TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始から25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



意思は運命を超える(自身が生きたいと願うこと)

 

「さて……どうしたもんかな…」

 

 自身を囲んでいるモノを一瞥し、トリウィアはため息を吐く。

 

 十六夜の庭にオーマを封印した。

 独りその役目を永劫続けるつもりが、デュークにダミュロン、ユーリらがやってきた。そして彼らは、スパイラルドラコを精霊化して、共に地上に帰ろうと説得してきた。

 結局その案に乗って、彼らがスパイラルドラコを精霊化するまでの時間稼ぎをする為、世界を蹂躙しようと狙うオーマを1人で抑えようとしたのだが…

 隙を突かれてオーマに吸収された。おまけにそのオーマ自身も吸収させて、スパイラルドラコを完全復活させた上に、地上へと解き放ったのであった。

 スパイラルドラコは、オーマが予めプログラムしていた命令に従って、街…帝都ザーフィアスに向かっている最中である。

「してやられたと言うか…いずれはこうなるとは予想していたと言うか…」

 取り囲んでいる闇が次々と人型を取り、自身の背後にあるモノと接触しようと、津波のように一斉に襲いかかる。

「灼熱の霧に呑まれろ! レイジングミスト‼︎」

 高温と化した水蒸気を周囲に撒き散らし、襲ってきたモノを一掃する。

「せっかく飛行機能を潰してくれたんだ。ここで再生させる訳にはいかない」

 背に守っているのは罅の入った結晶体、スパイラルドラコの翼を司る中枢。吸収されそうになった時にマナで身体を保護した上で隠蔽し、スパイラルドラコの再生能力の妨害をしているのが現状であった。

 武器は当然ない。

 そもそも自身の投げナイフの腕では、大したダメージを与えることはできなだろう。

 魔法以外に対応策はないが、一発で仕留める必要があるため、上級クラスの威力が求められた。単独属性での上級魔法を使える技量は持ち合わせていないことから、中級の複合魔法で対処していた。それでも消費は避けられないMPを回復する方法はただ一つ…

 静かに早口で詠唱を終えて、力を解き放つ。

「トリウィア・エアルドレイン!」

 再び迫ってきた闇に人型に大技を放ち、スパイラルドラコからマナやらエアルを吸収する。

 

 ピキっ

 

 左手が固まったように動かなくなる。よくよく見ると腕から手首にかけて、透き通った結晶と化していた。

「エアル過多……トリウィアの身体では結晶化するなんて…」

 今はトリウィアの身体。始祖の隷長と人間の間に生まれた生命体。

「……オーマも…疎外感と孤独を味わったんだろうか」

 どの生き物でもないことを、この期に及んで突きつけられた気分であった。そしてオーマが千年以上抱え続けた心情も…

「サンダーボルト‼︎」

 炎と雷が闇の人型を焼き払う。マナとエアルを混ぜた魔法で両方を消費しても、結晶化は消えない。

「やはり不可逆的か…」

 元に戻るどころか、罅が入り始めた左手を見て舌打ちをする。

 即座に終わらせる方法は一つある。それは既定路線で最後にやる予定であった事。

 

 オーマやスパイラルドラコ諸共、自滅魔法で消滅する事。

 

「どうしたもんかな……」

 

 自身と共に生きることを望まれた。

 自身と皆と共に生きたいと願った。

 オーマの生命を絶ちたくなかった。

 

“そこまでして生きたいか? 我等を贄としてお前だけ生きるというのか?!”

