TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

8 / 100
 
 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始から25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



アレクセイ隊(ラスボスは中ボスを見直す)

 

 ヘルメスが発表した廉価版通信魔導器(コールブラスティア)。船舶駆動魔導器(セロスブラスティア)専用から改良され、稼働させるエアル供給源となる魔導器(ブラスティア)の種類の制限が無くなった。

 役所などの公的機関の照明魔導器(ルクスブラスティア)に取り付けられた公用の通信機、武醒魔導器(ボーディブラスティア)に必要に応じて取り付ける携帯型通信機といった具合に、その広がりと共に大きな反響を与えた。

 

 それは同時に、莫大な利益をディノイア家にもたらした。

 資金援助の要求、提携依頼、アレクセイやソフィアの縁談申込はまだ良かった。屋敷への不法侵入、盗難騒ぎ、挙げ句の果てにソフィアの拉致未遂までが発生した。

 

「で、妹は賊を返り討ちにしたのか」

「そうだ。屋敷の一室が半壊したがな」

「……襲われるなどとは…妹は大丈夫か?」

 部屋の半壊について言及するか迷ったが、今更だとデュークは流して話題を進めた。

「幸い怪我はなかった。それに事件のことすら忘却している」

「それはまた……強い心の持ち主というか…」

「喉元過ぎれば熱さを忘れるとは言うが、いくら何でも度を逸している。図太いを通り越して、何か別の生き物ではないかと心配をしてしまう…」

 アレクセイは死んだ目で愚痴り、紅茶に口を付けた。

「今回は乗り切った。しかし、実害が出るのは時間の問題だ」

 部屋の半壊は実害に数えないらしい。

 ソフィアの影響でアレクセイの感覚が麻痺し始めているようだが、それを指摘する事なくデュークは話を進める。

「それで、妹を一時的に帝都から出すのだな」

「ああ。ファリハイドの件でアトマイス卿に連絡した時に、貴族教育交流会があると聞いてな。それに参加させる予定だ」

「ファリハイド……例の件はどうなった?」

「それを話すために呼んだ」

 それが今居るアレクセイの隊長執務室に、自身が呼ばれた理由であるとデュークは理解した。

 

「被疑者の貴族は評議会に在籍。ファリハイドに所在する別荘の地下に魔物を入れ、魔物同士の戦闘を鑑賞していた。書類上で死罪と処理された罪人と魔物を戦闘させ、それを鑑賞しようとした。ファリハイドでは犯罪関連の書類の改竄が困難であった事から、自身の影響力がある帝都から罪人を確保しようとした」

「……その表情からすると、被疑者は無罪か」

 互いに表情が読めないとの定評だが、付き合いが長い両者共に、相手の心の動きをある程度察することはできた。

「告発者は被疑者の娘、その訴えを聞いた騎士は証拠を集めて提出したが…今の形部卿は鼻薬がよく効くらしい」

 その言葉を聞き、デュークは珍しく眉を顰める。

 告発しようとした騎士は、証拠を提出しに行く途中で刺客に襲われた。そして偶然出会したデュークが、その騎士を救った経緯があった。

「告発した騎士は…ファイナスはどうなる?」

 これまでの時間のループ内では問いかけることはなかったが、デューク自身もアレクセイに気を許し始めていたことから、つい口にした。

「ファイナス・シーフォは、今所属している隊から外れることになった」

「…彼は小隊長への昇進が、決まりかけていたのでは無かったのか? 平民上がりの小隊長は少ない故、その話は私の耳にも入っている。正しい者を処分すると言うわけか…」

 

 何も変わらないのか…

 

 これまで経験してきた時間のループ。この事件は騎士団への未練が薄れた要因での一つで、アレクセイを見切る最初の切っ掛けであった。

 

「我が隊に入れる。気高い騎士を見捨ててなるものか!」

 アレクセイの言葉を聞き、デュークは驚き一瞬目を見開く。

 そして、今まで…時間のループの時から裡に抱えていた問いを、デュークは初めて口にした。

「…皇帝からの信頼を得ているお前の言があれば、どうとも出来たはず。にもかかわらず、シーフォの処分に口を挟まなかったのは何故だ?」

「評議会に籍を置く貴族の面子を潰したのは事実。奴らの心象が悪い状態で昇進させた場合、シーフォの身に何が起きるか分かったものではないからだ。今回の処分は、自身への風当たりを騎士団長は懸念したのであろうが、それはシーフォにも言える事だ。図らずとも彼を守る行為であるならば、口出しする理由はあるまい」

