィアが考えた悲劇に繋がる要因は二つ。

 一つは魔導器(ブラスティア)によるエアルの消費増加。

 一つは帝国の統治体制が腐敗している現状。

 

 魔導器については、出力重視ではなく汎用性と省エアルへと方向性を変えた。その先鋒であるヘルメスが、莫大なエアル消費をする、ゲームで登場した「ヘルメス式魔導器(ブラスティア)」を開発することはしないだろうと踏んでいた。

 帝国の統治については、貴族への忖度により帝国法が形骸化している根本原因として、為政者側の貴族の大多数が一般市民を搾取対象と看做し、統治ではなく支配をするものだと認識している事が問題であった。意識改革には時間を要することから、嫡子以外の子息子女を黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)に向かい入れ、そこから地道に意識改革していくしかないとソフィアは考えていた。

 

 残りは15年……直近の差し迫った危機まで5年。

 人魔戦争勃発まで、あと5年であった。

 

「難しい顔して、何を作っているのかしら?」

 背後から声が聞こえ、思考を中断させられたソフィアは振り返る。そこにはバスケットを持ったキャナリの姿があった。

「あれ? キャナリ。仕事は?」

「今日は休み。ダミュロンから荷物預かったから届けに来たの」

 その言葉を聞き、ファリハイドの滞在中にアトマイス家の図書室で見た文献が欲しくて、該当部分の複写をダミュロンを介してお願いしていたことを思い出した。

 ダミュロンは騎士団に入ると同時にディノイア家の屋敷を出て、騎士団の宿舎へと移っていた。しかしソフィアへ用事がある時は、黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)で会う時に済ませればいいだけの話。わざわざお使いをお願いしたのは、友人である自身と会う機会を設けるためのキャナリへの気遣いなのだろうと思いつつ、ソフィアは荷物を受け取って中身を改めた。

「これは…」

 頼んだ資料の模写ではなく、そこには原本の姿があった。同封されていた手紙には「差し上げる」とダミュロンの父、アトマイス卿の著名があり、内心感謝しつつ本を戸棚に片付けた。

「ありがとう。キャナリ」

「本当は作業場に篭ってると聞いて、荷物を渡して帰ろうとしたのよ。そうしたら、昼食も食べようとしないからと心配した家令の方に、差し入れを持っていくように頼まれたの」

 そう言いキャナリは左手のバスケットを掲げる。指摘されて時計を見ると、確かに昼食どころか午後のお茶の時間に差し迫っていた。

 

 作業場の2階には、簡易キッチンとリビングテーブルが置いてある。ソフィアは手早く紅茶を入れ、キャナリと自身の席に置く。そしてソフィアは遅めの昼食を、キャナリは午後のお茶をいただく。

「で、どう? 騎士団は?」

 黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の仕事が落ち着いた頃、キャナリの騎士団入りを強固に反対していたエングリス卿が急死し、キャナリの兄のフィアレンが当主となった。フィアレンは理解がある良い兄らしく、キャナリの騎士団入りを快く認めてくれたのであった。

「少しは慣れたかしら。ステルとダミュロンは、黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)との二足の草鞋だから、大変そうよ」

 その言葉を聞き、ソフィアは少し申し訳ない気がする。しかし、二人がいないと黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の運営が立ち行かないのも事実で…

「中長期的に人材育成を考えないと…」

「何か案はあるの?」

「一応ね。その根回しのために、ちょっと制作をしていた所」

「何を作っていたのかしら?」

「合成用魔導器を使わずに回復薬を作る方法と、そのための道具作り」

 

 グミやボトルと言った回復薬の販売と生産は、どの雑貨屋でも行われているが、それは合成用魔導器のお蔭であった。

 しかしソフィアが制作に勤しんでいるのは、昔ながらの手動ながらも、負担が少なく安定して作れるレシピと、そのための道具作りであった。

 最初に測定魔導器(スケールブラスティア)で正確な値を調整しつつ、秤、液体測量容器、油を着色した液球温度計、時間計測用の砂時計を作成した。次に溶液攪拌用容器、三脚台、耐熱網と言った器具と機器用の材料を作る。そして、遠心器、破砕器、攪拌器、蒸留器、濾過式浄水器、アルコールランプと言った機器を作り出した。

