ナイトレインが楽し過ぎて投稿が遅れないよう気を付けます
「先生、来てくれてありがとう……本当に助かるよ」
"……事態は割と深刻みたいだね"
見た事ない程に顔色の悪いアル以外の便利屋68の面々を見て、先生も釣られて顔色が悪くなりそうだった。
カヨコのお願いで状況を把握し、仕事で疲れた身体に鞭を打ちすぐに駆け付けたのは良いものの……雰囲気がかなり悪い。
「私の所為でアルちゃんが……」
「アル様……アル様……」
快活な声しか聞いた事のないあのムツキまでもが泣きそうな顔になっている。
普段は小悪魔のような笑みを浮かべる彼女の沈み込み様で、先生は事態の悪さを感じ取れた。
ハルカに至っては心ここに在らず、ただ尊敬している人の名前を呟く機械と化している。
彼女がアルの事を良く慕っているのを知っている先生にはその気持ちが多少なりとも理解出来た。
「えっと……」
そして……この惨状を引き出した原因である便利屋68の社長、陸八魔アル。
流石の彼女も居心地が悪そうにしているようだが、先生の目から見ても様子がおかしい。
と言うか、普段の様子と明らかに違う点がある。
それは服装だ。
普段着ている服では異なる服を着用している。
しかも
それも、
"アル、私の事は分かる?"
「も、勿論よ先生! 私が先生の顔を忘れる訳がないじゃない!」
失礼しちゃうわね、と言いたげに頬を膨らませる。
アルの調子は大体いつも通りのようで、そこは安心した。
しかし、この服装はどう見ても……
"ねぇ、カヨコ"
「言いたい事は分かるよ、先生。これは多分……」
「ちょ、ちょっと! 私の目の前で二人だけで会話されると寂しいのだけれど……」
アルの表情は本当に寂しそうだ。
ほんの少し、先生は普段の彼女との差異を感じた。
ここまで甘える生徒だっただろうか?
どちらかと言うと、彼女は見栄を張ってしまうタイプだったような……
"電話じゃあまり話せなかったから、詳しい話をしてもいいかな、アル?"
「勿論、私に出来る事なら構わないけど……」
アルはチラリと落ち込んでいるムツキとハルカの方を見る。
全く自覚は無いとは言え、自らの変化が原因で傷付けてしまったのが気に掛かっているのだろう。
根っこの部分にアウトローらしからぬ心優しさを持つ彼女らしい。
「社長……じゃ、無いんだっけ?」
「そうね。便利屋とか言われても全然ピンと来ないわ。でも……その呼び名はちょっと格好良いじゃない」
そう言って目をキラキラさせるのも彼女らしい。
全くの別人では無いのは短い時間でも理解出来た。
これで目を輝かせるのは、先生の知る限り彼女くらいだった。
"風紀委員所属って言ってたけど、本当?"
「そうよ! これでも風紀委員長よ!」
ビシッと胸に手を当てて自信満々にそう言うアル。
この姿をアコが見たら面倒な事になりそうだ……先生は頭の片隅でプンスカ怒るアコの姿が思い浮かんだ。
きっと叫びながらイオリ辺りを差し向けてくるに違いないだろう。
"あのアルが風紀委員長だなんて、全然想像つかないよ……"
「し、失礼ね! 自分で言うのも何だけど、そこそこ上手くやってる……と、思うけど……」
そこで萎み込んでしまう辺り、性格の差異自体は少なめかもしれない。
同一人物なので当たり前と言えば当たり前だが。
"そう言えばヒナの事は知ってるの?"
「……ごめんなさい。知らない名前だわ」
"そうなんだ……"
以前の彼女なら……と言うか、ゲヘナ生徒なら空崎ヒナの名前を知らない者はいない。
学校内どころか他の学園にすらその名は届いているのだ。
だのに、彼女は知らないと答えた。
そして……アルは器用な嘘が吐ける性格でもないし、嘘を吐く理由もない。
「……ねぇ、先生。あの噂はやっぱり真実なのかな」
"どうだろう。まだ分からない事ばかりだから"
先生は頭に手を立てて考える。
アルを元の状態に戻す方法はあるのだろうか……
いや、例え無かったとしてもどうにかしなくてはならない。
生徒を導く『大人』として。
「……何だかその、ごめんなさい。私の所為で迷惑をかけちゃったみたいで」
"アルは悪くないから安心して。勿論、ムツキも悪くないよ!"
「……うん、ありがとう先生」
まだ声に力は無いものの、多少は普段の笑顔に戻ったムツキ。
弱々しくても空元気を張れるくらいには回復しただろうか?
