TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



騎士たちの覚悟(ゲームでは悪人が裁かれない)

 

『彼女の人生を乗っ取っている。それを呑んでやり遂げたい目的があるから、私は今こうしている。でも…目的を達成したら、私はどうすればいい?』

 

『もう少し皆の笑顔を側で見ていたかった』

 

 どちらもソフィアの本心であろう。

 終わりたいのか、続けたいのか…相反する心を感じ取り、ダミュロンはどうしたら良いのか迷っていた。

 

 追憶の迷い路で別の可能性の世界を何パターンか追体験をすると言う、ダミュロンにとって拷問とも言える経験をするも、ザウデ不落宮の封印解除に必要な物は全て手に入った。

 ヴェスペリアは魔装具の封印を解き、宙の戒典と魔装具を譲ったのだ。さらにヴェスペリアは、自らの聖核(アパティア)を分割して与えた。9つに分けられた聖核は、高出力魔導器(ブラスティア)に匹敵する力を持つ指輪となった。

「指輪の数は9つ、ザウデ地下の望郷の墓所を攻略し、オーマとスパイラルドラコに対処することとなり、補給の関係からも精鋭少人数が良いと考えられます」

「エステリーゼ様とデュークを除く7名を、ギルドと騎士団合同トーナメントで選抜する。そう言う話であったな。この案で問題ないだろう」

 そう言い、ダミュロンが持参して書類にアレクセイはサインをした。まだ話が残っているからと、ダミュロンは同席していたルブランに書類を任せる。退室するルブランと入れ替わりに、デュークとクオマレが入室してきた。

「閣下、デューク様が面会の希望を……っと、ダミュロン隊長首席も居ましたか! 申し訳ありません。後でまた…」

「構わない。デュークと共に話すために、この場にいるに過ぎない」

「そうでしたか。それでは失礼いたします」

 アレクセイの代わり答えるダミュロンに騎士の礼をした後、クオマレは団長執務室を後にした。

 先ほどから一言も発しないアレクセイ。幽霊を見るような表情で、クオマレを見ていたことに、ダミュロンは気づいていた。

 

 別の世界であった帝国騎士団の歴史史上最悪と言われる事件。

 追憶の迷い路で小休止を取った折、アレクセイはその事件を夢の中で追体験したのだとダミュロンは確信した。カクターフを中心とした帝国評議会の一部貴族がアレクセイ暗殺を企て、騎士団本部の建物ごと、クオマレは多くの騎士たちと共に爆破された事件を…

 その悲劇はアレクセイの目の前で起き、自身に助けを求める姿が掻き消える瞬間まで、クオマレたち補佐官をどうにか救おうとした事は、想像に難くなかった。

 事件以降、アレクセイは信頼する部下を新たに置くことはなかった。孤独に蝕まれ歪んだアレクセイが起こした所業は、多くの者の命を奪い、多くの悲劇を生み出した。それは全て、腐った帝国評議会から権力を奪取するため、そして人魔戦争で部下たちを虐殺した始祖の隷長(エンテレケイア)に対抗するための力を欲したから。ザウデ不落宮を強大な古代兵器と誤って認識した結果、意図せず星喰みから世界を守る結界を解いてしまったのだ。

 

「追憶の迷い路で見たことを、まだ引きずっているのか?」

 デュークの問いに微かに肩が揺れる。自制しきれなかった自身を咎めるような溜息を吐き、アレクセイはデュークの方を見た。

「……地獄…と言うのは生易しい……いや、私自身も、数多の地獄を生み出した張本人か…」

「閣下それは……」

 言葉を続けようとしたダミュロンを制し、デュークがアレクセイに歩み寄る。

「あの場で追体験した別の世界……もし私がお前の側に居れば、お前は歪まずに済んだか?」

 交差する紅と緋の瞳。

 先に視線を外したのは、アレクセイの方であった。

「そんなもの分かる訳がない。あの場で見た世界では全て、お前は私から離れていたのだからな」

「……そうか」

「おそらくお前が言うような状況では、ヴェスペリアがやり直すような事態にならなかった可能性があると、私は考えているがな」

 即ちデュークが勝手に見切りをつけて去らなければ、アレクセイは歪まなかった可能性があると言えた。

「私は……間違えていたのだろうか?」

「お前がそう言うならそうだろう。だが私には、“お前自身が生きてきたこの世界”が、そこまで悪い状況とは思えぬ。間違いがあったとしても些細では無いのか? “別の可能性の世界”と比較すれば、尚の事な」

「私に対してそう言い切れるのならば、お前自身に対しても同様に扱え。あの場で見た“別の可能性の世界”に居た“お前に似たヤツ”ならまだしも、“お前自身”が非道な行いをしてきたとは私には思えぬからな」

 アレクセイの不器用な慰めは、そのままアレクセイに返ってきた。

 つまりはそう言うことなのだ。

「アレクセイ閣下。あの場で言いましたが……貴方ではない。そうでしょう?」

 ダミュロンにもそう言われて、アレクセイは片手で目を覆って俯く。

「ふ………そうか……そうだったな……」

 そこで言葉を切るアレクセイ。その指の隙間が濡れているのは、錯覚であろう。そう思えるような素早さで、アレクセイは頭を上げた。

 

