こちらでの連載はしないこととしました。
続きが気になる方はpixivの『自己満足ビリアン』シリーズをご検索下さい。
好き勝手やってますので。
「ふぁ…っ!」
映画が映るテレビ画面を見つめていたビリーは、すんでのところで欠伸を噛み殺した。
そもそも欠伸という動作が機械人である自分に必要なのだろうかと言う疑問が湧き上がる前に、両手で口、正確には人間にとって口のある場所を抑えてから隣を見る。
場所は『邪兎屋』のアジトのリビング。
テレビに向けられた3人がけのソファの真ん中に、ビリーとアンビーは並んで座っていた。
「…」
幸いにして、熱心に画面を見つめる同僚のアンビーは、ビリーの失態に気がついていないようだ。
そのことに安堵して、ビリーは顔から手を離した。
仕方なしに視線を隣から正面へと向ける。
そして、余りの映画のつまらなさに、どうしてこうなったのかを思い出し始めたのだった。
その日は、年中金策に走る『邪兎屋』にしては珍しく、丸2日休みを言い渡された日だった。
突然、親分であるニコが、リフレッシュしてくると言い置いて、朝早くから出掛けて行ったため、残されたビリーとアンビーは降って湧いた休日に顔を見合わせるしか無かったというのが実情ではあるのだが。
することも無いため、お互いの武器の手入れでもするかと1度散開するも、それらも時間がかかるものでもなく、昼食前には終わってしまい、再び2人揃って手持ち無沙汰になってしまったのだった。
自然とリビングに集まる2人。
先に口を開いたのはアンビーだった。
「…ビリー、暇?」
何とは無しにテレビを見ていたビリーは答える。
「おう、暇だぜ。今なら暇すぎて溶けそうだ」
「機械人は溶けるの? それって、この間公開された…」
「わああああ! 待て待て! 俺、まだあの映画見てないんだから、ネタバレは勘弁してくれよアンビー!!」
リビングでの心温まる同僚との会話を、ビリーは必死で打ち切った。
油断するとすぐこれだと、ガックリと肩を落とすビリーを見て、アンビーは首をかしげ、
「見に行かないの?」
「今月はもうカツカツなんだよなぁ。だが、後悔はしてねぇ。スターライトナイトの限定オイルに使ったんだからな!!」
「そう」
びしぃっと効果音がつきそうなポーズをとるビリーを見て、アンビーは無感動な声で相槌を打つ。
その後、少し間を置いて、
「じゃあ、映画、借りに行く? レンタル代ぐらいなら出すけど」
ビリーはその提案に乗り、2人は行きつけのレンタル店である『Random play』へと赴くこととなったのだった。
お金を出すのがアンビーである限り、ビリーも無理に自分が見たいものを押し出したりするつもりはなかったが、アンビーはとりあえず二本くらい見たいやつ選んできてと、ビリーを送り出し、自分は顔なじみの店長へと話しかけている。
「っつってもなぁ…」
さすがに自分の推しである『スターライトナイト』や『OH~ハロ~』を選ぶのはさすがに気が引けた。
ちゃらんぽらんとも言われるビリーではあるが、その辺はわきまえている。
アンビーも好きそうで、自分も好むもの、
「まあ、無難なとこ選んどくか」
アクションやサスペンスのコーナーをうろついて、以前見て面白かった映画と面白そうな映画の合計2本を手に取る。
そして、レジ近くにいるアンビーに近づこうとしたところ、新作コーナーに1本の映画があることに気がついた。
「お、これって」
表紙にうつるのは、抱き合うふたりの男女と怪しげな白衣を着た女性。
その白衣を着た女性に見覚えがあり、思わずそれを手に取ってキャストの欄を探す。
そこには、主役らしい男性の名前と、ヒロインらしい女性の名前。そして、目当ての白衣を着た女性であろう役者の名前があった。
少し興味が出てきたビリーは、映画の煽り文をななめ読みする。
ーーー放送倫理ギリギリをせめる。
ーーーR17.9
ーーー君は耐えられるか。
サスペンスか、ミステリーか? でも、グロ系は勘弁だなぁ。うわ、これ、監督と脚本が主演の奴で、助監督がヒロインじゃねぇか。え? つーか、よく見たら出演者3人!? 3人ってなんだよ!?