「しかし……どうしよう、社長がこのままだとハルカが……」
「そう、ね。残念だけど、私はこの子の事は何も思い出せないわ」
「アル様アル様アル様アル様……」
……元から不安定な生徒だったけど、更に揺らいでいるのは疑いようがなかった。
便利屋68とはそこまで長い付き合いでもない。
だけど、ハルカがアルを強く慕っているのは短い時間でも理解できた。
親しかった人物が自分の事を忘れてしまう悲しみ。
それを理解するには……先生には難しかった。
下手な慰めをかける事はできても、同じ経験がないから。
今のハルカと喪失の痛みを分かち合えないのだ——
それでも。
アルは今のハルカのことを放っておけないのか、彼女に対して口を開く。
それは、虚勢の余裕でも剥がれた本性でもなく。
真摯な口調だった。
「あの……貴女」
「アル様……?」
床しか見えていなかったハルカの視線がアルへと向けられた。
悲しみと寂しさ、それと絶望の入り混じった瞳を受けたアル。
ほんの少しだけ、向けられた感情が重いと感じた。
……今の彼女にとって、ハルカは身も知らない赤の他人でしかない。
それでも、根は心優しさに溢れている彼女にとっては無視できない。
できる筈がない。
「私はカヨコみたいに賢くないけど……貴女が私の事を慕っているのくらいは分かるわ。それに嘘偽りが無い事もね。正直、ちょっと恐れ多いくらいよ。こんな私について来てくれるのだから。貴女が見ていた私がどんな人だったのかは分からないわ。私からしたら……別の世界の自分に乗り移ったみたいな気分よ。それでも、貴女の気持ちには応えてあげたいの。貴女がこの世界の私を慕う気持ちを……部外者かもしれないけど、裏切りたくないから」
彼女の本心から出た嘘偽りのない言葉。
今のアルはカヨコ達からしたら別人のようなかもしれない。
何せ、便利屋68として苦楽を共にした経験を知らないのだから。
それでも……その本質だけは、代わりようがない。
アルはアルであって、他の何者でもないのだ。
「アル、様……」
「貴女の事を何も知らない私に、受け止める資格はないかもしれないけど……ええと、つまり何が言いたいのかって言うと、その……どうか泣かないで頂戴?」
少しだけ困ったような、それでも出来る限りの笑顔でアルはハルカにそう語りかけた。
同時にハンカチを取り出して彼女の涙を拭ってあげた。
さめざめと泣いていたハルカは、防波堤が崩れたように泣き出した。
例え自分の事を忘れていても……それでも。
この人は、社長は、アル様は。
こんな自分の事を見てくれるのだ。
ハルカの感情はこれ以上なく発露した。
落ち込んでいた心が浮き上がる。
抑えきれない程に……
「アル様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「え……い、いやあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
思い切りアルに飛び付き、抱き着いた。
それはもうベアハッグの如くガッチリと。
もう絶対に離したくない。
ハルカの動きはそんな想いに満ち溢れていた。
アルはいつも通り白目を剥きながら悲鳴を上げている。
「アル様アル様アル様!」
「た、助けてカヨコ!」
滂沱の涙を流しながら渾身の力でアルに抱き着いて決して離れようとしないハルカ。
予想外の彼女の暴走に、アルは咄嗟にカヨコにヘルプを送った。
しかし……それが逆にある人物の琴線に触れてしまった。
「……むー、アルちゃんったらカヨコばっかり呼んで」
「ご、ごめんなさい……? って、見てないで助けてムツキ〜!」
先に名前が呼ばれなかったのが面白くないのか、ムツキはむすっとしている。
でも、その表情はあっさりと崩れ落ち……
いつもよく浮かべていた、イタズラを思い付いたような悪い笑みへと変わった。
「私も抱き付かせて貰うね!」
「何故っ!?」
予想外の裏切り(?)にアルは驚く事しか出来なかった。
一方、カヨコは先生と一緒にその光景を呆れたように見ていた。
……口角が少しだけ上がっていたので、彼女も嬉しかったのかもしれない。
いつもの調子に戻った便利屋68が。
ハルカが泣き疲れて眠ってしまうまで、アルの悲鳴は事務所に響き続けた。
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
"そうだ、肝心の鏡は?"
「それが……」
カヨコの話を聞いて、先生は耳を疑った。
"……消えた?"
「うん。間違いないよ……ムツキがずっと視界に入れてたみたいで、そう言ってた」
「この目で見たよ。目を疑ったけど……その時はそれどころじゃなくて」
"そう、なんだ……"
不可解ながらも、この場で考えてもキリがない事は明白だった。
今はアルをどうにか元に戻す方法を考えなければならない。
それも、なるべく迅速に。
「うーん……」
"どうしたの、アル?"
