pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。
ソフィアが姿を消した。
彼女の兄のアレクセイは、 ダミュロンに対して密かに捜索するように命令を下した。そして残されたデュークは、高出力
日を追ってエアルクレーネはより活発化し、高出力魔導器の情報が掴みにくくなっていた。
デュークはハルルの街に立ち寄っていた。
ここでエルシフルの娘であり、クリティア族の姿に人化して帝国騎士団特別諮問官の任についているクロームと落ち合う。目的は補給のためであるが、これまでの時間のループ内でも人里を利用することを避けていたデュークは、クロームから度々物資の提供を受けていた。
デュークは人社会との接触を絶っていたつもりだったが、こうして受け取っている物資は全て人間社会の恩恵によるものであった。
自然から採取した物もまた、食用の収穫物が維持されるように、草木に悪影響を与える魔物を狩ったり、食用の植物を増やす努力が人の手によって地道に行われてきた。そして森林環境を維持した結果、栄養豊富な河の水が山から海に流れ込み、海の生き物が育まれて豊かな海産物が得られる事も知った。
そもそも、野営時の調理やかまど作りと言った方法は、人々が技術を継承しつつ試行錯誤の末に編み出された技術。それは人が社会を営み育んできた、文化の積み重ねで生み出されたものである。それを利用して生きてきながら、「自身は人社会とは関係ない」と言い張るのは滑稽であったと、今のデュークはそう考えていた。
それらは全て、ソフィアとの旅で学んだ事であった。そしてデュークは、自身は人であり、人社会から隔絶して生きていけないことを突きつけられたのであった。
そんな思いが表情に出たのか、クロームが怪訝な表情でデュークに話しかけてきた。
「どうかされましたか?」
「いや……当たり前のことを今更ながら気づいただけだ」
「今日は父と一緒ではないのですね」
「エルシフルはエフミドの丘に居る。明日まで居ると言っていたから、後で会いにいくといい」
「そうですか。相変わらずあの場所が好きなんですね」
そう言いクロームが珍しく笑む姿を見て、デュークの中に一つの疑問が浮かび上がる。
これまでの時間のループで、クロームは間近でアレクセイの動きを監視してくれた。そして人里離れて暮らすデュークに、今と同様に物資の補給をしてくれた。自身に対して相当気遣ってくれた事にようやく気づいたデュークは、クロームが自身を援助する理由を考えた。
そして…
「もしエルシフルとの関係がなかったら、君は私に対してここまで手助けをする事は無かっただろうか?」
疑問が思わず声に出てしまい、気まずそうにデュークは顔を逸らす。
「……すまない。今の言葉は聞き流して…」
「おそらく、貴方と言う人を知ったのでしたら、父の存在に左右される事なく、私は貴方の手助けをしたでしょう」
思いも寄らない言葉に、デュークは少し驚く。
「貴方と知り合う切っ掛けは、確かに我が父エルシフルでした。しかし、こうして色々と手助けをしているのは、あくまでも自分自身の意思です」
少し目を見開いているデュークに対して、柔らかな表情を向けつつ、クロームは言葉を続ける。
「私は…
「その感性とは?」
「社会性という物です。始祖の隷長は、基本的に個々で活動します。しかし私は…貴方方と対話をし、共感を持つ事に対して安らぎを覚えるのです」
「クローム…」
「デューク。私の正体を知った上で、その安らぎを与えてくれる貴方の行く末を、出来る限り見守っていきたい。勿論この世界の守護者としての使命も持っていますが、そのような望みを私は抱いているのです」
真っ直ぐ自分に向けられている思い。
今までの時間のループ内であっただろうか? もし向けられたとしても、デューク自身が気付くことはなかったであろう。
そう考えると居た堪れなくなり、デュークはクロームから視線を外して話題を変える。
「そう言えば、アレクセイは息災か?」
「相変わらず閣下は多忙です。逆にその方が、余計な事を考えずに済みますので、良いかも知れませんが…」
アレクセイのソフィアの溺愛ぶりを考えると、敢えてそうしているようにもデュークは感じた。
その時、突然クロームの顔色が変わった。
「どうした?」
デュークの問いに答えず、目で一人の人物を指して訴えるクローム。その人物が持つ包みを、クロームは凝視していた。
「……あの者が持つ荷物か?」
「おそらく…
始祖の隷長であるクロームが、同族の命の結晶を見間違えるとは考え難い。ソフィアを付け狙ってきた者たちは、聖核を集めている事を考えると…
「……私が後を追って尋問をする。帝都へ戻れ」
「しかし……」
「何かの拍子でお前の正体が知れると不味い。帝都へ戻れ」
「……分かりました。くれぐれも、無理をなさらないように」
一礼するクロームを一瞥した後、デュークは男を追ってハルルの街を出た。
回り込んで荷を持った男の前に立つデューク。男は一瞬構えるが、デュークの姿を見て驚きつつ笑みを浮かべた。
「こりゃまた[シナリオ]にはない[イベント]で、ドキドキするねえ…」
「……お前は何者だ?」
「ボクはワンダー記者。いつも帝都の市民街の壁奥に居るボクがどうしてここに帝都を出てるかって? それはヒミツ!」
「興味はない。その荷を渡し、荷の受け取り先とお前の依頼主を言え」
「…こっちの言葉に全く耳を貸さない。流石は[ラスボス]‼︎ でもこちとら、同胞からのタレコミでゲットした特ダネ狙い! 」