「ビリー、決まった?」
「お、おう!」
地雷臭しかしないそのビデオを元の場所に戻しながら、ビリーはアンビーの呼び掛けに返事をした。
アンビーはビリーがビデオを戻したのをみやって、
「それは良いの?」
「ん? あー。それはやめとこうぜ」
そのビデオに手を伸ばすアンビーを、ビリーが止める。
しかし、アンビーはそれを手に取り、僅かに目を見開いた。
「…ビリー、これ、見たかったの?」
どこか伺うような声音に、ビリーは首を傾げながらも、
「見たかったってか、出演者に『スターライトナイト』に出てた役者がいたから、手に取ってみただけだぜ。なぁ、アンビー。それ、絶対ヤバイ映画だからやめようぜ。出演者は3人だし、監督とか脚本は主役のやつだし。ほら! 元の場所に戻してくれよ」
何故かじっくりとビデオを見つめるアンビーに、ビリーは戦々恐々としながら訴えかける。
「…ビリー」
が、その願いに反して、アンビーはそのビデオをしっかりと持つと言い放った。
「見てないのにそういう言い方はすべきじゃない」
「確かにそうだけどよぉ~」
アンビーの言うことにも一理はある。
だが、ビリーの機械人的な第六感、とまではいかないが、経験に基づいて思考するにあたり、これは明らかなハズレ枠であろうとしか思えなかった。いわゆる爆死枠とも言う。天井?知らない子ですね。
それでも、レンタル代を出すのがアンビーである限り、あまり強く出ることも出来ないまま、彼女はそのビデオも持って、レジへ向かってしまう。
仕方なしに彼女を追ってビリーもレジに行き、持っていたビデオを店番をしているボンプ18の前に置いた。
「ンナンナー!(いらっしゃいませー!)」
ボンプ18は楽しそうに短い手を器用に動かし、会計を済ませていく。
レジ横に立っていたこの店の店長の片割れ、妹のリンは「たくさんのレンタル、毎度あり~」と笑顔で言っていたが、件のビデオのタイトルを見てその笑顔がひきつった。
「え? ちょ、ちょっと待って。そのビデオ…」
「あ! 店長! そうだよ店長も止めてくれよ! 絶対ヤバイよなコレ!」
味方になってくれそうな人物を見つけて、ビリーは縋り付かんばかりに声をかけた。
「ヤバイっていうか…。えーと、確かそれ、上映初日に上映停止されたっていうか…」
「何でビデオ出てんだよ!?」
ビリーにしてツッコミをせざるを得ない情報が飛び出してくる。
「あー、いやー、なんでだろうねー。アハハ…」
と乾いた笑いの後、小声で「お兄ちゃん、何てもの仕入れて…っ」と呻いているのが聞こえる。
が、その間にも会計は終わってしまったらしく、アンビーは騒ぐ2人を横目にビデオが入った袋をボンプ18から受け取った。
「帰るわよ、ビリー。プロキシ先生、また」
どこかソワソワした様子でそう言い放って出入口へと向かっていくアンビーを、慌ててビリーは追った。
「アンビー!? まさかの全無視は無いだろ!? 」
そうして、見送りのために手を振りながらもに顔がひきつっているリンへ「悪い!またな店長!」と何とか言い残して去って行かざるをえなかった。
「あ、ありがとうございましたぁ~」
「ンナナー!(またどうぞー!)」
リンはどうしてこうなったと内心苦悩しながら、2人を見送るのだった。
帰宅途中にアンビーの昼食であるハンバーガーを食べ、彼女の夕食になるハンバーガーを買ってから、2人は『邪兎屋』のアジトに帰宅した。アンビーの体は八割がハンバーガーでできているのではないかと、何時ぞやニコがボヤいていたのが思い出される。
アジトでは、ビリーはいそいそとどこか楽しそうにビデオを選んでセッティングするアンビーを見て、これ以上止めるのは野暮かと判断する。
それに、例のビデオ以外は面白いとわかってる映画か、面白そうな映画だけのため、ビリーは大人しく、アンビーが座って手招きするソファへと向かった。
そこから、休憩を挟んでぶっ続けで映画を見て、夜九時もすぎた頃、とうとう、例のビデオにアンビーが手を伸ばしたのだった。
この時ばかりは、親分が帰ってきてチャンネル権を奪ってくれないだろうかと、ビリーはいつもなら絶対に考えない事を祈ってみたが、どうやらその願いは届かなかったらしく、手元の端末のDMには「パエトーンのとこに泊まってくる」という意味合いのニコのメッセージが、可愛らしい絵文字と共に踊っていた。
