TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



消えたソフィア(理由があっても虐殺は大罪)

 

 ソフィアを連れて帝都を出たデュークは、二人でエルシフルの背に乗り世界中を旅していた。

 婚約者同士という形だが、かと言って互いに何かをするわけではなく、穏やかにただただ隣り合うものとして、共に同じ目的を持って動いていた。

 世界を守るために、高出力魔導器(ブラスティア)の開発を妨害し、始祖の隷長(エンテレケイア)を狩ろうしたした人間を阻止し、活発化し始めるエアルクレーネを鎮めたりしてきた。

 

 ヒピオニア大陸。

 縄張りにしていた始祖の隷長のアスタルがいなくなり、統率を失った魔物が暴走をしていた。

 暴走した魔物は海を越える危険性もあったことから、ソフィアとデュークはエルシフルに協力し、魔物を鎮める為に動いていた。

 ソフィアが地属性の魔法で地形を操作し、魔物の動きを誘導してエルシフルの居る場所へと集める。その間にデュークは、宙の戒典(デインノモス)で活発化しているエアルクレーネを鎮めた。

 エアルの暴走が収まり、始祖の隷長の盟主であるエルシフルの存在で、魔物は落ち着いて元の場所へ拡散して戻っていった。

 

 様子見を兼ねて、この日は街の廃墟跡でデュークらは野営をすることになった。

 エルシフルは今回の件を情報共有する為、始祖の隷長の会合を開くため、一度イキリア大陸に戻っている。

 デュークはソフィアと共に久しぶりに二人きりで焚き火を囲んでいた。

 互いに会話はない。

 最近ソフィアは考え込んでいることが多く、すっかりと寡黙となっていたが、互いの間に流れる沈黙すらも、デュークにとっては心地の良いものであった。

 

 パチリと薪が爆ぜる音が響く。

 

聖核(アパティア)狙いで、始祖の隷長の命を奪うとは愚かな…」

 今回ヒピオニア大陸で起きた騒動の発端に苦言を呈するデュークに対して、ソフィアが静かに口を開く。

「それだけではないでしょう。テムザの研究所で力の一端を見ている以上、自身らに矛先を向ける脅威を感じて、排除しようとしているのでしょうね」

「人間とはなんと愚かな…自身らが襲われるとしても、自業自得と言うものを…」

「一方的に虐殺される事が自業自得と言うなら、彼らが始祖の隷長狩りをする事に対して非難する謂れはない」

「……その言葉、取り消せ」

 看過出来ない言葉を聞き、デュークは珍しく声を荒げるが、ソフィアは焚き火に視線を固定させたままで態度を変える様子はない。

「始祖の隷長は魔導器でエアルが乱され、自身らに害があるから人を攻撃する。人は生存に必要な魔導器どころか街ごと破壊される恐れのあるから始祖の隷長を攻撃する。そこに何の違いがあるのです?」

「魔導器は最終的に世界を滅ぼす。それを守るために始祖の隷長は…」

「そのように大義名分を挙げていますが、それ以前に自身らの生存に関わる方が大きい。つまりどちらも己が生存を賭けて、相手を敵視しているに過ぎないと私は思います」

 互いに己が生存本能を基とした行動。

 そう言うソフィアの言葉にデュークはなお反論を試みる。

「世界を愛する彼らが、調停者として働き続けたのは事実だ」

「それは認めます。しかし事態の解決が目的ならば、何故もっと頻繁に人間に接触して、情報を共有して話し合わなかったのですか? 長命であると言う種族的特徴によって維持され、知り得た情報を。短期間で世代交代する人間社会の中では、情報が霧散すると容易に想像出来たはず」

「人間とは姿形が違えば、魔物と判断して攻撃してくる」

「それは長きにわたって接触を絶ったのが原因では? そうだとしても、始祖の隷長の一部は人化が出来る。人の姿で会うこともできたはずです」

「話し合おうとしたが、取り合ってくれなかったと…」

「己が主義主張を一方的に押し付け要求する行為は、種族間での話し合いとは言いません。相手が知らない正論を掲げた理論武装で、情報共有する間も無く一方的に鏖殺する。自身らが掲げた大義名分を免罪符として人間を殲滅するために、情報を隠蔽したと見られてもおかしくない行為ですよ」

「っ⁈」

「貴方は何故、始祖の隷長が尊く人間は愚かだと、盲目的に決めつけるのですか? 始祖の隷長の中にも浅はかな者は居るし、人間の中にも思慮深い者は居る。生まれで判断するのは、貴方の言う人間の愚かな行為そのものではないですか?」

 その言葉はデュークに対して衝撃を与えた。最初に浮かんだのは否定。しかしそれはすぐさま肯定に変わった。デュークは、自分自身は始祖の隷長に近いと思っていた。しかし実のところは、始祖の隷長に肩入れしているだけの、ただの人間ではないか⁈

 特定の種族に気持ちを傾ける事なく思考するソフィアを目の前にして、自身の鍍金がボロボロと剥がれていくようにデュークは感じた。

 

 何と愚かで救いようのない者か…

 自身こそが道化ではないか…

 だから私は、私自身を…

 

「ああそうか…貴方は……人というより、貴方自身が憎いのですね?」

 

 ソフィアの言葉はデュークの心奥底に、静かに突き刺さった。

 

 そして脳裏に浮かぶのは、道化を演じつつ自己否定の激しい一人の男。同じ境遇の彼と自身は同じ所に行き着いていた。

 時間のループの記憶を無くしたと知ってからは、仲間意識が消えて同族嫌悪が表面化し、ダミュロンに対して辛辣な対応を取ったのだと今更ながら気づいた。

 いや…ダミュロンと自身が同じとは、思い上がりも甚だしい。

 これまでの逆行の中で、本当に全て喪い生きる気力を失った自身を、絶望から這い上がって得た仲間と共に引き上げたのはダミュロンであった。同じ時間軸でデュークは、絶望の淵にいたダミュロンを、地獄の底へと何度も叩き落としたと言うのに…

