TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



カロル•カペル(人材は無限に湧き出ない)

 

 ソフィアは黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)の会長の座を正式に辞し、顧問に移ることとなった。

 次期皇帝候補の教育係として王城勤務に勤しみ、月日は流れてソフィアは34歳になっていた。

 

「人材育成?」

 ダミュロンに呼び出され、ソフィアは久しぶりに黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)に顔を出していた。

 ここ数年で伸ばした黒髪を一つに結び、紫の羽織姿である、ギルド天を射る矢(アルトスク)の幹部の風来坊仕様で、レイヴン(ダミュロン)は一人の少年を連れていた。

「これ、ドンから預かった手紙だけど…こんな約束、いつしたのよ?」

 レイヴンに問いただされ、ソフィアは記憶を辿る。

 

 それは一ヶ月ほど前、カプワ・トリムで幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)のマリーと素材関係の商談をした後、偶然来ていたドンに「いい酒が入った」となし崩し的に飲み会になったことがあった。

 こういう場合、ソフィアはお悩み相談を受けることが多い。この時もその例から漏れず、ドンから「ギルドユニオン全体で後継者が育たねぇ」とぼやかれたのであった。

「ギルドは自由である反面、自己責任という方式。帝国法は制限を課しますが、弱者に対する一定の権利を守っている部分もあります」

 酒瓶に残った一滴をグラスに振り落とすように振りながら、ソフィアは言葉を続ける。

「特に子供といった知識も経験もない弱者に対しても自己責任を強いているギルドは、根本的に人材が育ちにくい土壌と思いますよ。即戦力だけ欲して、何の対策もしなかったんですから」

「ソフィア殿、お言葉ですが問題となっているのはここ数年の事、今までは上手くいっていたんですよ」

 ドンの腹心と思われる初老の男が、口を挟んできた。

「ギルドユニオンができてから、つまり帝国と本格的対峙してから 20年くらいでしたっけ? それ以前は知識や経験がある人材が帝国から流入していたが、それ以降は激減したはず。外からの人材流入がなくなって、ギルド内で育てる仕組みがない問題が、今になって表面化しているだけですよ」

「むぅう……」

「ギルドでは、子供をしっかりと育てる余裕がある裕福な家か、恵まれた師との縁が無い限り、必要な能力を持つ人材は育たない。周辺の環境が恵まれていて尚且つ、あてがわれたものが自身に合っていたという、稀な幸運を掴まない限りは難しいでしょう」

「だが『魔狩りの剣』のナンは、孤児だが優秀に育っている」

「過去はともあれ現状においては、彼女は環境が恵まれた類い稀なるいい例です。直属の上司に弟子として可愛がられ、本人にあった戦闘スタイルを丁寧に教え込まれている。そこまでしないと育たないんですよ」

 空になった事を確認した瓶を脇に置き、ソフィアは静かな視線でドンを見る。

「にも拘わらず、本人の自己責任で済ますのは、問題を放置しているのと同義。状況は悪化こそすれ、改善するわけがないですよ」

「ふんっ…だったら黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)から人材を派遣…」

「教育に適した人材は、こちらでも不足してます。無理です」

 帝都の下町に加えて、最近ではキャナリやステルを介して、カプワ・トリムの孤児院の子供達にも教育をやり始めた事もあり、人材は他所へ派遣どころか足りていない。ソフィア自身もまた王城で教育役をしているような状態なのだ。

「必要な人材は、何かを極めた者ではなく、ギルドでは粗雑に扱われがちな器用貧乏タイプ。次世代を見越してこっちは必死に人材育成している中、自業自得とも言えるギルドに人材派遣など、できるはずないですよ」

「器用貧乏ねぇ…わかった。素質がありそうな次世代の人間はこっちから出す。そっちで知識と技術を叩き込んで、返却してくれりゃあいい。今、人材育成してるってぇなら、一人くらい増えても問題ねえだろう?」

「……折半案としては悪くないですね。テムザの一件との相殺で受け入れましょう…変な人を遣さないで下さいね」

「そこは問題ねぇ…調子のいい奴だが、腐った奴じゃあねえ。とびっきりの器用貧乏だがな」

 

 そこまで思い出し、ソフィアはポンと手を打った。

「……また安請け合いしたわけね…」

「…申し訳ない」

「ま、いいでしょう。フェドロック会長は『前会長の蒔いた種だからその判断に任せる』と言ってたけど」

「こっちに仕事を投げるとは、彼女も成長したものだ。えっと…君の名前は?」

 そこでソフィアはレイヴンの背後に隠れている少年に問いかける。

「…カロル・カペル」

「年齢は10歳くらいか…読み書きはできる?」

「うん…」

 ならば…と、ソフィアはレイヴンの方を見る。

「今年から、市民街や下町出身の希望者を入れる予定だったね。この子でその研修プログラムを試しましょう」

「え……あれってもうちょっと年上用と聞いてるけど、大丈夫?」

「研修前に試験があるでしょう。そこからやらしてみて。全体の正答が4割超えていたら、そのまま研修を受ける形で」

 こうしてカロルは、研修名目で三ヶ月ほど黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)で預かることになった。