「…」
溜息をつきかけながらも、いや、もしかしたら、アンビーの言うようにすごく面白いかもしれない。上映停止になったのは、役者側の問題かもしれないと自分を鼓舞し、ビリーは映画が始まる画面を見やった。
そして、話は冒頭へと戻る。
映画はクライマックスに入ったらしく、主役の男とヒロインの女が抱き合っている。
ストーリーの出だしは良かった。いや、良かったと言ってもこの映画の中身からの比較で、その描写はほかの映画と比べれば平凡というか、それ以下ではあった。
ヒロインは主人公へと思いを寄せており、主人公もヒロインを憎からず思っているが、お互い素直になれずにいた。
それを見ていた第3の登場人物である白衣を着た女性が、2人の後押しをすることを決める。
博士と呼ばれていた彼女はある装置を作り出し、主人公とヒロインを拉致し、その装置が取り付けられた部屋の中へと閉じ込めた。
狼狽える2人へと、博士たる彼女の声が告げる。
曰く、
「その部屋から出たければ、その機械から出される指令に従いなさい」
と。
主人公の2人はその指令を協力してクリアしていくといったものだった。
ビリーがつまらないと評したのが、その指令が余りにも簡単すぎたからだ。
こういうのは、お互いが疑心暗鬼になったり、もっと危険なやつをクリアしていくもんだろ、と内心考える。もしくは、脱出のための謎解きが始まるものだろうと。
というのも、機械から出される指令というものが、「握手しろ」から始まり、「お互いの頭を撫でろ」「抱き合え」「キスしろ」といった、2人でその場でできるものしか出てこないからだ。
しかも、ビリーの目当てでもある博士は冒頭に登場したっきり、影も形もないのだ。
ビリーは何度目かの欠伸を噛み殺すと、手元に残されたビデオのパッケージのタイトルを見やる。
そこには、『×××しなければ、出られない部屋』というタイトルが鎮座していたのだった。
ビリーにとって、不幸中の幸いと言うべきか、その映画は72分という短いものということだった。何とか乗り切ったと理解した時は、エンドロール時に密かにガッツポーズを取るほどには。
ちなみに映画のラストは「一晩を共にしろ」という指令の元、主人公二人が部屋の中にあるベッドに入っところで暗転。その後、扉が開いて博士が2人を出迎え、2人は幸せそうに去っていくものだった。
ビリーの視覚情報が確かなら、博士役の女性は目が死んでいた。今なら、その気持ちが分かち合える気がした。よう、兄弟。
ビデオを巻き戻し取り出すアンビーは、おもむろにビリーを振り返ると、
「どうだった?」
「ぇあ!? 」
突然に感想を聞かれ、ビリーからは変な声が漏れる。
確かに、映画を見る度にお互い感想を言い合っていた。だからこうなってもおかしくは無い。だが、自分が思ったことを正直に言うのは気が引ける。
なんせ、自分が見つけてアンビーのお小遣いで借りて見た映画なのだ。つまらなかったなどと言うのは流石にどうなのかとビリーは考えたのだった。
だから、とりあえずは、アンビーに聞き返す。
「ア、アンビーはどうだったんだ? 」
「興味深かった」
「おう…」
面白くはなかったんだなと、ビリーは少し安堵した。
「ビリーは?」
「え? 俺? いやぁ、そうだなぁ…」
そう言いながらも目が泳いでいるビリーを見て、アンビーは言い放った。
「貴方が映画に集中出来てないのは気づいてた。遠慮は無用」
「マジかよ」
どうやら、自分の失態はアンビーに勘づかれていたらしい。オーバーな程に肩を落とすビリーの隣に戻りながら、アンビーは続ける。
「ビリーは集中して見てる時は、視線が画面に向いたまま体がほとんど動かない。でも、さっきはずっと何かをしていた」
「う、悪い。正直、全然俺には面白くもなんともなかったぜ…」
観念したビリーは俯きながら正直にアンビーへと告げる。
「アンビーはどの辺が良かったんだ?」
ついでに、そう尋ねてみた。真剣に見ていたアンビーなら、なにか自分とは違うものに気づいているのかもしれないと、思いながら。
しかし、アンビーはその問いに答えない。
「?」
