pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。
「おじさま?」
心配そうな声が聞こえ、 ダミュロンは重たい瞼を動かした。
指先一つ動かすのも億劫なほどの倦怠感。ほとんど上がらない瞼の狭まった視界の中で、声の主に翠の瞳を向けると、朝焼けの蝶のような可憐で妖艶な女性の姿を捉えることができた。
「ジュディ…ス……ちゃん?」
掠れながらも声を出すと、きちんと自身を認識したことに安堵したような笑みをジュディスは浮かべた。
「おじさま。過労で倒れたのはこれで何回目かしら?」
「へ………俺様、また倒れたの?」
「そう。『また』と言うほど頻繁に倒れているわよね?」
「ジュディスちゃん。俺様、今回はどれくらい寝ていた⁈」
意識がはっきりしてきたダミュロンは、力を振り絞って上半身を起こして尋ねる。
「今回は2日ってところね。前回は丸一日、その前は半日…倒れている時間が長くなっている自覚、あるのかしら?」
淡々と言っているが、ジュディスが怒っていることに ダミュロンは漸く気づく。
「えっと……ジュディスちゃん?」
「
「いや……でも……
「その辺りはハリーがなんとかするわ。いい加減、仕事を覚えさせる必要があるってドンが言っていたわよ」
「
「
暫し目を伏せたのち、労わるような光を灯した赤藤色の目をジュディスは向けた。
「おじさま……ソフィアさんに託された仕事、全部貴方が背負う必要はないのよ」
核心を突かれ、思わず言葉を失うダミュロン。
「は……ははは…お見通しってわけね…」
ソフィアが姿を消してからダミュロンは、彼女が託していった仕事に没頭していった。ソフィアの意図が知りたいと思ったからだ。仕事を通して見えてきたのは、魔導器が無い未来を模索してきたこと、そして…
「なんつーか…やればやるほど、見えてくるんだわ。今こうして色々とやっている時には、自身は居ないことが前提ってことがねえ…」
それらの事業が実際に行われる未来には、ソフィア自身がいないことが織り込み済みで準備を進めていた事実を、ダミュロンは目の当たりにしていた。
「……本当にアイツは残酷な事してくれるわ…」
「アイツって……ソフィアさんのことね?」
「そそ……本当に色んな意味で悪友だわ」
「……恋人……ってわけじゃないのね?」
「いやいや…アイツに対して恋愛感情を持つなんて無理無理。気に入っていたのは事実だけどね」
「本当にお友達だったのね?」
そう言いジュディスはどことなく安堵の息を吐いた。
「ジュディスちゃん、悪かったわね。いつもこんな黄昏たおっさんの看病をさせちゃってさ。二大組織のボスの命令が出ちゃったからには、おっさんもちゃんと休むからさ。若いんだし、後はほっといて大丈夫…」
「あら。私が義務だけで毎回おじさまの看病をしていると思っているのかしら? そうだったら心外だわ」
そう言いジュディスはもたれ掛かるように、 ダミュロンのベッドに片肘を乗せてくる。
「ジュディスちゃん?」
「十年前のあの時、『愛してるぜ』って言ってくれたのに」
「いやあれは…君が怪我をしていて治療をしただけで…怯えていたから落ち着かせようと……あ……」
テムザのクリティア族の村が襲われた時、 ダミュロンは幼いジュディスを助けた。
お互いその事に触れず、助けた少女はジュディスと気づくも、ダミュロンはジュディスは忘却しているのだと思っていたのだが…
「私からも言っていいかしら? 『愛している』って」
そう言いジュディスが微笑む姿は、取り繕った妖艶な笑みではなく、年相応の柔らかな愛情が込められたものであった。
§
橙色の騎士服を纏ったダミュロンは、左手の真紅のエヴァライトのナイトソードを握り直す。