 頭に流れ込んでくる意思の塊。

 自身らを取り囲んでいる…いや、スパイラルドラコを構成している、エネルギーから罪悪感が煽られ、自身の心の傷を的確に刺してくる内容が選択され、自身の頭の中で勝手に言語化しているだけでと分かっていても、ソフィアの精神を確実に削っていった。

「でなければ身を削ってまで、賭けに似た勝負なんかやるわけがない」

 

“他人を肉体を奪ってまで生きようとするとは愚かな…”

「これは契約への対価だ。契約履行には必要不可欠。だから放棄する訳にはいかない!」

 セルシウスキャリバーで闇を凍らせ砕く。

 

“過去世の失態の処理をしているには、過分な報酬だな”

「だからと言って、他者の好意を踏み躙り、傷つけて良い理由にはならない」

 ヴォルケーノで闇を溶岩の中へと沈める。

 

“不手際で不幸を量産したお前がか? お前以外に好意を受け取るのに相応しい者がいるのでは無いのか?”

「他者が自身の代わりに成ることなど不可能。私が望まれている以上、私は生きる努力を怠ってはならない。これ以上、私が原因で誰かを哀しませたくは無い」

 グラヴィティで闇を地磁力波で押し潰す。

 

 全ての闇を払った先、桜色の髪を伸ばし、翠の瞳を持つ者…オーマの姿があった。

 

「世界は寛容だが甘くは無い。生まれ生きている事自体が、世界がその存在を許容している証拠だ。今の私もお前もそうだ。我が息子、オーマ」

「………」

「訊きたいことがある。封印されていた最初から最後までずっと、地上の者たちへの恨みを持ち続けていた?」

 もしそれならば、十六夜の庭に居る者全てが怨嗟を抱えていてもおかしくは無いが、彼らにはそのような様子は見られなかった。

 それ故に抱いた疑問であった。

“我に復讐をするよう怨嗟を吐き続ける者が、我の周囲にいたことは事実だ。しかし……共に封印された者たちの中には、我に優しく接してくれる者も居た。少しでも喜ばせようと…楽しませようと…”

「穏やかな日々を送る機会はあったということか?」

“その者たち…トリウィアの腹心と名乗る者たちがいた時は、そうだったと思う。本来は地上に残って世界を支える予定だったが、謀られて地下に閉じ込められたと聞いた”

 そして向ける視線は、不手際を明らかに責めていた。

「……対策しなかった私の責任だ」

“相変わらず母上は詰めが甘い。責苦は彼らから……いや、彼らは彼らなりに穏やかな生活を送っていたな”

 オーマの主観ではあるが、その言葉を聞いて少しは罪悪感は薄れる。むしろ、重荷を背負わされた地上の者の方が、大変であっただろうと思うが、それを理解せずに権力闘争に明け暮れた末に世界の危機が訪れた事を思い出し、深い溜息を吐くしかなかった。

“彼らの存在は、我にとって有難いものであった。我の加護や見返りを要求する事なく、色々と尽くしてくれたのだから…”

 十六夜の庭に居た満月の子の子孫たちは、皆穏やかな性格をしていた。それは、自身の腹心らの影響を強く感じさせるものであった。自身の失敗から結果的にオーマの心を救ってくれた元部下たちへ深い敬意と、自身より優秀であった彼らの力を借りるべきであったと、ソフィアは居た堪れなくなった。

 千年前にトリウィアが死んだ時、色々と不備が多かったと悔やむに悔やみきれなかったが、全て自身で対処しようとしたことこそが傲慢であったと、ソフィアはようやく理解できたような気がした。

“彼らに報いたかった。ザウデの魔核(コア)の力で、時の精霊クロノスとの再契約でどうにかならないかと模索したが…できたのは己が延命だけであった”

「オーマ……」

“彼らを亡くした後、残ったのは地上の者への怨嗟を吐く者ばかり。いつしか、地上の者たちに復讐することが目的となっていた……”

 オーマは翠の瞳から、はらはらと涙を溢す。

“指摘されて思い出した。彼らとの穏やかな日々を、皆で地上に戻ることが本来の目的であったことを。我は……辛かったのか…寂しかったのか……これが、そう言う感情か……”

