透き通った世界に鏡を通して   作:紙吹雪

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投稿をぼちぼち再開して行きます。
対戦よろしくお願いします。




都市の現象に初めて遭遇したキヴォトスの住民が取るべき行動について

 

 

"……貴方はどうやってキヴォトスに辿り着いたんだ?"

 

「ふむ、質問ばかりですね。別に構いませんが」

 

 余裕綽々とばかりにその生徒は答えた。

 その態度が癪に障ったのか、ネルのこめかみに筋が浮かんだ。

 モモイとミドリが必死に宥めようとしているが……

 堤防が崩れるのも時間の問題だろう。

 

「さて、ね。私としてもイマイチそこは不明瞭なのですよ。そもそも、単なる鏡に人格を被せる力なんて存在しないのに」

 

"どう言う事?"

 

「まず、この『鏡』と言う技術は可能性の世界を映すだけしかできません。少なくとも、鏡単体では」

「……でも、現にモモイとミドリ、それにユウカの人格は変わってるな」

「ああ、それは私がつい先程しましたので知っていますよ」

 

"……っ!"

 

 今まで……あの不思議な鏡の被害に遭った生徒は、誰かの所為で鏡に触れた訳ではなかった。

 だが、悪意を持って鏡を使う者が現れた。

 目的は分からないけれど……見過ごせない所業には間違いない。

 

「で、方々を探し回って見つけた二つの鏡をさっきそこの双子に使って、私は一つの仮説を思い付いたのだよ」

「……んだよ、それは」

「これは、この世界特有の現象……つまり、『神秘』によるものではないかと」

「ああ?」

 

 ネルが不可解そうに眉を顰めた。

 それは、ユウカも含めてこの場のほぼ全員が同じ感想だった。

 『神秘』と言われても、オカルトのような話にしか聞こえないのだろう。

 

「む、腑に落ちないと言った様子ですね。まあ、私も最初は同じ気持ちでしたよ」

 

"それはどう言う……"

 

「都市の技術の一部。それがこの世界に渡った時に変質した。それが下された結論でした」

 

 その言い方だと、まるで彼女ではない()()からアドバイスでもされたかのような……

 だが、まだ分からない点はあった。

 

"なら、何故ユウカは都市に居た可能性の人格を被せられているの?"

 

「ここの『硝子』によって今の人格が見出されたのでしょう。彼女を拉致するのはかなり苦労しましたよ。どうやら側にいた白髪の方が私を警戒していたみたいでしたので。結局、一人になった時を見計らって実行させて頂きました」

「……なるほど、それがあの時私がここに居た理由ね」

 

 納得の行ったように頷くユウカ。

 しかし、先生はふと疑問が思い浮かぶ。

 先にその疑問を口にしたのはネルだ。

 

「おい、つまりお前はこの場所を知ってたのか?」

「でも、そっちが発見してくれたから余計な口は挟まなかった。それだけの事よ」

 

 ツンとして突き放すような態度のまま、ユウカはそれ以上言い分を口にしなかった。

 酷く冷たい態度に感じるけれど、状況判断をした結果らしい。

 ……これもまた、都市で生き残る為に為された変化だろうか。

 

"どうすれば元に戻るの?"

 

「元々の人格が今、主導権を取り戻せばいつでも戻って来られるでしょう。まだ残っていればの話ですが……ヘイローとやらが保護しているのでは?」

 

 肩をすくめてそう語るのを見て、先生は一先ず安堵の溜め息を吐いた。

 どうやら、もう二度と戻らない訳ではないらしい。

 先生はどうにかなる筈だと自らを鼓舞した。

 

「彼女の結果が出た時は驚きました。まさか、目覚めた瞬間襲われるなんて考えてもみませんでした。気紛れに意識のある状態で使ったのが良かったんですかね?」

「さっきから聞いていれば。そんな機械がそう簡単に作れる訳ないよ!」

「うん、お姉ちゃんの言う通り……正直、この目で見ても信じ難いかな」

 

 モモイとミドリの否定を受けた生徒はくすくすと嫌な笑いを浮かべたまま返答した。

 

「たしかに、金に物を言わせた施設があろうとこの世界の物だけでは難しかったでしょうね。まあ、私は決して天才とは言えないですが……元になる『鏡』があったのです。例え私のような凡人だろうと、やろうと思えばそれなりに出来るものですよ」

 

 

 

 その一瞬。

 

