よろしくお願いします。
目覚ましの音が部屋中に鳴り響く。
目覚ましを素早く止めて、茶髪のダブルシニヨンをした長女が眠気眼を擦り大きな声で「Good morning!オハヨーゴザイマース!」と挨拶した。
その声に驚いたのかヒェー!という声が聞こえる。
それに対し聞いた眼鏡をかけた黒髪ショートのすぐマイクチェックする四女が「比叡姉さま、うるさいです。」とヒェー!と叫んでいる茶髪ショートの料理が兵器になる次女に言った。
次女はヒェッ!と言って黙った。
少しして起きてきた黒髪ロングの大丈夫な三女が「おはようございます」と皆に挨拶をする。
金剛型の朝はいつもこの様に始まる。
さて、そんな起床を済ませた金剛は軽く伸びをするとキッチンへ向かった。
といっても食堂のキッチンではなく、部屋に備えつけられた方のキッチンに。
昔は部屋にキッチンなど無かったのだが、提督による生活空間向上の一環として設置されたのだ。その為金剛は食堂のキッチンより提督の愛を感じるとかなんとかでこっちのキッチンを使っている。
金剛はキッチンに立つと鼻歌を歌いながら手際よく料理を作っていく。
(提督、喜んでくれるカナー?)
そんな純粋な心を持ちながら、作った料理を手際よく弁当箱に盛り付けていく。こんなに可愛い金剛にここまで想いを込められたお弁当を食べる人はよっぽどの果報者だろう。
そんなこんなしていると時刻はまもなくマルナナマルマル。
朝食を済まし、お弁当を完成させた金剛は嬉しそうに執務室へ向かった。
そう、今日は秘書艦としての仕事、その初日だからだ。
(今日は提督と一日中together出来る日デース!今日こそ提督にはワタシにメロメロになってもらいマース!)
そんな事を考えながら金剛は執務室のドアを開ける。
今日こそ提督と仲良くなる。今日こそワタシに惚れさせて見せる。
今日こそ……と。
執務室のドアを開けると、長身痩躯、俳優を思わせるような顔立ち、清潔感のある身だしなみをした金剛の想い人、件の提督はいつも通り机に向かい、椅子に腰かけて真剣な顔で仕事をこなしていた。
金剛はその提督の顔を見て、提督への感情が大きくなるのを感じた。
しかしいつまでも眺めている訳には行かない。金剛は提督の顔を見つめるのをやめて挨拶をする。
「シツレーシマース!金剛デース!提督、今日はヨロシクオネガイシマース!」
「こちらこそ。本日はよろしくお願いします。」
瞬間、金剛に電流走る。
先程まで真顔で仕事に真摯に当たっていた提督が自分の声を聞いた途端手を止め、目を見て、少し微笑みながら、優しい声色でそう返してくれたのだ。ちゃんと自分を見てくれている、認識してくれている、そういった嬉しさが込み上げてきて、今すぐにでも提督に抱きつきたいと思ったが、時間と場所を弁える彼女はぐっと踏みとどまったが、少しだけ顔が溶け、頬が赤らんでいる。可愛い。
「Wow!この量いつもやるんデスカ?提督は忙しいデスネ……。だけど今日は私がイマース!私の実力、見せてあげるネー!」
このままだと溶けてしまいそうな自分を鼓舞する意味も込めて、彼女は一層元気な声でそう言った。
「それで提督ぅー!ワタシは何をすればいいデス?」
「そうですね……ではこれらの遠征報告書の資源の収支と出撃報告書の支出をこちらの帳簿への転記をお願いします。」
「Yes!私の実力、見せてあげるネー!」
そういうと金剛は課せられた仕事を黙々とこなしていく。
脳内では「提督に頼りにされてる!」であったり、「早く終わらせて提督と……」だったりと、喜びと欲望が混ざり合っている。しかし流石は高速戦艦、驚くほどに素早く仕事をこなしていく。
本人曰く「提督へのLove Powerがあればこれくらいのtaskは朝飯前ネー!」だそう。
そして時は進み現在ヒトフタマルマル、ちょうど昼時の時間、普通なら一日はかかるような仕事を金剛は終わらせた。金剛は提督の仕事が一区切りついたのを見て持ってきたお弁当箱を
「Lunchの時間デース!提督はまだ食べてないデスヨネ?それなら私がmakeしたLunch boxがあるので一緒に食べマショー!」
と言いながら提督に差し出した。
それに対し提督がお礼を述べると、金剛はまた頬を赤らめた。可愛い。
提督がお弁当を開き、金剛特性の卵焼き(ハート)が中央に出てくる。
それを見た提督が少し驚いたような表情をしたのを見て、金剛は自分の心が満たされていくのを感じた。
(提督驚いてマスネー!ワタシお手製のJapanese omelette、しかもハートでワタシのLoveを込めたLunch boxに!)