「……すまなかった。時間がなかったからと言って、やるべき手段ではなかった」

 怨嗟を吐き続ける者と共に封印すると言うことがどう言うことか、どれほどの苦難を与えることになるのか、それすら当時のトリウィアは理解することはできなかった。

 適切な謝罪の言葉が見つからない。

 

 だから……

 

 オーマを抱き、その額に口付けをする。

 驚き目を見開く自身を見るオーマに、静かに笑いかけつつ口を開く。

「人として生きて、我が子にこのような行為をする事を初めて知った。そして……君に対してこうしたいと思った」

 自身の身に受けたものの正体が分かるや否や、オーマは笑顔と共に花弁のように散って消えていった。

 

 残光は収束し光の珠と成った。

 

「オーマの 聖核(アパティア)…と言ったところかな?」

 吸収されたはずが聖核が生み出されたのは、オーマの意思か、今居るスパイラルドラコの意思か、それより上位の存在の意思かは分からないが、素直に受け取ることにした。

 

 次の瞬間、周囲の空間がガラリと崩れる。

 その奥から姿を現した者を見て、思わず声を失う。

 カクターフとグラナダ、ガデニア、バルゴスと言った面々が、憎悪を剥き出しにして、ソフィアを見つめていた。

「……私自身の思念が生み出した幻影…か」

 その場を満たしているのは、オーマとトリウィアのマナとエアル。自身の思念が干渉してもおかしくなかった。

 ソフィアとして生きてきた上で、切り捨て犠牲にしてきた者たち。自身の心が生み出した故に、自身で対処しなければいけないもの。そう思い一歩踏み出したその時、突然凍りついたように全ての動きが止った。

 

 それはダミュロンのストップフロウ。

 動きが止まるも、自身を非難する意思を止めることはできない。しかし、感知し続けている自身への責苦に紛れて、温かい何かを感じ取ることができた。

 それは…

 

“自身が納得したところで、他者から見てどうなのだ? 死体を乗っ取った者が、生きているかどうかも怪しいものだな…“

『理屈じゃないんだよな。居てくれると嬉しいって言うことは。そう望んでいる者が大勢いることに、気づいてくんないかな?』

『ソフィアさんが始めたこと、残してくれたことは沢山あるんだ。それって生きている証拠だよね?』

 カロルの剛閃爆殺ウルトラXボンバーが、バルゴスの幻影をかき消した。

 

“結局は己が我儘で順位づけして、下位を切り捨てただけに過ぎぬではないか‼︎“

『自分らの事を棚に上げてよく言うわ。自分は良くて相手はダメって言う事?』

『罪悪感を煽って、相手の善意に付け入って操ろうとするなんて卑怯です!』

 リタとエステルのミスティック・ハンマーが、グラナダの姿をかき消した。

 

“結局のところ、お前が非難する暴力に頼るしかないではないか‼︎“

『ヴワウっ! ワンワンっ‼︎』

『降りかかる火の粉は払うもの…私も同意見ね。互いに防御に徹すれば、争いなんか起こらないんじゃないかしら?』

 ジュディスとラピードの月華の乱が、グラナダの幻影をかき消した。

 

“互いの妥協点を探るのが、帝国を運営する上で大事ではないのか? こうやって一方的に消し去るとは、なんと傲慢な…“

『傲慢で結構。だが誰にでも譲れねえもんがあるんだよ。そこを超えて奪おうとするならば、容赦はしねえ‼︎』

『相手から際限なく搾取する事しか考えられないあなた方こそ傲慢で、人間としての社会を営む上で不適格だ』

 ユーリとフレンの武震双閃波が、カクターフの姿をかき消し、さらに空間に大きな切れ目を生み出した。

 

「……何度も間違えて、気付かされて……独りで出来ることが限られていて、他者の助けが必要で……確かに今の肉体は始祖の隷長でも人間でもない。でも……」

 瞳から一筋、また一筋と雫が流れ落ちる。

「私は人なんだ」

 そんな単純な事実と願いに気づくまで、随分と遠回りをしたものだと、ごちゃ混ぜの気持ちが溢れた涙を拭った。

 

