TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



精霊誕生(関わった以上は消えれば傷つける)

 

 ザウデの一件から1週間後。

 

 アレクセイとキャナリは、反乱勢力の首謀者としてミムラ・キュモールの尋問をしていた。

 想像以上に素直に供述するとミムラ。その理由を聞くと、庇ってくれたソフィアに悪いからとミムラは初めて見るような哀しげな笑顔を向けた。

「死にかけて痛感したわ…ここは現実なんだって…」

「ザウデであの場から退避させようとしたが、魔核(コア)が倒壊するのを知っていたのか?」

 一通りの供述を取り終えたこともあり、アレクセイは個人的に気になっていたことを尋ねた。

「私の知ってる所謂『転生者の知識』では、魔核が落ちてザウデが再起動できなくなった上に、貴方が押し潰されて悲惨な最後を遂げたのよね」

 正面からはっきりと死の可能性があったと言われ、アレクセイは押し黙る。

「あとユーリ・ローウェルが海に落ちて死にかけたりって散々だから…色々とソフィアは対策していたけど、[ゲーム]の[シナリオ]通りの事態が起きる可能性はゼロではないから、作戦終了後は速やかに全員を連れて撤退して欲しいって…本当に台座が崩壊したのは想定外だったけど」

「ソフィアがやっていたのは、ザウデの機能の制御だったな」

「ええ。ザウデは無理やり起動されて壊れて、時間がない中対応に追われることになったのよね。で、ザウデをギリギリまで運用しようってことで調べたら、ザウデの制御システムと同期化する以外に良い方法が見つからなかったのよね」

「制御盤では無理だったのか?」

「タルカロンは危険だから、星喰みに襲わせて破壊するつもりで、そのための結界の一部解除、再構築、そして老朽したザウデの延命作業と…複数の作業を並列演算する方法は他に見つからなかったって」

 そこまで聞いて、アレクセイはある結論に至る。

「ギリギリまで運用すると言うことは、台座が倒壊するまでと見ていいだろう。その場合、制御者は確実に巻き込まれるが…」

「言ったでしょう。ソフィアは私と同じ『転生者の知識』を持っているって。当然、折り込み済みでしょうねえ」

 記録をしているキャナリの手元で、ペンがへし折れる音が聞こえる。暫くしたのち新しいペンを取り出して、キャナリは記録を再開した。

「そもそも、制御者を取り込む形だから、同期化後に制御者の精神を分離させる方法が分からないって言っていたし…だから、レイヴンに手紙を託したんでしょうね」

「手紙?」

「ダミュロンに渡した収納魔導器(チェストブラスティア)に入っているはずよ。こちらが確保して溜め込んだ聖核(アパティア)の隠し場所が記されていた地図と一緒に入っているはず」

 未来に自身が存在しない前提で準備していたソフィアを思い、アレクセイは苦い表情を隠し通すことができなかった。

 

 時間も押していることから一区切りにして、アレクセイは尋問を終えることにした。

 

「カクターフたちは、あんたたち3人をどうしても殺したかったみたいよ」

 迎えにきた監視に騎士に囲まれた時、思い出したようにミムラは振り向き口を開く。

「…3人?」

「ずっと妨害してきたアレクセイ・ディノイア、その懐刀のダミュロン・アトマイス、宙の戒典を持ち去って帝位交代の強行を阻むデューク・バンタレイ。この3人は何を差し置いても、殺そうと考えていたみたい」

「っ⁈」

「暫く静観していたけど…貴方たちが居るタイミングで、カプワ・トリムと同じ事を帝都でしようと、カクターフたちは画策し始めたのよね…」

 それは帝都の人間を全て魔物に変えて、皆殺しにしようとしたのと同義であって…

「ソフィアは考えたのよね。自身が協力する人質としての価値を付与すれば、暴走して被害を増やすことはないんじゃないかって…まあ、待遇が酷かったことは謝るけど…選択肢が少ない中で必死にやってことは理解して欲しいわ」

