pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。
ダミュロンは繰り返し思い出し後悔する。
あの時もう少し時間があれば…
§
クーデター事件でカクターフらクーデター勢力に捕まった時…
監禁場所から脱出したのち、ヘラクレスを停止させるためにダミュロンはステルと共に制御室へと向かった。
そしてそこで、ミムラが持っていた携帯型廉価版
転移先に居たのはソフィアであった。
そして……
「ヘラクレスから跳ばされた俺たちにアンタは……アンタが放った魔法で俺は胸を貫かれた…」
透き通った水晶が乱立する不思議な空間。
涼やかな空気の中で、声というより思念が響き渡る。
「そう。相手を仮死状態にする魔法を私は放った」
ダミュロンの前にいるソフィアの思念も空間に響き渡る。
「あの魔法は、相手を仮死状態にしてエアルを吸い上げる術式。10年前に〈暗きもの〉からこの身に受けたもの。恐らく他の生命体から長時間かけて、少しずつエアルを摂食するためのものではないかな」
「それをアンタは改良した。カプワ・トリムでエアル過多となって魔物化した、街の住民を救うため」
「まあね。オリジナルの魔法からアレンジして、術式解除時に臓器を再生する術式を組み込んだ」
その話ぶりから察するに、自身の肉体は無事である事、そしてこの場でソフィアと対峙しているのは意識体みたいなものである事を、ダミュロンは理解した。
「なんで俺にそんな事を?」
「カクターフに脅されてね。彼はダミュロンと
先ほど脳裏に映った光景は、おそらく自身の肉体本体の視界だろうと、ダミュロンは渋い表情となった。
「つまり、俺やステルの自我みたいなモンを隔離している状態ってわけね。で、アンタは俺の自我に接触している」
「その通り。そしてここはザウデの
「時間がループ?」
「その言葉の通り。今から大体25年前から最長で5年後の約30年間がループしていると聞いた。貴方とステルの精神と自我の保護する時に探って、その裏付けを得た。以前にデュークから聞いて、フィアレンに追求したら、あっさり教えてくれた」
「……となると、デュークは時間がループしている記憶があると。どーりで色々と人間離れしているわけだわ」
「その事実を私が知っているとは、デュークは思っていない。その…私が酔い潰れた時に、彼の呟きを通信魔導器が記録していて、それで知っただけだから…」
「なるほどねえ…まあ、そこんとこは後でデュークの旦那に追求するとして……似ているけど違う状況の悪夢、それが今まで体験した時間のループの出来事だと言うと、まあ納得できるわ。で、時間のループの始点と終点は?」
「デューク様がドレイク様に預けられるあたりから、人類が滅亡するまで」
確かに悪夢で一番先の未来とされるものは、絶望的な状況に追い込まれていた事をダミュロンは思い出した。
「その悲劇回避のために、アンタは色々とやってきたわけね」
「端的に言うとそう。そしてそれも大詰めと言ったところ」
「星喰みの対処か?」
「それは貴方たちに任せる。それより問題なのは星喰みを解決した後の世界。
「だから、権力に執着している腐った貴族を、魔導器消失の不満をぶつける生贄にするわけね」
今までの時間のループ内では、アレクセイがその役目を担った。そして彼の死後、元凶である評議会の貴族らが嬉々として貶め罵る様を見て、どうしようもない憤りと哀しみを抱いていたのは事実。
だからこそソフィアの成そうとしている事は魅力的に見えた。しかし……
「それがクーデターに与した理由か?」
「その通り」
「このままでは、アンタも処罰される」
厳しい光を灯す翠の瞳を、ソフィアはただ静かに受け止める。
「でしょうね。今回の騒動の被害だけではなく、魔導器廃棄に付随する今後の影響と被害を考えれば、私が犯したことは到底許されない」
全てを受け入れ覚悟した緋色の瞳に、ダミュロンは苛立ちを覚えた。ソフィアの気持ちは痛いほど分かっている。時間のループでのダミュロンは…レイヴンは今のソフィアと似た心境であったのだから。
しかし……