 気がつけば、裂け目が少しずつ塞がろうとしている。

「……聖核にならずに再生している?」

 予想していた中で最悪の事態であった。

「やはり魔核に刻まれた術式紋をどうにかしなければ…しかし、自己再生機能を削除するにも魔核の実体化が必要。どうすれば…」

 方法はある。

 しかし相当分が悪い博打。本来は共に自滅する為の前準備とも言える工程なのだから…

「この空間ならば聖核を出現させて、他の聖核か魔核と同期化出来ることは検証済み」

 今の肉体は始祖の隷長で、人間でもある。始祖の隷長としてのエネルギーを全て集約して聖核を出現させることは可能であった。

 そもそもその技能は、ザウデ不落宮の制御で、複数の補助魔核に対してやっていた方法でもある。完全な聖核化より劣るが、吸収されている現状では、スパイラルドラコの肉体へ指令を出している魔核へ同期化して、自身の聖核の操作盤から干渉することは可能であった。

「問題は、ザウデと違って私の聖核が補助と言う位置付けになること。多分、聖核を自身に戻すことはできなくなる」

 崩壊してエアルとマナに還るのか。

 それともただの人間になるか。

 それ以前に、この方法で自己ではなく他者の聖核に干渉することは、自身の聖核をズタボロにする行為で、何処まで自我が維持されるかも未知数であった。

「迷っている暇は無いか…」

 今を逃せば、再び機会を得ることはできないと理解していた。

「聖核、顕現‼︎」

 自身の聖核を出現させて共鳴したところ、機能停止していたお陰で、スパイラルドラコの身体を動かしている魔核が実体化した。

「複数あるのか…私の聖核を介して、同時に書き換えが必要か…」

 自身の聖核の操作盤を開き、スパイラルドラコの魔核との同期化を開始する。

 

 急速に自己が蝕まれ始めた。

 

 気を抜けば何に意識を向けているのかすら、わからなくなってしまう。やるべきことは、兵器化したスパイラルドラコの対処。

 すり減る意識にしがみ尽きつつ、操作盤を出現させて術式を確認していく。

 

 なりふり構わず、手段が目的となりそうになる。スパイラルドラコを対処した先の未来を、決して捨ててはならない。

 緩めてしまいそうな手に力を入れオーマの聖核を握り、目的の術式紋を探す。

 

 見つけた安堵からくる気の緩みで、目的も信念も自己も捻じ曲がりそうになるが、ここまできて間違える訳にはいかない。

 共に自滅することが過ったが、自己再生機能の術式のみを魔核から消去した。

 

 自身の聖核は砕け散り、身体もまた砕けた彫刻のように崩れた。

 

 意地で指の欠けた左手の中のオーマを離さなかったが、操作盤を叩いていた右手は完全に失われ、腰より下は完全に砕け散っていた。

 自身の聖核が破損し、トリウィアの身体を修復するデータは最早無い。この状態では、仮に脱出できたとしても、外界に出た途端にエアルへ還るだけであろう。

 

 皆と共に生きたい!

 

 土壇場で自身の本当の願いに気づくも、万策尽きた状態。それが悔しくて…そして哀しい…

 共にやり直せなくなったことに申し訳なく思い、オーマの聖核に視線を向ける。

「?」

 よく見ると、オーマの聖核が何か違う物を内包していることに気づく。内包しているものは…

「記憶媒体?!」

 可能性があるのは自身が持っていた、ソフィア・ディノイアの肉体データ込めた物。しかし、再構築するためのマナは残っているか…何より罅を止められない身が崩壊する前は間に合うのか…

「賭ける…価値はある‼︎」

 意識を向け、記録媒体を起動させる。

 

 策を捏ね繰り返したところで、勝率が確定するわけではない。

 何かを成すのも、困難をひっくり返すのも、最後の決め手となるのは人の意思であると信じていた。

 

  §

 

 

 聖核(アパティア)にならなければ、精霊化は出来ない。

 

 命尽きた始祖の隷長(エンテレケイア)聖核(アパティア)になる。その前提条件がスパイラルドラコには当てはまらなかったのだ。

 ユーリとフレンの攻撃で大きく斬り裂かれた腹部の傷は、その端から修復されていく。

「クソ…どうしたらいい?」

 しかし諦める訳にはいかない!

