無限の成層圏 虹になった男   作:syunin

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 お待たせしました。



十三話

 

 私のプラズマ手刀をブレードで受け止められる。

 ISの出力は此方が上、そのまま押し込もうとすると器用にするりと抜けられてしまった。

 軍人としての私が言う、相手の方が技量が上、まさしく格上の存在だと。

 しかし、私人としての私が否定する。この男は技量が高いが決してあの人には及ばないのだと。

 突き放された先を予測、レールカノンが火を噴く。

 しかし、まるで分っていた様に回避。相手のレーザーが飛んでくる。

 回避。しかしちりばめられたそれは私の退避先を予測し足をかすめた。

 違う。

 違う違う違う違う違う違う違う違う!

 決して、決して!

 ────この男は織斑教官と同格ではない!!

 

 「いい加減当たれ、英国人!」

 

 ワイヤーブレードを射出。進行方向から回る様に飛ばした。

 それを急停止で回避するシャア・アズナブルにレールカノンの照準を合わせる。

 しかし、少しスラスターを吹かすだけで簡単に避けられてしまう。

 ええい、我慢の限界だ!

 

 「例え誰であれ、この停止結界の前では無力!」

 

 エネルギー波を調整、目の前の男に意識を合わせる。

 

 「噂のAIC、停止結界か」

 

 そしてシャア・アズナブルにエネルギー波が重なる直前。

 

 「どれ、ではAICの攻略法をお見せしよう」

 

 瞬間、シャア・アズナブルの姿がぶれる。瞬時加速だ。

 瞬時に移動先を予測しエネルギー波を送ろうとすると、そこには何も姿が無かった。

 

 「なに、消え……!」

 

 後ろから斬り掛かられるのを無防備にくらってしまう。まさか、個別連続瞬時加速!?

 そして後ろに振り向くと、もうそこには男の姿はなかった。

 

 「こうやって一度裏を取れば容易く逃れられる」

 

 また後ろから衝撃。三度目はないと周囲を見渡すもその姿は捉えられもせず。

 三度衝撃、今度はレーザーだ。

 振り向いた先に奴がいた。今度は逃がさない。

 しかし、捉えようと思っても捉えきれない。スラスターを吹かし、切り返し、またスラスターを吹かしたと思ったら今度は急停止。

 ……エネルギー波で捉えきれない!

 

 「AICの照準は視覚に依存している。正面に立っていたと言え、視覚で捉えきれなければ無力だ」

 

 相手は機動しながら此方への攻撃も忘れない。それを避けるのに手間取りまた相手の姿を逃す。

 瞬間、相手が此方へ瞬時加速を使う。まずい、この距離では……しかし!

 

 「そしてこうも近づけばAICは使えない」

 

 「そう来ると思ったぞ!英国人!」

 

 直線上に近づくシャア・アズナブルにワイヤーブレードを再度射出。今度は逃げきれまい!

 しかし、六本のワイヤーブレードは相手のブレードにすべて斬り落とされてしまう。

 

 「なっ……!」

 

 「ワイヤーブレードか。あるとわかっているのならわざわざ中りはすまい」

 

 即座にプラズマ手刀を展開、右手をすくい上げる様に放つがそれを袈裟斬りの要領で突き通される。

 今度は左手を振り上げるも、左逆袈裟斬りで振り払われてしまう。

 がら空きになった私の胴体。三度斬りつけられ、最後に蹴りを食らい機体が大きく離れる。が、これは好機。

 すぐさま機体を立て直すと目の前には少しも動かないシャア・アズナブル。

 即座にエネルギー波で捉え……きれたぞ!

 

 「馬鹿め、調子に乗りすぎだ!」

 

 「最後に、これは我々の機体だからできる事だが……」

 

 レールカノンを照準。すぐに終わる。

 音速で放たれたそれは、一切ぶれずシャア・アズナブルの胸元に……直撃する前にレーザーに叩き落される。

 まさか!?超音速の弾頭だぞ!?

 しかし無情にも飛来元を確認するとBITが佇んでいた。

 

 「そもそも我々にはBITがある。だから機体の動きを止められても攻撃は可能だ。それも四方からのな」

 

 すでに四方に展開されたBITが攻撃を開始する。

 英国娘のそれと違い、より洗練された攻撃が私のシールドエネルギーを削っていく。

 最早AICは作動していない。にもかかわらずシャア・アズナブルは棒立ちのままBITで攻撃を加えてくる。

 

 「さて、攻略法はお見せ出来たかな」

 

 「化け物め……!」

 

 ふと攻撃が止み、私はシャア・アズナブルを睨みつける。

 ワイヤーブレード損失、リボルバーカノン弾数半分。

 しかし、中てられる未来が見えない。

 重くのしかかるような重圧が、私の体に付きまとう。

 

 「……ではそろそろ、詰めと行かせてもらうか」

 

 そしてなんて事の無いようにその男は言った。

 瞬間、BITの攻撃が再開する。

 雨霰の様なレーザーは本人からも絶え間なく注がれてくる。

 ────逃げ場が無い。

 私が、負ける?

