pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。
デュークが最初に疑惑を抱いたのは、レギンの死後の時であった。
レギンの遺した剣を共に届けたのちに別れた、レギンが最も信頼していた側近の傭兵。子供の居ないまま亡くなったレギンの家令から頼まれた、元被後見人として死後の諸所の手続きのためにレギンの屋敷を訪れた時、庭園の茂みの陰に血溜まりを作り沈み込んで倒れている彼を、デュークは見つけた。
今際の際の傭兵の口から、レギンを死に追いやった黒幕はカクターフ公爵であり、ガデニアを仕留めたがカクターフの暗殺に失敗した事が語られた。そして最後にファイナスの安否を心配して亡くなった傭兵を弔った後、デュークはファイナスの死を知った。アレクセイに問い詰めたところ、傭兵の軽率な行動が原因でファイナスが死んだことを知った。
自身の心の整理もままならないまま、レギンの葬儀が執り行われた。
国葬ということで準備に時間を要した事から、レギンの死後2年が経過していた。
デュークを心配したアレクセイは妹のソフィアを葬儀に同行させた。レギンの遺体の状態が悪く荼毘された遺灰が詰められた棺の前に葬儀の儀が執り行われたが、反応をほとんど示さないデュークのフォローをソフィアがする事になった。デュークはレギンへの献花以外の記憶がほとんどないが、葬儀を終えた帰りの馬車でのソフィアとの会話はしっかりと覚えている。
「デューク様は…騎士団に残られるのですか?」
「アレクセイから聞いたのか?」
「兄様から聞いたことがあります。帝都を出て、世界を旅するのが夢だと。レギン殿下への義理立ても充分ではないでしょうか? 」
その言葉を聞き、デュークは先日のアレクセイとの会話を思い出す。
レギン暗殺事件の実行犯との仲立ちをした前騎士団長を極刑に追い込み、ファイナスの冤罪を防ぐことができた報告の後に、アレクセイは徐に口を開いた。
騎士団を辞めてもいいのではないか…と。
その言葉にデュークは驚いた。今までの時間のループでは、騎士団を辞めると言ったデュークを、アレクセイが必死に引き留めていたからだ。
「……私は不要か?」
「いや。居て貰えると心強い。だが……お前が帝国の柵を断ち切り自由に生きる上で立ち去るには、今が好機でもあると思ったのだ」
「好機?」
そこでアレクセイは、レギンの遺言通りに騎士団がヨーデルを擁するつもりであると話した。
「今、評議会の目はヨーデル殿下の方を向いている。その上お前は、『
その言葉を聞き、デュークの中に一つの疑問が浮上した。今までの時間のループの中、後ろ盾を失い単一で行動していたデューク。自身が去りエルシフルと行動を共にするまで、妨害なく事が進められたのは何故か…
そこでようやく悟る。陰でアレクセイが動いていたからではないかと。
今までの時間のループを思い出せば、レギンの死後にデュークが騎士団を辞める時、アレクセイは「今は危険だ」と言って引き留めた。人間社会とは無関係と言い張って無視していたが、周りはそうは見てくれないことを、今の時間軸でのデュークは理解していた。その後、アレクセイがデュークに騎士団へ戻ってほしいと願った事についても、地盤作りを後回しにして昇進した証左であり、用意周到であるアレクセイにしては不自然であった。
アレクセイは権力を得るために強引に騎士団長に上り詰め、ヨーデルを擁するようになったのだと、これまでの時間のループでデュークは認識していた。しかしそうではなく、急いで登り詰めて目立つ必要があったからではないだろうか。例えば、デュークを守るデコイとなる為とか…
ガタンッ
馬車の振動で思考から現実に引き戻されたデュークの目に、急に黙り込んだ自身に気遣うような視線を向けるソフィアの姿が映った。
「皇族の血を引いている以上、利用しようとする者、排除しようとする者が多く居る現実を認めなければならない」
「え?」
亡きレギンの言葉が声に出ていたらしく、ソフィアが聞き返してきた。