「参る」
静かに呟く様に言った直後、白亜の麗人…デュークに向けてダミュロンは剣を振り下ろした。距離を詰めるまでは一瞬、振りかざす時に一呼吸ずらしつつも、振り下ろしの速度は緩めない。
変則を混ぜた動きに即座に対処し、デュークはダミュロンの重い一太刀を受け流した。
そのまま空しく剣が地面を穿つかと思いきや、 ダミュロンは踏み込み斬り返すこと数回。
「っ!」
デュークは距離を取ることなく、身を低くして避け、そのままダミュロンの腹部に蹴りを入れようとする。
「さっすが…」
軽口を叩きつつもダミュロンは蹴りを避け、デュークの手から剣を蹴り落し、流れるように右手でデュークの足をそのまま掴み、体術で地面に沈めようとする。
その時悪寒を感じ、ダミュロンはデュークの足から手を離す。直後、デュークは密かにダミュロンから奪っていた懐刀で、鋭く薙ぎ払った。防御しようとした剣を弾き飛ばされるも、ダミュロンは素早く退がる。
距離が取れた事で、ダミュロンは背のマント下に隠し持っていた変形弓を素早く弓へ展開し、連続して番た矢を放った。
デュークは驚く事なく冷静に、自身に向けられた矢を全て、奪った懐刀で地面に叩き落とした。
暫し互いに見合ったのち、ダミュロンは深く頭を下げた。
「参りました」
「おっさん、まだ戦えるだろう?」
「もう矢がないし、おっさんヘトヘトよぉ…」
脇で見学していたユーリにそう言い、ダミュロンは大袈裟な態度で座り込んだ。
「そうは見えんがな」
「オタクの方は息切れすら起こしてないじゃないの。こっちは連日の激務でヘロヘロになってんのに、何で旦那と手合わせしなきゃなんないのよ…」
懐刀を返してもらいつつ、 ダミュロンは恨めしげな視線をデュークに向けた。
「前より少し顔色が良さそうだな。それだけ動けたと言うことは、負担を少し減らしたようだな」
「こっちの体調測るために一々手合わせするの、やめてくんないかねえ…」
「………お前は私がアレクセイと打ち合えると言い、手合わせの相手の矛先が私へ向くように仕向けたのであろう? 私とお前でどちらが強いか、ユーリが疑問に思うのも当然のこと」
「だからといって、青年の言葉に乗る事ないでしょうが」
「折よくこの場に来たお前が悪い。それに己が自身が面倒を避けるため、私を引き合いに出した事に対して、些か不快に思ったのは事実だ」
そう言い自身の剣を拾うデュークを横目に、ユーリは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「周りくどい言い方してるが、要は八つ当たりかよ。デュークも案外子供っぽいんだな」
「ユーリ。そもそもの原因は君じゃないか」
「いいじゃねーか。いいモン見れたんだし」
そう返されて、フレンはユーリに言い返せない。デュークとダミュロンの試合が見れた幸運を噛み締めているのは事実だから…
そしてフレンは意を決して、デュークとダミュロンに近づく。
「見事な試合でした。流石は隊長首席と元親衛隊長。是非、お二人から剣の指導を…」
「指名が入ったよ。デュークの旦那」
「お前の名も入っている。 ダミュロン」
「俺より旦那の方が適任でしょうが。親衛隊長時代で騎士見習いの指導してたんだから、手慣れたもんでしょうが?」
「いんや。そうでもなかったぞ。コイツ、一方的にあしらって打ちのめしただけだったぞ」
そう不平を言うユーリに対して、デュークは深いため息を吐く。
「当たり前だ。元の型から崩れすぎていて論外だ。
なんだかんだで指導しているデュークの姿を見て、フレンはダミュロンの方を改めて見る。
「ダミュロン隊長、是非私と手合わせを…」
