TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



リタ・モルディオ(事象に至る充分条件がある)

 

 この世界は「テイルズオブヴェスペリア」ではない。

 ゲームの設定と類似した点が多々あるだけの、人が生まれ、営み、死ぬ世界。

 自分と深く接した人が死んで初めて、本当の意味で認識できた自身に嫌気が差すも、ソフィアはここで思考を止めるわけにはいかなかった。

 

 持っている手札は…

 ゲームの知識。

 異世界の知識。

 この世界で生きて得た知識。

 

「ご無沙汰しておりますカクターフ公。急な視察中でお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます」

「…貴女もアスピオにいらっしゃるとは、相変わらず忙しいようですな。ソフィア・ディノイア嬢」

 優雅なソフィアの淑女の礼に対し、ややぎこちない笑みでカクターフは答える。

「お互い忙しい身、簡潔に要件をお話しします」

 銀糸の髪を耳に掛け直し、伶俐な緋色の瞳をカクターフに向けた。

「長引くのも互いの為になりません。手打ちにしませんか?」

 その言葉を聞き、暗殺の剣先を向けられ臆したかと、カクターフは蔑むような視線をソフィアに向ける。

「ほう…手打ちと? それなりの要求に応えて…」

「ルオドー博士、モルディオ博士…」

 それに対してソフィアは、突然数名の人物名を上げる。

「先日アスピオで起きた爆発事故の被害者。同一派閥内の別々の貴族から、個々人がそれぞれ依頼を受けて、それぞれ異なる 魔導器(ブラスティア)を制作していたそうです。それらを組み合わせると、随分物騒な代物が完成するとか…」

「っ‼︎」

黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)と騎士団の両方を合わせたら、ほぼ全ての帝国貴族が関わっている。計画段階であっても、身内を建物ごと吹き飛ばそうと考えた者に対して、帝国貴族たちがどのような反応を示すのか…どう思われますか、カクターフ公?」

 ソフィアの提示した情報を聞き、カクターフの片眉が痙攣したように動く。

「動機としては、自身らの派閥から中立派への流出に歯止めが掛からず、加えて簡易発電器が魔導器(ブラスティア)にとって代わり、自身らの優位性が無くなる懸念が…」

「……手打ちにしたいと?」

 ソフィアの言葉の腰を折るように、余裕のない声でカクターフはそう言う。

「受けていただければ、これらの情報は胸に留めましょう」

 ソフィアは冷たい光を緋色の瞳に灯しつつも、カクターフに優雅に笑いかける。

「そちらにも面子があるでしょうから、簡易発電器の研究の一時凍結もお約束しましょう」

 そう言いソフィアは優雅に微笑む。それに対して、カクターフは忌々しそうな表情で睨め付ける。

「…わかった。これで手打ちだ」

「英断していただき恐縮です。それからもう一つ」

「何だ?」

「これ、差し上げます」

 ソフィアは何かをカクターフに握らせる。

 それは、暗殺ギルド海凶(リヴァイアサン)の戦闘員が身につける、赤い丸ガラスのゴーグルで、その表面には乾いた血がこびりついていた。

「⁈」

「貴方が懇意にしているギルド。そこに所属している方とお会いしたのですが、そこそこ楽しめましたよ」

 その言葉に対するカクターフの反応を見ることなく、ソフィアは踵返して立ち去った。

 

 黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)が、今の評議会を牛耳っている貴族勢力の力を削いでいるのは事実である。そもそも、初代皇帝が始祖の隷長との取り決めに従い、魔導器の管理を手分けして任せるための一族が貴族の興りであり、古から続いている侯爵以上のほとんどの家がその役目を担ってきた。ディノイア家は結界魔導器、エングリス家は武醒魔導器、ガデニア家は兵装魔導器と言ったように…

「金銭と引き換えに爵位を与えたのが、帝都にいる下級貴族だったな」

 高位貴族が派閥を広げるため、爵位の大盤振る舞いを続けた末がこの現状であった。伯爵家であっても地方都市を治める辺境伯を除けば、碌でもない新興貴族が多い状況であった。

「爵位に付随して、魔導器の管理権限を与えるべきではなかったな」

 魔導器の扱いを公式に認められたアドバンテージを礎として、貴族は権力を握ってきた。故に魔導器の代替となり得るモノを、平民やギルド員問わずに所持するようになれば、貴族の優位性は崩れる結果となる。それに気づき始めた貴族らが、新たに自身らの権力の担保となるモノを求めるのは当然と言えた。

 それがヘルメス式魔導器…この世界での高出力魔導器と呼称されている物であった。

 ソフィアの暗殺計画と水面下で進められていた高出力魔導器の制作。関与しているのは、カクターフ公の一派だけではないだろう。彼らだけ潰しても、同様の行動を起こす貴族が断続的に出てくるのは必至。それならば、窓口があるカクターフ公を残した方が都合が良かった。

 おそらくカクターフらは高出力魔導器を水面下で作るだろう。それを探す手立てはない上に、下手に動いて他者から恨みを買って身動きが取れなくなるのは避けたい。故にその摘発淘汰は始祖の隷長(エンテレケイア)に任せて、そこで発生する騒動を自身が内密に動くためのデコイにしようとすらソフィアは考えた。互いに被害には遭うだろうが、自業自得である。

 

 そう自業自得。

 皆が皆、慣例を踏襲すればいいと思考を放棄し、未来へと問題を先送りにし続けた結果故の現状だ。

 そしてそれは、ソフィア自身にも当て嵌まることであった。

 