「……今まで理解できていなかった事を、初めて理解した故の決断だ。それに…これから忙しくなるのであろう?」
「それはその通りですが…騎士団の入団規定の改変と、それに伴う騎士候補生たちへの教育について、デューク様には随分とお世話になりました。これ以上協力していただかなくても…」
ソフィアの言う通り騎士候補生…市民階級の若者を対象とした「訓練生」、そこからの卒業生と貴族階級を対象とした「騎士見習い」の教育を、親衛隊が受け持つことになった。
他者に教えるには自身が極める必要がある。腕の立つナイレンやエルヴィンの指導は、自然と騎士候補生達の支持を集めていた。それは将来的に自派閥に加わる人材獲得に直結していると気づいた一部の者は、自身の能力向上に勤しむようになった。
結果、親衛隊全体の能力を底上げするだけではなく、雑務とも言える教育係を渋るような向上心の低い者の勢力が衰える結果となり、アレクセイの目指す改革を大幅に進める結果となっていた。
そしてデュークが居なくなったとしても、その体制が揺るがない状態にまで整っていた。
「だが、また別の改革をするのであろう? 内部監査と諜報に特化した部隊だったな」
「はい。証拠がなければ動けませんし、敵対者と真正面から戦えば大きな被害が出ます。正面衝突を避けて被害を抑える、折り合いをつけて争いを終わらせる、騎士団として必要な機能と思っています」
騎士団長直属部隊。
時期尚早とドレイクが言っていたが、皮肉にも一時見送りが決議された直後に、その部隊が必要な事態…魔物討伐隊壊滅事件が発生してしまった。再度、アレクセイが部隊の新設を提案した時には、騎士団内部からは反対の声はあがらなかった。
「それのトップにダミュロンを据えるのであろう? ならばそれに協力する事は吝かではない」
そう言うデュークの内心は、ダミュロンへの親切心より、過去の時間のループからの警戒の方が大きかった。それが表情に現れていたのであろう。ソフィアは何とかデュークを安心させようと言葉をつくそうとした。そして…
「[この世界の]兄様ならば、[シュヴァーン隊長]に非道な命令はしないと思いますよ」
ソフィアの言葉を聞きデュークの脳裏に浮かぶのは、橙色の騎士服に身を包んだ「死人」。アレクセイに無理やり蘇生させられ、「シュヴァーン・オルトレイン」と名付けられたダミュロンが、道具と徹して政敵を葬る汚れ仕事をこなしていた姿……
そこまで至り、デュークは気づく。
「[シュヴァーン隊長]……誰だ?」
デュークの言葉を聞き、ソフィアの顔に己が失言に気づき動揺した表情が過ぎる。
「その……そう! 『シュヴァーン隊』。兄様が隊の名前で悩んでいて…思いついた名前なのだけど、どうでしょう? 白鳥という意味で…」
明らかに言い繕うようなソフィアの態度。さらに言及しようとしたが、その直後に馬車はディノイア邸に到着したことから、この時の話題は有耶無耶になった。
そして今回起きたテムザの事件。
今までの時間のループであった、無二の親友…エルシフルを死に追いやった忌まわしき人魔戦争、それが起きなかったと安堵していた翌年に起きた今回の事件。その渦中に居たソフィアの行動を聞いたデュークは、疑念をさらに深めていた。
ソフィア・ディノイアは、これまでの時間のループの記憶を有している可能性が高いと…
§
テムザの一件で怪我を負ったソフィアがノードポリカで療養するとアレクセイから聞かされたその日、人化したエルシフルが帝都のデュークの元に姿を現した。
「デューク、少し旅に出ないか?」
拒否できないエルシフルの声に少し驚くも、デュークは早々に休暇手続きを取って共に帝都の外へと出た。
エルシフルの背で月夜の風を受けつつデュークは、星の位置からイキリア大陸の北へと向かっていることを理解した。
やがて見えてくる世界最高峰のアステフィルス。古代遺跡が呼び覚まされるのを防ぐため、エルシフルが統治している地で。今回は初めての訪れだが、これまでの時間のループでは何度か訪れた場所であった。
