透き通った世界に鏡を通して   作:紙吹雪

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タイトルにもあるように、10,000UA記念です。わ〜

エイプリルフール枠として考えたのですが、何となくお祝いしたい気分だったので急遽変更しました。
割と急いで投稿したので短めになりましたが……それでも楽しんで頂ければ幸いです。

なんと、また本編未登場のセイアが主役の番外編です。
主役セイアですまない☆




10,000UA記念:胡狐の夢

 

 自分が眠っていると自覚している夢を見る。

 それは彼女……百合園セイアにとっては日常みたいなものだ。

 もう数えるが馬鹿馬鹿しいくらいには何度も経験した事だ。

 

 明晰夢とも言えるそれは他人からは万能に見えるかもしれない。

 だけど、セイアも自覚している通りそれは万能ではない。

 決まった物を見れるわけでもないし、見たくない物を見てしまう時もある。

 寧ろ、見たい物が見れた時があっただろうか?

 

 それでも、この力が全くの役に立たなかったわけではない。

 予知夢でもなんでも……与えられた力なら乗りこなさなければ。

 それが、力ある者の責務だろうから。

 

 

 

 

 でも、今回ばかりは事情が違った。

 

 

 

 

 天井には星に見える煌めきが、暗い色の室内に広がっている。

 ここがどんな空間なのか皆目見当がつかない。

 確かに言える事があるとすれば、ここが普通では無いと言う事だけだった。

 

 そして、理解するのに時間を要する空間よりも。

 嫌でも気にしなければならない存在が居た。

 

 前に一度、ゲマトリアの会議に紛れ込んでしまった時よりも……遥かに感じる危険。

 それは主に目の前のティーテーブルに座る妙齢の女性から漂っている。

 その女性はセイアの緊張を知って知らぬか、気安く呼び掛けてきた。

 

 

 

 あちらからはセイアの姿は見えない筈なのに……

 

 

 

「珍しい客だ、この無聊を慰めるには丁度良いな」

 

 愉しそうに笑ったその女性は、明らかにセイアと視線が合っていた。

 

「席に座りなさい」

「……ご相伴に、預かろう」

 

 下手に断ったら……死ぬよりも酷い目に遭うだろう。

 それは予感ではなく確信だ。

 この人物はそれだけの力がある。

 

 トリニティ……いや、たとえキヴォトスの最強が集ったとしても敵わないだろう。

 全く勝てるヴィジョンが思い浮かばなかった。

 ありとあらゆる災厄が降り掛かろうと、平然と立っていられる気がした。

 

 何者なんだろう、この人は。

 疑問が浮かんでは思考を繰り返すが答えは出ない。

 

「聡い子だ。少し待ってお呉れ」

 

 和やかな……それでいて、不安にさせる笑みを浮かべたこの女性が何者かは知らない。

 いや、下手に知りたくない。

 それだけで重大なペナルティを負ってしまうような……そんな気がして。

 

「ビナー様、今日の分は本を纏め終わりました。紅茶を淹れましょうか?」

 

 奥の方で本の整理をしていた男性が此方へと歩み寄った。

 仕事人と言った雰囲気だが……大した力は感じない。

 しかし、何処か歴戦の雰囲気も感じる。

 

 まるで阿鼻叫喚の地獄を切り抜けて来たかのような……

 

 似た雰囲気の人は他にも三人居る。

 皆一様に真面目に自分の仕事をこなしているようだった。

 

「今は構わないさ。客人を持たせるのは悪いからね」

「へ? ゲストが来てる……わけじゃないですよね」

 

 男性は首を傾げながら離れて行った。

 でも、そこまで気にしている訳ではなさそうだ。

 

「これでも、此処は図書館なのだよ」

 

 不思議そうにしているセイアに向けてビナーと呼ばれた女性は言い聞かせるような口調でそう説明した。

 ここが図書館なら、紅茶を飲むのはNGなのでは……そう思ったが。

 下手に否定すると怖いので辞めておいた。

 トリニティが誇る古書の魔術師ならば、駄目だと胸を張って言っただろうか。

 

「おーいビナー、ホクマーが呼んでいたぞ〜……って、何でもう紅茶が用意されているんだ? 別に紅茶を飲みに来たわけじゃないんだが」

 

 今度は黒いスーツの男性がやって来た。

 

 この人も潜在的には危険な気がするのは何故だろう……

 何か、胸中に昏い目的を隠しているのにそれを全く表に出していない。

 それは単に執念と言う言葉で片付けられる物ではない。

 

 その上であまりにも平然としているその男性を見て、セイアは身震いした。

 

「いらっしゃい、ローラン。生憎、それは客人の為に用意したものなのだよ」

「は? 客人……? 意味が分からないんだが」

「私にもよく分からないわね」

「うおっ!?」

 

 気が付くと、ローランと言うらしい男性の隣に空のような髪色をした女性が立っていた。

 気配すら感じなかったのにいつの間に……?