「フレン中隊長。ここへ来た目的を忘れるな。まずはそれが先だ」
隊長首席の態度でそう指摘され、フレンは姿勢を糺す。
「っ⁈ はっ! 申し訳ございません」
「目的? 隊長首席殿が下町にわざわざ、何の用だ?」
「ワシに用があってきたんじゃ」
「ハンクスの爺さん?」
騒ぎを聞きつけたのか、下町の顔役であるハンクスが、麻袋を片手に姿を現した。
ダミュロンは隊長首席らしく姿勢を正し、丁寧に礼をする。
「ご無沙汰しています。ハンクス殿」
「固っ苦しい口調は何とかならんのか?」
「陛下の名代ですので」
「まあ、ええわい。名指しで言われたのなら、返すほかあるまい」
そう言いハンクスが手渡した麻袋の中身を、ダミュロンは検める。横から覗いたユーリは、一目見て業物と分かる剣が袋に入っている事に驚き声を上げた。
「剣?」
「クラウ・ソラス。民草を守る者を主人とする神の剣。数十年前に帝国の宝物庫から消えて、行方不明になっていた剣よ」
剣を受け取るや否や、 ダミュロンは何時もの軽い口調で答えた。
「おい爺さん…まさか盗んで…」
「人聞きの悪い事を言うでない! もう二十年以上前じゃったか…高名な傭兵が下町に滞在した事があってのう。その者が置いていったようじゃ。クーデター騒ぎの時の片付けで出てきてのう…そこの隊長さんに相談したんじゃよ」
「亡きレギン殿下が、兄君の先帝陛下から借り受けたモンらしいよ。何でも殿下の娘の身元を証明するためって話だったけど…」
ダミュロンの言葉を聞き、デュークはレギンが亡くなった時に、彼の腹心であった傭兵との会話を思い出した。
レギンの剣を届けた先の二人、実の兄妹ではないと言っていたカレンと言う娘は……そこまで考えるがデュークは心の中に留める事にした。表沙汰にする事は、レギンは望みに反した行為であった。
「ヨーデルの剣は、複製
デュークの問いに、フレンは首を左右に振って否定する。
「いえ。式典に使用する剣は別に用意してあります」
「これは別に使う予定なんよ」
実はユーリに対する世界救済の褒章として、自由騎士の称号と共にクラウ・ソラスが授与される予定だが、 ダミュロンはその事を黙っておくことにした。
「宙の戒典の代わりなるような剣がまだあんのかよ…どんだけ溜め込んでんだぁ?」
「そんなホイホイある訳ないでしょうが。探しに行ったのよ。大陸間が繋がってる巨大な地下大空洞で、迷うわ、矢鱈強い敵がいるわで…」
「ん? アレクセイと仕事で帝都を離れてたのは、それだったのか?」
「まあねえ…術技や魔法使わなくても大将は強いから、正直助かったわ」
「それを聞くと、益々アレクセイと打ち合いたくなるぜ…おっさん、アレクセイと…」
今にも騎士団長執務室に突撃しそうなユーリを、 ダミュロンはやんわりと抑える。
「団長閣下は忙しいの! 大将と打ち合う前に、青年は基礎をやり直しなさいな。もうちょい手首の筋肉を付けないと、ジャグリングみたいな剣捌きで腕を痛めるよ」
「……仕方ねえだろう。俺、筋肉付きにくいんだし」
「生活習慣を直しなさいよ! ラピードがお見合いで騎士団本部にいるからって、生活乱れてんじゃないの? 前から思ってたけど、糖分…っつーか炭水化物中心から、蛋白質中心の食事、鶏の胸肉を多めにして…」
そう言い食事指導と筋トレ指導をし始める ダミュロンを脇目に、デュークは少し距離を取ろうとする。いまだに人で騒がしい状況には慣れていないのだ。
「デューク元親衛隊長」
さりげなくその場を後にしようとしたデュークを、フレンが呼び止める。
「少しお話しできませんか?」
真摯で真正面からの願いを無視できるほど、人に対して無関心を装えなくなったデュークは、ため息を一つ吐いた後に頷いた。