不思議に思いながら、顔を上げて隣に座るアンビーをみると、彼女は真剣な表情でビリーを見つめている。
いつもの無表情ではなく、どこか決意を込めたものだとビリーは何となく気がついて、狼狽えた。
「あ、あのー、アンビー?」
自分がなにか仕出かしてしまったのかと思い、ビリーはつい、敬語になってしまう。
「ビリーが面白いともなんとも思わなかったのは、知らないからだと思う」
「何をだ?」
アンビーから放たれたのはそんな批評だったため、ビリーはキョトンとして首を傾げる。
対して、アンビーはおもむろに立ち上がるとビリーの正面に立った。
そのまま右手を差し出す。
その意味がわからずキョトンとした顔のまま、ビリーはアンビーを見上げる。
アンビーはいつも通りの抑揚の少ない声で、
「指令1、握手せよ」
と、言った。
それは先程まで見ていた映画の中と同じ言葉で、ビリーは戸惑いながらも自分も手を差し出す。
お互いの指先が触れ、アンビーは少々強引気味にビリーの手をしっかりと掴んだ。
「…」
「…」
「…どう?」
「いや、どうって言われても…」
そう答えながらも、ビリーは視線をアンビーから、自分とアンビーの手へと向ける。
機械人である自分のものと違い、アンビーの手は人間らしく柔らかく、温かい。
戦場で武器を握るため、手のひらが硬くなってる部分もあるが、それ以上に感じたのは、
「アンビーって、意外と手が小さかったんだな」
「そう? 私ぐらいの大きさが普通だと思うけど。…貴方の手は大きいわね」
「まあな」
珍しく言葉少なにビリーはそう返す。
いつもなら、饒舌に頼んでないことまで語り出すのが常の彼が珍しい、とアンビーはビリーの顔をのぞきこんだ。
機械人なのに人間よりも感情豊かな彼の表情から読み取れるのは、困惑と戸惑いと、それ以外の何かが見え隠れしている。
そっと手から力を抜けば、どこかほっとした様子でビリーも手を離した。
「…どう?」
「あー、えっと…まあ、悪くは無いんじゃないか?」
先程と同じ問いかけに対して、ビリーは目を泳がせながら答える。アンビーはチャンスとばかりに畳みかけた。
「じゃあ、次」
「次って…うおっ!? 」
アンビーはビリーが止めるよりも先に動く。
具体的には正面に座る彼の足にまたがるようにして、座ったのだ。
距離が縮まるどころか、ほぼゼロになり、ビリーは目に見えて狼狽える。それでもアンビーを振り落としたり、暴れたりしないのは、彼の美点の1つだろう。
アンビーはそのまま両手を広げ、
「指令3、抱き合え」
「2は!?」
「飛ばした」
「飛ばした!?」
何でだよと騒ぐビリーへ、アンビーは両手を広げたまま無言で圧をかけて催促する。
ビリーは普段なら有り得ない距離の近さと、触れ合った部分から伝達されてくるアンビーの存在感に、必要のない呼吸が詰まりそうな感覚に陥った。
「俺、オイルの匂い酷いぜ」
「気にしてない。いつまで待たせるの?」
「ぐっ。分かったよ…」
だが、どう足掻いてもアンビーはどくつもりも、指令をとりやめる気もないようだと理解して、行動を起こす。
ピリーは恐る恐ると言った様子でアンビーの背に手を回し、壊れ物でも扱うかのようにそっと抱き寄せた。
アンビーは広げていた両手で、ビリーの首へと抱きつく。
「っ!?」
ビリーは困惑が混乱に変わっていく。
顔にかかる僅かな吐息。
触れられた首に感じる体温。
密着したが故に胸部から腹部、更には脚部からも感じる人肌の柔らかさ。
それらを感じ取ることが、何か悪いことしているような気がして落ち着かない。
それでも、それらを、アンビーという存在を自分の腕の中に収めていることに安心もしている。
相反する感情のせいで上手く声さえも出せないまま、数十秒程が過ぎた。
「…ビリー」
「な、なんだよ…」
ゼロ距離からの問いかけに、ビリーは混乱の中にいながらも何とか答える。
「もしかして、嫌だった?」
どこか不安げな声音と同時に首に回されていたアンビーの手から力が抜ける。
ビリーもアンビーの背中に回していた腕を解く。
密着度は減ったが、お互いの顔が近距離にあり、それはそれでビリーは緊張しながら答えた。
「そんなことねぇよ。ただ、その…」
「何?」
「こ、こういうことって…こ、ここ恋人同士とかでするもんじゃねえのか?」