 

 ミムラの尋問を終えたアレクセイは、キャナリと共に城内に仮設とは言え設置された騎士団長執務室に戻っていた。

 アレクセイは執務机に、キャナリはソファーに座る。そしてキャナリは感情を抑えて供述内容をまとめ終えて、執務机に視線を移した。

 そこには両手で支えつつも、銀糸の髪を机に付かせんばかりに頭を下げる、アレクセイの姿があった。

「傷も充分に癒えていないのですから、暫くは休養を摂っていただきたいのですが…」

 ため息混じりそう言うキャナリの声には、アレクセイを気づかいが込められていた。

「…気を紛らさなければ…寝ているだけでは余計な事を考えてしまう」

 そうだろうと言わんばかりに向けられたアレクセイの緋色の瞳を…姿を消した親友と同じ眼差しを、キャナリは受け止めきれなかった。

「…いつから……計画していたのでしょうか?」

「…もしかしたら……」

 そういいアレクセイは、思案するように眉間に皺を寄せて面を上げた。

「…明日から暫し、自宅で療養したいと思う。任せてもいいか?」

「星喰み対策は、ヘルメス博士やカウフマン社長が、裏で準備を進めていたそうですので、今のところ順調ですので問題ありません」

 ソフィアが事前に協力要請をしたことで、想定より遥かに早く対応策の立案が可能となっていた。

 何より、一連の事件でカクターフら反アレクセイ派の貴族の大半が失脚したことにより、利己的な理由で足を引っ張る者の大半が居なくなったことが、迅速な対応に繋がった一番大きな理由であった。

 

 そしてそれがソフィアが反乱勢力に与した理由であると、アレクセイは否応なしに理解した。

 

「エアルから中間体のマナを生み出し、より高効率のエアル処理機関を目指すのでしたね?」

 アレクセイが思考に浸っている間に、キャナリは執務室に備え付けの簡易キッチンでお茶を淹れていた。

「デュークが複製宙の戒典(レプリカ・デインノモス)で補助をし、エステリーゼ様の満月の子の力を用いて、回収した聖核(アパティア)を中核にするという話だったな」

「ダミュロンが同行していますから、詳細は彼の帰還後に聞けば良いかと」

 そう言うキャナリの言葉に一つ頷き、アレクセイは紅茶を口にする。出された紅茶に対してアレクセイは、珍しく砂糖を入れず一気に飲み干した。

 

 ケーブ・モッグ大森林のエアルクレーネ。

 そこでユーリらは、事態改善の大きな一手となる転換に遭遇していた。

聖核(アパティア)に宿っていた意思が復活するなんて…」

「それだけじゃない…エステルの『満月の子』の力が完全に制御されている!」

 制御盤を確認しながら興奮したようにリタは言う。

「それって、もう嬢ちゃんがエアルを乱すことは無いってこと?」

「そうよ」

「じゃあ、複製宙の戒典が無くても、エステルは大丈夫ってことだね!」

 カロルの言葉にリタは嬉しそうに肯いた。

「良かったな、エステル」

 ユーリの言葉を聞き、エステルは漸く実感が沸いたらしく、目に涙を浮かべて笑みを浮かべた。

 

 意思を持った高効率エアル処理機関。それをユーリは「精霊」と呼称した。

 そして初めて誕生した精霊に対して、エステリーゼが名付け、その名をデュークは声を震わしつつも呼んだ。

 

「エルシフル……いやオリジン」

『再び逢い見えた事、嬉しく思うぞ。我が友よ』

 喪った友との再会。何度も繰り返してきた時間の逆行の中で求めてきた繋がりが甦るも、デュークは切望した割にはそこまで感動していない自身に気づく。エルシフルを取り戻したことは、ソフィアを喪った事実をデュークに突きつけていた。

 贈った懐中時計のお返しに悩みに悩んだと、万年筆を渡してきた時の柔らかな緋色の瞳…

 それが脳裏に浮かぶと共に走る胸の痛みに、デュークは自身に芽生え始めていた感情に気づいたのであった。

 

