TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



皇帝候補の教育係(ラスボスに芽生えた思い)

 

 温泉郷ユウマンジュの長期滞在で借り受けた別棟で、ソフィアは廉価版収納魔導器(チェストブラスティア)の容量ギリギリに詰め込んだ解析機器を設置して、宙の戒典(デインノモス)の解析に勤しんだ。

 そうして2年掛けて、宙の戒典に関する一通りの解析データを算出することができた。後はこのデータを解析すれば術式は完成すると考えて、帝都に戻る事にした。

 

 いつしかソフィアの年齢は、30才に達していた。

 

「ソフィア・ディノイア、面をあげよ」

 帝都に戻りひと月近く経過した頃、ソフィアは兄アレクセイに呼ばれて王城へと赴いた。そして案内された一室に向かうと、そこにはアレクセイだけではなくデューク、そして皇帝クルノス14世ことゼーノス・グリュノス・ヒュラッセインの姿があった。

 国のトップとの密談に呼び出されたと気づき、兄アレクセイを恨みがましい視線で一瞥した後に取った淑女の礼から直り、ソフィアは静かに口を開く。

「御尊顔を拝謁する機会を賜り、恐悦至極に御座います。先日は並々ならぬ助力を頂きました事、感謝申し上げます」

「其方の兄、アレクセイには世話になっている。其方自身においても、これまでの働き、大義である」

「お言葉痛み入ります」

 ソフィアの言葉に一つ頷いたのち、クルノス14世は部屋中央のテーブルセットの椅子に座る。アレクセイに促され、ソフィアはテーブル脇のワゴンに上にあるティーセットの方へ向かう。

「時間がない。本題に入る。アレクセイから報告は受けているが、ここで今一度整理したい。現状を説明せよ」

 ティーカップは既に温められている。ソフィアがティーポットに茶葉を入れ、湯を注ぎ蒸し始めたタイミングで、クルノス14世が尋ねる。 

「…宙の戒典(デインノモス)に刻まれている術式のデータの収集は終了しました。これからは、その数多の術式の中から必要なものを抜粋し、組み合わせて検証する予定です。その参照データとして、エルカバルゼの名家が保管していた古文書の貸し出し許可を出していただけないでしょうか」

「その理由は?」

「ファリハイドの名家、アトマイス家の古文書に、エアルを還元する術式の製作過程の情報がありました。ペルレストの名家、フェドロック家にも同様の古文書はないか問い合わせたところ、譲渡していただけました。それをヘルメス先生が解読したところ、別の製作過程の情報があったそうです」

「フェドロック家…今の親衛隊長のナイレンの家か…」

 ナイレン・フェドロックは最初期の黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の構成員で、今は完全に騎士団に移行している。現在、ナイレンの妻が黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)に所属し、最近不在がちなソフィアの代わりに会長代行として支えていた。

「エルカバルゼと言うと、貴族の名家は途絶えていたな」

「はい。家が持っていた書物はエルカバルゼの図書館で保管してありましたが、皇帝からの許可がなければ貸し出せないと…」

「わかった許可しよう」

「ありがとうございます」

 礼を言ったのち、ソフィアは人数分の紅茶をカップに入れ、それぞれの席の前に置いていく。

「陛下、私の方から内々の報告が…各地で襲撃が多発しています。人への被害はほぼありませんが、襲撃地点では改造された魔導器(ブラスティア)が見つかっております。そして、襲撃発生前に魔物に乗った男の姿が目撃されており、その容姿は…」

 そこで言葉を止めて、アレクセイはデュークに視線を向ける。

「…ソフィアの懸念通り、高出力魔導器は増える一方。世界のエアルは乱れ始めている」

「…一応は否定しろ。少なくとも顔を隠せ」

 そう言いアレクセイは睨め付けるが、デュークは涼しい顔で受け流す。

「…デュークよ…いや、デューク・バンタレイ。今一度聞く。余の養子となり、帝位を継がぬか?」

 クルノス14世の突然の言葉に驚き、ソフィアは入れかけていた角砂糖をソーサーの上に落としてしまう。

「……その打診があり、家を喪った。宙の戒典の貸し出しと帝位継承権の返上を条件に出したのは、評議会を配慮したからではないのか? それならば、状況は何も変わっていない」

 デュークの厳しい指摘を受け、クルノス14世は押し黙る。その会話を聞いたソフィアは、正室と側室の面々が評議会の紐付きである事も踏まえて、今までクルノス14世が世継ぎを作らなかった理由を推しはかる事ができた。

「……私も聞いていい話ですか?」

「……聞いてしまってから訊くな」

 ソフィアにそう答え、アレクセイは角砂糖を3個ほど紅茶に投入した。

「陛下、ヨーデル殿下は騎士団が後ろ盾となっております。これ以上デュークに無理強いは…」

「わかっておるアレクセイ。だが、騎士団と評議会の対立を決定的なものにしてしまった。レギンが死んだ事が悔やんでも悔やみきれぬ…」

 レギン・ジェミナイ・ヒュラッセイン。クルノス14世の弟で、遊撃団を率いて魔物から民を守り数々の活躍をしてきた。ヨーデルの後見人であったが、カクターフの暗躍でギルドモンスター討伐中に戦死していた。

