自分を殺さんとするばかりの圧。
それを受けて雲水は、極めて冷静に、真横に走りこむ陸にパスを回した。
峨王はその動きを確認して雲水にぶちかます寸前でストップ。ルールに則ってタックルを止めた。
一方でパスを受けた陸はランに以降。ライン際を走り出す。走行ルートに選手が密集していたのもあって4ヤード進んだところで止められた。
「……早いな」
峨王は次プレイのポジションに戻りながら呟いた。
その言葉を拾った山本鬼平は、
「ん? ああ、確かにパスを繰り出すのが早かったな。もう少しひきつければヤード数を稼げたはずだが……。峨王の圧に飲まれt
「まるで最初からすぐにパスを回すことを決めていたかのようだな」
小動物なら失禁しそうな眼光に雲水は、
「……さあ、どうかな」
雲水は真正面から峨王を見据えて答えた。言葉ではぐらかす気のようだが、顔つきがすべてを物語っている。
「やれやれ、俺と同じことする気かねえ」
「……?」
キッドはベンチで若干呆れつつも……舌を巻いていた。
セリフの意と意図を読み取れなかった鉄馬に説明するようにキッドが口を開く。
「西部対白秋の時、俺は峨王のタックルを早撃ちで躱し続けながら少しずつ前進する作戦を立てたでしょ? それとほぼ同じことをする気なんだよ。まあ……」
(今の俺では、峨王に対してそれ以外の対処方法がないんだがな)
雲水は背筋を汗で濡らしながら考える。
(峨王のΔハウザー。三点ブロックで突破するタックル技だが、これに対して取れる手段が栗田を1on1でぶつけるしかない。
なんせ普通のタックルより体を小さくして突っ込んでくるもんだからこちらのラインマン2対1の構図でぶつかれない。どうしてもダブルチームが意味をなさない。2人で行っても間を強引にぶち抜かれるから。だったらデカい栗田を当てるで真正面から止めてもらうしかない。)
「それじゃ栗田氏が起点の
栗田氏と峨王では峨王が少し優勢。ライン戦がギリギリ互角。での個々人での競り合いではこっちのほうが少し優勢ってところか。そうなるとモン太君を待ってのロングパスは論外」
(ミドルパスもかなり怪しい。そうなるとショートパスか、ランか、キック)
「こんな序盤じゃキックは選べないだろうね、雲水は。なんせ
(トライフォーポイントで2点の得点を選べる。そう考えた最悪の場合、8点ずつ取られる可能性がある。こちらはコータローがいるからある程度進めばキックで得点できるが……できれば細かい点稼ぎで競り合うのは避けたい)
「だったら最終的にタッチダウンを狙うショートパスかラン。投げ込む場所は……そうだね、バベルズのラインの体格のことも考えたら、」
「(外よりのパスかラン!)」
セナと陸、そしてタイトエンドの中村にパスを集中させ、時折最初からランで攻める。
炎馬は着実に、バベルズは堅実に両チームの司令塔は同じ結論にたどり着く。
手は読めている。どこから来るかもわかる。普通に考えればバベルズが有利だ。
しかし。それは
デビルバットゴースト!!!
ロデオドライブ!!!