  §

 

 良い未来に繋がる布石を置き続け、そして種に気づき、選び、育てるかは、世界の人々に選択を任せる。

 転生者の記憶と知識から、悲劇へと繋がる危険性があるものを探して見つけ、手段を選ばずに排除する。

 

 フィアレンの考えは後者だった。

 

 ゲームの世界において、アレクセイが犯した叛逆と星喰み解放という大罪を、新たな未来の創世を邪魔する者たちに被せる。

 それがフィアレンの作戦。

 魔導器の完全放棄という旧体制の終焉で、混乱が発生することは不可避。大衆の不平不満の捌け口となる生贄の存在は、新生世界の早期安定化に不可欠であるいうのが、フィアレンと一致した考えであった。

 フィアレンがその生贄として指定したのは、ゲームの世界で未遂を含む数多の被害を齎した者たち。帝国評議会の腐った貴族だけではなく、そいつらのせいで狂わされ人に見切りをつけた結果、人類を危機に追いやる行動に踏み切ったアレクセイやデュークも含まれていた。

 それだけはどうしても看過できなかった。

 この世界ではアレクセイもデュークも狂うことも絶望することもなく、より良い世界のために奮闘してきた。それを訴えた結果、フィアレンは折衝案を提示した。

 

 それが今回のクーデター計画であった。

 

 魔導器の利権が近い将来失われると唆した結果、クーデターを起こすのか? クーデターを企む者に対して私怨による苛烈な制裁をするのか? どのように動くかを見て選別すると言うことであった。

 不測の事態が起き、実際にクーデターが起きれば取り返しがつかないと反対した。しかしフィアレンは、当初の予定通りか、選別するかの二つしか選択肢を認めなかった。

 権力維持のために形振り構わない連中の存在は、星喰み撃破の邪魔だけではなく、それとは別要因で世界を滅ぼす危険性を押し上げるのは明白であった。魔導器を手放すのに難色を示し、世界の救済策の行使に足を引っ張る危険性がある。無事にそこを乗り越えたとしても、魔導器が失われた後に魔導器を復活させようと、碌でもないことをするとことは想像に難くない。

 

 フィアレンの主張は尤もであるとも思った。

 だから最終的にフィアレンの策に賛同した。

 

 作戦が動き出してからできることは、万が一クーデターが発生した時に発生する被害を軽減する布石を設置する事。しかし布石を全て置く前、フィアレンが選別する前に、恐れていた不測の事態が発生する。

 こちらの想定より狡猾に、カクターフらがクーデターの準備を進めてしまったのだ。フィアレンが気づいた時には、カクターフらですら把握できないほど賛同者の繋がりが広がっていた。この状態で下手に鎮圧に動けば、不穏因子が拡散して潜伏してしまい、後々の禍根となってより被害が大きくなる危険性が高かった。

 

 クーデターを起こさせて全ての膿を吐き出させて叩く。

 フィアレンが方針を転換したのが半年前の事であった。

 

 結果、布石が置けなかった箇所で被害が出てしまい、その対処に駆けつけるために使用した廉価版の携帯型転送魔導器の存在がバレて取り上げられて、一部の予定に狂いが生じたことは事実。

 カクターフらに信頼されていたミムラが転送魔導器を使うことになったのが救いで、その量産を名目で時間稼ぎをした事から、なんとか帳尻を合わせる事ができた。

 

 遠足は帰るまでが遠足です。

 作戦が無事成功し、その証人となるユーリらを速やかに撤退させようとした時、立て続けに想定外の事態が起きると思わなかった。

 

 想定外1、ユーリとフレンたちの精神的な立て直しの早さ。予想外の事態を五月雨式に見せ、上手くミムラが言いくるめられると思いきや、あっという間に主導権を奪ってしまった。