「……ソフィア嬢に頼みがある。エステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン。我が遠縁にあたる評議会が擁立した次期皇帝候補、彼女の教育係になって欲しい」

 エステリーゼが次期皇帝候補となったのは乳幼児くらいの頃、ダミュロンが隊長首席になった直後、皇弟レギンが亡くなる前の事であった。今は10歳くらいになるかと、ソフィアは記憶を探って思い出していた。

「聞いたところによると、騎士団で講義をしているようではないか。故に誰か教育する技能は充分あると言えよう」

「…理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 騎士団で雑学を教えている事を知っている以上、能力不足を理由に断ることもできず、ソフィアはそう尋ねる。

「教育係の成り手が見つからない」

「陛下、皇族の教師役は名誉な事。それこそ評議会の貴族が子息子女を送り込むのでは…」

「現状、騎士団派と評議会派に別れている状態ではリスクも大きい。通常は娘か三男以降を充てるが…その辺りの有用な人材が不足している」

 アレクセイの問いにそう答え、クルノス14世は意味深な視線をソフィアに向ける。その辺りの人材は黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)が、派手に青田刈りをして囲い込んでいた。それ故の盛大な玉突き事故が起きていると、ソフィアは今更ながら気付いたのであった。

「それともう一つ。評議会が言うには、エステリーゼは皇族の始祖と同じ能力を有していると言う」

「皇族の始祖の能力?」

「その力を以て世界を統一したとされる。それを根拠に、彼女の正統性を主張してきておる」

「その真偽も確かめて欲しいと?」

「そうだ」

 

 ソフィアの脳裏に前世の…ゲーム設定の知識が過ぎる。

 エステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン。

 ゲームでのヒロインで、隔世遺伝的に皇族の始祖である「満月の子」と遜色のない力を有する者。その力とは、魔導器(ブラスティア)を介することなくエアルを操る能力で、古代でのエアルの乱れの原因の一つとなった。

 故に始祖の隷長(エンテレケイア)からは「世界の毒」と疎まれている。

 

「……承知しました。ただし、二つこちらからお願いがあります」

「申せ」

「一つはヨーデル・アルギロス・ヒュラッセイン、騎士団が擁立する次期皇帝候補。彼の教育係も引き受けさせて下さい。この様子ではそちらの教育係も、見つかっていないのではないでしょうか?」

「……助かる」

「承りました。そして、もう一つは、宙の戒典を今しばらく貸していただけないでしょうか?」

 これまでデュークとエルシフルが高出力魔導器を見つけて破壊して来たが、モグラ叩き状態となっていた。一方で、高出力魔導器の製作規制の法案は、帝国法で魔導器の改造が禁じられている事を理由に、既に制限は掛けられているという論法で、評議会内で通る見込みが立っていない。

 結果、徐々にエアルクレーネが活発化し、同時進行で鎮める必要が出てきた。そのために宙の戒典を使用したいと言う話であった。

 

 結論を言うと、クルノス14世はあっさりと許可した。

 エアルクレーネ鎮める役目は、世界を回るついでという事で、デュークが受け持つことになった。そして連絡係としてエルシフルの娘、始祖の隷長のクロームが人化してアレクセイの副官として付くことになった。クロームは表向きはヘルメスの親戚のクリティア族とし、クルノス14世はクロームに「帝国騎士団特別諮問官」と言う肩書きを与えたのであった。

 

  §

 

 ソフィアは、皇帝陛下から次期皇帝候補の二人の教育係を正式に拝命された。

 身の安全を確保する方法の一つであるが、自分の身の危険に疎いソフィアは、自身が人材の青田刈りをした弊害への埋め合わせのつもりで承諾していた。

 

 評議会の貴族たちは、自身が擁するエステリーゼ姫を傀儡にしたいことから、政治に関わる教育は排除するようにと圧力を掛けていた。講義中に自身らの息が掛かった侍女を常に控えさせて監視していると、ソフィアが愚痴っていた事を思い出しつつ、ダミュロンは王城の中庭に面した廊下を歩く。

 親衛隊長のナイレンへ書類を渡し終え、後は騎士団本部に帰るだけである。のんびりとした気持ちで中庭を眺めると、ちょうどソフィアがヨーデルに対して授業を行っている様子が見えた。

「それでは、宿題について発表願えますか?」

「はい。現状における帝国法に関する問題点についてですね。一部の者への忖度による解釈で、平等に運用されていない事が問題かと思います」

「それに対する対処法については?」

「厳しく取り締まればいいかと」

「取り締まりは制圧権…他者を傷害または殺害する権限をもって騎士団が行います。もし騎士団が腐敗したり暴走した場合の対処は?」

「そ…それは……」

「権限の行使を制限する法整備が必要となりますね。一部の者が騎士団を己が武力として扱わないように」

「……はい。留置いたします」

 そう言うヨーデル自身が書いたレポートにメモ書きを加えていく。

「そして先ほどの法の運用についてですが、厳しくしたところで別の問題が発生する可能性があります」

「別の問題?」

「法を厳しく運用すれば犯罪者は無くなるという考えは、裁断者の権力を肥大化させる恐れがあります。それを利用して己が不利益となる者を処分する道具として、法を扱うようになるでしょうね」

