TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始から25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



変わり始める未来(中ボスの愚痴を聴く)

 

「……アレクセイか?」

「邪魔をするぞ。デューク」

 

 疲労を隠しきれていない様子で、アレクセイは夜遅くにデュークのもとを訪ねて来た。

 その日は屋敷の主人のドレイクは不在であると知った上らしく、半ば押し入るかたちでデュークの部屋まで来て、手に持っていた袋の中身をテーブルの上に並べ始めた。

「…まだ未成年なのだが……」

 机に並べられたアルコール飲料を一瞥したデュークの言葉を、アレクセイは無視して瓶の蓋を開ける。デュークは諦めた様子で戸棚からコップを出して机に並べた。

「遠征で何かあったのか?」

 赤ワインが注がれたコップを受け取るだけで口をつけずにデュークが尋ねる。アレクセイは渋い顔をしつつ、ワインを一口飲んだ。

「……遠征で不在中に、またソフィアがやらかした…」

「どこぞの貴族が、平民に魔物を嗾けたのを見て、生首が貴族の方へ落ちるように魔物を倒して、事故だと言い張ったのか?」

「違う」

「どこぞの貴族が、平民に魔物討伐を押し付けて、代わりに魔物を仮死状態にして引き渡して、貴族の屋敷を半壊させたか?」

「違う」

 ソフィアの過去の騒動を思い出したのか、アレクセイは頭を抱えて机に突っ伏した。

「実験に没頭した結果、とうとうお前の屋敷を全焼させたか?」

「蔵書を考えると想像するのも恐ろしいが、違う。だが………それすらも霞むような事だ…すまん…これ以上は今は言えない……」

 酔っているらしく、アレクセイはそのまま顔を上げることなく動かなくなった。

 

 他者を相手に夜通し愚痴る姿は、今までの時間のループの中では見たことはなかった。

 思えば、ソフィアが実験の事故でアレクセイの寝室に大穴を開け、アレクセイがドレイクの屋敷に一泊した時にデュークに愚痴ったのがきっかけであった。ソフィアの動向が気になっていたデュークは、拒否する事なく話を聞いた。その態度に気を許したらしく、アレクセイはデュークに気兼ねなく接するようになっていた。

 今までと時間のループと異なり、軟化した態度を見せるアレクセイ。ここ最近で見せるようになった年相応の寝顔を一瞥し、デュークはいつものように寝落ちたアレクセイに、毛布を掛けてやった。

 

 そんな事があったのは、アレクセイが史上最年少で小隊長になった辺りの事であった。

 

 それから数ヶ月後……

 

 人々の日々の生活に根付いている魔導器(ブラスティア)

 遺跡からの発掘物で稀に見つかる、稼働する物品のみが利用されているに過ぎないため、流通量が限られているため貴重品となっている。魔導器(ブラスティア)の中核である魔核(コア)を新規に作るどころか修理すらできず、改変による転用もできないことから、需要と供給のバランスが取れないことも問題となっていた。

 その問題を解決するに至る可能性を秘める発明を、ヘルメスが成し遂げる。

 それが、船舶駆動魔導器(セロスブラスティア)専用の廉価版通信魔導器(コールブラスティア)であった。

 

 安全試験を終えた廉価版通信魔導器(コールブラスティア)が、帝国が所有する船に取り付けられた事を後見人のレギンの口から聞き、デュークはその存在を初めて知った。

 自身が警戒した、世界を崩壊に導く「ヘルメス式魔導器(ブラスティア)」かと警戒したが、どうも全く異なった代物のようであった。魔核(コア)が破損したジャンク品の通信魔導器(コールブラスティア)を改変した代物で、稼働する駆動魔導器(セロスブラスティア)に接続して使用するらしい。

 話だけでは脅威となる代物かどうかの判断は出来ないとデュークが考えを巡らせていた時、レギンが徐に口を開いた。

「今日来たのは他でもない。お前の今後の身の振り方について、そろそろ考える必要がある」

 その場に同席していたドレイクが示した選択肢は2つ。

 

 家名を捨てて、市井に降りること。

 家名を維持し、騎士団に入ること。

 

「お前が皇族の血を引いている以上、お前を利用しようとする者、排除しようとする者が多く居る現実を認めなければならない」

「全てを捨てて逃げ去るか、力を付けて立ち向かうか…お前は選択しなければならない」

 ドレイクはそう言うが実質は選択肢は無いに等しい。何故ならば…

「だが、今の段階で市井に降りることは推奨しない。手段を選ぶことなく処分しようとする輩は、少なくないからな」

 これまでの時間のループの中で、何度かその選択をしたことはあった。しかしレギンが示唆した通りに、全てにおいてデュークは命を落とした。その後時間の逆行が起きた事から、自身の死は世界の未来を好転させない事は明らかであった。

「騎士団を推されるのは、己が力を付ける必要があるからでしょうか?」

「そうだ。おそらくお前はレギンより強くなるだろう」

「それまでの間は、儂やドレイクの目が届く騎士団に居る方が良い。何せ儂自身が今まで生き延びた方法だ」

 

  §

 

 17歳の時、デュークは騎士団に入った。

 公爵家出身であり、既に騎士団最強と噂されているアレクセイと真面に打ち合える剣の腕も相まって、デュークは近衛隊に配属された。

 没落した公爵家の生き残りである上、自身も人間と深く付き合う事を嫌厭していた事もあり、仕事以外ではデュークは一人でいる事が多かった。

 