 透明の細い管や漏斗様の構造、球形を含む多様な耐熱ガラスは幸福の市場(ギルド・マルシェ)を介して手に入れたり、魔物由来の素材を組み合わせる事で作ることができた。遠心器や破砕機、攪拌器は、手回しの稼働で何とかなりそうであった。

 続いて、先日経費で購入した合成用魔導器を解析して、各ボトルやグミの組成と合成における物理条件を調べて書き出した。そして各条件の前後の値を幾つか振って、作成した機材のみを用いて各回復薬を作成した。

 作成物をスペクタクルズで確認したところ、興味深い事に通常の合成よりも効果が高い物も存在していた。その条件をメモして一通りの作成法を確立していった。

 

「大体の回復薬の検証実験は終わった。あとは各器具の材料と作り方もまとめれば、問題ないかな…」

「ソフィア、合成用魔導器(ブラスティア)を使用しない回復薬の製作法と、黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の人材確保とはどう関係があるのかしら?」

 相変わらずソフィアの思考は一足飛びが多く、今までの説明では目的と手段を結びつけることは困難であるため、キャナリは遠慮なく尋ねる。

黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の新人の中に、家庭教師の経験者が居てね。下町や市街地の子どもに、出張教育を定期的にできればと考えてる」

「次世代に向けて、子供の教育をしていくってことかしら」

「そう。できるだけ裾野を広げて。でも下町の子は警戒心が強いし、そもそも広く知らせないと集まってくれないでしょう? その広報と仲介を引き受けてくれた人と取引して、その対価として提示されたわけ」

「誰と取引したの?」

「ジリさん。下町で魔物の解体をお願いした食堂を覚えている? そこでよく会った下町の顔のハンクスさんの奥さん」

 要するに、下町を含む一般市民の子どもに広く教育を施し、長期的かつ継続的な人材育成を目指す。子供への周知と説明をジリに頼む時、彼女から交換条件で提示されたのが、魔導器(ブラスティア)を使わない回復薬の作成手法の確立ということであった。

「子供たちね…それだったら、追加でやった方がいいことがあるわ」

「え?」

「これを子供達への『おまけ』にする」

 そう言いキャナリは、茶請けのクッキーを一つ手に取り、ソフィアに見せた。

 

 ソフィアは下町の食堂に来ていた。

 黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の仕事が忙しく最近は狩りの頻度が減り、久しぶりに食堂の女将と雑談していた所、待ち人が来た。

 下町の顔役であるハンクス、彼の妻であるジリであった。

 

 依頼の調薬器材一式とレシピを渡し終えたのち、外から子供の騒ぎ声が聞こえてきた。

「結構集めてもらったみたいですね」

「前払いを貰ったからには、きっちり仕事はやらせて貰うよ」

 今日は出張教育の第一回目。

 教師役を引き受けてくれた部下は、ジリに引き渡す荷物も持って来てくれた。一般市民を見下していた数ヶ月前とはすっかり変わり、今回の教育役を引き受けてくれ、ソフィアは嬉しさのあまり笑みを浮かべた。

「ずいぶん幸せそうな顔もできるんだね。いいことでもあったのかい?」

「まあ…成果が目に見える様になって実感が湧いたところですよ」

 ソフィアがジリにそう答えた時、食堂に黒髪の子供が入ってきた。

「ユーリ! あんたは参加しないのかい?」

「……アイツ塀向こうの奴だろう…話なんて聞きたくないね…」

 ユーリと呼ばれた子供は、そっぽを向き食堂の女将が持って来た水を飲み干した。

 下町の人たちが「塀向こう」と呼ぶ貴族は、一般市民を「下民」と呼び、蔑み虐げる者がまだまだ多い。下町の人間で貴族と接する機会があるのは、巡回に来る貴族出身の騎士くらいだが、徴税と称して金を巻き上げた上に着服したり、繰り返し徴税をして金が尽きれば憂さ晴らしに乱暴狼藉をすることが絶えなかった。最近では平民出身の騎士を巡回に当てていると、兄アレクセイがぼやいていた事をソフィアは思い出していた。

 そんな貴族しか目にした事がない以上は当然の態度であると思いつつも、どうやって警戒を解いたら良いかと考えたその時、ソフィアはポケットに入れておいた物を思い出した。

「これ、良かったらどうぞ」

 ポケットから取り出した紙袋に包んだパウンドケーキを、ソフィアはユーリに差し出す。

「…………」

 受け取らない様子を見て、ソフィアはパウンドケーキを半分割って、さらにその半分ずつをジリと分けて食べる。キャナリが申し出た手伝いを拒否して、帰宅したアレクセイの摘み食いから守り抜いたソフィアの手作り菓子であるが、なかなか良い出来であった。