何やら唸っているアルを見た先生が疑問に思って問いかけた。
「最近、風紀委員に落とし物が届いていた記憶があるのだけど……なんか、その箱とそっくりなのよね」
「!? その話、もっと詳しく聞かせてくれる?」
"私からもお願いするね"
「えぇ!? そ、そうね……」
僅かな糸口を見つけ、グイグイと迫る二人に若干引きながらもアルは記憶を紐解いて行く。
「ええと、三日くらい前だったかしら。うちの子が温泉開発部の開発跡地で見つけたって言ってたような……」
「今は何処にあるかどうか、分かる?」
「た、たしか押収品と一緒に保管されてた筈だけど……」
「……」
カヨコは顎に手を当てて考え込む。
今のアルの記憶を信用していいものだろうか。
勿論、アルが嘘を吐いたり思い違いをしている可能性も完全には否定出来ない。
ヒナの代わりに風紀委員長をしているだなんて、正直今でも信じ難い。
もし噂通り、このアルが別の世界の可能性なのだとしよう。
そうだとしても、彼女の居た世界と今自分達が居る世界は別物ではないか。
この話を信じたとしても、ただただ徒労に終わってしまうかもしれないのだ。
虚しく空を切る手……社長が、アルが離れて見えなくなって行く。
これまで便利屋68としてやって来た事も全て抜け落ちたままなのだろうか?
もしそうならば……積み上げて来た物が全て無価値になってしまう。
耐え難い喪失の予感に、身体の芯から怖気が走った。
"まずは行ってみようよ、カヨコ"
「先、生……」
"可能性は低いかもしれない。それでも実際に確かめて見なければ分からないよ"
「……うん、そうだね」
先生の言葉で下向きだった気分が多少上向きへと変わる。
だから、この人は先生なのだ。
生徒に対して、その時一番欲しかった言葉を返してくれるから。
"今日はもうもう遅いから明日行ってみよう"
「私達は学園から指名手配されているけど……先生、お願いできる?」
"任せて。ヒナからは注意も兼ねて連絡しておくよ"
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
「……ん、先生から?」
就寝しようとベッドに腰掛けたヒナは、スマフォを見て怪訝な表情をした。
こんな時間にモモトークが届いているのもそうだが、その文面に関しては眉間に皺が寄らざるを得なかったのだ。
『明日、訳あって学園に行くんだけど、その前に頼みたい事があるんだ』
珍しい。
先生がこうしてわざわざ生徒に頼み事をしてくるのが、だ。
それが意味するのは、それほどの事態であると言う事も。
『押収品の中に探し物があるかもしれないんだ。でも、それはとても危険物で……』
先生によると、どうやら別の世界の自分に乗っ取られる鏡がゲヘナ学園にあるかもしれない。
……馬鹿馬鹿しいかもしれないがそんな冗談を先生が言うとも思えなかった。
長い付き合いとは言えないけれど、そのくらいは分かる。
『分かった、誰も触らないように注意をしておく』
『ありがとう、ヒナ』
「(……先生に感謝された)」
少し嬉しくなりながら、その日は就寝した。
翌日、先生が来る事と注意されていた押収品の件について説明する。
アコは予想通りにアポが直前過ぎると文句を言っていた。
「その危険物って、一体何なんですか。それらしい物なんて、報告書には一文字も無かったですよ!」
「話を聞くに、中に鏡が入っている箱だそうよ」
「そんな物が危険物? まさかおかしくなったんですか、先生は……」
……仮にそうだったとしても、それはそれで非常事態である。
シャーレの持つ権限的に。
一先ず、先生が来るのを待つ為にアコと二人で校門の方へと向かう。
「アコ、それらしい物に覚えはあるかしら」
「……そう言えば、イオリが何か拾ったと報告していたような? でも、具体的にそれが何なのかは忙しくて聞きませんでした」
イオリは現在温泉開発部の起こした問題の後始末に奔走中である。
昨日まではまだ話をする余裕があったが、今はそれどころではない。
「と言うか、いつ頃来るんですか先生は?」
「午前中には来るって言ってたから、そろそろ来ると思う」
不謹慎ながらも、ヒナは先生と会えるのを楽しみにしていた。
しかし、訪問の目的はあくまで危険物の回収。
浮ついた気持ちは決して面に出さないようにしつつ待った。
"やぁ、ヒナ。元気かい?"
「……先生」
ヒナは思い切り眉を顰めた。
アコに至っては顔に手を当てて天を仰いでいる。
先生の隣に居る人物が、色んな意味で信じ難かったからだ。
「…………はぁ」
"あ、ため息吐かれちゃった"
「だ、大丈夫なの先生? 何で私はこう、歓迎されていないの?」
先生の隣に居たのは……ゲヘナ学園の問題児集団の一つ、便利屋68。
当然、指名手配されている筈なのにここに現れたのは。
そのリーダーであり、何故かヒナと全く同じ服を着用した陸八魔アルだった。
「きいぃぃぃぃ! 何故指名手配されている生徒が、あまつさえヒナ委員長の服装をしているのですか!?」
案の定、アコは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐なる先生を除かなければならぬ
それと私は別にアル×ハル推しではないです
言うまでもなくアル×ロラ推しでもないです
リンバスとブルアカのプレイ経験はありますか?
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リンバスだけプレイしている
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ブルアカだけプレイしている
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プロムンの過去作はプレイしたことがある