 

 

 ほんの少しだけ、その生徒の表情が歪んだ気がした。

 普段なら見過ごしていたかもしれない。

 気の所為とも思えるかもしれない……ほんの僅かな隙だったけれど。

 

 

 

 先生は、見逃さなかった。

 

 

 

「まだ一番大事な事を聞いてないな。ここにあるコイツらに……何をした?」

「鏡とはまた違う……『硝子』って技術ですよ。此方は『鏡』と違って無差別に人格を探せるのが特徴でして。ですが、此方は本当に芳しくない結果でしたよ」

 

 はぁ、と。

 大袈裟に溜め息を吐いて見せた。

 ネルの血管が今にもブチ切れそうに脈打っている。

 モモイは半ば諦めたようにそっと離れ、ミドリは浮かべる笑みが深くなった。

 

「本来ならこれだけ『硝子』を使えば人格なんて溶け消えて大罪へ変わってしまうと予想していたのですが……どれだけやっても苦しむだけでピンピンしています。適合できる程の素質の持った方も見つかりませんでした。途中から生徒に目を付けて試してみたものの、ご覧の有り様ですよ。ああ、赤髪の生徒は貴方達の所為で試す暇がありませんでした。ふふ、ままなりませんね?」

 

 ネルだけでなく、先生の堪忍袋の緒も限界だった。

 こいつはどれだけ人を苦しめて……それを当然のように誇って……!

 

「さて、質疑応答はこれくらいにしましょう。用意ができましたので」

「何を言って……っ!?」

 

 その瞬間、無機質ながらも焦燥感を煽る声が聞こえた。

 棒読みで如何にも人工音声らしい口調だった。

 

 

 

 

 

『爆破シークエンス開始。爆発まで、後15秒です』

 

 

 

 

 

"えぇ!?"

 

 一切の抑揚もなく緊張感は勿論、その他の感情を感じさせない声。

 だからこそ、より一層危険な物を感じさせた。

 

「いやいやいや早過ぎるでしょ!? もう少し猶予があってもいいじゃん!」

「もしかして自分諸共爆発させるつもりなの!?」

「ちっ、最初からこれが目的か!」

 

 妙に素直かつ気持ち良くベラベラと喋ってくれるな、と。

 先生も怪訝に思っていたら、こんな理由があったらしい。

 

 皆が皆、焦ったように叫び出す中……ユウカだけは冷静だった。

 まるでこうなる事も見越していたかのように。

 

 普段の彼女からは想像も出来ない瞬発力で部屋の唯一の出入り口へと走る。

 だが……

 

「……閉まってる」

「そう簡単に逃げられたらつまらないではないですか」

「ちっ……おい、今すぐに止めろ!」

「ハハハッ!! 最早私にも止められませんよ!」

 

 ネルに胸倉を掴まれながら狂ったように笑っている。

 その様子を……眺める事しかできない。

 先生は悔しそうに唇を噛んだ。

 

「さて、まだまだ実験のサンプルは必要です。ここの機材は損失してもまだ許容できる範囲……実験結果は私の頭の中に残っています。他の場所にて実験を再開すると致しましょう」

 

 ここで爆発が起きたら、気絶しているマキ達は確実に大怪我を負う。

 死ぬ可能性だって絶対に0とは言い切れない。

 爆発の威力によっては地下が崩落し、救助に時間がかかってしまうかもしれない。

 そうなれば怪我と衰弱で命が削られて行くだろう。

 

 爆発を止める手段は先生には無かった。

 シッテムの箱……アロナの力を持ってしても絶対に無理だ。

 

 カウントダウンは既に始まっているのだから——

 

 

 

 

 

『爆発まで5秒前。4……3……2……』

 

 

 

 

 

「自分ごと爆発させるなんて、絶対正気じゃない……!」

「ヘイローとやらでやたら頑丈ですし。ま、死にはしないのでは?」

「テメェ……!!」

 

 憎たらしい笑い声が聞こえた。

 ここで終わってしまうのだろうか。

 無敵のアロナちゃんバリアも流石に瓦礫の下敷きになってしまうと……

 来るであろう爆発に目を閉じる。

 

 

 

 ……が、何も起こらない。

 

 

 

「あ、あれ……?」

「何も起こりませんね……」

 

 不思議そうに周りを見渡すモモイとミドリ。

 すると、閉まっていた筈の入り口が開いた。

 そこに居たのは——

 