 そう決心し、各々が得物を強く握ったその時、スパイラルドラコの回復が停止した。

「え⁈」

 直後、崩れ落ちる様にスパイラルドラコは突然倒れ伏し、その瞳から急速に光が失われた。

「一体何が……」

 突然の展開に警戒して様子見していたその時、スパイラルドラコの腹部の裂け目から、何かが飛び出てきた。

 

 カン、トすっ…コロン

 

 地面に落ちた光を内包した輝石。

 見覚えのあるそれを拾い上げて確認するリタ。手を翳すと操作盤が浮かび上がるそれは、魔核(コア)であった。

「上書きの形跡がある。再生能力を削除している?」

 リタがそう呟いた時、赤子の泣き声が響き渡る。いち早くその音源を突き止めたデュークが、スパイラルドラコの裂け目に手を入れると、奥から一人の赤子が手渡された。

「あ…赤ちゃん⁈」

 驚いたカロルがそう言った直後、スパイラルドラコの腹の裂け目から、女性の腕が伸びてきた。

 目を見開き動揺した表情を露わにして後ずさり、キャナリへと赤子を預けるデューク。一方でリタは魔核(コア)を地面に落とし、悲鳴を押し込めた短い声を出しつつ、ジュディスとエステルへ必死にしがみ付いていた。

 そして…

 

「流石に今度ばかりは死ぬかと思った…」

 

 聞き覚えのある声と共に、魔核(コア)を小脇に抱えた1人の女性の姿を現した。

 簡素な白いワンピースを纏った女性。

「ソフィア⁈」

 アレクセイに名を呼ばれ、銀髪から覗かせる緋色の眼を向け、己が名だと肯定する様に頷く。

 その背の向こうでスパイラルドラコの身体は光の粒子となって集約していく。それに伴い地面落ちているものとソフィアが持つ魔核(コア)もまた、光の粒子となって共に集合して、巨大な聖核(アパティア)を形成した。

 

「〈統べるもの〉…スパイラルドラコは死して聖核(アパティア)を遺して、それを12分割して魔核(コア)にした。だから本来は身体なんか残っていない筈なのに、どうやって兵器化できたか疑問だったけど、中から探って分かった」

 聖核(アパティア)に触れつつソフィアは呟く様に言う。

「生存中に読み取った情報から、人工的にエアルを構成して身体を作り上げて、魔装具や宙の戒典(デインノモス) に使わなかった残りの魔核(コア)に術式を刻んで埋め込んでいたみたい」

「それで中から魔核(コア)の書き換えをしていた訳ね…」

「それって、ボクたちが戦ったことはムダだったってこと?」

「それは違う。一度倒さないと魔核(コア)は具現化されないみたいで…皆が倒してくれたお陰で漸く書き換えができた。感謝している」

 ソフィアから謝辞と賞賛を受けて、カロルは照れた様子で嬉しそうに笑った。

「それよりその姿は⁈」

「ソフィアの身体のデータが手元にあったから、それを元に再構成した。この子の身体も再構成しなければならなかったから、元の身体と能力を再構築するリソースは流石になかった」

 レイヴンに尋ねられ、振り返りつつソフィアはあっさりと答える。

「赤子は?」

「オーマよ。殆どのエアルやらマナはごちゃ混ぜで、選別したら普通の人の赤子の構築量ギリギリでこうなった」

 キャナリから赤ちゃんを受け取りつつ、ソフィアは安堵の息を吐きつつそう答えた。

 

