pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。
デュークは正式にソフィアの婚約者となった。
ユウマンジュへはエルシフルに乗って向かった。何の恐れも気負いもなくエルシフルと接するソフィアを見て、彼女が臨戦態勢だった始祖の隷長の〈暗きもの〉に物申したと言う話は嘘では無いと、デュークは改めて認識して溜息を吐いた。
湯源郷ユウマンジュ。
訪問者へのおもてなしの為に命を賭けると噂されているギルドが経営する、露天風呂がある高級温泉旅館である。
ここへ訪れる一般的な方法は、ファリハイドから出ている不定期便でしか方法は無く、ファリハイドの高位貴族の伝手が必要となる。幻の高級宿と知る人が知る秘境であり、この施設利用は一定のステータスとなる。このことから帝都の貴族への交渉カードとなりうる為、ファリハイドの一部の高位貴族の当主のみが旅館への予約方法や経路の詳細を知っていた。
今回は、ダミュロンの父であるアトマイス卿が整えてくれたこともあり、スムーズに宿泊手続きを終えた後、ソフィアは荷物を持ってもらっているデュークと共に滞在予定の別棟へ向かう。荷解きは明日にすることとして、ソフィアはデュークと夕食を摂る。そしてそのタイミングでデュークは、アレクセイから託された物を取り出した。
「それは?」
「アレクセイから持たされた年代物のワインだ。婚約成立の祝いらしい」
そう言いデュークはワインの栓を抜いて、ソフィアのコップに注いだ。
アレクセイと異なり、ソフィアはそれなりにお酒を飲める方であった。味は彼女好みだったらしく、早々にボトルの半分近くを開ける。
「ソフィア……エルシフルからザウデの件について聞いた。かなりの無茶をしたらしいな」
「無茶というか…それしか方法がなかったの〜」
ソフィアの口調がいつもより幼い感じとなった様子を見て、デュークは意を決して言葉を紡ぐ。
「ソフィア。もう少し自身を大事にできないのか? そこまで追い込まれないといけない事情があるのか?」
「事情というか…目的があって生きてるだけですので〜」
「目的?」
「誠実な人がもう少し生きやすい世界、自分らしく生きられる世界を提供するっていうのが目的」
そう言い浮かべる笑みは、キャナリの結婚式の時に、綺麗な涙を流した時と同じ美しさで…
「以前の私が幸せを望んだ人、幸せにして欲しいと頼まれた人、その2人の幸せは私自身も幸せになって欲しいと思うけど…もう1人幸せになって欲しい人がいる。その3人」
以前の私。
その言葉を聞き、ソフィアも自身と同じ時間のループを経験している可能性があると考える。さらに情報を引き出す為に、聞き返す事なくソフィアの話に耳を傾けた。
「独断による利己的な理由だから、別に高い志によるものじゃない」
「変えようとしている世界の姿は、私はとても素晴らしいものに思える。その3人だけではなく多くの幸福に満たされていると私は思う」
「そう……そうなのよ……ダミュロンも兄様も貴方もそういう人だから、そうするしか幸せにする方法が無かったわけで…」
その言葉でソフィアが幸せにしたい3人は、ダミュロンとアレクセイ、そしてデューク自身であるを知る。
「まあ、それはともかく…私は全体でしか見れないから、誰か特定の人だけ見て生きる事はできない。やりたい事をやり遂げるにはね…」
「君がやり遂げようとしているものは、君一人で抱え込む必要はないだろう?」
「一人でやる気は最初から無い。枝葉の部分を行き当たりばったり対応ではなくて、根本原因を解決するのを最優先にして、個々のトラブルは各自で対応して貰っているわ」
「…私やアレクセイ、ダミュロンに色々頼んでいるのはそれか?」
「私がどうしても外せないと判断したものはお願いしている。残りの細々したものは、解決策の布石をばら撒いて、この世界のこの時代に生きる人たちに丸投げ。その結果…死なせてしまった命がある」
泣きそうな表情を見せるがそれも一瞬のこと。そんな権利は自分には無いとばかりに、自嘲気味の笑みをソフィアは無理やり浮かべる。
「私一個体では、出来ることは限られている。それに気づけなかったのは……何て愚かな……」
気づけなかったのは、ソフィアが前に経験した時間軸であろうか?
そこでデュークは違和感を覚える。これまでの時間のループでは、ソフィアは10歳前後に亡くなっている。世界の趨勢を扱うような場に至ることがあったとは思えなかった。
それならば、彼女の言う「以前の私」とは一体何を指すと言うのだろうか?
