魔理沙の妹になりました、妖怪たちにモテモテ(食欲)です   作:元掃除道具

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週一投稿(1週間遅れ)




 お寺での生活も3日目。少しづつ皆に慣れてきた中で、私は今まで気が付いていなかった自分の弱点に気が付いた。

 今までは極端に人や妖怪との関りがなかったので気が付かなかったけど、私はあまりお喋りが上手じゃないかもしれない。

 

 気が付いたのはぬえちゃんを怒らせてしまったからで、何度も頭にそのことが過っている。昨日からお寺に戻って来たぬえちゃんが積極的に話しかけてくれるのに、からかいに何も言い返せない私に対して「つまらないわねっ!」とぷんぷん怒ってしまったのだ。

 

「なるほど。それで本を探して欲しいと」

「は、はい。なにか言葉の勉強しないと、と思ったので……」

 

 寅丸様と同じく毘沙門天の弟子のナズーリンさんは、探し物が得意でどこか理知的な雰囲気を漂わせるネズミの妖怪だ。

 少し癖のあるふわっと広がった肩くらいまでの灰色の髪に、大きなネズミの耳。

 水色のケープに、濃い灰色のツーピース。腰からは細長い尻尾。その先に小さなバスケットを吊り下げて、いつもは手にL字型の黒い金属棒を持っている。

 背は私よりも少し小さいのだけど、きりっとした赤い瞳は幼さよりも理知的な印象で私をしっかりと見つめ返していた。

 

 命蓮寺のお掃除をしている最中に、私は庭の見える縁側でナズーリンさんに悩みを打ち明けていた。

 

「探し物っていうのは失せ物専門なんだけどね」

「あ、あれ。ごめんなさい、なにか間違えてしまったでしょうか……」

「ああいや、大丈夫だよ。しかし、そうか言葉の勉強かぁ」

 

 ナズーリンさんはふぅむと顎に手を当てて、小さく「人間の里の寺子屋にはそういうものもあるのかな」と呟いた。

 ぶらぶらと縁側から庭の方に足を揺らしている姿は幼く、ふらふらと揺れる尻尾につい目が追ってしまう。

 

「君は……、あー。魔理亞は文字をどの程度読めるんだ?」

「えーと、習ったことは無いんですけど、多分日本語は大丈夫だと思います。漢字も、少しくらいなら。あ、英語も。ちょこっとだけ」

「ふうん? なにやら事情があるとは聞いていたけど、魔理亞は寺子屋に通っていなかったんだろう?」

「は、はい。その、お姉……魔理沙の持って来た本を少し読んでいて、それで文字は学んでたので」

 

 少し嘘だ、まさか前世の知識だとは言えない。というか、信じてくれないんじゃないかと思う。

 私は文字なんて習っていないけど、実家にいた時も土蔵に持ち込んできた魔理沙の本は読めたし、そこで学んだと言っても多分不自然じゃない。

 

「……姉妹でそこも差があるのか。そうだな、それなら本で学ぶよりも少しお話をしようか」

「お、お話……。その、でも。あの、皆さん忙しい様子ですし、わたし、上手におしゃべりまだできていないので」

「ちょうどここに暇を持て余した妖怪が一人いるよ。君からは十分教養を感じるし、大事なのは知識よりも実践さ。ご主人と聖はまだ戻ってこないのだし、私の暇つぶしに付き合ってくれるとありがたいな」

 

 こちらに気を遣わせない言い回しで、ナズーリンさんは自然に話を広げてくれる。

 隣に座るように手招かれ自然に座ってしまった時も思ったのだけど、ナズーリンさんはとても気遣いが上手だ。小さな賢将のくすぐったくなるような気遣いを感じ、自然と口角が上がってしまった。

 

「ありがとうございます、ナズーリンさん」

「さっそく普通にお礼が言えたね」

「あ。そ、そうですね。あの、吃らずに、言えましたね」

「そうだろう。君は、……あー。魔理亞は緊張しているだけだよ。少し力を抜けば自然に言い返すこともできるさ」

 

 緊張している自覚はあったけど、それはそうだろうと思う。

 生まれて十数年、物心ついたころから記憶だけあって、勝手に、一方的に憧れた存在に囲まれているんだから。

 

「まあそれはそれとして、ぬえに言い返したいんだろ? それなら私の狡知を授けよう」

 

 なんて頼もしい言葉だろうか。

 私はうなずいて、ナズーリンさんとおしゃべりを続けた。ずっと心臓が高鳴ってうるさかったのだけど、だんだん心も落ち着いていく。

 今日はなんだか、なんでも上手くいく気がした。

 