 アレクセイに目が少し赤いような気がするが、見て見ぬふりをしてデュークは微かに口角を上げる。

「気を抜いてあの世界のように歪むのだけは、やめて貰いたいものだ。我らを反面教師にした別分岐を、クロノスは最早生み出せないと言っていたのだからな」

「お前こそ自己判断で、人社会から距離を取るのはやめて貰いたいものだ。能力と影響力がある者がそれをやって許される程、今は平和に浸った状況では無い」

「そそ。俺一人じゃ監視も引き留めも力不足なんだから、ちゃんと監視しあってちょうだいな。それなりに言い合えるような関係を、今は構築してんだからさ」

 他人事のように言うダミュロンに対して、デュークは深いため息を吐く。

「お前も頭数に入っている。あの世界のような受け身のままでは困る」

「私の命令について考えず疑問も抱かず、ただ遂行するだけでは困る」

「ちゃんと考えてますよ。アンタらがユウマンジュで自白剤盛ったこと、ソフィアには黙っていたし」

「っ⁈ どこでその事を?」

「あ、やっぱり? カマかけだったけんど」

 見事に引っかかって、恨めしげな視線をアレクセイは向ける。

「… ダミュロン……」

「アイツ、泥酔していたからとか言ってたけど……やっぱ盛っていたんですね」

「だがあの薬は効果が切れると催眠作用があって、眠りに落ちる前後30分程度の記憶が無くなるはずだが…」

「廉価版通信魔導器(コールブラスティア)で、ソフィアは自身の周囲の音を記録するようにしていたって話」

「相変わらず、用意周到だな」

「その様子じゃあ大将が薬を用意して、デュークが盛って尋問したようだけど…やり過ぎじゃなあい?」

 軽い口調で雰囲気を重くしないようにしつつ、立案したと推定している者に翠の目を向けたる。無言でダミュロンの追求を流そうとしているアレクセイを見て、ダミュロンは溜息を一つ吐いた。

「アレクセイ閣下。貴方はソフィアが成り替わりという事、薄々気づいていたのではないですか?」

 口調を糺してダミュロンが尋ね直すと、アレクセイは「ここからの話は部屋から出たら忘れるように」と前置きを言ったのち、静かに話し始めた。

「……成りすましの可能性があった」

「「成りすまし?」」

 思わぬ言葉が出てくて、デュークとダミュロンの声が被った。

「遭難事故の折、ソフィアの記憶が曖昧だと知らせを受けてな…念の為にアスピオで調べて貰った事がある」

「その懸念は晴れたのですか?」

「遭難事故の半年後には既に、その懸念は無くなっていた」

「それから10年以上経っていたと言うのに、何故再び懸念を抱いた?」

「端的に言うと、ソフィアに謀られた」

「は?」

「己自身が消えた時、私や家の者が傷つかないようにと考えたのであろう。過去に私がすり替わりを懸念していたことを知って、そう疑うように小細工をしてきた」

 ディノイア家と不仲な貴族家と連絡を取り合っているような、それも自身があたかも上手く成りすましているような内容の手紙を、アレクセイの元に届くように工作していたそうだ。

「私はともかく、家の者が懸念を抱いてな…決定的な証拠を見せつける必要があったのだ」

「で、ソフィアの目的を吐かせる必要があったと言うのか。その言い方だと、お前は全く疑っていなかったようだな」

「当然だ。遭難事故後に血縁関係の有無を調べてもらっていたからな。それに例え成りすましであったとしても、私の理想がここまで進められたのは、ソフィアのお陰なのは間違いない」

「閣下……」

「小細工をした理由を、ソフィアに問いただすべきであった。もっと早く企みを把握していれば…おめおめと人質となって、信念を曲げるような決断をさせる事はなかったものを…」

 

 クーデターはカクターフらを一括処分する口実とするため、フィアレンが仕組んだもの。その策を拒否したソフィアを説得する材料として、アレクセイやデューク、ダミュロンを人質にしたのが真実であった。

 アレクセイ達に対して非道な行いをするカクターフらを、切り捨てる決断をソフィアにさせるために…

 

「我々はアレとの距離が近過ぎた。我らに疑いが掛けられぬよう、人質にする事はソフィアも納得の上であっただろう」

「そうそう。想定外だったのは、カクターフとグラダナが、想像を遥かに超える下衆具合だったって事でしょうね」

 そう言いダミュロンは、徐に自身の手を見つめる。

「大将、旦那…あの時は俺は……」

「お前とステルは被害者だ」

「そうは言われても、罪悪感はそう簡単には消えませんよ。コレばっかは、この世界で俺がやった罪だ…」

 操られた時に傷つけたデュークにそう言い切られるも、ダミュロンは苦笑しつつそう反論し、さらに言葉を続けた。

「手紙、読みましたか? 本来のソフィア・ディノイアの身体と人生を乗っ取った事に対してアイツは、ずっと罪悪感を持っていたって…」

「魂が入れ替わっている…それがなんだと言うのだ⁈ 四半世紀以上共に過ごした“あのソフィア”が、私や皆を思い、心を砕いてきた事実が揺らぐことなど、ないではないかっ!!」

 激情を抑えきれず、アレクセイは悲鳴のような嘆きと共に、執務机に両拳を叩きつけた。

「遭難した時より以前のソフィアを妹として愛していた。それは事実だ。だが……“あのソフィア”も私の妹だ! 誰が何と言ったとしてもだっ‼︎」

 陶器製のカップが衝撃で倒れて落ちるも、絨毯のおかげで割れずに床に転がった。カップを拾い執務机の上に戻しつつ、ダミュロンは静かに口を開く。

「……大将さ、その言葉をソフィアに言ってやってよ。アイツ…アンタの本物の妹の人生を乗っ取っちまったって、辛そうな顔して言ってたからさ」

「ソフィアは……お前にそんな事まで話していたのか?」

「今生の別れを覚悟した愚痴で聞いたに過ぎませんよ」

 

 終わりたいのか、続けたいのか。

 どちらをソフィアは真に願っているのか。

 違う。

 ダミュロン自身がどっちを願うのか…

 

「俺の我儘を通すため……アレクセイ閣下の気持ちも、理由にしてもいいですか?」

 

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