pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。
星喰みを精霊に転化する前。
野営時の夜の見張りを共にした時、何気なくジュディスがデュークに問いかけてきた。
「貴方は精霊オリジンをエルシフルと同じと考えているのかしら?」
「エルシフルは死んだ。それは変えられぬ事実だ。オリジンは……私の友だ」
「エルシフルとオリジンは異なる存在。でも、どちらも友人と思っている。そう言うところかしら」
そう言いつつジュディスは、焚き火に枝を足す。
「バウルが……
パチリと薪が爆ぜる。
「バウルが精霊になったら…私はどう接すればいいのかしら?」
「当分先の話だ。それより我らの命が尽きる」
「その可能性が高いことは分かっているわ。そうしたら……バウルを遺すことになるのね…」
そこで言葉を切り、ジュディスは頭上の空を見上げる。
「ソフィアさんの話を聞いて、人の魂は本当に生まれ変わるって知ったわ。だったら彼女みたいに、転生前の記憶を引き継いだら…」
そこで言葉を切って、ジュディスは首を左右に振る。
「いえ…それは『私』ではないわ……寿命が違う友達を持つことが、こんなに大変だとは思わなかったわ…」
「……出会ったこと、友となったことに後悔しているのか?」
「いいえ。全く」
そう言い向けたジュディスの笑顔は、年齢よりも幼く無邪気なものに感じられた。
「思いを…引き継げばいいだろう」
「思い?」
「思いは人を越え、時を越えて繋げることができる。私がオリジンと交友を深めたいと思ったのは、彼がエルシフルの思いを引き継いだからに過ぎない」
その言葉を聞いて、ジュディスは笑みを深める。
「おじさまと同じことを言うのね」
「ダミュロンと?」
「私の仲間やその子孫たちに、バウルと仲良くなって貰えばいいんじゃないかって…そうね。それはバウルも同じことよね。転化した精霊は、思いを引き継いだ子供みたいなもの。そう考えれば…」
そこで言葉を止めて、ジュディスはそっと瞼を閉じる。ナギーグを使ってバウルと会話しているのだろうと、デュークはジュディスの代わりに小枝を焚き木へ投げ込んだ。
「子供……か」
別の世界のデュークは、人間らが自分らの都合で世界の理を変える傲慢な行為だと考え、考えを受け入れることは出来なかった。
エルシフルから借り受けた価値観が歪んだ末の結果であり、それが自身を苦しめていた事に、デュークは漸く気づくようになった。
『数多の苦行の原因は私にある』
苦行……確かにデュークが時間のループと考えていた別に世界の出来事は、そう言っても差し支えないものであった。
しかし、全てが自分自身が勝手に切り捨て、己が価値観を持たなかったのが原因。ソフィアが何をもって彼女自身を責めているのか、デュークには理解できなかった。
§
様々な者と縁を繋ぎ、経験し、知識を得た今なら、ソフィアの気持ちに寄り添えるだろうか?