提督が箸を持ち、卵焼きに手を伸ばす。
その一連の動きを見て金剛はさらに気持ちが暴走しそうになる。
すでに心の中で考えていることが小声ではあるが、漏れ出しているし、体もくねくねと左右に揺れている。可愛い。
提督は卵役を口に入れ、咀嚼する。
そして上原が驚いたような顔をすると、金剛は提督に飛びつきたくなった。が、ギリギリ残った金剛の理性が、それにストップをかけた。
そして提督が次の料理に箸を伸ばそうとした時
箸が、落ちる
提督が、倒れる
それを見ていた金剛は、何が起きたかわからなかった。
数分か、数秒か、どれほど立ったか分からないが、金剛はすぐに提督の安否を確認した
「提督、提督!ドウシタノ!提督!返事をシテクダサイ!提督!」
(どうして、どうして提督は倒れたノ?狙撃ではなさそうデス。寝不足デショウカ?または考えたくはナイデスガ……アレルギーとかあったりシマシタカ?昔聞いたことがアリマス、アレルギーの物を食べさせるのはpoisonを盛るのにequalダトカ……)
「そんな分けないデスヨネ!?提督!」
金剛が必死に声をかけるも、提督が起きることはない。
「そ、そうだ、とにかく提督を部屋にcarryしないと……」
金剛はそう言い、提督を寝室に運ぶべく提督を抱き上げる。
そのときに提督の肌に触れて、金剛は気付いた。
「提督、体が熱いネ……ワタシが、ワタシが提督のアレルギーとか確認しなかったカラ……」
金剛は自分に対し怒りを覚えたが、目の前の提督を見て、提督に対する申し訳ないという気持ちで心がいっぱいになった。
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ………」
気絶している提督にその声が届くはずがなく、只々部屋の中に消えていく。
明かりの付いていない部屋で、窓から差し込む光が茶髪ダブルシニヨンの少女を照らす。
暗い部屋の中で照らされる少女の横顔は美しく、幻想的だ。
見る人が見ればその横顔に惚れ込んでしまうだろう。
しかし彼女の目元は赤く、涙の後があり、何かがあったことがわかる。
そしてそんな状況に居合わせた男……
というか、この部屋の持ち主が一人。
そしてその男がこの状況を見てどう思っているかというと……
何故金剛がここに!?
いや倒れた状況的に金剛が俺をここに運んだのであろうからわからなくはないが、ないがいないでほしかった!
今この場面を誰かに撮られようものなら一発でクビだ!
いや、クビならまだマシだ、最悪これを弱みとして俺のことを脅すような奴が現れるかもしれない!
しかも泣いたような涙の後まであるし、実際布団も濡れている、最悪だ。
客観的に見たら部屋に女性を連れ込んだ挙句、泣かせるようなことをしたクソ男じゃないか!
クソッ、今すぐこの部屋から逃げ出し……いや駄目だ、金剛が部屋にいる時点で状況は変わらない。何とかして金剛を部屋から出さねばならない。
幸い俺の服装は軍服のままだし、手袋もしている。金剛を運ぶことくらい……。
いや、俺が金剛を抱えながら艦娘寮に行くって駄目じゃね?
クソッどうすればいい!どうすれば、どうすれば!
「んぅ……提督、提督ぅー、死んじゃダメデス……」
え、何?起きた…わけではなさそうだな。
良かった安心した。安心できる状況じゃないけど
は!?
今なんて言ってた!?
死んじゃダメ、死んじゃダメって言った!?
何故だ!?俺のことを毛嫌いしている金剛がなぜ俺の生命の心配を!
金剛の心意を考え始める上原。
いつもなら全く的外れな考えをする上原だが、これでも成績に関しては常に上位、決して馬鹿ではない。
今まで「ありえない」と考えてきた事実に気付き始める。
まさか、いや、いやありえない。ありえないんだよそんなことは!
