一誠side
「でね、こっちが小学生の時のイッセーなのよー」
「あらあら、全裸で海に……ふふ、元気ですねぇ」
「ちょっと朱乃さんに静流さん! って、母さんもそんなの見せんなよ!!」
「うわ~……全裸で海に走るとかないわ~……お前、実は変態悪魔なのか?」
「ちっげーわ速水!」
「……良くもまぁ、そんな性格で学園を退学処分にならずに済んでるものだな」
「余計なお世話だ竜崎!!」
「……イッセー先輩の、実に赤裸々な過去」
「あははは!! 公園の砂場でおっぱい作ってる!! 流石にそれはないでしょ!! あっはははは!!」
「幼少の頃から性欲旺盛なのね。ここまでストレートな男の子は見たことがないわ。ね、結奈」
「う、うん。そうだね……あはは」
「うふふ……このような恥ずかしい過去でも、ご両親はちゃんとアルバムに記録しておられるのですから、お優しいお父様とお母様ですね、一誠さん」
「小猫ちゃんに桃! 紗雪に静流も結奈も見ないでぇぇぇぇ!!」
現在、俺ん家ではオカ研会議は始まっておらず、買い物から帰ってきた母さんが持ち出した俺のアルバムのせいで会議はそっちのけで俺の過去を収めたアルバム閲覧会になっている。その中には
遡る事数分前。
半日授業が終わり、家でオカ研の集まりの最中に、一輝が中学の同級生の竜崎達や幼馴染の柴崎さんを入部させるために部長に話を持ちかけた。
案の定部長が入部を拒否したけど紗雪の恐ろしいまでの
すると彼らは皆、人間ではなく――
今この場にいる一輝を除いた全員が、その意外すぎる正体に言葉を失っている。ってそれよりも!
「一輝、その亜人族ってのは、獣人族とはどう違うんだ?」
俺が真っ直ぐ一輝に疑問をぶつける。
「獣人族は、人間の身体に獣の耳や尻尾が生えている種族だ。猫、虎、犬……お前もレーティングゲームでライザーの眷属と戦った時、二人の猫獣人がいたのを覚えているだろう?」
「あ……」
そういえばいたな……可愛らしい猫耳と尻尾を生やした、二人の女の子の
「対して亜人族ってのは見ての通りだ。人間の身体に耳と尻尾が生えている程度の獣人や獣系妖怪より、さらに動物に近い顔立ちや体つきをしているのが大きな特徴だな」
なるほど、より獣に近い神秘的な種族ってことか。
「それと個々の種族名を言うなら、竜崎は竜人族(オム・ドラゴ)、速水は猫人族(シャ・ガルー)、紗雪は銀狼族(ルー・アルジャン)、結奈は狐人族(ファム・ルナール)だ」
うおっ、種族名の響きがめちゃくちゃ
「桃さんと静流さんは?」
と、木場が尋ねる。そういえばまだその二人の種族を聞いてなかったな。
一輝が視線を向けると、桃さんと静流さんはコクリと小さく頷いた。
「静流は黒狼族。桃は中国において四方の西方を護る四神の一神……白虎族の次期長だ」
白虎? 白虎って確かゲームやアニメとかにも登場する伝説の神獣だろ!? そこの次期長……つまり未来のトップってことかよ!?
「まぁ、まだまだ修行中の身だけどね♪」
朗らかな笑みを浮かべながら、桃さんはケロッと答えた。
「それじゃあ改めて自己紹介でもしよっか! 私の本当の名前は
「
「俺ぁ
「
「ふぁ、
「黒狼族の陸奥静流です。卒業までの短い間ですが、よろしくお願いします」
改めて六人が本来の種族名と共に名乗ってくれた。名乗ってくれたのはいいんだけど……。
「なぁ一輝。竜崎達って
俺の頭に浮かんだ素朴な疑問。
オカ研に入部するってことは、これからはぐれ悪魔の討伐にも駆り出されるってことだ。それだけじゃなく、イカれ
「失礼を承知で言うが、部長を含めこの場にいるグレモリー眷属を単独で倒せる
一輝がさらりと、何でもないことのように言い切った。
「訊き捨てならないわね、一輝」
部長が冷ややかな声音で言葉を吐き出し、微弱な紅い魔力が彼女の周囲を妖しく揺らめき始める。
「うふふふ……面白い冗談ですわね、一輝君」
朱乃さんは艶やかに笑いながらも、部長同様に金色の魔力のオーラを身に纏い、微弱な雷が彼女の手のひらでバチバチと火花を散らしている。その表情は表面上こそ穏やかだが、眼は一切笑っていない。
それどころか木場も小猫ちゃんも、そして黒歌までもがいつの間にか臨戦態勢を整えていた。おいおいおい!! 人の家でマジの戦闘態勢に入るのは勘弁してくれ!!
まさに一触即発!! ──そう思った、その刹那。
「にゃっはは。隙だらけだぜ、部長さんよぉ」
「「「「「「「!!っっ」」」」」」」
いつの間にか速水が部長の背後に回り込み、その首筋に短刀を突きつけていた!