 粉々に砕けた精神を立て直すために踠くダミュロンに対して、「死人」や「道化」と吐き捨てた自身を、デュークは斬り捨てたい衝動に駆られた。

 

 いつの間にか隣に居たソフィアは、そっとデュークを抱きしめた。

「何を……」

「共に過ごして、貴方が優しい価値観の持ち主だと私は思いました。だからこそ『皆が幸せになる方法』を追求してきた」

「……他者の不幸を望む者も居る」

「それが貴方が幼き日に目の当たりにした帝国貴族の持つ価値観。貴方が持つ価値観と余りにも違いすぎる。それは…孤独だったでしょう」

「…………」

「そんな中で家も家族も喪った貴方を受け入れる者が居れば、その価値観が大きな影響を与える事は当然の事」

 デュークはエルシフルを尊敬していた。しかし、エルシフルが必ずしも万能ではないと気づき、頑なに抱き続け盲目的に信じ続けてきた、エルシフルと同じ価値観に揺らぎが生まれた。

 

 正しいからと言って、誰もが賛同する訳ではない。

 

 エルシフルは己が絶対的な力に自信を持ち、己が正義に皆が付いてくると、疑う事なく信じていた。しかしそれは、己が価値観を押し付ける強者故の傲慢であり、弱者の心情を顧みない行為であった。

 この世界の大多数は弱者で構成されることから、強者からの強要はいずれどこかで破綻をもたらす。

 人への憎しみを募らせていた〈暗きもの〉たち一派の心情を無視し、彼らから見て人に肩入れした裁決をエルシフルが下した。その結果、〈暗きもの〉たちが暴走して人の大量虐殺に至った。

 大量虐殺が起きた後に介入して鎮めたところで、帝都の民の怒りが収まるわけではない。同族である以上、エルシフルを同一視し敵討ちと排除に動く騎士達を止められるはずなど無い。

 理性的な正しさよりも、本能的恐れや心情が優先される場合が多いのだ。

 己が両親が命を失ったのもまた、高位貴族の地位をもって自身が信じる正道を、周囲の理解もままならない中で強引に、己が正義を突き進んだ事が原因であった。

 

 エルシフルが唱える理想も、彼が持つ価値観も、そこから紡がれた正義も、長き年月を越えた末に構築されたもの。だから、とても素晴らしく美しく思えるのだが、彼ほど長命な者が殆ど居ない現状に適合したものでは無いと、今のデュークは薄々感じていた。

 それに気づいたデュークの価値観は、エルシフルの価値観と乖離し始めていた。

「貴方はもう、貴方自身の価値観を持っているのではないですか?」

「ソフィア……私は……」

 皆の幸せを願いたい。

 でもそれは叶わぬ願い。ならば人と距離を置いて俯瞰すればいい。肩入れして心を砕かなければいい。ぽっかり空いた所には、己が価値観に似た誰か(エルシフル)の価値観が嵌め込まれた。

 その結果、デュークはエルシフルに執着し、自身も始祖の隷長の一員のように錯覚した。人社会との接触を頑なに排除し、一部の個から人全体が愚かと判断し、対話を望む者を拒絶し、星喰みを倒す代償として全人類の命を選択した。

 

 自身が「人」である事は覆せない事実。

 そもそも始祖の隷長であったとしても、一個体の主観によって、一つの種を殲滅する権限など、有していないと言うのに…

 

 ソフィアはそっとデュークから離れた。

「自分を嫌悪している事に気づいたと言う事は、人らしい価値観…本来の価値観が戻ってきた証拠ではないですか?」

「私は………」

「その価値観を大事にしてください。他者の正義と自身の正義が異なっていたとしても、『個々が持っている正義を尊重する』と言う貴方の価値観を。それが出来ない今の自分が嫌ならば、少しずつ改善すれば良いだけのこと。自覚できたのならば、難しいことではありません」

「しかし……」

 自身は変われるだろうか?

 嫌悪の対象は無力な自分…

 誰かの価値観に差し替える事なく、己が価値観を貫ける強さを持てるのであろうか?

「誰かが居なければ変わることなんてできません。『個々が持っている正義を尊重する』と言うのは、『己が正義と言い張り他者を踏み躙る我欲』を払い、『個々が互いに尊重して共に幸せになる方法』を探すこと。それを目指しているのは、貴方だけではないのでしょう? 今の貴方は独りではない。だから大丈夫」

「お前は…心が読めるのか?」

「貴方の顔に出ています。慣れれば結構分かりやすいですよ」

 少し笑った後、ソフィアは言葉を続ける。

「一人で背負う必要はありません。そもそも一人ではできる事が限られていますし、私も……最初の生でそれに気づいていれば、こんな事にはならなかったものを……」

「ソフィア?」

「貴方は貴方自身の価値観を捨てて、本来の価値観と反する行動をするしかなかった。その数多の苦行の原因は私にある。だから貴方に、貴方らしく生きられる世界を…」

 

 ゆらりとエアルが乱れる。

 ソフィアの足元の魔法陣が浮かび上がった次の瞬間…

 ソフィアはデュークの目の前から姿を消したのであった。

 





 ゲームの後半で起きるオルニオン近くでの魔物大発生イベントは、既にカクターフらがアスタルを撃破済みのため、前倒しで発生しました。
 兆候を初期に察知できた事、エルシフルがいたこと、宙の戒典があったことから、比較的容易に鎮静化に成功した感じです。
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