 

 結論として、双方にとって有意義な研修となった。

 

 黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)としては、貴族や大きな商家以外の人間への研修を始める前に、研修に手順や不備が見つかったことが大きかった。

 定期的な出張教育をしても、環境の違いによる価値観の相違や習慣は変えられない。特に手指洗浄などの衛生観念、一定以上の挨拶や受け答えなどの知識は必要だが、やる理由についての説明の重要性が分かった。

 今ならまだ間に合うと、研修担当者はこれから研修内容に修正を加えるらしい。

 

 カロルとしても有意義な研修になった。

 基本は明朗快活な性格だが、軽んじられることに対する防衛反応ゆえに虚栄心が強く、自身の能力を本来より上方修正して伝えてくる傾向があった。

 ドンの言った通りの器用貧乏で、最初の試験では全ての単元において4〜5割の正答であった。その成績内容は研修担当者が共用し、背伸びをした自己申告であったときは、正確な状況を伝えたのだが…

 やる気を無くしたのか、不適格と判定されると思ったのか、黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)を逃げ出そうとしたところをレイヴンが見つけてくれ、事なきを得た。

 その後に会った時、カロルは臆病なのに強がってしまうと、自身を卑下し落ち込んでいた。ソフィアは臆病なのは脅威を正しく捉えているから、強がるのはまだ未熟なだけで伸び代がある証左と伝えた。どこまでその言葉が伝わっていたか不明だが、カロルは研修を最後までやり遂げることができた。

 

「3ヶ月間、お世話になりました」

「で、少しは何か掴めた?」

「飲み込みが早いって褒められてたよ。分かんなかったら、聞きゃあ良いんだよ。それで覚えれば良いだけの話なんだから」

「そうだね…でも、ギルドだと難しいかな…」

 レイヴンに褒められ嬉しそうな表情を見せるも、これから戻る先の環境を考えると、カロルの表情は少し曇った。

「同じように悩んでいる人、ギルドユニオンの中で大勢居るんじゃないかな」

「そりゃそうかもしれないけど、そこを自力で技を盗んで、なんとかして一人前になるんだよ」

「…この研修を受ける前と受けた後、どちらの方がより多くのことができる?」

「もちろん研修した後の方だよ」

「そう、ギルドユニオンでそれをやるのが、君の役目」

 ソフィアにそう言われて、カロルは自身に与えられた役目の大きさに驚き声をあげる。

「少年…ドンから聞いてなかったの?」

 ドンの大雑把さに呆れつつレイヴンが訊ねると、カロルは肯く。

「そう…だったんだね。見放されたわけじゃなかったんだ…」

 少し笑い、悩みが吹っ切れた表情をカロルは向ける。

「ってことは、どのギルドに行こうか迷っている人に、色んなギルドを紹介して、簡単な知識を教えればいいんだね」

「まあ、最初は子供を預かる名目で、読み書きと計算を教えていけば良い」

「それだけじゃ足りないよ。少なくとも聞かれたら答えられるように、色々なギルドに行って、色んな知識を学んでみる」

「それはいい考えだと思うけど、その時に大事なのは…」

「できないことは正直に伝える。代わりに何ができるかを適切に伝える」

「そして、どうすればできるようになるのか、遂行に必要な条件を伝える。それが仕事で大事なこと」

「うん。色々とありがとう」

 大く頷き背筋を伸ばし、カロルはレイヴンと共にダングレストへと帰っていった。

 

 カロル・カペル。

 ゲームの世界で主人公と会い、ギルドを創り、困難や悲劇を乗り越え成長し、やがて世界を救う。

 そのルートと異なる人生を歩んだとしても、この先の未来が楽しみだと、ソフィアは内心嬉しく思った。

 

  §

 

 時は少し遡る。

 次期皇帝候補の教育係となって半年程経過したある日。

 ソフィアはいつも通りに王城に赴き、エステリーゼの座学を行う予定であった。しかしエステリーゼは急病のため、予定はキャンセルとなった。

 次のヨーデルへの座学まで時間が空き、アレクセイかキャナリに会うべく騎士団本部を訪ねようか考えた。そう言えば対テロ講座をお願いされていたと、思考を巡らせていた時であった。

 