嘘だろ!? さっきまで一輝たちの近くに立ってただろ!? どうやって一瞬で部長の背後に移動したんだ!?
首筋に突きつけられた短刀は、肌に触れそうで触れないギリギリの位置で正確に固定されている。
「いつの間にっ……!」
木場の驚愕した声が漏れる。あの神速が持ち味の木場でさえ、速水の動きを完全に見失っていたというのかよ!!
信じられねぇ……魔剣を抜いていないとはいえ、臨戦態勢に入っていた木場が全く反応できていないなんて。って、感心してる場合じゃねぇ! 早く速水に刃物を下ろすよう言わねぇと、部長が……!
「速水! 何考えてんだよ! 部長に怪我させる気か!?」
「いやなに……口で言っても
?? それってどういう意味だ?
そう疑問に思った俺をよそに、速水が短刀を持っていない方の掌を、グッと握り拳を作った。
直後――俺の全身が
「な、何だコレ!? 身体が……動かない!?」
眼に見えない何かに雁字搦めにされたみたいに、指一本動かせねぇ!! 痛みはねぇが……自由を奪われる不快感がハンパねぇ!
「にゃっはははは! 俺達がこの
速水が口笛を吹くように呟くと、俺たちの身体をガチガチに縛り上げていたものの正体が、うっすらと光る縄のようなものだと判明した。
「この縄は
速水がニヤニヤと説明を終えた、その瞬間――。
ドッ!!
速水が手にしていた短刀を、部長の首筋に向かって深々と突き刺した!!
「部長ッ!?」
「リアスお姉様ッ!?」
「部長おおぉぉ――――ッッ!!」
オカルト研究部のメンバー全員が悲鳴にも近い叫び声をあげる。特に俺は脳内で警鐘がガンガン鳴り響いていた。何やってんだよ速水の奴!!
「な、何てことを……っ!」
朱乃さんが血の気を失った青ざめた顔で声を震わせる。冗談じゃ済まされねぇぞ!!
……しかし。数秒経っても、部長の首からは一滴の血も流れ落ちてこない。
「……?」
「……???」
「…………………は?」
全員が言葉を失い、困惑した視線を部長の首筋へと集中させる。刺された箇所に眼を凝らすが、そこにあるべき赤い液体は影も形もない。
「にゃっはははははは! 冗談、冗談だって♪」
速水はケラケラと大爆笑しながら部長の首元から短刀を引くと、短刀の先っちょを指でぽちぽちと押してみせた。すると、刃の部分が柄の中にシュコシュコと収納を繰り返す。
よく見れば、刃全体がプラスチック製のような安っぽい光沢を放っているじゃないか。
「ただのマジックナイフだぁ。
ケラケラと面白可笑しそうに笑う速水。そこへ――。
ゴンッ!!
「んにゃっ!?」
突然、速水の頭上に鉄槌のような重い一撃が振り下ろされた。あまりの衝撃に猫耳がピンと逆立ち、黒い尻尾が激しく左右に振れる。頭を押さえてしゃがみ込む速水の背後には――半眼で冷たく見下ろし、仁王立ちする一輝の姿があった。
「いっっっっって~~~~~ッッ!?」
拳を落とされた箇所を必死に擦りながら、速水は涙目で振り返る。
「流石にやり過ぎだ、速水。いくら実力を見せるためとはいえ、玩具で脅迫まがいの真似をするなと言っている。次やったら本気で完膚なきまでに叩き潰すぞ」
ため息を吐きながら頭をかきつつ、速水の制服の襟元を掴んで引きずり戻す一輝。その表情には深い呆れと、不心得な仲間を固く諫める色が浮かんでいた。
「悪ぃ悪ぃ。ちょ~っとふざけ過ぎちゃったかもニャ♪ でも、これくらい派手に見せりゃ、流石の部長さんも納得するだろ?」
反省の色ゼロで頭をさすりながら、舌をペロリと出す速水。
「納得なんかするか、速水この野郎!! 玩具とはいえ部長が刺されたと思って肝が冷えたじゃないか!! もし本物だったら大事件だぞ!?」
俺が怒鳴り散らしても、速水は「にゃはは♬」と涼しい顔で笑うだけ。くっそぉ! 全然響いてねぇ!
「あらあら、速水くんったら随分と大胆ですのねぇ。上級悪魔である私たちを相手に、あんな見事な挑発行為をするなんて……ふふ、なかなか良い度胸をしておられますわ」
朱乃さんがうふふと微笑んでいるが、その背後の空気は全く笑っていない。
その一方で、部長は頭痛を堪えるようにこめかみを軽く揉んでいた。
「まったく……悪魔である私に、玩具とはいえ刃物を突き立てるなんて良い度胸をしているわね。今度同じことをしたら、次は消滅させる勢いで叩きのめすから覚えときなさい」
部長が鋭い視線で速水を射抜くが、それでも彼はヘラヘラとした笑みを崩さない。
「へぇい、気を付けますぜ部長さん☆」
まったく信用ならない軽い返事だ!