 美味しそうに食べる二人を見て、ゴクリと生唾を飲み込むユーリ。ソフィアが残り半分を再度差し出すと、受け取ったパウンドケーキに齧り付いた。口に広がる甘い香りととろける様な甘さに、声もでない様子であった。

「参加でパウンドケーキ、問題正解につき飴玉をプレゼントってさ」

 ジリがそう伝えると、ユーリは目の色を変えて飛び出した。

「ユーリ、病み上がりなんだから無茶するんじゃないよ!」

「ジリさん。もしかして病気だったというのは…」

「あの子もその一人だよ…酷い流行病だったのさ。あの時貰った薬で助かったよ」

 

 ソフィアとジリ。

 ハンクスを介して互いの存在は知っていたが、直に会ったのは一ヶ月前が初めてであった。

 ソフィアが魔導中継筐体(エアルコンテナ)の営業に訪れた貴族の屋敷で、ジリが侵入しようとしたところを見つけて止めたのが切っ掛けだった。

 事情を聞くと、下町に薬を調合して安価で販売していた者が亡くなり、薬が手に入りにくくなったところで、病気が流行したという話であった。

 女子供と体力に乏しい者から病に倒れる惨状を見て、下町の孤児たちの母親がわりでもあるジリは、悪名高い貴族の家に盗みに入り、その金で食料や薬を買って皆に分け与えていたとのことであった。

 貴族街での盗難事件の発生は聞いていないことから、ジリが盗んだ金はまともな出所ではなく、届出を出したくても出せないのだろうとソフィアは判断した。とは言えども、このまま見過ごすわけにはいかないと考えたソフィアは当面の薬を譲渡、さらに合成用魔導器無しでの各ボトルやグミなどの作成法を確立させて譲渡する事を申し出たのであった。

 合成用魔導器を贈るよりも、維持費や故障時の修繕費を考えると高額機器に頼らない方法を確立した方が良いと、ソフィアは判断したからであった。何よりいずれは魔導器の放棄は避けられないことから、今のうちから魔導器に頼らない方法を確立した方が良いともソフィアは考えた。

 引き換えにソフィアがジリに提示した条件は、これからソフィアがしようとしている出張教育を、下町を含む一般市民の子どもが参加するように周知してもらうこと。そしてジリが義賊を止める事であった。

 そしてジリはソフィアの条件を受け入れたのであった。

 

 出張教育は大成功に終わった。

 ソフィアの兄であるアレクセイの隊長時代の部下、その妻のノレインという女性が市民街と下町の出張教育の手伝いを申し出てくれた事もあり、今後も週1程度で実施する事になった。

 これで取引は成立と、ソフィアは席を立ってお暇しようとする。

「いい加減、名前を教えてくれんかねえ? うちの人に聞いても『嬢ちゃん』としか言わないからねぇ」

「…ソフィア」

「ソフィアさんね。本当にありがとう」

「いつかは作ろうと考えていた物ですから、ついでですよ」

「そう、その顔」

「?」

「幸せそうな顔しているよ。ああそうか…アンタは、誰かを救った時に幸せを感じるんだね」

「いや………誰か救うなんて…結局自身を救うのは自分だけだし、その切っ掛けを作れればと考えているだけで…いや、そもそも私は好きなことを好き放題しているだけで…」

 内心動揺しているのか、いつもの丁寧な口調が吹っ飛ぶソフィア。

「老婆心ながら言わしてもらうけどさ…貴方自身の幸せ、一度は真剣に考えな。それは誰しもが持っている権利なんだから」

 ジリは心配するような目を向け、ソフィアにそう言った。

 





 ちびっ子時代のユーリと、ユーリの養母で「漆黒の翼」から足を洗った、ハンクスの妻のジリが登場です。ただ、小説「断罪者の系譜」が未読ですので(電子版出てくれないかな…)、設定を少し使わせてもらっている形です。
 下町の子供達へフレンの母親のノレインが文字を教えていたらしいですが、本作品ではソフィアが全面的にバックアップしている感じです。魔導器が無い将来、人材不足の弊害が出るのは明白なので…
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