 その言葉を聞き、ファイナスに向けられた凶刃を、デュークは思い出した。あの時は、偶然出会した自身が防いだが、今後も続けばいつかはファイナスの命を奪ってしまう事は明白であった。

「とは言え、このままでは彼を能力に見合った地位に就かせることはできない。だから私は、騎士団長にその座から降りてもらおうと思う」

 そこで言葉を止め、アレクセイはデュークに不適な笑みを向けた。

「陛下には騎士団長への昇進を願い出た。そもそも妹の安全のために、家の地位向上は先日から願い出ていたことだ。次の御前試合、そこで掴み取ってみせる」

 

 正しい行いをしたファイナス・シーフォを救う力があったにもかかわらず見捨て、それを出汁にして当時の騎士団長を糾弾して周囲を煽り、アレクセイは騎士団長の座に着いたのだと、デュークは考えていた。

 今までの時間のループの中で、疑いもせずそうであろうと決めつけていた。彼に尋ねる事もしないで…

 表向きだけの結果をデュークは見ていた。アレクセイが何を考え、どうしてそのような判断を下したのか、デュークは知ろうともしなかった。

 

 勝手に解釈して、勝手に失望して…

 デュークはアレクセイを切り捨てた。

 

 では、真実を知ったこの時間軸でのデュークの選択は?

 

  §

 

 ソフィアをファリハイドへ送ってから一年後。

 皇帝クルノス14世の生誕日を祝う式典で、御前試合が開催された。

 そしてその試合に、アレクセイが参加することになった。

 

 今までの時間のループの中では、どうであったであろうか?

 記憶が曖昧であることから、デュークはこの御前試合を観戦しなかった可能性が高いと思った。

「その……バンタレイ様ですね? 自分はファイナス・シーフォです。あの時助力をいただき、ありがとうございました」

 声をかけてきたのは、件の切っ掛けとなったファイナスであった。

「……アレクセイ隊に移ったのだな」

 ファイナスの隊服を見て、珍しくデュークは頷くだけではなく言葉をかけた。

「はい」

「ファイナス、そろそろ試合が始まるぞ。エルヴィンが場所を取ってるからもう少し前へ…っと、貴方がご一緒でしたか」

 ファイナスを呼びにきたのは、アレクセイの副官のナイレンであった。

 

 成り行きで、アレクセイ隊の面々と観戦することになったデューク。試合開始から程なくして、ナイレンが口を開く。

「なんか様子が変じゃないか?」

 その声に促されるように、試合をしているアレクセイへと視線が移った。確かにアレクセイの動きは、どことなく鈍い様子である。

「何か臭いが…これは……ビリバリハの花粉か⁈」

 試合会場から微かに届いた臭いを察知し、浅黒い肌に茶色の短髪の男…小隊長と紹介されたエルヴィンが声を上げた。

「確か解毒が効かない、動きを阻害する効果のあるやつか?」

「……最前列を陣取ってる近衛の連中が、何かしている…」

 ナイレンの言葉を聞き、周囲を確認していたユルギスが何かを見つけ、声を潜めて伝えてきた。

 現在のアレクセイの試合相手は、近衛隊の筆頭小隊長で騎士団長が自身の後継と目を掛けてきた者であった。

「つまりは、痺れ薬を隊長に使ってるって訳か⁈」

「そんなっ‼︎ すぐに試合を止めて異議申し立てを…」

「待て、アレクセイは気づいている」

 今にも飛び出しそうなエルヴィンとファイナスを、デュークは止める。

 デュークに促されて試合の方を見ると、アレクセイは風牙を連発している様子が見えた。闇雲に放っているように見えるが、撒かれた痺れ薬を拡散させて薄めることが目的であると、デュークらは理解した。

 しかし騎士団長もまた、アレクセイの行動の意味に気づいた。彼は「アレクセイの強さを見たい」と、後から連戦予定だった子飼いの隊長格の騎士たちを、今の試合に一気に投入した。