結界によるイミテーションではなく、星喰みが見え隠れている不穏な様子でもない。漆黒の中に無数の星が散りばめられた夜空が、ただ眼前に広がっている。
その光景を眺めていると、以前にジュディスと会話をした時に浮かんできた疑問が、デュークの頭に鮮明に蘇った。
『何を考えている、我が友デューク』
夜空を見上げるデュークの隣に、仄かな光を纏う4腕の青年が姿を現す。
「千年前に始祖の隷長と人間は争った。そして今精霊が生み出されたが…同じような事が起きやしないか…それを危惧していた」
そこで言葉を止め、デュークはオリジンに視線を向ける。
「始祖の隷長は…
“人間を殲滅する目的のため、自身らが掲げる大義名分となる情報を人から隠蔽するために、始祖の隷長が人間との接触を絶った”
ソフィアと交わした最後の会話。
そこから導き出された可能性。
そしてそれを防げなかった事を、ソフィア……トリウィアは悔いているのならば…
『星喰み封印後のことか? そうだな…思い返すとそうかも知れぬ。人間への接触を最小限にすると言う方針になったのは……いつの間にかそうなっていたとしか言えぬ。すまない。我は余りにも無関心であった…』
「……私の方でも調べた。ソフィアが調べていた地方都市との伝承と、帝都で主流の歴史と記録されている内容を比較した。表向きの歴史では、約定どころか始祖の隷長の存在すらも隠蔽されていた」
『始祖の隷長と人間が、互いが互いに没交渉になるように動いていた訳か? 千年前の争いでは、両者共に被害が大きく恨みは深かった。互いにその記憶が薄れるようにする為の措置か、あるいは…』
「人間側が約定を忘却して、再び互いが争う為…そのような悪意を感じる」
いつかは相手を滅ぼしたい。
互いの勢力内で、そう願うものが少なからず居たのであろう。
「いつか始祖の隷長に報復を。そう言う輩が帝都を創ったのかもしれん。そして正しい歴史を知っている者が、地方都市に逃れた」
『ふむ……面白い見方だ。ウンディーネがノードポリカを治めた時、伝承がある程度残っておった故に安心していたのだが…帝国の中枢とも言える帝都では、事情が違っておったのだな』
水の精霊ウンディーネへと転化する前の、始祖の隷長ベリウス。その者はノードポリカの街を治めつつ情報を集め、それをエルシフルは人社会での情報としていたのだが、その内容自体が偏っていたのだ。
「ウンディーネ…ベリウスは千年前の大戦前後の事をどの程度知っていた?」
『千年前にトリウィアがザウデの一部になった時は…自我ができつつあったと言ったところか。当事者ではないが、大体の事は知っていたはずだ』
「他の者もそうか?」
『フェロー…イフリートくらいであろう。当事者と言えるのは、我と〈暗きもの〉のみだ。他は星喰みと化してしまった』
星ごと全てを喰らおうとしていた星喰みは、無事に精霊に転化した。しかし星喰みになった時に自我は崩壊したらしく、自意思の無い小精霊となっていた。
昔は始祖の隷長であった彼らの、恨みや哀しみを知る術は最早無いが、仲間を奪われた〈暗きもの〉が人間に憎悪を抱いていた理由を、デュークは痛いほど分かった。
別の世界で起きてしまった人魔戦争。
魔導器の使用を最小限にして管理すると言う約定を違えた人間を、仲間同士で殺し合いをしてでも救ったエルシフル。しかし、デューク自身との約束を反故にした帝国は、エルシフルを裏切って殺した。
そしてデュークは人間全てを憎悪した。
この世界では人魔戦争は起きていない。
しかし千年前の大戦の悲劇をエルシフルは経験していた。それなのに……
「エルシフル……いや、オリジンはそれでも尚、人間を憎悪しなかったのだな」
『全てが愚かだったのならば、我とて見切りをつけたであろう。明確な悪意を持った者は一部で、大多数は自分で情報を精査することもできず、己が自身の力で考え判断できぬ故、踊らされているに過ぎない』
「悪意の持った者が我欲のため、己が快楽にために大多数を操っている…昔も今も変わっていない。それなのに何故?」
『それに気づき、どうにか糺そうと奮闘する者が必ず居るからだ。その者は我を裏切らなかった。君が正にそうだよデューク』
「私は……」
別世界の自身の憎悪の原因は、始祖の隷長の主観によるものであったと、今のデュークは気づいてしまった。
約定を忘却していた帝国にとっては寝耳に水で、いきなり一方的に無差別に虐殺されたのだ。いくらエルシフルが挽回するための行為をした所で、失われた命は戻らないし、それに対する恨みは消えない。
