小説1巻、漫画版1・2巻とweb掲載の第8話を読んで発作的に書いた作中人物の伴侶に転生した転生者の話。
(救いは)そこになければないですね。
僕は小間物商の一人息子。
名前なんて、特に語ることの無い何処にでもいる一般コボルト。
ただ、人と違うのは。
なんだか自分の生まれた国の名前に、妙な既視感があったってこと。
それと、どうにも自分はエルフの皆さんの外見に弱いって事。
他のコボルト男子は「確かにエルフの外見は神秘的さぁ、でもやっぱり輝く毛並みがないことにゃ、ね!」っていうんだけど。
僕はついついエルフの美人さん(つまり皆さんにってこと!)に目が行くのであった。
でも、僕の住む国エルフィンドで、エルフの皆さんというのは僕たちコボルトなどの他種族とは一段『格』が違う方々なので、恋愛対象とか、そんなんじゃないんだけどね。
でも、そんな視線で追うのも大人に近づくにつれ、矯正されていった。
なんせ『格』が違う方々だから。
目つきが不敬だ!って詰め寄られたりすれば、さすがに困ったエルフ好きと言われた僕も懲りるという物で。
長い魔種族としての生を生きているうちに、僕の眼は自然と同族に向いて行った。
そう、僕の愛しいイザベラ!
黄金のような輝く毛並みの可愛い人!
彼女は同じ町の、僕の店と通りで連なる酒場の娘だった。
その愛想と客あしらいは小さなころから天下一品。
どこまでも平凡な僕に比べて、彼女は旺盛な好奇心でウェイトレスの看板娘としての仕事以外にも、酒場の仕入れや料理のコツを学んで、皆に自分の店をもつか?なんて言われたりしていた。
そんな才気あふれる彼女も、恋愛に関しては人並だったようで、地味に実家の手伝いをしていた僕を「真面目な人だから」と選んでくれた。
その時には地道にやっていて、本当に見てくれてる人っているんだなぁって天にも昇る気持ちだったよ!
美人で、人気者な彼女に比べて、僕のなんと地味な事か!
幸い、彼女は「地味?地道な貴方の、真面目な横顔に惹かれたのよ」と微笑んでくれるけれど。
それでも輝く彼女に比べて僕の毛並みは、どこかくすんでいるように思えた。
だから、せめて彼女の輝きを損じないように、彼女を守ると心に誓って。
ますます地味な仕事に力を入れる、解りやすい僕なのだった。
朝、日の出と共に……というほど早くに目は覚まさない。
町の商店を営む僕らは、店を開けるまで若干の余裕がある。
日の出から働く農民の人にくらべて、1刻ほどゆっくりできるかな?という感じ。
起きて、身だしなみを整え(この時ばかりは自分の毛並みが疎ましい!)、食事を摂り、在庫の確認、現金の備えの確認、etc、etc。
そんな日々繰り返す日課の中でも、イザベラは輝いている。
「おはよう貴方」
「おはようイザベラ、今日も良い匂いと良い毛艶だね」
「ふふ、ありがとう。すぐに朝ごはんにしますからね」
「うん。僕は新聞を取ってくるよ」
「新聞に夢中になってご飯を味わわないのは駄目よ?」
「勿論!君の料理は絶品だからね!新聞の活字と同時に摂ったら美味しさに頭が占拠されて、活字なんかぽろぽろ抜け落ちてしまうよ!」
「もう。行儀が悪いから読みながら食べないのよ、あ・な・た」
「うんうん。解ってるよ」
そんな、幸せな朝のやりとり。
その日も、何も変わらない一日。
朝には厚く切ったパンに、たっぷりのスープと主菜を添えて。
エルフィンド流にガッツリ食べる。
そしてちょっと重たくなったお腹を抱えて、さっき述べた開店前の準備を終えて店を開ける。
今は仕入れの時期でもないのでゆっくり店番できるが、飛び込みの営業を掛けてくる人々(主に同族。エルフさんは、まぁこんな小さな町の小間物屋には出てこないね)の対応をしたりして時間が潰れる。
その間にイザベラは店も手伝ってくれるが、家の事もしてくれて常にくるくると忙しそうにしている。
それを見ていると彼女には本当に頭が上がらない。
重労働である洗濯を終えて、軽い昼食を作ってくれたイザベラに呼ばれて店を一旦締め、家の方に引っ込む。
「先に頂くよ、イザベラ」
「お店の方は私が見ておくから、ゆっくりね」
「急いで食べる」
「急がなくていいの。私もそりゃお腹は空いていますけどね。それより作ったものを味わってほしいわ」
「……ありがとう。僕は君の料理が食べられて幸せだよ、イザベラ」
「あら、料理『だけ』なの?」
「君と出会えた人生が幸せだよ、イザベラ!」
「もう、貴方ったら」
幸せな食事、幸せな日々。
食事が終わったらイザベラと交代して。
昼食が終わったらまた二人で店に立つ。
そしてぽつぽつと来るお客さんに対応。