 ▽▲

 

「なんじゃ。ぬえ、何を拗ねておる?」

「ほっといて」

 

 マミゾウさんがお昼を一緒にいただきながら、ちらりと視線でこちらの様子を見てから眼をにんまりとゆがませた。

 

「なるほどのう。なにか言われたのか」

「あ、その。私……」

「違うわよ! このチビは関係ないっ。あと、別に拗ねてないっての!」

 

 ちらりとナズーリンさんに視線を送るが、ナズーリンさんは我関せずと知らんぷりして黙々とご飯を口に運んだ。

 なにか考え込んでいる様子で、無視しているわけじゃない、と思いたい。

 

「のう魔理亞。お前さん、なにか知らんのか?」

「えっと……」

「おいチビ、お前余計なこと言ったら齧るわよ!」

「うぅ……!」

 

 私もなんでぬえちゃんがこんなにイライラしているのかわからず、困りながらマミゾウさんを見上げた。

 

 二ッ岩(ふたついわ)マミゾウさんは狸の妖怪だ。肩にかからない程度の短めで明るい茶色の髪に、妖獣の特徴である狸の耳がかわいらしい。

 シンプルな丸眼鏡を掛けていて大きなしっぽが特徴的なお方。年若い見た目に老人のような口調がちぐはぐに思える。なのに話をしていると自然に、よく馴染んだものに感じられる不思議な雰囲気を持った方だ。

 

「なんじゃカリカリしおって。まったく、面白い話なら儂も混ぜてほしいだけなのに」

「あ、あの……」

「演技よ演技っ! 絆されるんじゃないわよ!」

 

 しょぼんっと耳が垂れ、その哀愁漂う雰囲気につい私が声を掛けそうになると、ぬえちゃんがガーっと声を荒げて遮ってしまった。

 

「演技とはひどい言い草じゃなぁ。素直な気持ちの吐露じゃろうに」

「ふんっ。聖もみんなも、こいつに甘すぎる」

「んん? おいぬえ、お前さん本当に拗ねていないな? 正体不明にしておらんか?」

「見るなっつーの!」

 

 言い合いを続ける2人を見ながら困り果て、ナズーリンさんをもう一度ちらりと伺うと相変わらず我関せず。黙々とご飯を食べている。

 うう、どうも助けはないらしい。

 私は困りつつもまた言葉をうまく出せないことで落ち込んでいた。

 

 ▽▲

 

「君は、……あー。魔理亞は素直に気持ちを伝えるだけで良い」

 

 君、と呼ぶと悲しそうに表情が曇り、名前を呼ぶとぱっと雰囲気を明るくするこの娘がなんとなく苦手だ。

 声を掛けたのは、ぬえのように少し揶揄ってやろうかという気持ちが最初にあったことを否定はしない。

 

 聖が保護を受け入れた魔理沙の妹、魔理亞。

 口数が多いほうではないが、それ以外で雄弁に感情を伝えてくる変わり者の只の人間。

 幻想郷にいる人間らしからぬ人間。箱入り世間知らずで臆病、だが好奇心が強く、恐れながら触ってみようと手を伸ばす変わり者。

 

「ぬえがまた揶揄ってくるだろうから、素直に自分の気持ちを伝えて、それから聖にでも言いつけると釘を刺せば大丈夫だろう」

 

 命蓮寺の妖怪たちは聖を慕っている。聖の決定に異を唱える妖怪は居ないだろうし、ぬえだって例外ではない。

 まあ禁酒を含めた五戒はご主人も含め、こっそりと破られているのだけど。

 

 だけどあれで妖怪らしい側面が一番強い。面と向かって嫌いだなんて言われたら、きっと魔理亞は恐ろしい目に遭うだろうことは想像できた。

 少しくらいなら聖も目を零すだろう。ぬえにも私にも他のみんなにも、多少のガス抜きは必要だ。

 

「な、なるほど。でも、その、言葉が出ないんです」

「緊張するって言っていたね。それなら最初に大きな声を出すんだ。あとは勢いに任せて思いつくままに言えば良い。大丈夫、なにが起きても聖がなんとかしてくれる」

「お、大きな声ですね」

「うん。そうだ、すこし練習してみたら良いよ。なんでも思いつくまま言ってごらん」

「う、うう゛んっ! あ、あー。よ、よし……っ」

「……喉は気を付けてね」

 

