TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始から25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



騎士団の隊長首席(根拠が無ければ手段なし)

 

 デュークが22歳の時に、ダミュロンとキャナリ、ステルは帝国騎士団に入った。キャナリですら今まで時間のループと比較して、5年以上早い入団であった。

 一方で、時間にループ内で存在すらしなかった黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)は、業務に追加した人権派遣が予想以上に大当たりし、運営が軌道に乗るまでそこまで時間を要さなかった。やがて兼任していたキャナリとナイレンは正式に黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)を辞す。ナイレンは親衛隊の副官に昇進し、キャナリは試験的に作られた貴族と平民の混成小隊の小隊長に就任した。

 アレクセイの改革が順調進んでいる背景には、黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)から恩恵を受けている貴族を中心に、反アレクセイから中立派へと鞍替えする評議会議員が急増したためであった。

 

 しかし…

 

「早急すぎないか」

「キャナリ小隊が『隊』に昇格したことですか? 兄様が騎士団長の補佐である隊長首席と言う役職を作ったことですか? それともダミュロンがその隊長首席に就くことですか?」

 ダミュロンにソルトバタークッキー、キャナリにナッツクッキーを渡して、これからアレクセイの元へオレンジピールのクッキーを差し入れに行く途中で、デュークと会ったソフィアがそう尋ねる。

「そのすべてを短期間でやり遂げたことだ」

 先ほどソフィアから貰った紅茶クッキーから目を外し、デュークは静かに答えた。

「キャナリ小隊の活躍を考えれば当然ではないかと」

 

 ソフィアの言葉を聞き、3ヶ月ほど前に起きた事件がデュークの脳裏に過った。

 騎士団で帝都郊外の巡回時に狩った魔物の死体の処理を、下町の住民に任せるのが常となっていた。平民との混合部隊であるキャナリ小隊が魔物の死体の引き渡しをしていたが、その日はとある貴族部隊がやや強引にその役割を引き受けた。

 そしてその部隊が引き渡した魔物が仮死状態だったのが、この騒動の発端であった。

 下町で息を吹き返した魔物が、街中で暴れ出す事態となった。その時騎士団長であるアレクセイは、デュークやナイレンなど主だった者を引き連れて帝都を不在としていた。帝都に居た隊長達が下した命令は、下町と市民街を繋ぐ道を封鎖する事であった。つまり、下町の住民を見殺しにしようとしたのであった。

 命令違反を覚悟で封鎖を解き下町の住民を市民街へ避難させようとしたのは、旧アレクセイ隊であるユルギス隊のファイナス小隊長であった。ユルギス隊の小隊長格で帝都に残っていたのは自身だけであったことから、ファイナスは下町の住民を救うために命令違反を犯そうとした。それを止めて最終的に事態の終息へ導いたのが、キャナリ小隊であった。

 ダミュロンが黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)から廉価版転送魔導器(キネトブラスティア)を借り受け、秘密裏に下町の真下に当たる場所の地下道に設置。キャナリ小隊とファイナス小隊が協力して下町の住民を守りつつ、転送魔導器(キネトブラスティア)の真上に当たる場所へと魔物を誘導し、地面に大穴を開けて地下道へと落とし込んだ。直後にダミュロンが転送魔導器(キネトブラスティア)を起動させて、帝都外の座標へと魔物を飛ばしたのであった。

 

「特にダミュロンの機転で、帝都の住民から犠牲者が出る事を防げたわけですし…」

「確かに功績は認めるが…」

「それに評議会が推薦した次期皇帝候補を、陛下が認定する事と交換条件と聞きましたが」

 昨年、皇弟レギンが後見人となっているヨーデル・アルギロス・ヒュラッセインが次期皇帝候補となった。それに対抗する形で、評議会は「皇帝の祖と同じ能力を持つ」という皇帝の遠縁にあたる少女を担ぎ上げてきたのであった。