共にエルシフルを旅した時に深傷を負ったデュークを治療するため、古代遺跡の治療装置を使った時。
世界を危機に追いやったヘルメス式魔導器の制作者、ヘルメスを
生き残った
これまでの時間のループの記憶が過り、デュークは思わず声を漏らす。
「っ……」
エルシフルから感じる温度を確かめんと、デュークは背の羽毛に顔を埋める。
『どうした、デューク?』
「何でもない……それより、私をここへ連れてきた理由を教えてくれないか?」
『私の同胞達が、人のことを知りたいと申してな。私に人の友人がいることを伝えたら、ぜひ会って話をしたいと申すのだ』
山頂近くを覆う雲を突き抜け、星空がより近くなった場所。平となった山頂の中央にある台座、その周辺を取り囲む岩の台座ひとつひとつに、大きさも姿形もバラバラな生き物の姿があった。
デュークは彼らを知っている。
エアルの調整を担う世界の守護者、
台座の一番近くにある3つの岩の台座にいた、金色の大狐、朱炎の大鵬、漆黒の大獣が首を下げる。続いてその少し後ろに控えている極彩の隼、蒼光の鹿、銀鎧の亀、その他の者も倣って首を下げる。
『盟主殿、お手数をお掛けして申し訳ありません』
そう言う大狐に一つ頷いた後、エルシフルはデュークと共に中央の台座に降り立った。
始祖の隷長の会合だとデュークは理解した。しかし今までの時間のループでは、このような場面に遭遇したことは、一度たりともなかった。
『我が友、デュークだ。〈聡きもの〉…ベリウスよ。尋ねたきことがあると申しておったな?』
エルシフルの言葉に一つ頷き、ベリウスは徐に口を開く。
『兼ねてより、人と
その言葉を聞きデュークの脳裏に浮かんだのは、
『しかしつい先日、〈猛きもの〉が治める地で激しいエアルの乱れがあった』
『盟主様に報告申し上げている隙に、〈暗きもの〉がエアルの乱れの元となるものを破壊しようとしたのだ』
〈猛きもの〉と呼ばれた大鵬が言葉を繋ぐ。「フェロー」とも呼ばれるその者がいる地は、デズエール大陸。
テムザの研究所はデズエール大陸にある。
デュークの脳裏に、時間のループでの惨劇が浮かぶ。
人を殲滅すべしとした始祖の隷長の領袖である〈暗きもの〉を止めるため、エルシフルと共に駆けつけた。しかし既に、ダミュロンとキャナリを含む騎士たちは全滅しており、エルシフルは〈暗きもの〉と死闘を繰り広げて、そして…
デュークは右手に感じるエルシフルの温もりで、悲劇の記憶を追い出す。
彼はまだ生きている。
追憶から意識を引き上げて、ベリウスの話に再び耳を傾けた。
『妾も駆けつけたところ、エアルを乱す機械を弄る者が居ってな。〈暗きもの〉にも動じず、エアルの乱れを正すから待てと申してやり遂げたのじゃ。奇しくもその者が、魔導具の消費エアルを削減するカラクリを広めた本人と言うではないか』
「ソフィア…」
『その者はそう呼ばれておったが、そうかお主の知り合いか? ならば都合が良い。人の間では、魔導器とエアル、そして世界についてどこまで知っておる?』
「どこまで…と言うと?」
『魔導器がエアルを乱し、世界を危機に陥れると言う事じゃ』
「っ⁈」
時間のループの知識で、デュークはその事を知っているが…
「……初めて聞いた」
それはエルシフルとの旅路で知ったこと。
今の時間軸でデュークはまだ、エルシフルと世界を巡る旅に出たことは無かった。
『ふむ……知り合いである其方ですらそうとなると、そのソフィアという者くらいしか、知らぬというわけじゃのう』
「っ⁈ ソフィアは……その事を知っていたと?」
『そうじゃ』
「……他に彼女は何と?」
『未来に責任を押し付けた事に苦言を申しておった。自身が対処しようとしているにも拘わらず、力任せで吹き飛ばそうとした〈暗きもの〉を非難しておった』
何処となく愉快気に話すベリウスであったが、デュークはただの人であるソフィアが始祖の隷長に楯突いたと知って、内心気が気でなかった。
『その言葉に一理ある。そう思ったのであろう、〈暗きもの〉よ』
不満気な響きを発するだけで、〈暗きもの〉は明確な意思を伝える事はない。