 

 ミレニアムの誰もが知る。

 "全知"を自称する傲慢ながらも周囲にはある程度認められている天才。

 車椅子に乗った、色白で白髪の少女だった。

 

 

「古巣であるヴェリタスから情報を受け取って来てみれば。まさに危機一髪……そんな状況でしたようですね」

 

 彼女は自信に満ち溢れた表情でこの場にいる誰よりも堂々としていた。

 座っているにも関わらず。

 

「ミレニアムの危機に遅ればせながらと言うのは、少々情けない話ではありますが。超天才清楚系病弱美少女ハッカーである私が来たからには——」

 

 

 

 

 

「誰でしょう?」

 

「えっ、誰?」

 

「誰なの?」

 

「誰よ、アンタ」

 

"……誰?"

 

「んな……!?」

 

 

 

 彼女が不幸だったのは、この場にいる大半の生徒が……彼女とは初対面であった事だろう。

 

 だが、しかし!

 

 ネルを除いて!

 

 この少女、ヒマリの事を!

 

 

 

 

 

 

 この場にいる誰も! 知らないのである!

 

 

 

 

 

 

 薬指の生徒やセブン協会フィクサーの人格のユウカは勿論。

 どうやら今のモモイとミドリも知らないらしい。

 先生はまだミレニアムに顔見知りは先のゲーム開発部の件で知り合った相手くらいしかいない状態である。

 

「部長、格好付け過ぎて逆に格好悪い」

「……うるさいですよエイミ。それより早めに片付けましょう。特異現象をこれ以上ミレニアムの、この天才美少女ハッカーのお膝元で放置させる訳にはいけませんから」

 

"よく分からないけど、援軍だと思って良いんだよね?"

 

「コホン-…その通りですよ、シャーレの先生」

 

 誤魔化すように小さく咳払いをしたその生徒を、先生は普通に受け入れる事にした。

 先生は大人なので、スルーされた事には触れないでおく空気を読むだけの気遣い能力があった。

 

「ええ。ヴェリタス……と言うよりはチヒロからの連絡があって駆け付けました。それだけが理由ではありませんが……」

 

 ヒマリは部屋の実験器具を険しい目付きで見据える。

 

「……特異現象捜査部としても、今回の件は見過ごせませんね」

「部長、あの鏡ってまさか噂の……」

「恐らくはそうなのでしょうね」

 

 初めて聞く部活名に目をぱちぱちさせる先生。

 後で話を詳しく聞きたいが、今は目の前の薬指を捕らえるのが先だ。

 

 爆発は阻止した。

 出口はヒマリと桃髪で薄着の生徒が抑えている。

 此方の方が人数が有利。

 負ける要素はおよそ見当たらない。

 

「……」

 

 流石に余裕が消えたのか、薬指の生徒は真顔で黙り込んでいる。

 今まで浮かべていた笑みが嘘のようだ。

 だけど……決して諦めているようには見えなかった。

 

「逃げ場は何処にも無い。ハッ、観念するんだな」

 

 ネルが銃器を向けながらそう告げる。

 実際、キヴォトスにおいて彼女の戦闘力を超える者は殆ど存在しない。

 確かな実力があるからして生まれる余裕がそこにあった。

 

 けれど、先生にはどうにも嫌な予感が拭い切れなかった。

 

「……さてはて、これをするのはもう少し後回しにしたかったのですが」

 

 自然な動作で薬指の生徒は近くにあったレバーを倒した。

 ネルが警戒して構えるが……

 

 

 

 それはもう、始まっていた。

 

 

 

「……は、ハハ!! これが、我が師も見た景色なのですね!!」

 

 奇怪な光が装置から薬指の生徒に向かって放たれる。

 再び見る者を不安にさせる恍惚とした笑みを浮かべていた。

 それはもう、狂笑とも言える歓喜の声をあげていた。

 

 何が起こっているのか分からず、ネル達も先生も行動を取ることができなかった。

 

「何がどうなって……っ!?」

 

 光の中、その生徒の姿を何かの皮が覆って行く。

 その間も幸福感に満ち溢れたその表情は変わらない。

 目を逸らしたくなるような筆舌にし難い変身だった。

 

 初めて見るその現象に呆気に取られた先生達。

 そして……光が晴れる。

 

「……アァ! 我が師と同じ姿だ!!」

 

 服は無く全身は白い鱗のような皮膚で覆われている。

 そして、その上を数多くの青い点が浮かんでいた。

 腰からは太い尻尾が伸びており、手足の先は鋭利なかぎ爪になっている。

 

 総評して……確実に人外の見た目だった。

 

「ハァ、ハァ……ふふ、こんな私でも至れましたか!! おお、見ておられますか師匠!!」

 

 それは歓喜の声をあげる。

 無邪気な産声は聞いた者に怖気の走らせるだろう。

 どうしようもなく……他の人間からズレているのだから。

 その本質から。

 

「何よ、これ……?」

「変身した……?」

 

"……何が起こったの?"