緩急と急ステップの往復ビンタ。
ランダムに連続に繰り出される超大学級の2人のランを止められるものなど居やしないのだ。
2人の超攻撃的なランは全身を続け、8回目の攻撃でついに、
「「「タッチダウーーーーン!!!!」」」
ボールを抱えたセナがゴールラインに飛び込んだ。
炎馬ファイヤーズ 7:0 武蔵工バベルズ
「やった、タッチダウン!」
鈴音がジャンプして喜ぶが、それを溝六は諫めた。
「いや、明らかにバベルズの守備が対応できすぎだ。セナと陸ならもっと速く走れたはず」
溝六の言う通りだ。
特Aクラスのランニングバック2人がいて、ランをメインに走ってここまで時間がかかったのは歯がゆい状況である。
(さすがキッド。すでに読んでいるか。おかげでこちらは気力をだいぶ持ってかれたよ)
「さすがは炎馬だねえ。手は読み切っているのに、個人のスキルだけで突破されちまった。雲水も崩れてくれないし」
互いの戦力に舌を巻く。
何はともあれ攻守が交代し、ついに無敵の重機関車が汽笛を上げる。
「ついにきたぜ、鉄馬さんへのリベンジ!」
モン太が拳を手のひらに打ち付けて気合を入れる。
「そういえば西部とは高校の時に結局再戦しなかったもんね」
「おうよ! だから今日は……屈辱を果たしてやるぜ!」
「果たすのは雪辱だ。屈辱なら晴らしてくれ」
((またか……))
モン太は白目をむいた。
せっかくのリベンジだというのにこの空気。セナと鈴音の頬を汗が伝った。
さて始まるのはバベルズの攻撃。
峨王は当然の様に両面、キッドの正面を守る形になる。
セナと陸はセイフティとして最後方。モン太は鉄馬の正面、栗田はセンターで峨王に立ちふさがる形になる。
「セナ、多分俺らの仕事はキッドさんからボールを受け取った鉄馬さんを止めることだ。モン太のサポートになる。気合入れていくぞ」
「うん。キャッチされたら取り返せる気がしないし……パスカットが出来ればいいんだけど」
「ンハッ、やっと出番じゃん!」
水町がディフェンスに参加し、小結と相対する。
「久しぶりだな水町」
声をかけられそちらを見ると声をかけた山本鬼兵の隣に小結大吉がいた。
「フ、貴様に辛酸を舐めさせられたときから……」
「ひさしぶりだねえ、おむすびっち!」
「さ、再戦!(ひさしぶりだな水町健吾。俺は身長はあまり変わらなかったが……鍛えたパワーとテクニックは三年前の比じゃないぞ。ライバルとして存分に見せてやる)」
「そう来なくっちゃな!」
「……というわけだ!」
「ん?」
小結が話している間に鬼兵が何か言っていたらしい。
それぞれが火花を散らす中、ついにバベルズの攻撃が始まった。
キッドにボールが渡り、行方は早撃ちガンマンに委ねられる。
「おい糞マネ。しっかりカメラ回してんだろうな」
「わ、わかってるよ。ここで録画よね?」
「……何をどうすりゃスクショしてんのかわかんねえがもう三脚並べてろ」
まるで生きているかのようにヒル魔特製魔改造ドローンが滑らかに動き、キッドの動きを観察している。
「炎馬と攻守が変わってもラインの中央は変わんねーが……バベルズと炎馬では条件は全く違う。まずは……『速さ』!!」
キッドにボールが渡ると同時に栗田が猛チャージ。峨王と正面衝突。この勝負は栗田が一歩速く踏み出せたため峨王のΔハウザーは不発に終わり、生粋の地力勝負となった。
不発となると峨王が不利である。なにせ姿勢を低くするものだから上からねじ伏せられる可能性があるためだ。
巨デブの栗田が上から峨王の姿勢を崩し、そのままキッドへ襲い掛かる。
視界を埋め尽くさんばかりの巨体が襲ってくれば常人ならば平常心を失いそうなものだが、百戦錬磨のキッドにとってはありえない。
栗田が超接近するまで冷静にパスコースを吟味し、放つ。
恐るべき速さでドローンを操作しながらヒル魔は動きを解析していく。
(糞デブは足が全くない。デカさでパス妨害を狙っちゃいるが、接触までの時間は峨王と比べて長い。頭が回るクォーターバックなら十分ショートパスくらいなら狙える。
しかも糞ヒゲ自体もパスを撃つまでが速ェときた。普通のクォーターバックが万全のパスを出すのに5秒かかるなら、キッドは3秒でもいいわけだ。二つの要素がかみ合えば……)
「鉄馬、ナイスルートだ」