罪を犯した理由を尋ねて擁護しようとしたエステル。
裏切った自身を仲間としてくれたユーリたち。
誇りも信念も無かった自身を慕ってくれた騎士団の部下たち。
間諜だった過去ごと受け入れてくれたギルド員たち。
彼らはダミュロンを…ループの中ではレイヴンやシュヴァーンを一人の人として尊重して、心を傾けてくれた。
罪滅ぼしのため、自身を引き換えにしても彼らを守ろうとしたら、ユーリを筆頭にレイヴンは酷く叱られた。壊れて汚れた動く死体である自身を大事にする理由が、最後まで理解する事ができなかった。
理由も理屈もない。
ただ気に入っているから。
大好きで大事にしたいから。
共に生きたいと願っているから。
ソフィアを目の前にようやくユーリたちの気持ちが理解できた瞬間、ダミュロンはソフィアの胸倉を掴んでいた。
「ふざけるなっ‼︎ 俺はな……アンタがいる日常を取り戻すため、必死にやってきた!」
確かにソフィアに対して恋愛感情は抱けない。しかし彼女はダミュロンにとって、親友として大事な存在である事は、紛れのない事実であった。
「……貴方は時間のループの中で、蘇生した自身を嫌悪していたよね?」
「それが一体…」
「それが他人の死体だったら、どう思う?」
ソフィアの言葉の意味が分からず、ダミュロンは掴んだソフィアの胸倉を思わず離してしまう。
「私は…ソフィア・ディノイアの死体に入り込んで、動かしているのにすぎない」
「っ⁈」
「私は……彼女の人生を乗っ取って存在している」
異世界からの転生者。
目の前にいる者は、この世界のソフィアに転生したとダミュロンは考えていた。
そうではなく、途中でソフィア・ディノイアの身体を乗っ取ったと言うことか⁈
「それを呑んでやり遂げたい目的があるから、私は今こうしている。でも…目的を達成したら、私はどうすればいい?」
初めて見る泣きそうな顔で微笑む姿。
破滅を望んでいる。
死を望んでいる。
しかしそれでもダミュロンは…
ソフィアと共に生きたいと願っている。
『最後までしゃんと生きやがれ‼︎』
『あんたの命は凛々の明星が貰った』
時間のループの中で、仲間から貰った言葉は嬉しかった。自分には「命がある」と証明してくれたみたいで。これからの時間も「生きている」と証言してくれたみたいで…ユーリらがいる限りは、生きている事を許されていると思っていた。しかし違う。それでは駄目なのだ。人が生きるのに理由は要らない。
『死人か』
そして「生きている」と言う事に、他者からの証言はいらない。その場に居て、感じて、思考する時点で生きてているのだ。デュークであろうと誰に言われたとしても、心臓を失い魔導器を埋め込まれ無理に蘇生させられたとしても、あの自分もまた生きた一人の人間だと、今のダミュロンは断言できた。
『君は生きている。生きているんだ!』
仲間と故郷を喪い、生きる気力を失った自身を何度も説得していたアレクセイの心情を、ダミュロンは漸く理解できた。
「ソフィア…俺は思うんだが、アンタは…」
突然ダミュロンの身体が光始める。
「これは⁈」
「複製
「青年たちが⁈」
ダミュロンの脳裏に鮮明な映像が浮かぶ。
傷を負うユーリ達。
真紅のナイトソードを向ける自身。
「くっ……」
「ミムラとの打ち合わせ通りなら、もうすぐ目覚めるはず」
そう言いつつソフィアはダミュロンに背を向け、その場から立ち去るように数歩歩みを進める。
「ソフィア⁈」
「私自身の周囲の会話記録は、全てダミュロンの通信魔導器に送ってあるから見てみるといい。大体の情報は得られるはず」
「聞いてくれソフィア! アンタは…」
突然立ち止まって振り返り、ソフィアは透き通った笑顔を見せた。
「もう少し皆の笑顔を側で見ていたかった」
その言葉を最後に、ダミュロンの意識は暗転した。
目を覚ましたのはザウデ不落宮の地下、望郷の墓所。
ダミュロンの周りには、心配そうに自身の顔を覗き込むユーリたちの姿があった。
§
7体の大精霊を生み出す事に成功し、星喰みの精霊化にも成功した。
世界崩壊の危機は去った。
その代償としてすべての
そして……ソフィアを救出する事も叶わなかった。