あるはずがない、そんなことが!
正確には気付いていた。理解していた。しかし目をそらしてきた事実。
理解したくないとしてきた事実。
到底受け入れられないとしてきた事実。
落ち着け、落ち着け、考えろ、どうせ嘘だ騙されるな!
それはない、ないはずだ。そうだ、きっとほかに理由があるはずだ!
そしてその事実から逃れようと他の理由を探す……が、上原はすでに理解している。
その「事実」が最も可能性が高く、他の可能性がほぼ0%に等しいことに。
上原から見た金剛のイメージは「俺のことを毛嫌いする艦娘達の筆頭」
しかしそれはあくまでも「そう思いたい」から付けたイメージでしかない。
上原は薄々気付いていた。金剛が部屋に突入してきたあの日から。
何故ならあの日部屋に突入してきた金剛の目からは”涙”が流れていたから。
クソ、何故だ!思いつかない、思いつけない!
こんなありえない考えしか思いつかない!
だが、ありえないはずなんだ!
金剛が、金剛が……
金剛が俺を好いているなんてありえるはずがない!!
あの日突入してきた艦娘達に上原は何もできずに負けたと思い込んでいる。
しかし事実は違う。実際は金剛の涙を見て、一瞬ためらったのだ。
よくよく考えれば現役自衛隊員である上原が、近接戦おいて艦娘に劣るわけがない。
なのにあの日負けたのは金剛が何を思っているかを直感的に理解してしまったからだ。
だが上原はそれを拒否し、考えないようにした。
なぜなら彼は”極度の”女性恐怖症であり、女性恐怖症になった経緯が、上原に金剛の思いを”ありえない”とさせていた。
しかし目の前の事象が、金剛の行動が、上原の”ありえない”を壊した。
だって女性は、彼女らは人を騙す、裏切る、蹴落とす、人の思いを踏みにじる、ありえないんだ!
俺の友達は財布を盗られ、俺の父親は金目当てで殺されかけ、俺は小中いじめを受けた、だからこそありえない。
女性に恋心なんて存在しないし、人を思う事なんてするわけがないんだ!
ありえない、ありえないはずなのに……
「うぅ…提督……ごめん、ゴメンネ…」
あり、えない……のに………
涙を流す金剛を見て、狼狽える。
ありえないと自分に言い聞かせ続ける上原。
しかし涙を流す金剛を見て父性に近い感情が出てくる。
ありえないといいながらも、彼は金剛に手をのばし……頭を撫でた。
「大丈夫、俺は生きている、ここにいるから」
頭を撫でられた金剛は徐々に目を覚ます。
微睡の中の彼女は提督の顔を見てハッとし、抱き着いた。
「提督、提督ぅ……無事でよかったデス」
上原に抱き着く金剛、普段なら触れてはいないものの嫌悪感を覚えるであろうこの状況、しかし上原は……
金剛をに抱き着かれても嫌悪感が湧かない、金剛を見ても吐き気が来ない、金剛の声を聞いても恐怖感が湧かない。そうか、金剛はもう俺の中で
「弁当、食べられなくてごめんな」
「そんなことはどうでもいいデス!提督、アレルギーは大丈夫デスカ!」
ん?アレルギー?
あぁ、そういう事か。俺が倒れたのはアレルギーによるものと思っているのか。
その方が説明が楽だしそういう事にしておくか。
「あぁ、大丈夫だ。心配かけてすまんな」
「……提督、口調変わりマシタカ?」
金剛に指摘されハッとした。
確かに俺の普段の口調はこれだが、艦娘に対しては基本敬語……。
不味い、すぐに戻さねば
「すみません、少々気が緩んでいたようで。不快ではありませんでしたか?」
「No!むしろさっきの話し方の方が距離間が近くて嬉しいネ!」
怒るどころか喜んでいる……。
間違いない。金剛は俺に対し好意を抱いている。
今までの金剛への評価は改めなければならないだろう。
とりあえず今日は疲れた。金剛の気が済んだら、執務室に戻って今日の仕事を終わらせよう。
金剛ってホントに良いよね。
美人だし愛嬌あるし献身的だし可愛いし、
こんな子に愛を叫ばれたら惚れない男なんていないよね。
次回は何を書くか、予定はあるけど未定なので書かないでおきます。
どうでもいい話
うちの嫁艦は比叡です。
比叡かわいいよね