「デュークではないか。久しいな。アレクセイは先ほど急な会議で部屋にはおらぬぞ」

 背後から声を掛けられデュークが振り向く。

 そこに自身の剣の師であり、騎士団の顧問となっているドレイクの姿があった。

 

 アレクセイは会議で不在と聞き、立ち去ろうとしたデュークらに話があると言い、ドレイクは自身の執務室へと2人を招いた。そして人数分の紅茶の準備ができたタイミングで、徐にドレイクは口を開いた。

「ダミュロン・アトマイスの隊長首席就任に伴う新部隊の設立、少し遅らせるようにアレクセイに其方らからも言っては貰えぬか?」

「ダミュロンでは荷が重いと言う事ですか?」

 ソフィアの問いに、ドレイクは首を左右に振る。

「そうは言っておらん。騎士団内の改革が性急過ぎると思っただけのことだ。技量は充分な上、彼奴はアレクセイに欠けている物を持ち得ている。いずれは騎士団で責任のある立場に就かせるべきであろう」

「アレクセイ騎士団長に欠けているもの?」

「人間味と言うべきか…アレクセイは突出した能力を持つ強者故に、弱者の心が理解できないところがある。それはデューク、お前も同じだ。正しい事をしていれば、自ずと皆が賛同すると信じている。だが、物事の正邪を判断できぬ弱者が、世の中の大多数を占めている以上はそうはいかん」

 そこで言葉を切り、ドレイクは積み重ねた経験を乗せた、一見柔らかいが心の奥に届く視線をソフィアに向ける。

「弱者の心理が分からねば、いずれ足元は掬われる…そうならぬように、其方が根回しをしておるのじゃな。ソフィア嬢は」

「買い被り過ぎですよ。私はやりたい事をやっているだけです」

 微笑で受け流し、ソフィアはそう告げる。

「他者からの評価に意を介さないのは構わんが、己が価値を正確に把握する努力を怠るのは感心せぬな。其方の存在は今のアレクセイの在り方に大きく影響しておる」

「兄と同等の能力を持つデューク様を友とし、貴方が期待を寄せるダミュロン様が部下として居る今では、私の存在の有無は微々たる影響しか無いかと」

「血の繋がった身内が、全く影響与えない訳なかろう。其方のように陰日向と支える存在なら尚のこと。良い意味であの男の重しになっておる」

 ドレイクの言うとおり、アレクセイはソフィアの前では良い兄であろうと心掛けているのは事実であった。 

「あの男は己が信念を貫くために必要とあらば、人から逸脱しようという考え、外道へと足を踏み込むのを厭わない。そう言う人間だ。このことはデューク、お前にも言えることだがな」

「っ‼︎」

「其方が持っている価値観は、其方が思う以上に影響を与えている。それをしかと胸に刻みなさい」

 先見の明から出たドレイクの言葉に衝撃を受けるデュークを無視し、先ほどから緩めることのない視線をソフィアに向けたまま、ドレイクは静かにそう告げた。

 

  §

 

「待ちたまえ! 派閥を抜ける気か⁈」

「止めたまえ、キュモール卿」

「しかしガデニア卿…」

「貴殿の派閥の者が半ば更迭される形で騎士団長を交代させられてから、派閥から抜ける者が増え、焦る気持ちは分かるが落ち着きたまえ」

「卿は黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)に出資できているから良いではないかっ‼︎ 良いか、アレクセイは…」

「分かっております。奴は水面下で我ら評議会の力を削ごうとしている。それを危惧しているからこそ、派閥を超えて貴方に会いにきたのですよ」

「……何か良き案でも?」

「エステリーゼ姫を次の皇帝にすれば、全てはひっくり返る。そのためには…」

「レギン殿下が邪魔だと…確かに殿下はアレクセイに肩入れしているが…」

「お忘れですか? 前騎士団長の子飼いの騎士らが、殿下の部隊に数多くいることを? それを利用して…」

 

  §

 