星喰み対処後の後始末で忙しい合間を縫って、ダミュロンはディノイア邸に幽閉されているミムラを訪れていた。
カクターフが起こしたクーデターの主犯の生き残りで、ソフィアと同じ異世界からの転生者。この世界が本来辿っていた悲劇を知っている、数少ない人物…ミムラと言葉を交わすうちに、 ダミュロンは操られていた時に精神世界らしき場所でソフィアと交わした会話を殆ど思い出してした。
そして自身が見ていた悪夢は、この世界で何度も起きた時間のループの記憶であると確証を得ていた。
ダミュロンがそう切り出すと、ミムラはおずおずと彼女自身が抱いていた心情を話し始めたのだ。
「私はね。全部事情を知っている私が好きなキャラクターの命を助けて、過去の悲劇を慰めて、そして救済するんだって考えていた。でも、ソフィアは『人魔戦争』自体を回避する方法を模索した」
時間のループ内で起きた、人類が始祖の隷長を怨敵と決定付けてしまった悲劇。その「人魔戦争」が起きていたのであれば…
苦心の末に集めた同士を皆殺しにされたのでは、加害者である始祖の隷長の言葉をアレクセイが呑むわけない。虐殺者を止めたからと言って、街ごと虐殺し尽くした者の同族を見逃すなど、身内や知り合いを殺された大多数の者が許す訳がない。
大局的に誤っていようが、大衆の心情の方が優先される。それが人社会なのだから…
「彼女の方法は、直接どうこうするものじゃなかった。彼女が苦心したのは、悲劇に繋がる選択しかできない状況へ追い込まれる事を防ぐこと。どのような事が起きても対処できるように、できるだけ多くの選択肢が存在する状況を整える事が重要だと言ってたわ」
一個人で出来ることは限られている。世界を変えるには、その世界で生きる大多数が選択して実行する以外に方法は無い。だから、できる限り多くの者が問題に気づくように、気付いた者が容易に解決策に辿り着くように、そして解決策を複数用意して選択できるようにお膳立てする。
ソフィアの行動原理は、全てそこに終始していた。
「彼の…イエガー様の性格を考えると、彼だけが慰められたところで救済なんかできるわけない。彼は…キャナリと幸せな家庭を築いて、穏やかに暮らせる世界がなければ…」
その言葉を聞き、キャナリと
あの時のソフィアは、本当に嬉しそうであった。
目の前のミムラは、それと同じ表情をしていた。
「心情が変化した理由は?」
任務ではなくダミュロン自身の疑問を口にしたことに気づき、ミムラが一瞬目を見開いた後に苦笑した。
「ザウデでグラナダに殺されかけた時。そこで…この世界は[ゲームのシナリオ]通りに人が動く訳では無いって、気づいたの」
「その[ゲームのシナリオ]では、ミムラ・キュモールが命の危険に遭遇することはなかったから。そう言うことか?」
「まあ、バカして投獄されるんだけど、バカしなかったら大丈夫だって、自分は安全地帯にいる気になっていたわ。[ゲームのシナリオ]から少し変えてイエガー様を救えると思いつつも、大筋は変えられないって最初から諦めていた」
しかしソフィアは、その大筋を変えた。
事象が発生するためには「必要充分条件」を満たす必要がある。悲劇発生の必要充分条件を満たす「要因」を、ソフィアは前世の[ゲーム]の知識から分析したのであろうと、ダミュロンは推測していた。
つまり[ゲームのシナリオ]通りに事が動く「強制力」のようなものが存在しているのではなく、[ゲームのシナリオ]の結果に繋がる「要因」が存在しているだけなのだ。それを理解していたソフィアは「要因」を炙り出して対処し、悲劇に繋がる原因を潰していったのだ。
「世界は良くも悪くも繋がっている。悲劇には原因がある。個々の悲劇を回避したところで、原因がそのままだったら形を変えた別の悲劇が起きるだけ。だからソフィアは、その根本原因をどうにかしようと考え、成し遂げたのよ。自分一人の犠牲で出来たのなら、安いものだと今頃笑い飛ばしているでしょうね」
ああそうだろう。分かっている。
ソフィアはそう言う人間だ。
ソフィア自身が納得した幕引きだったかもしれない。
しかし…
ダミュロンは共に生きていたかった。