 動きの精彩を欠いているアレクセイは、5人を相手に戦う事になった。

「動きが鈍っているのに卑怯な…」

「いや、判断が遅かった。ビリバリハの花粉の効果は短い、万全となっては勝ち目はない」

 デュークの言葉の正しさを証明するように、先ほどとは見違えるように軽やかな動きで、アレクセイは相手を振るう剣を躱し、受け流して、そして剣を構えた。

「凍牙衝裂破‼︎」

 相手が一線上に並んだ瞬間、アレクセイは技を放ち、地面を走るように連続して伸びる氷の柱に跳ね飛ばされ、相手の騎士たちはそのまま倒れ伏した。

「……勝者、アレクセイ・ディノイア!」

 審判が駆け寄り判定し、相手の戦闘不能とアレクセイの勝利が伝えられた。

 

 静寂の中で率先してクルノス14世が賛辞の拍手を送る。

 程なく、割れんばかりの歓声が周囲に響き渡った。

 

「これだけの力を見せつければ、騎士団長への昇進に対して、誰も文句は言わんだろう」

 ナイレンは安堵の言葉を溢す。一方でファイナスは渋い顔をしつつ、呆れたようなため息を吐いた。

「それにしても近衛ともあろう者が、騎士らしからぬ卑怯なやり方をするとは…」

 自身を高めるのではなく、相手を引き摺り下ろして倒すやり方。試合相手の連中が選択したのは、正に後者の戦い方であった。

「卑怯な戦い方に対抗する手段は2つ。相手と同じやり方を取るか、それを織り込み済みで対処する」

「アレクセイ隊長が選択したのは後者と言うわけか…」

 デュークの言葉を聞き、感心したようにユルギスは呟くように言った。

「それにしても…流石はアレクセイ隊長だな」

「慣れているからな」

「慣れている?」

 デュークが言葉を返した事に驚きつつ、ナイレンが聞き返す。

「彼は妹と定期的に戦闘訓練をしている」

「戦闘訓練って…妹さんって未成年ですよね⁈」

「ファイナスの言うとおり、アレクセイと年齢差はある。それに加えて性差、武器を扱う練度を覆すために妹は、兄であるアレクセイ相手に多種多様な戦術を使うらしい。その中で、痺れ薬を使うのは常法らしい」

「痺れ薬が常法って……」

 エルヴィンが眉をヒクつかせつつ、言葉をこぼす。

「だからこそ、慌てる事なく対処できたわけだ。使われた薬の種類も、効き目が切れるタイミングも、使った相手より正確に把握できるほどにな」

 妹の手前という兄としてのプライド故に、アレクセイは正攻法で戦う方法に拘った。その結果、相手がどのような卑怯な手を取ろうが、的確に対処して、正面から叩き伏せる程の技量を習得するに至っていた。

「話を聞いた限りでは、氷と火の魔法で気流を操作して痺れ薬のスポット場所を作る、そのスポットを複数作る、それを察知して避けた先を予測して時錬爆鐘を仕掛けるくらいはするらしいからな」

「えげつねえやり方…」

「騎士ではないのに、時錬爆鐘を習得しているのか…」

「その…本当にアレクセイ隊長の妹さんなのですか?」

「会ったことはあるが、知的な感じの帝国貴族の子女に見えたが…中身はなんと言うか…」

 アレクセイ隊の面々の反応を見て、アレクセイの妹であるソフィアに対しての戸惑いは正常な反応であったと、デュークは内心安堵したのであった。

 





 フレンの父、ファイナスの登場です。ナイレン達と交流があればいいなと考えて、このような形となりました。
 ナイレンの過去の所属ですが、劇場版で出てくる昔の写真から親衛隊にいた可能性が考えられます。そしてナイレンの任地で騒動が起きる事を知っていたことから、式典に出させると言うよりシゾンタニアからナイレンを引き離したかった、さらに言えば騒動に巻き込ませて死なせたくなかったのではないかと邪推するわけです。
 前騎士団長との確執は完全に妄想ですが、騎士団が帝国評議会の下部機関扱いされていたことから、おそらく評議会寄りの者だったのではないかと思う訳です。ゲームの世界では近衛隊に入って改革して、親衛隊に拡充して足場を固めてから騎士団長になったのではないかと考えています。本作では妹のソフィアの存在で急いで力を付ける必要が出たことから、アレクセイは一足飛びで騎士団長を目指す形になります。
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