 この人物には強い違和感を感じる。

 勘が正しければ、おそらくは……

 

「アンジェラ、前にも言ったけどいきなり現れるのは心臓に悪いって!」

「そんな事よりも……ビナー、そこに居るのは誰?」

「……」

 

 どうやら、このアンジェラと言う女性も自分を認識しているらしい。

 どんな方法なのかは知らないが……驚く事ばかりだ。

 

「さぁ、私にも詳しくは分からないさ。分かるのは、君のように今は紅茶の薫りを楽しむしかできない身であるくらいだね」

「……実際に居るのは分かるのに、視覚でも聴覚でも存在を把握できないわ」

「そんな事あり得るのか? シ協会の一課でもそのレベルの隠密は厳しいと思うぞ。あ、『帳簿』って言う特異点があれば或いは……?」

 

 アンジェラとローランは考え込んでいるけれど、一向に答えは出ないようだ。

 セイア本人にすら分かっていない状況なので当たり前と言えば当たり前だが。

 それと、特異点と言う単語が非常に気になったが……

 

「ああ、一応自己紹介はしておくべきかしらね。初めまして、私は司書兼図書館長のアンジェラです」

 

 人として完璧な声と容貌。

 それなのに何処か半端なまま。

 さらに、先程の「紅茶の薫りを楽しむしかできない」と言う発言……

 

 ……あまり触れない方が良い気がした。

 

「私の名前は百合園セイアだ。ここは図書館だと言ったね。どのような本があるんだい?」

 

 言葉が通じるかどうかは知らないが……言葉を発してみた。

 実際に発しているのかどうか、セイア自身にすら分からないが。

 幸いにもアンジェラとビナーには通じたようだ。

 

「この図書館の本を読みたいのなら……ゲストとして招待状を受け取っていなければならないわ」

「……? 貸し出しとか、無いのかい?」

「ええ。ここは普通の図書館ではありませんから」

 

 やはりと言うべきか、セイアの知る常識が通じない場所なようだ。

 本は読まれてこそ価値が生じるのではないのだろうか。

 図書館長と司書だけが閲覧を許可されているのか。

 そもそも、どうやって本を得ているんだろう?

 

「なぁ……俺には何も見えないし何て言ってるのか全然伝わらないんだが」

「面倒だから翻訳はしないわ」

「掃除屋の時はしてくれただろ? はぁ……」

 

 ……この、ローランと言う男性がアンジェラを見る目。

 含みがあるのに気が付いているのはセイアだけだろうか。

 いや……ビナーも気が付いている。

 チラリと向けられた視線の意味は、おそらくそう言う事だ。

 

「幼子よ。お前が何処から来たにしろ、都市はお前を歓迎しないだろう。アンジェラと同じくな」

 

 ティーカップを優雅に口に運びながらビナーはそう語った。

 その言葉の意味は分からなかったが、それよりも気になる事がある。

 

「『都市』とは……何の事だろうか?」

「……都市が分からないの?」

「都市が分からないって……ひょっとしてそいつも外郭出身なのか?」

 

 そいつ()? 外郭?

 

「ふむ、やはり何も分かっていないようだ」

「やはりって何だよやはりって……」

 

 どうやらこの女性……ビナーは何か知っているらしい。

 しかし、話してくれる気がしないのはどうしてだろう?

 話し方も難しい……と言うのは、セイアは他人にとやかく言える立場ではなかった。

 

「……良い薫りだね」

「そうだろう。紅茶に明るそうだから特別に用意したものだ」

 

 たしかに……ナギサが良く紅茶を嗜んでいたので、紅茶の薫りには慣れている。

 それでも状況が違えばこんなにも感じ方が異なると言うのは新たな発見だった。

 甘いお茶菓子が無くても会話をするだけで楽しめそう……とは、思うが。

 きっとナギサならロールケーキでも勝手に用意するだろう。

 

「さて、会話でもしようと思っていたが……残念ながらそろそろ時間切れのようだね」

 

 ふと気が付くと……セイアは自分の意識が目覚めようとしているのに気が付いた。

 アンジェラも遅れて気が付いたようだった。

 

「意識だけの存在だったの……?」

「いや、何だよそれ。幽霊の類か?」

 

 困惑しているアンジェラとローランを他所にビナーは言葉を続けた。

 

「短い間だったが、悪くない時間だった。礼として最後に一つ忠告しようじゃないか」

「忠告?」

 

 セイアが聞き返すと……ビナーなりの満面の笑みを浮かべていた。

 

「目を背けてはならない。恐怖で身体が震えたとしても……一度でいい。たった一度でも、鎖を断ち切るのが重要なのだよ」

 

 心胆寒からしめる表情と共に……セイアの意識は浮上した。

 

 

 

⬛︎ ⬛︎ ⬛︎

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 目が覚めると、そこはいつものベッドの上。

 身体中に嫌な汗がべっとりと流れているが……身体の調子は決して悪くはない。

 その筈なのに……目眩でもしているかのように視界がフラフラと揺れている。

 

「今のは現実だったのか……それとも夢だったのか」

 

 答えが返ってくるわけでもないのに、思わず疑問を口にする。

 

 夢と現実の狭間。

 その境界について誰よりも詳しいのに、誰よりも理解できない。

 言い換えれば……それは恐怖とも言えるかもしれない。

 

 あのビナーと言う女性の忠告の意味は未だに分からない。

 けれど……悪意自体は含まれていなかったと思う。

 

「鎖を断ち切る、か」

 

 この先、最悪の未来が訪れると知ったとしても。

 それでも足掻けば何かが変わると言いたかったのだろうか。

 分からない事だらけだけど、それでも。

 

「……また、ナギサやミカとお茶会を楽しみたいな」

 

 そう願わずにはいられないセイアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これから先……ティーパーティーに、トリニティに、ゲヘナに、アリウスに、そして先生に。

 それぞれが織りなす物語を、セイアが知るのはもう少し先である。

 

 






※図書館側の時系列は不純物に入った辺り。
※セイア側の時系列はエデン条約編以前になります。より正確に言うともう少し前ですが(一応のネタバレ配慮)

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