「貴方ー。お客さんがジャムが急に入用になって2瓶買いたいって」
「おっと。ありがとうございますお客様。……それで、何が問題?」
「店頭在庫が1瓶しかなくて。出してくれるかしら?」
「どれどれ。うん、そのジャムなら奥にあるね。お客様、少々お待ちください。すぐに在庫をお出ししますので」
「お願いね貴方。お客様、在庫をお出しする間に他の商品をご覧になるのはいかがですか……」
そんなこんなで夜になって、店を閉め、また二人で食事をする。
そして夜の食事の時には、ちょっと赤裸々な話も入る。
「ねえ貴方。そろそろ私達も子供を作ってもいいんじゃないかしら」
「ん?子供が欲しいのかい?」
「幸いお店も順調だし、余裕があるうちにと思って」
「うーん、僕はまだ二人でもいいと思うなぁ」
「もう!そんなことをいって前に子供が欲しいって言ってから5年経ってるのよ!」
「あ、ああ。もうそんなになるのか、ごめんごめん。でもエルフィンドは国情も落ち着いているし、そんなに急ぐことないだろう?」
「それは、そうなのだけど……」
「何か心配なことでもあるのかい?」
「そういうわけじゃないわ。ただ、ただ貴方の子供が欲しい……これ以上を女の口から言わせるつもり?」
「はっ!ぐ!?い、今のとっても『エッチ』だった……!」
「『えっ』……?時々貴方聞きなれない言葉を使うわね」
「僕もよくわかんない……。それは、さておき!そ、そういう事なら、僕も頑張っちゃおう、かなぁ!なんて」
「ええ、頑張ってちょうだいな。貴方」
その後滅茶苦茶子作りした。
まあ命中しなかったんだけどね。
とほほ。
そんな日々。
変わらぬ日々。
幸せがずっと続くと信じていた。
久しぶりの休日にイザベラと町を歩いていると、町が騒がしい。
遠くから喧噪に混じって、窓ガラスの割れる音がするのを、耳が拾った。
何かの事件かな?そう思っても、自分たちには関係ないとのんきにしていたら。
エルフさん達に囲まれていた。
エルフさんがもつ木札にはコボルト族排斥の文言。
僕とイザベラを囲む恐ろしい形相の人々。
つい先日まで距離はあっても良き隣人だったはずのエルフさん達から飛ぶ、罵声。
小突かれ、石を投げられ、身の危険を感じた僕とイザベラは埃だらけになって店に逃げ帰った。
この街は危ない。
そう確信した僕たちは、急いで避難の準備を始める。
現金よりも貴金属、場所を取らない、カバンに詰め込めるお金に変えられる現物。
そんなものを持って、僕たちは店を逃げ出そうとする。
最大限に急いだが、それでも僕とイザベラの店はエルフ達に囲まれようとしていた。
僕はなりふり構わずイザベラの手を引いて、街の外に向けて駆け出したけれど。
嬲るようにひっかけられる脚、思わず離した手。
呆然とするイザベラの顔。
「逃げるんだ!イザベラ!」
「でも、貴方!」
問答する余裕はない。
「良いから逃げろ!イザベラ!僕も絶対に追いつく!」
「……!はい……!」
悲痛な顔を俯かせて、囲みまれつつも突破しようとする荷馬車に拾われるイザベラ。
無事に、彼女は無事に逃げられるだろうか。
散々に小突き回される。
痛い、痛い、痛い。
小突き回されるという字面は可愛いが、実態は殴り廻される、が正しい。
とても痛い。
でも痛いのが続く分だけ、イザベラへの追手が緩むと信じて耐える。
痛い。
死ねない。
苦しい。
死にたくない。
辛い。
まだ死なない。
イザベラ、君にまた会いたい。
死なない、死なない、死んでたまるか。
耐える、ひたすら。
殴打が止んだ。
「喜べ、しぶとい犬コロ。貴様は縛り首だ」
ああ、ああ、エルフィンド。
そうだ、この国の名前。
オルクセン王国史の悪役の国じゃないか。
「嫌だ!なんで今なんだ!どうして!やだ、イザベラ!」
「うるさい獣。訳の分からない叫びを上げるんじゃない。耳が穢れる」
「なんで!どうして!『かみさま』!」
「ふん。まあいい。すぐ物は言えなくなるわけだしな。……吊るせ!」
「あ、ぐぅ……!ぎっ……」
いやだ、いやだいやだいやだ。
転生なら上手くやれたかもしれないのに。
イザベラ、僕のイザベラ。
彼女を修羅にしてしまう。
何十年も、もしかするともっと永い孤独に放り込んでしまう!
いやだ!かみさま!
たすけて!
ぼくが駄目ならせめてイザベラを助けて!
「ははは!知っているぞ、こういうのをエビというんだろう!?陸の生き物が海の生き物になったぞ!」
イザベラへの祈りを神様に捧げるぼくを、エルフがあざ笑うのが聞こえて。
それきり、僕の意識は絶えた。
Q.転生の意味あった?
A,まぁ…そう分かんなかったです…