自身が相手を許せるからといって、他者がそうとは限らない。敵であろうと味方であろうとも、それが出来るのは、圧倒的な強者の中でも極一部だけなのだから…
「私は……お前の期待に沿えるような者ではない」
今のデュークには、別の世界でエルシフルがやるべきだった最適解が分かる。
彼は一方的に裁可を下すのではなく、自分より弱者である人間や〈暗きもの〉達と頻繁に接触して、情報の共有と妥協点のすり合わせをすべきだった。両者が過激な動きをする前に、止めなければならなかったのだ。
デュークが弱者の…自分自身の価値観を捨てていなければ、エルシフルに助言ができていたかも知れない。しかし別世界のデュークは、考えつくことすらできなかった。
自身もまた、自分で考えられない愚か者に過ぎなかったのだ。
デュークの頭をオリジンが撫でてきた。
「っ⁈ 一体何を……」
『人間は変われるし成長できる。それは知っていたが、こんなに早く成長するとは思わなかった』
「オリジン?」
『君が我に傾倒していると理解していたが、強く優しく聡明であるとも知っていた。切っ掛けを掴めばいずれ、自分で考え判断した価値観を見せてくれると信じていた。ああ……やはり人間は素晴らしい!』
別世界のエルシフルが友として側にいた理由を、その言葉を聞いてデュークは漸く悟った。
エルシフルは、デュークが己が価値観を持てるようになるまで待っていたのだ。そしてそれが持てるようになる前に、エルシフルは命を失った。
別世界のデュークは変わらなかった。
変われなかった。
エルシフルの価値観を己が物として、後生大事に抱き続けた末に歪んだ。
「私を称賛してくれている事は理解できるし、そのことに関しては嬉しい。しかし、何を根拠で…」
『今も我の言葉に疑問を呈した。昔の君ならば、鵜呑みにして受け入れていた』
「……お前は……知能ある生物の仄暗い狂気には疎い。そう簡単に人間を信用するのは……っ、何を笑っている?」
珍しく声を立てて笑うオリジンを、デュークは思わず睨んでしまう。
『いや……具体的に何が懸念材料かを、分析できるようになったんだね。ただ『愚かだ』と切り捨てて、思考停止しなくなったという事は、非常に大きな変化だと思う』
「それは……」
『だからこそ気づけたのであろう。人間と始祖の隷長が互いに死力を尽くして争う流れは、受け継がれ続けた悪意によって為されたのではないかと。我も気づけなかった事に気づいた事、我が友として誇りに思う』
そう言い自身を見つめるオリジン…エルシフルの目は、対等な者へ向ける眼差し。今まで自身に向けていた視線は、保護者が被保護者に対するものであったと、デュークは今更ながら気づいた。
デュークはエルシフルの…オリジンの対等な友になれたのであった。
『我々は精霊になったが、争いの流れを断つように努力しなければならない』
思いは繋がる。
人を越えて、時間を越えて…そして昏き思いが今に至るまで繋がってしまった。
ならば、ここで断ち切らなけれならない。
「人間が一方的に精霊を利用しないように」
『精霊が人間を一方的に見下さないように』
全ては精霊と人間が争わないように…
このような思考が出来るようになったのは、ソフィアと出会い、言葉を交わしたからであると、デュークは考えていた。
だから……
「……そのためにも、我々にはソフィア・ディノイアが必要だ」
エルシフルであった時と同じ茶目っ気のある笑みを、オリジンはデュークに向ける。
『君の素直な気持ちが聞きたい』
「友としてお前に頼みたい。オリジン、共にソフィアを助ける手助けをしてくれないか」
間をおかず、デュークは真剣な目を向けつつ、オリジンにそう告げる。その熱を帯びた真紅の瞳を見て、オリジンは柔らかく笑みを浮かべて肯く。
その表情の動きを見て、デュークの中で棘のように刺さっている疑問が浮上する。
「……そのような視線を、向けることができるのだな」
『できるようになったと言う方が正しいかも知れぬ。始祖の隷長であった頃では、君の変化を好意的に受け止められたかは分からない。そうか……私も潜在的に下と見ていたのかもしれぬな…』
その言葉を聞き、オリジンはやはりエルシフルとは異なる存在と再認識して、少し寂しく思った。そして、ジュディスとバウルのような対等な友人関係を、エルシフルの時に結べなかった事が残念でならなかった。