 この戦うしか取り柄のないこの私が。

 織斑教官に救われた私が。

 ────軍人の私が。

 それでは駄目だ。

 鉄の子宮から生まれた子の私が、その存在意義を。

 絶対に奪わせてはならない!

 

 『願うか……?』

 

 願う。

 

 『汝、自らの変革を求めるか……?』

 

 求める!

 

 『より強い力を欲するか……?』

 

 欲する!!

 この空っぽな私に、唯一無二の生きた証を示せるのなら。

 だから……その絶対的な力を、私によこせ!!

 

 Damage Level(損傷状況)......D-.

 Mind Condition(精神判定)......Uplift(良好).

 Certification(判定)......Clear(認証).

 

 《Valkyrie Trace System............》

 

 《V》

 

 《VVVVVVVVVVVVVVVCCCCCCCCAAAAAAAAAAAAAAAA》

 

 《Type-C.A Trace System》on line(起動中).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うおおおおおおおおっ!!」

 

 瞬間、ボーデヴィッヒが絶叫を上げ彼女の駆るISから紫電がまき散らされる。対峙する私のBITが弾き飛ばされ使用不能になった。

 まだ奥の手を残していたのか?そんな思いと裏腹に、ボーデヴィッヒは制御を失っているように見えた。

 ボーデヴィッヒのISはすでにその形をとどめることなく、崩れ、変形していく。

 そのままボーデヴィッヒの全身を飲み込んでいく闇の流体は、私の知るISともましてやMSともかけ離れていた。

 私はすぐさま織斑先生へと通信を試みる。

 

 『織斑先生、これは?』

 

 『まて、様子がおかしい……』

 

 思っている以上に大事になっているらしい。再度私は織斑先生に聞いた。

 

 『目の前の状況、ボーデヴィッヒの状態はどういった事なのでしょうか』

 

 『ヴァルキリー・トレース・システム……いや違う。これは見たことが無い!』

 

 その名前は聞いた事がある。確か条約で禁止されていたはずだが、それとも違う……?

 

 『Type C.A……?聞いた事が無い。どういうことだ、まさか束!』

 

 口に出された言葉に思わず笑ってしまう。まさか、次は私の番とは思いもよらなかった。

 

 『C(Char).A(Aznable)、と……どうやら猿真似をされるのはアムロだけではないようだ』

 

 『何を……待て、あのIS形状は暮桜だ!しかし動きは……』

 

 目の前の機体が姿を晦ます。瞬間、背後からプレッシャーが。

 回避には成功したが、プロト・スターライトを斬り捨てられてしまう。

 

 『あれの標的は私の様です』

 

 『此方でお前のISの状態はモニタリングされている。シールドエネルギーはともかく、関節部、特にスラスターの消耗が激しい。その状態で戦うなど……』

 

 『この前言ったはずです。出たからには────』

 

 主武装はブレードのみ、BITすべて脱落、機体の状態は不良、それでも。

 

 『────全て撃墜(おと)してみせる、と』

 

 相手の横なぎをブレードを立てる様にして受け止める。出力の差が大きく、私の機体は横に吹き飛ばされた。

 辛うじて機体を立て直す。この程度の機体性能差であれば問題ない、いける。

 

 『アズナブル!』

 

 織斑先生の声が聞こえてくるのを、意識からシャットアウトする。

 それと同時に、相手が踏み込んで来た。

 袈裟斬りを刃の上を滑らすようにそらす。まともに受け止めると間違いなく押し込まれる。

 そのまま二撃、三撃とそらしていく。相手に攻めさせてはいけない、此方から攻めて戦いを主導する。

 一度大きく離れそのまま高速機動に突入。相手が追撃してくる。

 大きく振り上げられた太刀を瞬時加速で避ける。そのまま個別連続瞬時加速を使用、相手の側面から斬り込んでいく。

 三度の斬り結びでは鍔迫り合いは起こさせない。出力が違いすぎるのだ。

 しかし、ここまで見せてきた動きには不審な点がいくつかある。

 先ず、相手は瞬時加速を使ってこない。

 先程の個別連続瞬時加速の際、相手がついてくることを前提として行ったのだが結果は回り込むことに成功した。

 次に相手はかの織斑先生が駆っていた暮桜を模している事だ。

 相手は間違いなく私の動きをトレースしている。ならばブルー・ティアーズになるだろうにそうはならなかった。

 そして何より、動きがMSに酷似している。特に、私がサザビーに乗っていた時期の動きに。

 ────まさか、相手はサザビーを知っている?