婚約の証を渡した時、ハルルの木の下で垣間見た薄桃色の髪の女性が過ったが、デュークはその幻影を追い出し、意を決して本命の質問に取り掛かる。
「別の可能性の世界の記憶を持っているのか?」
「別の可能性の世界? この世界で実現させたくない未来に関する情報なら知ってます〜」
酒…と言うよりアレクセイが用意した特性自白剤の効果で、ソフィアはあっさりと口に出した。
「っ⁈ お前も何度も繰り返しているのか?」
「繰り返すって……貴方は…」
一度目を見開き、デュークの状況に思い至ったのか、ソフィアは痛ましげな表情をデュークに向けた。
「だから貴方は全てに対して距離を置いて……」
その言葉からデュークは、今までの時間のループの中で辿った自身の姿をソフィアが知っている一方で、自身が置かれている境遇と同じではないと理解した。
自身と違う事に何処か落胆する一方で、自身と同じ地獄を味わっていない事に、デュークは安堵した。
薬の効果が切れたのか、ソフィアは糸が切れた傀儡のように机の上に伏して眠りについた。
アレクセイの話によると、今回用いた自白剤は、薬の効果がある時の記憶を飲んだ側は留めることは無いと言う。その事に自身の秘密が漏れることがないことに安心するも、互いの秘密を明かしあった事実も明日には消えることが、何処となく惜しいとデュークは思うのであった。
「……惜しい?」
自身の中から湧き上がった感情に、デュークは驚愕する。そしてそれを押し除ける形で、別の疑問が浮上してきた。
ソフィアがデュークに対して、どのような感情を抱いているのかと言う疑問が…
§
テムザの研究所の乗っ取り事件の後、ノードポリカで静養していた時であった。
「なあ…あの時……その…どうして拒否しなかった?」
吃りながらも ダミュロンはソフィアに尋ねた。
「ああ、私が目を覚ました時のアレ? もしかして男女の一線を越えようとしてた?」
ソフィアは何事かと考えを巡らせ、漸く思い至ったのかポンと手を打った。
「そうハッキリ言わんでくれんかな! アンタ見た目は淑女なんだから、こっちが恥ずかしくなるわ‼︎ っつーか、今気づいたの? 普通は…その…もうちょい危機感とか…嫌悪感とかそう言うの、無いのかね⁈」
そこまで言い捲り、気を落ち着かせるためダミュロンはお茶を一口飲む。
「いや…単純に動けなかったし。それに…」
「それに?」
「抱かれるのは別に嫌じゃない」
ダミュロンは盛大にお茶を吹き出した。
「誰でもってわけではない。貴方とデューク様くらい。他の人だったらインヴェルノで氷漬けにしている」
動けなかったとしても対処はできる。それでもあの時そうしなかったのは、ダミュロンに対して忌避感は全くなかったから。
そう言外に言われ、ダミュロンは耳まで真っ赤になる。しかし、ソフィアの冷静な視線を見て、一気に気持ちが沈静化した。
「…私は貴方と同程度の想いを返すことはできない。私が望んでいるのは、“貴方自身”ではなくて“貴方が貴方らしく生きていける世界”だから」
ソフィアがダミュロンに好意を抱いているのは間違いない。しかし彼女は、今この時点ではなく先々の事まで考えてしまう。ダミュロンを幸せにする為に、彼自身に何かを与えるのではなく、彼を取り巻く周囲をどうにかしようと考えてしまう。
それは一人を愛し執着出来ないと同義。
そしてソフィアは、ダミュロンがただ一人に愛され愛する事ができる相手を望んでいると、見抜いていた。
つくづく自分は貴族に向いていないと、ダミュロンは痛感した。
「それを理解した上で私を望むとしても、同程度の想いを返せる人を貴方が探すとしても、私は受け入れる。貴方が納得して選んだ道ならば、私にとってそれ以上の幸福はないから」
友人のような関係でそれなりに良好な夫婦関係を、ソフィアと築く自信がダミュロンにはあった。しかし、敬愛を超える恋慕へは決して至らないと、ダミュロンは理解していた。
その後、ソフィアを取り囲む環境は急激に悪化する。
地方貴族の次男坊では評議会の貴族らの盾にはなれず、ソフィアを守る矛となる帝国騎士団隊長首席の地位を捨てる事もできなかった。何よりソフィアが切望した
だからダミュロンは、デュークがソフィアの正式な婚約者となることを承諾した。
§
ユウマンジュに滞在しているソフィアの元に、ダミュロンは訪れていた。
「こりゃあ…随分と散らかしているな…」
アレクセイがソフィアのために丸ごと借りた別棟は地下1階、地上2階建て。地下には解析
「
書籍が押し込めた棚、板間が見える場所が無いほど敷き詰められている書類やメモ書き、そして奥の椅子に座り机に向かい、何かを考察しているのか呟いているソフィアの背が見えた。ソフィアが解読の手助けをお願いしたヘルメスからのレポートが横に積まれていることから、フェドロック家の古文書を考察をしているのであろう。
「もう少しでキリが良くなるから、そのタイミングで一旦片付ける」
ペンを動かす手を止める事なく、ソフィアがさらりと言った。
「その前に一度食事を摂ってくんない?」
そう言いダミュロンは机の脇におにぎりを置く。その時、足元に並べられている何かのスケッチが目に入った。