「ま、速水の冗談はさておき――部長。とりあえず速水の実力、納得いただけましたか?」
一輝が冷静に会話を本筋に戻す。その表情は真面目そのものだ。
「……そうね。今の一瞬の立ち回りだけで、彼の実力は十分に理解できたわ。彼以外の貴方たちも、同等以上の実力者なのでしょうね」
部長が長い溜息をついた。まだ感覚が残っているのか、首筋にそっと触れながら肩を竦める。
「解ったわ。黒鉄竜崎。一ノ瀬速水。白虎桃花。陸奥静流。西園寺紗雪、湊結奈の六人の入部を許可するわ」
「良いんですか、部長?」
「えぇ。今回は特例中の特例よ。
「やったぁ!」
「うふふ、これでまた昔みたいにずっと一緒ですわね」
「卒業までの間、よろしくお願いいたします」
「にゃっひひひ! こりゃ賑やかで楽しい学校生活になるだぁ~!!」
「よろしくな、一輝」
「えっと……またよろしくね、一輝君!」
「あぁ、また一緒だな。……って、だからいきなり抱きつくな桃!!」
嬉しそうに一輝の腕へ全力で抱きつく桃さん。白虎の毛並みを思わせる白黒の尻尾が、嬉しさのあまり左右にブンブンと猛烈に揺れ動いている。
それを見て殺気立つような視線を送る部長、黒歌、そして小猫ちゃん。さらには涙目になって拳を握りしめるアーシア。
うわぁ……ただでさえ修羅場だったオカ研が、さらに超強力なライバル勢の乱入で大惨事になりそうだぜ……!
……ってなわけで部長は竜崎、速水、桃、静流、紗雪、結奈の六人の入部を許可しこれで漸くオカ研会議が始まるかと思いきやタイミングよくお袋と親父が帰ってきて、荷物を置くなりいきなり俺のアルバムを引っ張り出してきて見せたのが始まりだ。そしてその現状に俺は顔から火が出るほどに熱くなっている。
最悪だ!! 俺の恥ずかしい
そういえば、母さんは昔からよく言っていたっけ。
『いつか、女の子のお友達がたくさん家に来たら、イッセーのアルバムを見せてみたいわぁ♪』
その夢は、俺がモテない絶望的な現実から絶対に叶わないものだと思われていた……が。俺が悪魔に転生した日を境に人生が180度激変したせいで、まさかこんな形で実現してしまうとは! 嫌すぎる夢が叶っちまったよ!!
「……幼い頃のイッセー」
あの、部長? 幼年期の俺の写真をマジマジと見つめられると、死ぬほど恥ずかしいんですが……。
って、あれ? 部長? 何で頬をぽっと赤く染めていらっしゃるのですか?
「……幼い頃のイッセー、幼い頃のイッセー、幼い頃のイッセー……」
何やら恐ろしい集中力で呟いていらっしゃる!?
でも、どこか満足そうだ。部長って……まさかのショタコン属性持ちですか!? そんな話一度も聞いてないけど!!
「私も何となく部長さんの気持ちが分かります!」
アーシアも部長と同じアルバムを覗き込み、キラキラと眼を輝かせている。って、木場と一輝まで一緒になって見ていやがる! クソッ、竜崎や速水もそうだが、野郎どもに見られると無性に腹が立つ!!
「木場! 一輝も見てんじゃねぇ!!」
俺は必死にアルバムを取り返そうと飛びかかるが、二人は軽快な動きでひょいっと身を翻して躱す。
「別に問題ないだろ? 他人に言いふらすわけでもあるまいし」
「ハハハ、良いじゃないか。もう少し楽しませてくれよ」
何度飛びかかっても、二人は軽やかに躱しやがる! こんなくだらない場面で圧倒的な実力差を感じたくないんだが!?
暫く一人でドタバタと追いかけていると、笑顔でアルバムを見ていた木場の足が、ふとピタリと止まった。何か予想外のものを見つけたような顔をしている。チャンス!!
動きの止まった木場からアルバムを奪い取ろうとした、その時――。
「イッセー君」
振り向きもせず、いつもと違うどこか冷ややかな声音で、木場が俺の名前を呼んだ。
いきなりなんだ? 俺が首をかしげながら近づくと、木場は一枚の写真の端を指差した。
その写真には、ガキの頃の俺と同年代の男の子が写っていた。
この男の子なら覚えている。幼稚園児時代、近所に住んでいた奴だ。よくヒーローごっことかをして一緒に遊んでいたっけ。
小学校に上がる前に親の転勤とかで外国に行っちまって……それっきり会っていない。
「
木場が
「うーん……いや。何分ガキの頃のことだから覚えてないな」
「そっか。こんなことがあるんだね。思いもかけない場所で見かけるなんて……」
独りごちて苦笑する木場。だが、その瞳の奥には――背筋が凍りつくような、どす黒い憎悪の炎が揺らめいていた。
その一枚の写真が、これから巻き起こる激動の出来事の、すべての始まりだった。
「これは
一誠sideの決戦を見たいですか?
-
見たい
-
見たくない
-
どっちでもいい