いつボールを手放したのかわからなかった。ただ、ボールは綺麗な軌道を描いてグラウンドの空を切り、鉄馬の元に吸い込まれていく。
これぞ西部ワイルドガンマンズの攻撃の一柱を担っていたパス攻撃。
ボールをキャッチした鉄馬はモン太を無敵の走力でもって弾き飛ばして数ヤードゲイン。
結果として20ヤード前進する形になってしまった。
「ちきしょ、次はぜってぇとってやんよ……!」
膝を着きながらモン太は笑っていた。
鉄馬丈。本庄鷹と並びモン太が唯一、
高校一年の時からずっと待っていたこの時。絶対に勝って見せる。
モン太は武者震いで震える手を握りしめた。
その心中を察してか、陸がモン太に手を伸ばす。
「落ち着け、モン太。まずは雲水さんの策を実行するときだろ…セナも! 行くぜ!」
「おうよ」
「う、うん」
2回目のバベルズの攻撃。
「さあ、頼むよ鉄馬」
キッドが鉄馬の状況を見た時……モン太と
キッドにしては少々弱気な攻め方である。
「あ、キッドくんやっぱりパスしなかったね」
カメラを回しながらまもりがバインダーに広げた記録用紙に速筆で状況を記録しながらヒル魔に言った。
「ああ、あんま注目されちゃいねえが、陸はボールを奪うのが上手いんだ」
「……確かにそうかも」
思い返せば体育祭でセナから鉢巻を奪ったり、帝黒戦前のトレーニングで夏彦からボールを奪ったり、セナの初見のデビルバットゴーストからボールを弾き飛ばしたり……
「それをわかってっからキッドの野郎も鉄馬に近づいたとわかってすぐにパスをやめた。ハッ、並のクォーターバックなら鉄馬を信じて投げ込みそうなもんだが、相変わらず頭の回る野郎だな」
「まあ、別にウチの攻撃手段は鉄馬だけじゃないしねえ」
パスを鉄馬に回さなくなっても、攻撃が止まることはない。広い視野でもって的確にパスを通し、確実にヤードを稼いでいく。
そうしてあっという間にゴール目前。
峨王で中央突破もよし、パスもよし、キックもよしとどこから攻めてくるかわからない絶体絶命の状況となった。
そうしてとった炎馬の守備は、キックでの得点を受け入れた完全防御形態。中央はがっちり固めてラン対策、モン太、陸、セナでパスを押さえる。特に鉄馬に対してモン太と陸が注意を割いているフォーメーションだ。
ラインからボールが投げ込まれ、キッドが受け取った。すぐさまぶつかり合うラインマンたち。
「……!!」
鉄馬が右サイドから一糸乱れぬ姿勢で上がってきた。
「鉄馬さんが来た!! 止めるぞモン太!!」
「うおおおお、キャッチMAX!!!」
強敵の突進に色めき立つ2名。
RIKU & MONNTA VS TETSUMA
だが、鉄馬はキャッチング姿勢になることなく二人とぶつかった。
「は……?」
「ぐ、押し返せねえ…!」
いつまで俺たちとぶつかっているつもりだ? そんなことしてたらパスがとれないじゃないか。
陸の心中にそんな陳腐な疑問が浮かび、ボールの軌道を見て霧散した。
果たしてバベルズの撮った選択肢は鉄馬ではなく、鉄馬の脇に位置するレシーバーへのパス。
パワーのある絶対的なレシーバーがいるからこそのフェイントだ。先駆けてパスを取ると見せかけた鉄馬がブロッカーとなり、死角のレシーバーが刺客となる策…。
そのレシーバーの元に、セナがいた。
「ヤー! セナ止めてー!!!」
鉄馬と陸とモン太が互いに抑え込んでいる間にセナが脇を潜り抜けてレシーバーの元へ。
SENA VS WAKIYAMA
だがむなしいかな、セナはパスを止めることが出来ずにタッチダウン。キックも決められて同点にすぐに追いつかれてしまった。
チームメンバーがハイタッチを交わす中、キッドはセナを見ていた。
(全員、騙されていたはずだ。なのに、セナ君は気が付いていた。何故だ?)
「セナ。しっかり観察できたか? キッドが、バベルズがどういう攻め方をするか。『クオーターバックならああいう時どういうことを考えるか』」
「……はい、雲水さん」
攻撃の準備。セナは雲水とポジションにつきながら言葉を交わす。
「よし、じゃあ行くぞ。炎馬初のドラゴンフライ。練習試合なんだ。思い切りやってやろう」
お読みいただきありがとうございました。
よろしければ感想と高評価、ここすきをお願いします。
やる気が でます!