それぞれが準備を終え、ここを出る準備は整った。
この小さな家に誰かがいたという痕跡を全て消して全員が外に出る。
「そういやトライデントはどこに?」
「この小屋の近くに人気の無い所があってそこに置いてある」
場所で言うと──と金斗の右手首に着けられたリストバンドからマップが表示される。
今いる島はAPEXの《ワールズエッジ》と呼ばれるフィールドに似ていた。
そして3人がいる所はマップでいうと中央の左端に位置している。
少しでも早くここを離れ、また新しい所に行こうとした時だった。
ヂュッ───!!!!!!!!!!!!
満月の頬を後ろから1つの銃弾が掠める。
突然の事に金斗と怜菓は戸惑いながらも満月の「小屋に隠れろ!」という声に反応し、駆け足で小屋の中に隠れた。
怜菓を1番後ろに置いて満月と金斗の2人は持っていたアサルトライフルとライトマシンガンを構える。
「金斗さんお前追われてんじゃねぇか!?」
「いや知らんし!?そもそも俺が来た方向、銃弾も来た方向から真反対だったろ!?」
2人で言い合いをしながらも弾が飛んできた方向に意識を集中させる...が...
タァン──!!!!
ボコッ!!!!
次はまた逆の方から銃弾が飛んできた。
幸いにも弾は壁を砕いただけだがこの時点で前後から挟み撃ちにされた事が分かる。
満月は既に持っていたとされる投げ物を弾が飛んできた方に投げると瞬く間に炎の壁が作られた。
投擲武器の1つ、"テルミット"と呼ばれる投擲武器だ。
炎の壁が出来ている間に金斗は満月にアイコンタクトをしてトライデントのある所へ走り、満月は怜菓の手を引いてその後を着いて行く。
幸いにもすぐ近くにあった為か、見付けた金斗が運転席に、満月と怜菓が前方の左右にある空きスペースに乗るのを確認してトライデントを走らせた。
◇◆◇◆◇◆
誰もいない道を1台のトライデントが走っている。
「っぶねー...」
「さすがに今のはヒヤヒヤしたぞ...」
満月は金斗に運転を集中させて自身でトライデントの左側を、怜菓に右側の警戒をそれぞれしている。
怜菓も多少先程の強襲の恐怖が残っていながらも敵がいるかどうかを見ていた。
「さすがにもう追って来てない...よね?」
「弾を撃つ音がしてない所、多分大丈夫かと...」
怜菓の言葉に満月は安心させる返しをして、だよね?と一気に緊張感から解放されたのか、はあぁ~...息を吐きながら自分の乗ってるスペースに座り込む。
「暫くは乗ったまま安全第一で動こう。変に降りて撃たれるよりかはこのまま早く移動した方が狙われにくいだろうし」
「そうだね...」
「さんせーい」
満月の提案に2人が同意する。
するとここで怜菓がある事に気が付いた。
「そういえば2人はなんでお互いに私が怜菓って事も、お互いに私のリスナーの事も気付いたの?」
怜菓のそんな質問に2人は、え?と言うような表情をする。
金斗が運転してる為、満月が振り向くと何かに気付いたのか、あぁ...と声を漏らす。
「...怜菓さん、リストバンドのボタンの1つに歯車の絵が描かれてるボタンありますよね?」
「え?あー、これ?」
怜菓が確認してもらう為にリストバンドを見せる。
「それです。それを押すと設定画面が目の前に現れるのでそれで設定出来ますよ」
怜菓が試しに押してみると見慣れた黒く半透明な画面が現れる。
その中に【配信モード】という項目があり、それをオフにしてみると、すぐにコースティックとパスファインダーの頭上に"金斗"と"満月"の名前が表示された。
(というかすぐに気付こうよ...私...)
今更ながら穴があったら入りたいと思う怜菓だった...