 ひとつせき込み、ぐっとお腹に力を入れた魔理亞が覚悟を決めたようにこちらをのぞき込む。

 長い前髪の隙間からちらちらと金色の瞳が見えて、やはり外見は魔理沙に似ているなぁと何度目かの感想が浮かんだ。

 

「あ、あのっ! ナズーリンさんっ」

「うん、いい調子だ。なんだい?」

 

 他の妖怪たちと比べ、私はあまりこの娘と関わっていない。

 やけに最初から好意的な視線は向けられていたが、同時に恐れも感じている様子だったので、さてなにを言われるものか、と少し楽しみでもある。

 見るからに妖怪を恐れている人間だ。こうして言葉を吐けるだけ勇気がある。

 

「ナズーリンさんは――かっこいいですね!」

「うん?」

「私よりも背が小さくてかわいらしいのに、落ち着いた大人の女性っていう感じでかっこいいですねっ」

「あ、ああ……。ありがとう?」

「寅丸様も頼りにしていますし、みんなから自然と頼られている姿が、その……素敵、です……ぇ」

 

 顔を赤くしてだんだん声が小さくなっていく。

 勢い任せで話していたことがよくわかる。

 

 まいったな。なんだか急に告白を受けてしまったぞ。

 

「……」

「……」

 

 少しの間気まずい沈黙が降りる。

 すっかり顔を赤くした魔理亞がうつむくが、その表情は見えなくなっても耳まで赤いままだ。

 ふむ。私はひとつわざとらしく息を吐き、落ち着き払って立ち上がる。

 そういえば、部下のネズミたちに昨日の報酬を分配していなかったことを思い出した。そうだそうだ、忙しいんだった私は。

 

「私は急用を思い出したから無縁塚に行くよお昼までには戻るからぬえにはその調子で話せれば大丈夫そうだな」

 

 ぱたぱたと振り返ることなく廊下を進んで自室に戻る途中、しっぽに下げたバスケットから部下のネズミがちゅーっと抗議の声を上げる。

 

 うるさいっ、私だって毘沙門天の弟子としての矜持があるんだっ!

 言葉だけで乱されるような妖怪じゃあないんだ!

 

 

 

「お、チビ。こんなところにいた」

「あ……ぬえちゃん」

「ぬえちゃんはやめろって言ってんだろ! ぬえ様って呼びなさいよっ」

「ぬ、ぬえちゃん……」

「が、頑固者めぇ~」

 

 つい、手が空いたので魔理亞の様子を部下を使って探る。

 これは、なんというか。そう、ぬえがやりすぎないように、すこし監視しておこうかと、殊勝にもご主人や聖のために動いてやろうかと。

 

「今日は保護者がいないわよっ。どうしてやろうかしら!」

「あ、あの!」

 

 魔理亞が意を決して声を張り、不快そうに眉を寄せたぬえが「あん?」と小さく声を返す。

 

「あの、ぬえちゃんは……私のことが、嫌いなんでしょうかっ」

「あー? そうね、どうでしょうね」

「うぅ……。あの、ぬえちゃんは、いつも自信があって、すごいです」

「なにー? 急に媚びを売ろうとしているの?」

「その、そうじゃなくて、素直に思ったことを……」

「全然聞こえないんだけど? なによ、はっきり言ったらどうなの」

「うぅう」

 

 最初の勢いはすっかり萎んでしまい、いつも通りの魔理亞になっている。

 ああ、なんだってこんなことも器用にできないんだか。

 はらはらと見守っていると、魔理亞はもう一度顔を上げ、すうっと息を吸うと「あの!」とまた大きく声を出した。

 

「わたしは魔理亞です!」

 

 なんだか見ていられなくなってきた。

 混乱しているのか、なんで今更そんなことを言い始めたのか。

 私と同じように思っているのか、ぬえもすこしびっくりした顔できょとんと魔理亞を見ている。

 

「チビじゃないです、魔理亞ですっ」

「……知ってるけど?」

「うぅ、あの! ……あの、その」

「なに、言いたいことがあるなら言ってみなさいよ。魔理亞」

 

 なんだか少しやわらかい声になったぬえが聞き返すと、もう一度息を吸い込んで魔理亞が声を出す。

 

「た、たくさん構ってくれてありがとう!」

「……はぁ?」

「人間、嫌いなのに、いっぱい話しかけてくれてありがとう! でもあの、上手に返せなくて、ごめんなさいっ」

 

 なんだ、あの人間はなにを言っているんだ?

 おそらくぬえも同じように思っているのだろう。首をかしげている様子だ。

 

「あの、ぬえちゃんは、その。羽とか、きれいな黒い髪とか、すごく可愛いし本当に」

「はっ、はぁあぁぁぁ!?」

 

 私に先ほど告白をした癖に、なんでそんなことを言っているんだ?