 想定外2、ミムラがボロを出すのが早かったこと。年齢不詳オタク女子で、敵役に徹してみたかったと言っていたが、ペースを奪い返すせなかった。それでも皆を退避させてくれたから、頑張ってくれた。

 想定外3、アレクセイとデュークが目覚めてザウデ頂上まで来たこと。リタと攻防戦を繰り広げていた障壁を壊すわ、ザウデ地下から引っ張り出してきた強化版の人型魔導器を瞬殺するわで、完全に意表を突かれてしまった。

 想定外4、上記の対応に追われて、グラナダの対応を怠った。フィアレンから始末した方がいいと言われたが、それを拒否したツケなので致し方ない。ミムラを護るため、ついでに自身を諦めて貰うために見せつけた訳だが…

 

「私が斬られた姿を見て、あそこまで傷つくとは思わなかった……」

 そして揺らいでしまった。

 一緒に帰りたいと……

「……帰りたい…か。私の帰る場所じゃないと言うのに」

 そう言い日記を書き終えたソフィア。その身体には傷一つ無く、席を立って顕となった服には、傷みや血痕は付着していなかった。

 

 ソフィアは徐に右手を上げ、そして静かに下した。

 

 自室を模した空間は消え、淡い青色の光を帯び、キラキラと虹が乱反射した世界へと姿を変えた。

「グラダナを欺くためのダミーを用意しない方が良かったかも。そうしたら私を助けようと、あそこまで必死にはならなかっただろうし…行方不明扱いでフェードアウトも狙ったほうがまだマシだったかも…いや、ダミーでミムラを救えた事を考えれば、間違いでもなかったか」

 

 想定外5、自身が演じたソフィア・ディノイアという人物が、ここまで他者から執着される存在になっていたとは、思いもしなかった。

 

 一つため息を吐いたのち、右手を左右に振って、複数の操作盤を出現させた。同時に背後に膝掛け椅子が出現し、ソフィアはそこに座した。

「精霊との契約が切れてから約四半世紀か…海中にあったから結構痛んでいる。凛々の明星の方は…と、データが来た。あっちも宇宙線の影響で劣化が酷いな…フィアレンも調整に入ったみたい。後はマナの残量と耐久性を考慮して出力調整を…」

 ダミーを壊された時、並列演算が一時的にエラーを起こして、制御に失敗して壊しかけてしまった。なんとか台座の破損までに抑えたが、システムのエラー修正と復旧作業にソフィアは追われていた。

 術式紋を確認しつつ新たな命令式を書き込み、変動する諸々の数値を注視して、ソフィアはザウデ不落宮のシステムを制御していく。

「向こうは…後は書き付けも資料も残したし、追加情報はミムラがいれば読み解けるはず…」

 一度手を止めて、ソフィアは視線を遠くに向け、深い深いため息を吐く。

「本当はこの地で、ソフィアの遺骸を持ち帰って貰って、退場する予定だったんだけどね…」

 

 ダミーのソフィアが斬られ胸を貫かれるまで、一部始終を見た3人の反応。

 

 デュークの傷ついた顔。

 アレクセイの必死な形相。

 ダミュロンの絶望した表情。

 

 あんな表情を見せられては、ダミーとはいえソフィアの遺骸を押し付けるのは抵抗があった。そして後日持ち帰ってもらうために放置する予定であったダミーを、ユーリらと戦った時と同様に回収してしまったのだ。

 まだ生きていると期待させてしまうように…

「何をやってんだか……今後を考えたら、これでお別れの方がいいのに。脱出の混乱時ならともかく、落ち着いて考える時間を与えてしまった以上、ジュディスやリタにはダミーってバレるのは時間の問題だろうね…」

 ザウデの最下層にあるもの(・・・・)を考えると、最終的には皆と一緒には居られない。それは、何度も考えた上で出したソフィアの結論であった。

 徐にソフィアは、ハーフアップにしていてあった髪を解いた。

 銀糸の中に桃色の毛髪が混じっていた。

 

「…満月の子(トリウィア)に戻りつつある……か…」

 

 

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