 内密に集められて開かれた会議。

 そこで配られた紙には、二人の人物の会話の内容が記されていた。

 読み進めて、書かれている不穏な内容に眉を顰め、そしてこんな物が自身らの手元にある事に対して不審に思い、デュークは厳しい視線をアレクセイに見せた。

「閣下……これは?」

 この場にいる皆を代表するように、ナイレンが尋ねる。

「ソフィア…黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)から提供されました」

 アレクセイに代わりに答えたのはダミュロンで、その内容を聞きキャナリが渋い顔をする。

「廉価版通信魔導器の通信記録は保管して居るとは聞きましたが…」

「この感じですと、周辺の音も拾って情報を収集することも可能なようですね」

 即ち「盗聴」。

 皆は声に出さないがナイレンの言葉はそれを裏付けるものであった。

「今回は緊急性が高いとのことで、私が妹に少々無理を通した。このことは内密に頼む」

「しかし閣下、内密となると…これを証拠として扱えないと言うことですか?」

「そうだ。そしてこれを根拠に表立って動くことも難しい」

 アレクセイは珍しく苦渋の表情を見せた。

 

 評議会に属する貴族であるキュモール卿が、皇弟レギンの暗殺を画策している。

 盗聴された内容から発覚したのは、その計画に前騎士団長が関与していること、彼の子飼いで近衛隊に居た騎士たちが企みに加わっていることであった。そして現在、その騎士たちはレギン率いる魔物討伐隊に所属していた。

 

「レギン殿下の部隊の副官が、以前に近衛隊で筆頭小隊長だった人物ですよね? 閣下が騎士団長になる前に御前試合をしたと聞きましたが」

 キャナリの問いにナイレンが肯き答える。

「そうだ。さらに親衛隊長の座を狙っていたが、それもデューク隊長に取られた形だな」

「殿下の部隊には前身の遊撃踏査団からの側近がいて、お飾りの現状に不満を抱いていたらしい。そして先月の魔物討伐隊の遠征出立前に、前騎士団長が接触していた」

「時期的に、密談が行われた直後だな」

 情報を組み合わせれば、キュモールらが画策したレギン暗殺計画が、実行に移された可能性が高いと言うことだ。しかし…

「明らかなのは、ユルギスがレギン殿下に同行させた、ファイナスからの連絡が途絶えたことだけだ。救援要請が無い以上、大っぴらに部隊は動かせん」

「ペルレストのユルギスは何と?」

「昨日から連絡が取れんのだ」

「ファイナスとの連絡が途絶えたタイミングと同じですね」

「ソフィアの話では、ペルレストの街の通信魔導器は全て繋がらんらしい。原因は不明。究明の手がかりを探して見つけたのが、この会話内容と言うわけだ」

「……情報は掴んだ。しかし、増援を出す表向きの名目が無い。そう言うわけだな」

 デュークの言葉に、アレクセイは静かに頷いた。

「……閣下、5日後に我が部隊は外部演習を予定しております。遠征先の街をペルレストに変更してもよろしいでしょうか? それと出発を前倒しにしたいかと」

「許可する。キャナリ、必要書類を早急に提出しろ。最優先で裁可する」

「はっ!」

 短く敬礼した後、キャナリは会議室を足早に退出した。

「デューク。キャナリ隊へ親衛隊から何人か行かせろ。人選は任せる」

「ナイレン、エルヴィンは動かせるか?」

「問題ありません。エルヴィン小隊を向かわせましょう」

「ダミュロン。ギルドの伝手を使っても構わん。情報を集めろ」

「御意」

 





 シュヴァーンではなくダミュロンで隊長首席になりました。しかもゲームの世界より5年近く早い就任となりました。
 フレンの父で騎士だったファイナスは、下町の民を救うために命令違反をした上に命を落とした結果、市民街を追われてフレンは下町に来たらしいのですが、小説「断罪者の系譜」が入手できず未読ですので想像しつつ書きました。本作では、既に設立されていたキャナリ小隊と協力関係にある上、ダミュロンも既に小隊にいたことから、最悪な事態は免れました。
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