「復活の危険性はなくなったとしても、このバカでかい魔核(コア)を放置するわけにもいかねえよな」

「この大きさでは、バウルでも運ぶのは無理そうね…」

 エルシフルの聖核(アパティア)でギリギリだったことを考えると、その十倍の大きさ、ザウデにあったトリウィアの聖核(アパティア)よりも大きい。

「この大きさは想定外だわ。ヴェスペリアの指輪に残っているマナで足りるかどうか…」

「これも使って」

 そう言うソフィアから手渡された結晶を見て、リタが尋ねる。

「これは?」

「霊薬アムリタ。最後の一つよ」

「まだそんなのを隠し持ってたの?」

「保険としてね。トリウィアに戻るための…しかし私が過去世の力を取り戻したことも、今回の窮地の原因になったことを考えると…ね」

「いいのか?」

「このままでも、普通の人の一生は送れるわけだし…何より私は人として生きたい」

 そう言うソフィアの視線の先には、レイヴンとキャナリ、そしてデュークとアレクセイの姿があった。

「後は精霊化して、万事解決ってわけだな」

「ただ、この魔核(コア)の大きさで、自我のない精霊となると、色々と危険かもしれない…」

 

 私も同時に精霊化すればいい

 

 何処からともなく声が聞こえるや否や、ヴェスペリアの指輪は一つに集約し、1人の男性…ヴェスペリアの幻影を映し出した。

「ヴェスペリア?」

「マスター⁈」

 己が主人が姿を現したからか、時の精霊のクロノスも姿を現す。

「クロノスの助力で、魔核(コア)にある〈統べるもの〉であった頃の残滓から、暫定的に自我を構築する。その後の自我を育てる作業も私が引き受けるよう。精霊となった上で…」

 そこまで説明したのち、ヴェスペリアはクロノスに視線を向けた。

「クロノス。これが最後の命令だ。遂行後は自由に生きるがいい」

「……御意」

 クロノスの言葉に頷き、ヴェスペリア…フィアレンはキャナリとイエガー(ステル)に視線を向けた。

「良き家族を築いてくれ。幸せに…」

 兄としての最後の言葉を聞き、涙を流すキャナリ。彼女の肩をイエガーはそっと抱いた。

 

 ラウライス島。

 集結していた混成部隊は、決戦の地に魔物が雪崩れ込まぬように苦しい戦いを強いられていた。闇夜が迫り、魔物が活発化する気配を感じ取り、連戦で消耗した身体に鞭打ち、終わりが見えない戦いで心が折れそうになっていた。

 その時、突然対峙していた魔物たちが攻撃をやめて、その場から慌ただしく去っていった。

「…どういいことだ⁈」

「魔物たちが引いていく…一体何が⁈」

 騎士とギルドの傭兵たちが驚き様子見していたその時、自身らが守っていた決戦の地から、突如光の柱が伸びた。

「どうした⁈」

「敵の攻撃か⁈」

 騒ぎ立てる中静かに光が集約していく。

 そして…

 

 光の大鳥と光を纏った女性が連れ添うように、月夜を飛び立って行った。

 

 それは一対の光の精霊が誕生した瞬間であった。

 





スパイラルドラコは古代の始祖の隷長という設定ですが、オーマに乗っ取られたり、撃破後も聖核を残さないことから、兵器化された何かと考えて設定しました。
ゲームでは魔装具揃った状態でデュークとの最終決戦をして、宙の戒典からの影響を受けた後で十六夜の庭より最深部へ行かないと戦闘できないことから、魔装具と宙の戒典の魔核の元がスパイラルドラコの聖核だったのかな…と考えました。
またスパイラルドラコ戦の時に、3つに分かれているのを各個撃破する必要があることから、魔装具と宙の戒典の制作で残った魔核に術式書き込んで、生体兵器にしたのでは…と考えてこういう感じになりました。

次回、いよいよ最終話です!
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