 これはボーデヴィッヒがではないだろう。相手はボーデヴィッヒのISに何かプログラムを仕込んだ奴だ。

 斬り結びはすでに七回を経ている。相手の動きも大体把握した。

 先程織斑先生が言っていた束と言う人名、その相手はさすがにわかる。

 八度目の立ち合いを経て私は仕留めにかかる。しかし、そのタイミングで事は起こった。

 左腕から異音がする。どうやら左腕関節部は使い果たしてしまったらしい。

 

 『左腕関節部損傷レベルE!アズナブル!このままではお前が────』

 

 「────ええい、邪魔だ!」

 

 私は左腕の装甲をパージすることで対応する。勝負は次の一合いに掛けた。

 縦に回転するように上空で転回すると、そのまま降下しながらブレードを構える。

 瞬間、後部スラスターが爆散。それも推力に変える。

 そのまま私はブレードを振り上げ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、ニュータイプの感応かと疑った。

 しかし、謎の光に包まれたこの空間は私の知らない物だった。

 むしろ、これは……ISコアが、反応している?

 

 「何故だ……」

 

 声の方向を見ると、そこにはボーデヴィッヒがいた。これは彼女と私の空間なのか。

 

 「何故そこまでの強さを得た!何故!貴様が!!」

 

 まるで子供の癇癪の様に喚き散らすボーデヴィッヒ。彼女も現状を深くは理解していないのだろう。

 その姿にはいっそ哀れみすら抱いてしまう。しかし、諭すように私は口を開いた。

 

 「強さとは、力の大きさを示すものではない。ましてや怒りや悲しみから得るものでもない」

 

 「だったら、何故だ!? 私は、私はずっと……!」

 

 ボーデヴィッヒの身体からほとばしる漆黒のオーラ。ヴァルキリー・トレースがもたらす模倣された革新(・・・・・・・)は、まるで彼女自身の迷いを具現化したかのようだった。

 

 「……心の迷いは、簡単に晴れるものではない」

 

 「私が、迷う……?」

 

 「君の求めたものは理解できる。私もまた、力を以って理を変えようとした人間だ。しかし……」

 

 私はボーデヴィッヒの目をしっかりと見つめ語り掛ける。

 

 「私は確かに、暖かい光に包まれた。人は容易に大義を口実にして、自分自身から目を背ける。それは私も同じだった」

 

 「では、お前はどうやってそこまでの力を手に入れた?そしてなぜそうまでして力を手に入れてまで変わらぬ生活が出来る?お前は何かをなそうとはしないのか」

 

 

 「そうだな、私の場合は……」

 

 少し逡巡し、答えた。

 

 「時間が私に力を与え、時間が私の心を癒した」

 

 「時間……」

 

 陳腐な答えだが事実だ。宇宙世紀での過密な戦闘が私に力を与え、この世界での穏やかな日々が私に考え方を変えさせた。人は何時しか革新を迎える。そしてそれを期待(・・)する。それは宇宙世紀には考えられなかった思考だ。

 

 「嘗ての失敗を経て私は実感した。本当に必要だったのは隣で信頼できる仲間(アムロ)だったと」

 

 「信頼できる、仲間」

 

 「君にもいるだろう、大切な仲間が。そら、見えるぞ」

 

 そして、空間は加速する。それはコアのネットワークを逸脱し、我々を未知の領域に連れて行った。

 

 「君にも、刻が見えたかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が気付いたころには目の前の異形の機体を斬り裂き、ボーデヴィッヒを無意識に引きずり出していた。

 

 「あれは……一体…………」

 

 「夢現の様なものでも見たのか、ボーデヴィッヒ」

 

 両手に抱えるボーデヴィッヒが呟く。

 

 「いや、今はもう何でもいい。シャア・アズナブル、お前は私の────」

 

 ボーデヴィッヒは言い切る前に力尽きた。見たところ息もしている、疲れて眠ってしまったのだろうか。

 

 『アズナブル!』

 

 織斑先生からの通信が入った。どうやらお怒りらしい。

 これ以上怒らせることもないとピットに戻ると、織斑先生、それから担架を持ってきた救護班が待っていた。

 救護班にボーデヴィッヒを渡し、ISを待機状態にしようとしてできない事に気が付く。どうやらダメージは思ったより重いらしい。

 仕方なく全面装甲を展開しそのまま降り立つと、つかつかと織斑先生は歩いてきた。

 そして、パシンと音が響いた。織斑先生の平手打ちが私の頬に突き刺さる。しかしそれは、いつもの出席簿の攻撃と比べたらとても弱く感じた。

 

 「無断での戦闘続行!機体ダメージを厭わない特攻じみた攻撃!!貴様今日で何度死にかけたと思っている!!」

 

 胸ぐらをつかまれながらの叫び声に、思わず私も思考が停止する。

 

 「もう……これ以上私の生徒が危険をさらす姿を見せないでくれ…………」

 

 織斑先生の瞳から涙がこぼれ落ちる。そこで私は漸く、自らを犠牲にしたことを叱責されているという事に気が付いた。

 そうか、私は心配されている。

 涙を流す織斑先生の顔が、何故だか無性に美しく感じた。

 





 二巻分は後はエピローグで終了です。
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