どもりながら告げられた言葉に、アンビーの目が僅かに見開かれる。
それに気が付かずにビリーはさらに言葉を続けた。
「そ、そうだよ! やっぱ、前提から違ったんだって! ほら、映画の中じゃ、あの二人は一応お互いのこと好きあってただろ!? だから、あーゆーのが成り立ってたわけで、俺らは別にそういうわけじゃねぇんだし! そりゃ、アンビーのことは大事に思ってるぜ。同じ邪兎屋の仲間なんだからよ! でも、それは別に恋人とかそういうもんじゃなくてーーー」
「ビリー」
ビリーの高速言い訳は、アンビーの一言によってぶった切られた。
ビリーはビクッと肩を跳ねさせながらお喋りを止めると、俯いたアンビーの様子を探る。
「はい…」
黙り込んでしまったアンビーへ、なにか怒らせてしまったかなと自分の言葉を反芻しながら呼びかける。
アンビーはばっと音がしそうなくらいの勢いで顔を上げると、
「恋人同士ならいいのね」
「へ?」
「そう言ったわ。好き合ってるなら問題ないって」
「言った…か? いや、まあ、言ったけど…」
ビリーは何となく、自分がまずい発言をしたのではないかと、口の当たりを抑えながら目を泳がせる。
アンビーは唐突に手を伸ばし、ビリーの顔を掴む。
「うおっ!?」
そして、ふれあいそうな程に顔が近づく。
「ビリー」
アンビーからのいつも通りの名前の呼び声。
だが、そこには、いつもと違う熱が籠っているように、ビリーには感じられた。
その熱に当てられたかのように、体が動かなくなる。
そして、その後に続く言葉を真正面から受け止めることとなった。
「私、貴方が好きよ」
「ーーー」
ビリーの目がこれでもかと見開かれる。
その視線の先で、アンビーは見たことの無いような嬉しそうな顔で笑っていた。やっと言えた、と呟くのが聞こえた気がする。
思考が上手くまとまらない。
回路が断線したかのように動けない。
今、アンビーは何と言った?
好き?
誰を?
俺を?
そこまでを何とか理解して、ビリーはやっと声を出せるようになった。
「あ、えと、俺は…」
何か言葉を返さなくてはと思うも、いつもは必要以上に回る口が全く動かない。
アンビーはそんなビリーを見て、
「今は、無理に答えなくて良い」
そう言って顔を掴んでいた手を離す。
ビリーの体から緊張が僅かに解けた瞬間、彼は自分の額に、何かが触れているのを感じた。
気がつけば、そっと顔を離すアンビーが視界に映っている。
「これは宣戦布告だから」
そう言われてから、ビリーはやっとアンビーの唇が自分に触れていたことを理解した。
考えが追いつかない中、アンビーはするりとビリーの上から降り立つと、
「続きは、恋人同士になってからね」
そう、言い放つと呆然としたままのビリーを置いて「おやすみ」という言葉と共に去って行ってしまった。
その足音が聞こえなくなった頃、ビリーはズルズルとソファから床へと崩れ落ちた。
「いや、マジか。マジか…」
同じ言葉を繰り返してしまう中、こうなった経緯をもう一度自分の中で見返す。
「ってか、俺を? アキラとかじゃなくて?」
そうブツブツと呟いていると、視界に、積まれたレンタルビデオが映る。
今回の元凶とも言えるそのタイトルを見て、思わず天井を見上げる。
同時に先程までのアンビーの言葉と表情が、触れ合っていた感触が勝手に思考内で繰り返される。
「反則だろあんなの」
あんな、見た事のない笑顔はずるいだろ。
そんな風に思いながら額に触れる。
もう、何も無いはずの場所が、何故か暖かいような気がして、尚のことビリーは床の上で転がりながら悶えるしか無かったのだった。
そして、寝不足のままの翌日。
ビリーは可愛らしい私服を着たアンビーから、早速デートに誘われることになり、絶叫する羽目になるのだが、それはまた別の話。
追記
「ねぇ、お兄ちゃん。この映画のビデオ、どういうつもりで仕入れたの?」
「え? …あ! いや!違うんだリン! これはその、お店に出すつもりはなくて…!」
「へー。じゃあ、個人的にどういう楽しみ方をするつもりだったのか、教えてくれる?」
「ヒェッ」
某日、『Random Play』にて、常連客に頼まれたビデオだったということがわかるまでの兄妹の心温まる会話より抜粋。