 

「だからその、すぐ傍にいると緊張してあんまり喋れないっていうか……。その」

「な、なにを言ってんの? 本当にどうかしちゃったわけ?」

「あ、あの……!」

 

 こちらからぬえの表情は窺えないが、のけ反りながら腕を前にして何かを防ぐようにしている様子は狼狽えているのがよくわかる。魔理亞はもういっぱいいっぱいに目に涙も浮かべながら顔を赤くして、それでもしっかりとぬえのほうを見つめていた。

 

「だ、だから……その……」

 

 だんだん勢いも萎んでいき、けっきょく下をうつむきながらもじもじと数回手を組み換え、ちらりと視線を上げてはまた床を見ている。

 

 その様子はなんだか……。

 

「な、なに……? お前、私のことが好きなの?」

 

 私に告白をした時のようで。

 しかし思い返すと、明確に好意を伝えられたわけではない。

 

「……」

「……」

「……」

 

 なんだかおもしろくない。

 正体不明の感情が沸き上がってくるのは、ぬえに能力を使われたのか。

 

「そ、し、仕方ないわねぇ~。それじゃあお前のこと……」

「やあ魔理亞。私の助言は役に立ったかな?」

 

 ぬえの言葉を遮り、曲がり角から私が姿を現すと魔理亞はなんだかほっとしたような顔でこちらを見て笑った。

 

「な、ナズーリンさん」

「その様子なら、まだまだ練習が必要かな。行こう、お昼も近いし準備もあるだろう」

「突然出てきて何? どうしたのよナズーリン。今こいつは私と話しているんだけど」

「ああ、ぬえ。魔理亞の相手をしてくれてありがとう。あとは任せてくれて大丈夫だから、君は遊びに行って来たら良いよ」

「……んー? もしかして喧嘩売ってるの?」

「いやいや、まさか。仲良くやろうよ、同じ命蓮寺の仲間だろう?」

 

 なんだか自分らしくない行動だ。

 仕事でもない面倒ごとに首を突っ込むなんて、私らしくない。

 

「こいつ、まだ私と話をしているんだけど」

「魔理亞は緊張しいなんだ、許して開放してやってくれよ。聖とご主人からも言われているし、このままだったら私は船長を呼ばないといけない」

 

 おろおろと手を中途半端な位置で構え、困ったように魔理亞が「あの……?」と小さく鳴いた。

 

 ▽▲

 

「……っぷ、あはははは! ああ、おかしい!」

 

 虚空から声が響いた。

 いや、そこには人型があった。

 

 誰の意識にも上らない無意識の中で、少女は一部始終を見て声を隠して笑っていた。

 声を上げているのに誰にも届かない笑い声は、誰もいない廊下で何にも響かない。

 

「なんだか見慣れない人間がいるなぁって思ったら、面白そうなことしてる!」

 

 鴉羽色に黄色いリボンのついた、少しつばが広く頭頂部の丸いボーラーハットのような帽子。肩よりも少し長いセミロングの青み掛かった灰色の髪は癖が強く、ゆるゆるとウェーブを描いている。黄色い生地の上着に緑の襟付き、緑色のスカートはふんわりと重力を無視するように浮かんでいる。

 服装よりも特徴的なのは、紫色の血管のようなものに繋がれた球体。胸のあたりにふわふわと漂うそれはこの少女の種族的な特徴を示している。球体についた瞼のようなものが閉じているという異常性が、この少女特有の雰囲気を象っていた。

 

「魔理沙の妹ねー。変な姉を持つと苦労するわねぇ」

 

 自身の姉を思い浮かべ、踊るように地を跳ねてふわふわと宙に浮かびながらうんうんと頷く。

 感情いっぱいの動きだが、その目には一片の感情も宿らない。

 

「いつかお話できないかな? 聖の傍にいたら、見えるようにならないかなぁ?」

 

 飽きるまで無意識に周囲を漂う少女はそのまま、興味のなさそうな平坦な声で、だけど口調だけはワクワクと跳ねさせながら独り言を続ける。

 

「なんだかシンパシーを感じちゃうわぁ。はやく聖も帰ってこないかなぁ!」

 

 異変の予感を無意識に感じ、うーんっと体を伸ばしながら興味なさそうに、楽しそうに少女は廊下を漂っていた。




命蓮寺の話はたぶん終わり。
次回から章が変わって少しづつ本編の雰囲気が変わると思います。
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