「同胞?」
フード越しとは言え、ワンダー記者が笑みを浮かべている事はデュークも理解した。
「ソフィア・ディノイア。この荷の依頼主」
「っ⁈」
「コレ、アスピオのヘルメスに届けてね。デューク・バンタレイ。アンタなら、安心して任せられる」
そういうや否や、ワンダー記者は荷をデュークに投げ渡す。
それを地面に落とす事なく受け取るデューク。しかしその間にワンダー記者は姿を消していたのであった。
「ヘルメス。聖核を何に使おうとしている?」
アスピオまで荷を届けたデュークは、届け先であるヘルメスを半ば問い詰める形で尋ねた。
「聖核⁈」
デュークの言葉に驚き慌てて、ヘルメスは受け取った結晶体の操作盤を開く。
「……術式を刻んだ形跡が全くない…聖核を砕いた魔核なのか⁈」
「砕いた? 何を言っている、通常の何倍もエネルギーを感じる! コレは砕く前の聖核ではないのか⁈」
「この辺縁をご覧ください。他の箇所に比べて平坦となっています。おそらくここが切断面となっています」
ヘルメスの指摘通り、ここにあるのは何か大きな聖核から切り分けた物であるのは間違いなさそうであった。しかしコレが一部分となると、元の聖核の大きさはいかほどばかりか…
「
「宙の戒典の複製? 何のために?」
「……ソフィア様からエステリーゼ姫の話は、聞き及びでしょうか?」
ヘルメスの言葉を聞き、デュークに思い当たることが一つあった。
皇族の祖とされる「満月の子」が世界を支配した能力。エアルを自在に操る代償にエアルクレーネを刺激して、世界のエアルを乱し破滅へと誘う禁忌の能力。それをエステリーゼが有してる可能性を、ソフィアは報告していた。
デュークは時間のループの中でエルシフルから知らされた話だが、この時間軸ではソフィアの口から、デュークだけではなく皇帝とアレクセイにも既に伝えられていた。それ以降は情報統制が敷かれ「満月の子」の能力に関する研究は、情報源となった古文書をソフィアと共に解読していたヘルメスに委ねられることになっていた。
「その能力を抑えるために必要なのか?」
「それができるかは分かりませんし、そもそも姫君の能力が本当に同じなのか、可能性は高いと言えても確証が得られていません」
情報統制故に、ヘルメスは「満月の子」の情報を娘のジュディスやリタに話したことはない。
しかしエステルと共に旅をして能力の一端を見たとされるリタが、積極的に研究の手伝いをしている様子から、ヘルメスは限りなく可能性は高いと踏んでいた。エアルを自在に操る「リゾマータの公式」は「満月の子」の能力を術式に落とし込んだものであり、エステリーゼがその「満月の子」の力を有していると…
しかし…
「記録が断片的しかありませんので、『満月の子』の能力の全容が把握しきれていないのです。ただ、エアルに何かしらの悪影響を与える可能性がある以上、エアルを鎮静化するための手段を複数用意した方が良いでしょう」
「オリジナルだけでは足りぬと言う話か…」
「それにオリジナルは能力発現の方向性が『エアルの鎮静化』に固定化されています。残念ながら私どもでは、固定化を解除する事は叶いません。そのため宙の戒典を複製して、刻まれている全ての術式を余すことなく使えるようにした方がいいでしょう。それで全て償えるとは言えませんが…」
「ヘルメス?」
「私は罪を犯した……造ってはいけない物を創造してしまった。その責任を取らなくてはならないのです」
そう言うヘルメスの目は、デュークにとって覚えがある物であった。
これまでの時間のループで、世界を崩壊へ導く「ヘルメス式魔導器」を開発をした際、始祖の隷長からの一方的な勧告を一身に受け、たった一年と言う期限でどうにかしようと足掻いた、あの時と同じ眼差し…
これまでのループでは、デュークはヘルメスを温情を与えたつもりで実質は見殺しにした。さらに残された彼の娘のジュディスを助命しつつも、世界中で生産が続くヘルメス式魔導器を全て破壊するという重荷を、背負う様に追い込んだ。
しかしデュークはこの時間軸の経験を経て気づいてしまった。
ヘルメス一人の責任ではなく、彼が創り出してしまうように仕向けた周囲が元凶なのだと。ならば、力を求めてヘルメスに協力したアレクセイだけではなく、彼をそこまで追い込んだ者たちにも責任があるのではないかと言う考えにデュークは至った。それは、帝国評議会の貴族たちだけではなく、アレクセイを切り捨て孤独にしたデュークもまた含まれているのだと…
「……希少素材で必要なものがあった教えてくれ。確約はできぬが、近くに寄った際に渡そう」
「それは助かります。よろしくお願いします」
そう言いヘルメスは、デュークの手を硬く握りしめた。
ハルルに戻ったデュークは、一人ハルルの木の下に足を運んだ。
花の季節は過ぎ、青々とした葉音が辺りを満たしている。
思い出すのは無数の薄紅色の花弁が舞う季節。デュークは家に伝わる婚約者の証をソフィアに渡した。その後ユウマンジュから帝都に戻って暫くした花が咲く頃、再び共にハルルを訪れ、ソフィアはデュークに万年筆を贈った。
「ソフィア…目的は……君自身の望みは何だ? 今の私なら理解できるだろうか?」
降り注いだ木漏れ日を、銀色の万年筆が照り返していた。
クロームが人間というか他者に対して好意を抱くと心情の動きは、社会性を営まない始祖の隷長としては変わっているように感じました。その要因として、始祖の隷長の番から生み出された始祖の隷長と言う点ではないかと考え、このような話を書いてみました。