◇◆◇◆◇◆
トライデントを動かしてしばらく経つ。
突然金斗がとある建物の前でトライデントを停めた。
「どうした?」
「いや、ちょっと休憩」
そう言うと金斗が運転席から出て伸びをする。
その間に満月はマップを表示して今の位置を調べていた。
怜菓達3人は謎の襲撃から逃げ出し、そのままほぼ真横に移動していた。
その間は襲撃は無かった為、程よく他プレイヤーはバラけていたのだろう。
ある程度状況を把握してると金斗が戻って来た。
「さて、行くか」
「おう」
金斗がすぐにトライデントを走らせる。
その際に満月が金斗を見る。
『金斗』
『大丈夫。気付いてる』
金斗も満月が言おうとしていた事が分かっているようでチラッ...とバックミラーを見る。
その後ろには遠くでオレンジ色の半透明で波打っている壁がジリジリと迫っていた。
APEXには安全地帯と呼ばれる地帯がある。
毎回のマッチで必ずランダムに生成される行き来の出来る壁であるがその壁の外に出ると無条件でダメージが入ってしまい、最終的には死亡、3人がその時点で倒れてしまうとゲームオーバーとなる。
この壁は狭まる距離が決まっていて最初に壁が出来た時に第1フェーズが始まる。
その後カウントダウンが始まり、0になった時点で壁は徐々に狭まってくるが、狭まる範囲は決まっていてその範囲に来るまでが第1フェーズとなっている。
そしてその距離までその壁が狭まるとすぐにまた新たにカウントダウンが始まり、安全地帯の場所がまた少し狭まる。
それを繰り返して3人の生き残りを決めるのがAPEXのルールだ。
その壁がバックミラー越しに見えているが今の所は動いていない。
恐らくまだ狭まり始めるカウントダウンも0になっていないのだろう。
それを好機と見て少しでも安全地帯の中心に進んでいく3人。
このまま安全に行ける────そう思っていた。
突如としてトライデントが止まった。
それと同時に3人の身体に痛みが走る。
「なっ...!?」
「ぐっ...!」
「いたっ!」
3人は痛みに顔を歪めながらも満月はすぐに飛び降りて向かいにいる怜菓の手を取って建物の中に急ぎ、金斗もそれに着いて行く。
トライデントは金斗によって止まった訳では無い。
何者かによって止められたのだ。
建物の奥に進み、壁に隠れる。
相手はすぐには追って来ていないようだ。
「チッ...狙われたか。トライデント目当てかそれとも──」
どちらにしろここでようやく撃ち合いが始まってしまうのか...と3人に緊張が走る。
トライデントはこのゲームの中では1番スピードの出る乗り物だ。
故に敵の撃った弾にも当たりにくいから逃げやすい。
が、それでも弱点はある。
投擲武器の"アークスター"と呼ばれる、見た目は3本の鍵爪がある手裏剣だがこれのみがトライデントを強制的に停められるのだ。
そしてアークスターには爆発する性能もある。
その爆発が先程3人の身体を痛め付けた正体だ。
おそらく近くにいた敵が待ち伏せをして通り過ぎると同時に投げたのだろう。
戦闘になる可能性が高い為か、満月の指示で怜菓と金斗もアサルトライフルのセーフティを解除する。
パリン!
上から窓を壊す音がした。
既にこの建物内に入られている。
だがその人数は不明なままだ。
敵チームの全員が上から侵入してくるのはほぼ無いだろう。
2階と1階、前と後ろ、どこから来てもおかしくは無い。
「怜菓さんは俺と2階を、金斗は毒ガスで侵入を防いでくれ!」
「分かった!」
「いや待っ───!」
金斗が2人を止めようとしたが2人の耳には入ってなかったらしい。
満月は残っていたテルミットを前方のドアの前に投げ、怜菓を連れて2階に駆け上がる。
そこには牙の模様がデザインされたマスク、腹筋が丸見えの緑色のベストと、緑の主張が強いキャラ、APEXの"オクタン"と思われる男性キャラが息を荒くして持っているライトマシンガンを構えていた。
「こ...こいつらを倒せばようやくこのイカれた世界から抜け出せる可能性が見えてくるぜ...おいお前ら!持ってる武器を捨てろ!じゃねぇと2人とも殺すぞ!!!!」
そう言いながら天井に銃口を向けて何発か撃ち、威嚇射撃をする。
相手は武器を持とうが捨てようが恐らく...いや、間違い無く撃ってくるだろう。
ならその脅しを聞く必要は無い。
満月は怜菓を下がらせてアサルトライフルを構える。
だが────
相手のオクタンは「ニィ...」と笑みを見せ、左手で白いランチャーを構えると自身と満月達の間を目掛けて撃った。
その瞬間、2階が白い煙で覆われた。
「えっ...!?」
「...なっ!?」
今、オクタンは何をした?