「裁く者を監視する機構も必要という事ですか」

「それはもちろん必要です。加えて、犯罪者が更生する機会も大事かと。まあ、流石に再犯は厳しくした方がいいとは思いますが」

「犯罪者の…更生…」

「確かに些細な罪でドンドン極刑に処しておけば、いずれは犯罪者は居なくなりますよ。それ以前に民自体も居なくなりますから、今の便利で豊かな生活は完全に崩壊しますけどね」

「っ⁈」

「生涯で一度も過ちを犯さない人間など、存在しませんから当然ですよね?」

 ソフィアの言葉を聞き、法律を扱う危険性と重要性を再確認しヨーデルの背に冷たいものが走った。

「ヨーデル殿下。法の役目とはなんだと思いますか?」

「何か揉め事があった時に解決する指針…でしょうか?」

「そうですね。人社会を円満に運営するためのツールと言っていいでしょう。だから法に反した者を罰するという行為は、社会的に不利益となる者を社会全体が罰すると言う体であり、犯罪者に危害を加える責任を断罪者個人へ負わせないための仕組みであり、それ以上のものではない。被害を受けたと感じた者が、加害者であると自己判断した相手へ、報復するためのものではないという事です」

「……乱用すべきものではない。そういう事ですか?」

「揉め事があってすぐに、最初から法を持ち出すことは少ないのではないでしょう? 最初に互いの良心があり、それでも対処しきれない場合に行使するのが法であると私は考えています。どこまでの過ちを許すか、過ちを犯さない様にどう生きるのか、その根本が良心であり、良心を養う教育をしなければ犯罪は減ることはないと思います」

「教育が大事…という事でしょうか?」

「少なくとも、法律の知識の有無で不利益を被らないように、全ての者への教育が必要ですね。貴族特権による減刑は、解釈の捻じ曲げや不適切判決に対して、知識不足故に異議申し立てが出来ない事も原因の一つであると思いますよ」

 

 際どい内容の授業であるとダミュロンが視線を逸らした先、ソフィアらの近くの建物の窓が開いている事に気づいた。

「あの場所は書庫だな」

 突然真横から声が聞こえて、驚き仰け反りつつ視線を向けると、いつの間にかデュークが自身の隣にいた。

「相変わらず気配を消す事が上手い事で…」

「その割には、それ程驚いているようには見えんがな」

 そう言いつつもデュークはダミュロンには目に向けず、書庫の空いている窓に向けられたままであった。ダミュロンも窓の奥を見ると桃色の髪が見えた。

 弓兵あがりの視力で集中して見たところ、もう一人の次期皇帝候補のエステリーゼ姫が、ペンを走らせる姿が見えた。

「教育に差が出ないようにしてるわけね」

 あの距離ならばソフィアの声は聞こえているであろう。恐らくソフィアの入知恵と思いつつ、ダミュロンはデュークに視線を移す。

「で…ソフィアとはどうなの?」

「どう……とは?」

「婚約者同士だから、色々と…って、旦那らでは想像つかんわ…」

「手作りの品を頼んだことはある」

 まさかおねだりをした事があると聞き、ダミュロンは半ば目を剥いてデュークを見る。

「ステルが後生大事にしている様を見て興味があった」

 どことなくばつが悪そうに語るデュークの言葉から、ダミュロンは記憶を辿る。

 ステルとなると恐らくキャナリの手作りの品と推定される。キャナリは弓では随一、剣技も上位に食い込む腕の女傑ではあるが、一般的な家事の類は壊滅的と言えた。料理で厨房を半壊させるような彼女が、手作りで原型を留めたものといえば…

「ああ…手編みの品か」

 ステルが誇らしげに見せたキャナリ作の毛糸物体Xを、ダミュロンは思い出す。

「となると、手編みの品を頼んだのか? だが、ソフィアは編み物は苦手だったはずだが、よく承知したな…」

 昔ファイハイドでソフィアが滞在していた時、何度か編み物を挑戦している姿があったが、途中で編み目の数が変わると結局断念していた事を思い出した。

「いや。代わりに刺繍入りのハンカチで良いかと言われて、5枚ほど貰った」

 そう言いデュークは、自身の名が刺繍されたハンカチを取り出して、何処となく誇らしげに見せてきた。

 

 ダミュロンは言えなかった。自身も既に名前の刺繍入りハンカチを貰っている事を…

 さらに言えば、アレクセイは家紋の刺繍入りハンカチ、キャナリはキルサンタスの花の刺繍入りハンカチを貰っていることを…

 

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