「やはりあそこは嫌な場所でしかない…」

 テムザ山。

 初めて訪れた時はゲームでは知り得なかった情報を得た。

 先日訪れた時はソフィアとして初めて人殺しをした。

 情報提供だけで済ませて関与しなかった結果、皇弟レギンとファイナスを死なせてしまったことから、手段を選んでいる余裕などないと言い聞かせ、暗殺者の命を断つ殺人行為を目的を果たすための作業と処理した。それで人魔戦争を回避することができ、まだ自身は今の居場所に居続けられるとソフィアは気を緩めてしまった。そして起きたのがジリの死であった。

 この3人はゲームの世界においても同じ時期に亡くなっている。ソフィアはその結末を変えることが出来なかった。特にジリの死は、甘い夢から強制的に現実に引き戻すには充分であった。

 

「今更……だね」

 今更である。

 ソフィアとして存在している意味を、忘れてはいけない。

 

 回避すべきは、人類と始祖の隷長の全面戦争。

 星のエアルを激しく乱す高出力魔導器の発明と拡散は防げなかった現状、秒読みと言っても過言ではない。

 始祖の隷長は、世界を守ると言う己が使命しか考えておらず、人間社会を無視した無茶な要求をしてくるはずであった。その時までに、確固たる対応策を実現可能な状態にまで調整し、始祖の隷長に提示できる状態にしなければならない。リミットは始祖の隷長を葬る高出力の兵装魔導器(ホブローブラスティア)が完成し、始祖の隷長の撃破と回収した聖核(アパティア)から新規の高出力兵装魔導器が作られるという悪循環が構築されてしまう時まで…

 最優先事項は、エアルの乱れを直接対処可能な「リゾマータの公式」の解明であった。その分、簡易発電器の研究を止めるわけなので、カクターフに提示した条件はソフィアにとって既定路線に過ぎなかった。

 

 ソフィアはアスピオに来る前に、兄であるアレクセイ騎士団長宛に書状を書いた。

 ゲームの世界と異なり、正しい知識を得たアレクセイならば最適な行動をしてくれると、ソフィアは信じていた。しかし、皇位の証である宙の戒典(デインノモス)を、解析と研究を行うために皇帝から貸し出すのは不可能に近いだろうと予測していた。

 

「ここは魔導器(ブラスティア)の師匠…天才ヘルメスの力を借りよう」

 先日にテムザで試した、エアルを還元する術式の不完全版。ファリハイドのアトマイス家の古文書から抜粋した写本を抱えて、ソフィアは記憶を辿りつつ道を進む。

 ヘルメスはアスピオにも家を保有しており、ソフィアは何度か訪れたことがあった。お互い忙しく、ヘルメスの方が帝都に来た時に会うことが多かったことから、アスピオのヘルメスの家に来るのは、6年ぶりであった。

「ヘルメス先生。引越しの手伝いに来ました。それと今後の研究に相談が…」

 そう扉越しに話しかけたところ、家の扉が開き、茶色の髪の少女が姿を覗かせた。

 

 暫し見つめ合うソフィアと少女。

「リタ! 扉を勝手に開けて…誰だいアンタ⁈」

 部屋の奥から、書物を両手に抱えた女が姿を現す。

「こちらはモルディオさんの家ですよね。その弟子で、引っ越しの手伝いに来た者です」

 女の後ろから男が顔を姿を現し、リタを押し退けてソフィアの前に立ち塞がる。

 どちらもヘルメスでは無く、ソフィア自身見覚えのない者たちであった。その二人は値踏みをするような視線で、容赦なくソフィアを見つめる。

「はっ⁈ あの女には弟子なんか居ねえ! 嘘を言うんじゃ…」

「先日の事故で亡くなったモルディオ博士の夫、ヘルメス・モルディオの弟子です…泥棒が入り込んでいる様子では、ヘルメス先生はまだ帰ってきていない様子ですね」

「夫……リタの父親かい? 戻ってくるって…」

「長期間、デズエール大陸に出張していたんです。こちらに戻ると連絡を受けて、その引っ越しの手伝いにきたんです」

「てめえ! 出鱈目なことを…大方何処から忍び込んできた泥棒…」

 ソフィアは無言でアスピオへの出入り許可証を突きつける。貴族の身分であることを示すサインを見て、男は言葉を失う。

「部屋から持ち出そうとした物、置いて下さい。拘束後に警備の騎士を呼びます」

 拘束の為に、氷の魔法術式を構築しようとするソフィア。

「あ…いや……その、私たちはそのモルディオの友人でね…仕事の時はリタの面倒を見るように頼まれてたんだよ…」

「そ、そうだとも…」

 二人を一瞥したのち、ソフィアはリタに視線で尋ねる。リタは静かに肯いた。

 ソフィアは術式の構築を止め、懐から予め小分けにしたお金が入った小袋を投げ渡す。

「今までのリタの養育費はそれで充分でしょう? それと引き換えに、今までこの家から持ち去った物を全て、明後日以内に返却しなさい」

 ソフィアの冷たい声に押されるように、女と男は逃げ去るように家を後にした。

 ため息を一つ吐くと、ソフィアはリタに視線を向ける。一人で居ることに慣れているらしく、黙々と本を読み始めるリタ。

 その時、家の備え付けの廉価版通信魔導器(コールブラスティア)の呼び出し音が鳴った。

 





 貴族が権力を持つ根拠と権威の裏付けは何かと考えた時、魔導器の保持かと考えた訳です。帝国が管理するようになった事、ヨームゲンのイベントで、魔導器の保持の有無が権力に繋がると言う発言もありましたので…
 ゲーム内のサブイベントでリタの父親はヘルメスと言う事が判明します。母親に幼い頃に事故で亡くなったらしい事が、小説「青の天空」で書かれているそうですが、未読のため色々と想像しつつ書きました。人魔戦争が起きなかったことから、ヘルメスは生存しているため共に住もうとしている訳です。
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