必死に思考を巡らせているその時だった。
「きゃぁっ!!!!!!!!」
満月の横で痛みを訴えるかのような短い悲鳴が聞こえ徐々に煙が晴れていく中、2人の人影が見える。
そしてそこには────
腹を抑え蹲る怜菓と、その頭に銃口を向けて立っているオクタンがいた。
◇◆◇◆◇◆
「怜菓さん!!!!」
「動くんじゃねぇ!黙って武器を捨てろ!」
オクタンが腹を抑えて蹲る怜菓の頭に銃口を押し付ける。
今動けば間違い無く怜菓の頭を弾丸が貫通し倒されてしまう。
ここでチームの1人を失ってしまうのはかなりの痛手な上、倒されても元の世界に帰れる保証の無い今は────
────ガシャン
黙って従うしか無い満月は銃を手放した。
「へへっ...そうだそれでいい...悪ぃな。俺もこの世界とはおさらばしたくてよ...俺達が元の世界に帰る為に犠牲にならなきゃいけなくなるのは同情するけどこれも運命って訳だから諦めてくれや」
そう言いながらコツコツと銃口で怜菓の身体を軽く叩くオクタン。
だが満月はある事に気付く。
「お前、先程の口調からしてここの事は知ってるみたいだな?」
「ん?あぁ、チィとな...ま、武器は捨ててるし、仮に動こうとしてもこっちには人質がいるんだ。少しは説明しといてやるよ」
そう言うとオクタンは語り始めた。
彼が言うにはここはAPEXに酷似しているが正式にはAPEXでは無い、という。
言うなればAPEXのコピー品。
聞こえはいいだろうがその実態は未だ掴めず、目の前の彼が率いる部隊は前回も負けてしまいここに取り残されたらしい。
そして1位を取った者達だけがここから姿を消したという。
「なるほどな...」
「ま、俺達はゆっくり1位を取ってやるからお前らはその土台になってくれ」
オクタンが引き金を引こうとしたその時だ。
「なら俺も一言言わせてもらう」
「?なんだよ?今になって命乞いか?」
「あぁ───、俺達もまだ諦めてないって事だ!」
その直後、ガチャン!!!!と金属同士がぶつかり合う音が響く。
オクタンがその音のした方を見てみると自身の手にはもう銃は無く代わりに、立ち上がり銃を振り降ろした怜菓がいた。
そう、怜菓は途中で立ち上がり、オクタンが満月に意識を集中している時に持っていたアサルトライフルを振り下ろしてオクタンの持っていたライトマシンガンを手から弾いたのだ。
そしてオクタンの手から離れたライトマシンガンは部屋のすみに飛んでいった。
「っ!テメェ!!!!」
オクタンが持っていたポーチからナイフを取り出そうとするがそれを察知していた満月は持っていたアサルトライフルを彼の腕に向けて一発放った。
「ッぐあああぁぁぁあああ!!!!!!!!」
オクタンがこのまま何も無しに帰るとは思えない為、満月は怜菓から引き離して距離を詰め、殴り倒す。
「まっ...!待って!!!!本当に待って!!!!!!!!」
殴られて倒れたオクタンがすぐに両膝を付いて両手を上げ、降参の姿勢を取る。
「悪かった!!!!お前らを狙ったのは悪かったから今は見逃してくれ!!!!」
「急に襲ってきた奴の言葉をどうやって信じろと?」
「仕方ねぇだろ!俺だって少しでも早くここから出たかったんだよ!!!!なら確実に倒せそうな相手から狙うしかねぇだろ!!!!」
俺が間違った事言ってるか!?と言わんばかりにオクタンは声を荒らげる。
だがこの時点でこのゲームの中で倒されるとほぼ確実に帰れなくなると満月は気付かされる。
「けど俺はまだお前の仲間を倒しては無いだろ!?な!?ここは穏便に済ませてくれよ!!!!」
立場が変わった途端、急に命乞いを始めるオクタン。
こんな奴の命令に従ってたのか...とため息が出て銃を降ろし、下にいる金斗と合流する事を考える。
────────いや駄目だ。
このオクタンが言ってる事が事実であればこの世界で倒されたらこの世界に囚われたままになる可能性が濃厚になる。
故に...満月は再びアサルトライフルを構える。
─────カチャ。
そう、倒す以外の選択肢は無かったのだ。
「............え...?」
その行動にオクタンも一瞬自分が何をされるのか分からなかった。
だが満月が弾倉に弾を送った瞬間、全てを悟る。
「待って!!!!!!!!!!!!頼むから本当に待ってくれ!!!!!!!!悪かった!!!!!!!!本当に悪かったから見逃してくれ!!!!!!!!アイテムも全部渡すしここの世界の事も知りたい事も全部教える!!!!だから─────!!!!!!!!!!!!!!!!」
正直、ゲームであってもそれが現実世界に直結するならここで見逃すという行動に対してのメリットは微塵も無い。
すまない─────
そう心の中で謝罪し、トリガーを引く。
「止め───」
全てを言い切る前にオクタンの頭を1つの銃弾が貫通する。
そして彼の額から赤い血が幾度となく滴り落ちて血の水たまりが出来る。
目は焦点を無くして倒れると1ミリも動かなくなった。
◆◇◆◇◆◇
オクタンは倒れ、シュン!と本体が消えるとそこには彼が集めていたであろうアイテムを収納しているボックス、"デッドボックス"と呼ばれる直方体の箱が残っていた。
画面越しであれば意気揚々とアイテムを漁っていただろうが今この状況でそんな気にはなれなかった満月は何も取らずにそのボックスから離れていく。
「...大丈夫...?」
「一応は...」
満月はそのボックスを一瞥し、怜菓を連れてその場から離れ、1階へと歩く。
1階に降りるとそこには2つのボックスと、寛いでいるコースティックの金斗の姿があった。
「そっちも終わったみたいだな」
「まぁな...というか終わってたんなら来てくれよ...コースティックなら────」
「それなんだけど結構このAPEXみたいなゲーム、色々と厄介になりそうだし、そこら辺は先に移動してからだな」
金斗の言葉に2人は頷き、再びトライデントに乗り込むと金斗の運転でその場を離れるのだった。
これ連載終わったらまた新しいの書き溜めておこうかな…
感想等もお待ちしております♪
ではまた来週~♪