 連絡に来たエステリーゼの侍女は立ち去ろうともせず、小声で語りかけてきた。

 

「[テイルズオブヴェスペリア]」

 

 表情を繕うこともできず、驚き相手を見るソフィア。

 予想通りの反応が得られたと、その侍女は笑みを深める。

「私、ミムラ・フォン・キュモールという名ですの。[三下悪役]の愚弟を持つ、しょうもない姉に転生してハズレだなぁーって思っちゃったけど…」

 ベラベラと話始めるミムラ。

 普通の人が聞いたら意味不明に取られる話の内容だが、ソフィアにはわかる。この話振りは、前世でやり込んだRPGゲーム「テイルズオブヴェスペリア」を知っている者だと。

 

 異世界転生者。

 

 自分以外に居るかもしれないと考える時期もあったが、やるべき事が余りにも多すぎて、何時しか考えることは無くなっていた。それが今になって現れるとは、ソフィアにとって予想外であった。しかし…

 

「まあ、貴女に比べたら断然マシ。下衆で勘違い道化役の[中ボス]を兄に持ってるなんて…」

 ゲームの世界では、アレクセイは悪逆非道な行いをした。しかしそれは、追い込まれて狂わされてしまった結果であり、この世界では信義を重んじる誠実な騎士とソフィアは断言できた。そんな兄を愚弄され、ソフィアは殺気を込めた視線を向ける。

 人が生命や精神を損ねる様な悲劇、それを回避しようと必死になっている。にも拘わらず、起きるものと決めるような態度は、ソフィアとは相容れない物であった。

「…私に何か御用ですか?」

「婚約者が感心していたの。ここまで流れを変えられるなんて…」

 ソフィアの態度が硬化し、ミムラは肩をすくめつつそう言う。

「…貴女の婚約者も異世界転生者と?」

「そうよ。でも本来の流れと違って、沢山人が生き残っちゃったよね? 特にクズ貴族が沢山な状況に、胸を痛めてるんです」

 確かに人間性や性格に難がある貴族は多い。でも捨て駒扱いされた故、そうならなければ生き残れず致し方なく染まった結果、そうなってしまった者も少なからず居る。現に黎明の残月(トリウィア・ミラージュ)では、為政者として相応しい貴族へ成長した者も多々いるのだ。

 ゲーム内の情報が確定的で不変であると決めつけ、その生死に言及する烏滸がましさに対し、ソフィアは嫌悪感を抱くのに充分であった。

「本来より妨害する者が多くて大変だよねぇ? この後に続く悲劇を回避するには、もっと人手がいるでしょう?」

「何をしようとしているのか分かりませんが、人手がいるのは其方では? だから私に声をかけた」

 ソフィアの反論は図星だったらしく、ミムラは砕けた態度を改めて、貴族子女らしい口調に戻した。

「……少しお話ししませんか? 同じ知識を持つ者同士、少しは分かり合えると…」

 ミムラの言葉を遮るように、ソフィアは立ち上がる。

「己が立ち位置が見えていない方と、話す時間はありません」

「それはそっちでしょう? [ゲーム]の[本筋設定]をグチャグチャにして、何様のつもり? だったら私だって、好き放題していいよね?」

「……何をするつもり?」

「…また機会がありましたら」

 ソフィアの問いに答えず、ミムラは妖艶な笑みを浮かべつつ、淑女の礼をソフィアに向けた。

 

 以降、ソフィアはミムラと接触する事はなく5年程経過した。

 

 ソフィア35才。騎士団でまた組織が改変された。

 当初、騎士団は騎士団長をトップとし、各隊長、その下に小隊長が設けられていた。そしてアレクセイが騎士団長となってからは、皇帝を守る近衛兵は親衛隊へと拡充され、騎士団長の補佐として隊長首席が設けられ、隊長首席が率いる騎士団長直属部隊「シュヴァーン隊」が設立されるに至った。

 キャナリ隊が先駆けとなって以降、旧キャナリ小隊の出身者が隊長となって、貴族と平民の混成部隊は複数作られた。そして今回、貴族の騎士中心の複数の隊を総まとめする中隊、複数の混合部隊を纏める中隊がそれぞれ新設された。

 

 混成部隊の中隊長には、キャナリが就くことになった。

 その就任式典への出席時、ソフィアはキャナリの兄であるフィアレン・フォン・エングリスと対面した。会話上では何度も話題に出た人物ではあるが、面と向かって会うのはこれが初めてであった。

 

 フィアレンの傍らにミムラの姿があった。

 





 人魔戦争がなかったものの、カロルの母親は病気で亡くなっています。カロルの父は居ますが、カロルは一人前を目指してギルドを渡り歩いているのは同様の様子です。
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