雷槌の様な視線。無数の槍と見紛うような、鋭く長い漆黒の毛で覆われた四肢が無い褐色の細長い体躯。
先日見た
「……これって…〈暗きもの〉?」
色彩から辛うじて元の姿を想像した予測を口にするダミュロン。
「そう。親しみやすい感じに改変した」
「改変というより、最早別もんでしょう。コレ…」
さらにめくると、ベリウスを思わせる金色の大狐の絵、その下には愛くるしくフサフサした尾を持つ狐の絵が出てくる。
「始祖の隷長を知ってもらうため、息抜きで子供用に紙芝居を作ってる」
「紙芝居?」
「そう。古文書を元にしたお話をわかりやすく作ってる。手始めにキャナリやステルに頼んで、カプワ・ノールの孤児院での教育資料にしてもらおうと考えてる」
「じゃあ、コレを持って帰ればいいの?」
「情報が間違ってないか確認してもらうから、その後にお願いしてもいい?」
「それは構わないが、ベリウスに確認してもらうのか?」
「明後日くらいにデューク様が帰ってくるから、エルシフルに見てもらおうと思って」
「エルシフル?」
「デューク様の親友の始祖の隷長」
始祖の隷長が友人になれるのか驚きつつも、ドンとベリウスの例もあり、人離れした雰囲気のデュークならば然もありなんと、ダミュロンはあっさりとその事実を受け入れた。
「それって、大将は知ってんの?」
「……あれ…兄様には…言っていたような…」
「それって、俺を介しての伝言よね? 拡散した高出力魔導器を探して破壊する事を、デュークが裏でやるってことしか聞いてないよ」
「だったらついでに伝えといて」
「ついでで伝える内容じゃないでしょうが! アンタが直接ちゃんと説明しろよ!」
「通信入れたら長々と小言言われて時間取られるから、気が引けるんだけど…仕方ない。デューク様に一度帝都に戻って直接説明するように伝えておく」
「旦那も色々と隠してそうな感じだから、すんなり説明してくれるかねぇ」
その軽口に何かが引っ掛かったのか、ソフィアは文字を書く手を止めて、ようやくダミュロンの方を見た。
「その…デューク様からは…何か聞いている?」
「何かって言われても、デュークの旦那にはここ数ヶ月会ってない」
「そう……」
何か安心した様子で一つ息を吐き、ソフィアはおにぎりを手に取る。ようやく見えたソフィアの顔に疲れが滲み出ている様子から、ダミュロンは思わず眉間に皺を寄せる。
「酷い顔だけど、休みは取ってる?」
「毎日温泉に浸かっている」
「身体の汚れで解析結果が狂うとかで、身を清める為でしょうが。そうじゃなくて、ちゃんと寝てる?」
そう言うダミュロンの視線から気まずそうにソフィアは逸らす。
この別邸でソフィアの身の回りの世話をしているのはダミュロンの部下であるシュヴァーン隊の協力員である。レギンの部下だった元魔物討伐隊の騎士数名が、快く任務を引き受けてくれているのだが、彼らから食べない寝ない事をダミュロンは知らさせていた。
「こりゃあ相談は後回しの方がいいかね…食べたら、ちょっとでも寝た方がいいんじゃない?」
「相談?」
「寝たら教える」
「気になって寝れない」
そう言うソフィアの緋色の瞳が翳る。それは何か恐れているような様子で…
「ちょいちょい、悪い内容じゃない」
ダミュロンがそう言い笑みを浮かべると、目に見える表情で安堵の息を吐く。悪い事続きで気を張っているのか、取り繕う気力もないソフィアにダミュロンは一抹の不安を覚えつつも、ダミュロンは本題を話す。
「キャナリに子供ができて、その祝いの品を一緒に考えて欲しいだけなんだ」
「え………」
「どうも双子らしくて、ステルも喜んでた」
「そ……う……」
そう言い、喜びを噛み締めるように表情を和らげ、ソフィアは目を閉じる。そしてそのままグラりと体勢を傾け、椅子からずり落ちて机の脚にしがみ付く形で蹲み込んだ。
「ソフィア⁈」
「いや……ちょっと目眩がして…」
そう言い半ば気絶する形で眠りに落ちるソフィアを1階の寝室へと運ぶダミュロンは、ソフィアが何か生き急いでいるような気がしてならなかった。
仕事に没頭する姿は昔から変わっていないが、研究で趣味を兼ねていると反論された時、頭を使う作業は仕事と同じと一刀両断したのはキャナリだった。それからは余暇にキャナリと出掛けたりと、それなりに休養を摂ってくれるようになったが…
「以前に戻ったと言うよりもっと酷い…いつからだ?」
下町の
ザウデの研究所の一件?
「確かに急変したのはそうだが…以前から前兆はあった。いつだ?」
「ちがう…それより前だ。エアルを用いないエネルギー機関を作ると急に言い出して…その切っ掛けは何だ? レギン殿下が亡くなったからか?」
そこまで辿って、ダミュロンはようやく思い当たる。
「ソフィアが一人でザウデ山のクリティア族の村に行った時からか?」
ユウマンジュについて、レイヴンは詳細な行き方は知らなかったけど、存在自体を知っていたことから、ファリハイドとの関係性について捏造してきました。ユウマンジュは一部の貴族が利用している様子でしたので…
ディノイア家は黎明の残月で結構稼いでいます。通信大手と家電大手の大株主のようなものなので…