 

「これは、まさか……?」

「何か心当たりがあんのか?」

 

 ネルの問いに恐る恐るユウカは返答する。

 

「ねじれ現象……に、よく似ている気がする。でも、あれは偶発的に発生する現象の筈。それなのに、ねじれを誘発出来る装置があるなんて……出所不明のあらぬ噂程度にしか聞いた事がない」

 

「「ねじれ現象?」」

 

 モモイとミドリの声が重なった。

 先生にもネルにも、ヒマリにすら知らない。

 完全に未知の……都市に属する知識だ。

 

「専門でもないから詳細は分からないけど……人が異形の姿になったのを『ねじれ』と呼んでいるの。一番有名なねじれと言えばピアニストだけど……って、それどころじゃないわ!」

 

 突如、慌てたようにユウカが武器を構え直した。

 それを見て咄嗟に同じ事ができたのはネルだけだった。

 

「きゃあ!?」

「いたっ!?」

 

 モモイとミドリに向けてその『ねじれ』は爪を突き刺した。

 二人の胸……心臓がある辺りから血が滲み出る。

 普段なら、銃弾を喰らったくらいでは擦り傷程度で済むのに……

 仮に爪を喰らったのが先生だったら即死するのは想像に難くない。

 

「ふむ、やはりと言うべきでしょうか、この世界の者は異様に硬いですね。チャチな強化施術なら容易に刈り取れていたでしょうに」

「っ、テメェ!」

 

 ネルが流石の反応速度で即座に反撃に移った。

 咄嗟にしては恐ろしく素早い動き。

 それなのに、彼女の放った銃弾は少数は命中したものの大多数がかぎ爪で弾かれてしまった。

 ほぼ無傷である。

 

 ネルは違和感を覚えたのか目付きが更に鋭くなった。

 アリスのように遮蔽物に隠れて凌ぐのならともかく、銃弾をその手で弾いた。

 都市とやらでは普通なのかは知らないけれど……

 

 熱くなりやすい性格の彼女だが、決して考えなしではない。

 

「おや、短気な方だと思っていましたが……そうでもありませんでしたか」

「……妙だな。お前と戦うのは今この瞬間が初めてだ。なのに、お前は手慣れていやがる。あたしと何度もやり合った事があるみてぇに」

「ふふ、しかも頭も意外と回る。面白い方ですね」

 

 とっておきの手品をネタばらしするように、その『ねじれ』は語りだす。

 自信満々かつ傲慢で、何も恐れていないのがよく分かる口調だった。

 

「ここ。私が貴方に撃たれた場所。25回くらいですかね?」

「……何の事だ?」

 

 自らのこめかみを指差しながら語る『ねじれ』の言葉を、先生は首を傾げて困惑するしかなかった。

 今初めて相対していると言うのに、撃たれたとは?

 どう言う意味なのかさっぱり分からない。

 一般的な常識で考えても理解には決して至らないだろう。

 

 

 

 だが、この場でただ一人。

 ネルだけはほぼ直感だけで一部分だけでも理解できた。

 この『ねじれ』が何をしたのかを。

 

 

 

「……未来を予知したってか?」

「惜しいですね。でも、掠ってはいます。正直、あまり考えるのが得意なタイプではないと判断していましたが……ふふ、そんな貴方の意外性が私を楽しませてくれます」

 

 『ねじれ』の浮かべる笑みが深まった。

 

 






ジョムスンってやってる事がどっかの誰かさんに似てる気がする。
原理は全然違うけど。ぴーすぴーす。

リンバスとブルアカのプレイ経験はありますか?

  • リンバスだけプレイしている
  • ブルアカだけプレイしている
  • 両方プレイしている
  • 両方プレイしたことがない
  • プロムンの過去作はプレイしたことがある
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