『……解決するためではなく、破壊行為を正当化するために、大義を掲げていると言われた事、まだ気にしておるのか?』
〈暗きもの〉がぶわりと毛を逆立てるも、ベリウスはどこ吹く風の様子で、再度デュークに視線を向けた。
『……情報収集を怠っていた妾の落ち度じゃ。人にとっては随分と時間が経っておったようじゃ。経験した危機も約定も忘却したから人は魔導器を使い始めた。デュークとやら、それに相違ないか?』
「貴殿らには短い時間であっても、人の身では何代も世代交代は起きている」
『人の長が約定を語り継ぎ、魔導器を管理すると申しておったが…』
デューク自身も皇族の血を引く一人。
エルシフルの言葉は、己が役目を果たしていないと間接的に言われたようで、デュークは思わず口を閉ざした。
『〈揺蕩うもの〉が囲っている罪人の子孫たちは、約定を守り続けていると聞く』
『〈猛きもの〉よ。我が治める街に、その者たちは殆ど訪れる事はない。人同士の交流がほぼ無き状態では、情報は途絶えるのは自然な事じゃ』
『人が魔導器を使い始めた原因は、我らとの結びし約定と、正しき歴史を忘却した故のこと。しかし今それを理解した者が現れて、此度の件を収めておる。今暫し、様子を見守るという事でどうであろうか?』
賛同の心象が細波のように広がる。
エルシフル…始祖の隷長の盟主たる〈偉大なるもの〉の裁定は、ここに下されたのであった。
エルシフルはデュークを帝都に送ろうとした。しかし気持ちの整理をつけたいデュークは、エフミドの丘で下ろしてもらい、そこでエルシフルと別れた。
人魔戦争は起きず、エルシフルは命を落とさなかった。
デュークが何度も何度も試み、成し遂げられなかったことを成し遂げたソフィア。
デュークは一部分だけを変えようとした。
ソフィアは全体の流れを変えようとした。
時間のループの中でデュークがした事は、問題となった魔導器の開発者であるヘルメスへ警告をして、始祖の隷長に申し開きをするために引き合わせた事、ヘルメス式魔導器の対処をするため1年間の猶予期間を与えた事。
「ソフィアは、アレクセイや皇帝を巻き込んだ上で10年以上要した…」
全体の流れを変えるためには、情報、知識、技術、人脈、資金、その下準備のために相当の時間が必要である事は、これまでのソフィアを見れば明らかであった。しかしこれまでの時間のループのデュークは人間社会に関心が無く、ヘルメス式魔導器の拡散を止めて回収するには時間が足りないと言うヘルメスの訴えを、理解することができなかった。ヘルメスに手助けをすることもなく、最大限の譲歩をしていると言う始祖の隷長側の主張に賛同した結果、彼の訴えを黙殺した。
それ以前にデュークは、ヘルメスに伝える数年前には魔導器の危険性を知っていた。皇帝やアレクセイと言った、帝国の運営を担う者たちとの伝手があった。
しかしデュークは……
人間達を救う気など無かった。
世界を変えようとしなかった。
ただエルシフルだけを救いたかった。
それがエルシフルを死に追いやった。
暁期、黎明の空。
翠の海、境界に滲む紅と緋色、紫紺の空、それらを繋ぐように浮かぶ銀糸…残月が微かに輝いている。
「ソフィア…君が悲劇を回避したのか?」
ソフィアに問いただしたい気持ちと、問いただす権利はないと自制する気持ちがデュークの中で鬩ぎ合う。
自分の中で結論が出るまでは、ソフィアと会う事はできないと、デュークは一人悩むのであった。
小説「竜使いの沈黙」で、エアルを激しく乱す「ヘルメス式魔導器」を生み出したヘルメスは、デュークの手で始祖の隷長の会合に引き出されます。そこでヘルメスに与えられた猶予期間はたったの一年。多分エルシフルに配慮するポーズを見せるだけで、〈暗きもの〉の一派は一方的に人間を殲滅すれば事は済むと考えていたのではないかと思います。
もっと早い段階で、皇帝と面識があるデュークがヘルメスに協力して上層部を動かす事ができれば、かなり違った展開があったのではないかと、少し哀しく思う訳ですね。