 この日も仕事を終え隊舎の自分の部屋へ足を向けたその時、少し前に隊長に就任したアレクセイの姿が目に入った。

 アレクセイが話している相手は、彼と同じ色の隊服を纏っていることから同じ隊の部下であろう。体つきがしっかりした浅黒い肌で砂色の短髪の男が何かを話し、その隣に居る金髪肌白の知的な男性がそれを嗜むよう表情で口を挟んでいた。

 程なく会話を終え、二人はアレクセイの敬礼をした後、その場から立ち去っていった。自身に向けられていた視線に気づいていたらしく、アレクセイはデュークの方を見るや否や、迷う事なくそばへと歩み寄ってきた。

「あの二人は?」

 アレクセイが問いかける前に、デュークは先に尋ねる。

「我が隊の副官のナイレン、小隊長のユルギスだ。何か気になることでもあったか?」

「…随分と気安く接しているのだな。部下との区切りは厳密にしていると思っていた」

 今までの時間のループで見てきたアレクセイは、いついかなる時も隙は見せなかった。上司にとっては忠誠心の高い誠実な騎士、部下にとっては頼れる高潔な気高い騎士。相手が自身に投影している理想が崩れぬように、注意深く動いていたのは明白であった。

 しかし先ほどのアレクセイは、上司としての威厳を保ちつつも、どこか砕けた空気を纏っていた。部下が茶化すような言動するほどに…

「不特定多数に対して壁を作っているお前に、言われたくは無い台詞だな」

「隙を見せない主義と思っていたが?」

「どれだけ注意を払っていようが、ソフィアがやらかす関係で、方々に協力要請や謝罪する事態が多発している」

 その言葉から、時間のループには居なかった妹の存在が、彼に影響を与えていると理解した。ソフィアの数々の所業を聞く限りでは、それも当然のことだろうとデュークは納得する。

「月1頻度で話を聞いているから、理解はしているが…」

「向こうも半ば同情するような目で、私を見てくる始末だ…繕うのもバカらしくなる」

 アレクセイは緋色の瞳からフッと光を消して、何処となく遠くに視線を置いた。

「その表情を見るだけでも大凡の状況はわかるが……それで良いのか?」

「隙を見せぬよう気を張るより、それを元に懐柔した方が効率が良い。やり方を変えた。それだけだ」

 アレクセイの言葉を聞き、デュークは心の中で息を呑んだ。

 

 アレクセイには理想がある。

 腐敗し閉塞しきった帝国を糺し、泰平の世を創り出す。特権階級が益を独占することなく、弱き者が虐げられず、誠実な者が罵られない、誰もが正しく生きられる世界へと再生させる。

 

 時間のループの中で今より10年以上先の未来、理想を目指すアレクセイに対して世界は非情であった。始祖の隷長(エンテレケイア)との戦いで、苦難の末に編成した理想の騎士たちを壊滅させられた。必死で組織を立て直し育成した騎士たちを、今度は帝国の腐敗した澱である評議会の貴族に騎士団本部ごと爆破された。

 

 自身と同じ人間から甚大な被害を受けてアレクセイは「やり方」を変えた。

 

 奪ってから与えればいい。

 破壊して造り直せばいい。

 

 罪の意識はあったから、己一人で成し遂げようとした。罪人の烙印を押されるのは自分だけで良いと…その時にアレクセイが置かれた状況下では、それが一番効率が良く、護りたいものを一番巻き込まずに済む。既に精神が蝕まれていた彼は、そう判断して選択してしまったのであろう。

 

 たった独りで進む覇道を…

 

「変わることは…できるのだな…」

「ん?」

「いや……お前程の人物が妹に振り回されるとはな」

「仕方があるまい。ソフィアの兄である事実は逃れられんからな」

 そう言いアレクセイが見せた苦笑は、未だ嘗て見たことがないような穏やかな表情であった。

 

 時間のループの中では常に、アレクセイは世界崩壊の危機へと追い込んだ。その所業を愚かと見下し、彼を外道に追い込んだ人間を救いようのない存在と切り捨てたデューク。

 しかしアレクセイの思考にもっと幅があれば、その道を選択しなかったのではないだろうか。人の思考が養われる青年期で、アレクセイと一番近い位置で接していたのはデュークであった。しかしこれまでの時間のループの中、この頃のデュークはエルシフルとの再会しか頭になかったのだ。

 デュークは世界の趨勢に関わると知りながらも、アレクセイに対して何かをやろうとすら考えなかった。

 

 初めて変化を見せ始めたアレクセイを前に、デュークは自問を続けるのであった。

 





 ドレイクと皇弟レギン、アレクセイとデュークの過去での接点は完全に捏造です…
 アレクセイとデュークはかなりの剣豪らしいことから、誰に師事したかと考えると、自ずとドレイクに絞られるのではないかと考えた次第です。
 生存しているの皇帝の近い親族が、弟のレギンと甥のヨーデルしかいないことから、身内の中でドロドロした争いがあったのではないかと邪推するわけで…皇帝が絶対権力を保持していたわけでは無く、貴族間の権力闘争で翻弄されていたのではないかと想像したわけです。
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