透き通った世界に鏡を通して   作:紙吹雪

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ここの先生はコーヒー派です
……生徒でコーヒー好んでいる描写がある子って居たっけ?
私はまだレベル90になったばかりなので全ての生徒の趣味嗜好まで把握し切れていないのです

もし変な事を書いてたら感想で教えてくださると、作者は感激のあまり楽しいバナナ鳥になります(?)




鏡の世界と新しい事件

 

 

 陽射しが段々と強くなり、夏の到来を感じさせるとある日のお昼時。

 シャーレにて。

 

「今日は真面目に仕事をしてなさるんですね」

 

"まるで普段は真面目にしてないみたいな言い方だね"

 

「……違うと言いたいのですか?」

 

 あまり否定できない。

 メガネの奥からキラリと煌めく眼光で睨め付けられてしまった。

 そうなると、先生は苦笑を浮かべながら彼女の意を受け入れる他に道はなくなってしまう。

 

 七神リンことリンちゃんの用事は単に書類の提出と受け取りだ。

 二人共今は忙しい身なので大した会話すらする余裕を持てなかった。

 最近では先生のお陰で少しはマシになったのだが。

 

 今二人が、と言うよりは連邦生徒会が忙しい理由は主に先生にある。

 

「……生徒の為になら本当によく働いてくださるのですね」

 

"私は先生だからね"

 

「普段からこのように仕事へ集中してくださるとありがたいです。では、私はこれで」

 

 大量の書類を持って来て、大量の書類を持って帰って行く。

 リンが部屋から退出するのを見届けてから、先生は机の上に項垂れた。

 だらしない姿だが、幸いにも見ている生徒は居なかった。

 

"……ちょっと休もうかな"

 

 シャーレにある自分の仕事机にて作業を始めたのは朝の七時。

 そして現在は正午に差し掛かる直前の時間帯だ。

 流石に五時間ぶっ続けで書類に向き合うのは疲れたらしい。

 

 先生は疲れた身体に一息入れる為にコーヒーを淹れようと席を立った。

 

 

 

 先生が今まで纏めていたのは先日の騒動……

 便利屋68の社長、アルの人格が変化した件についてだ。

 紆余曲折を経て元に戻りはしたので良かったが、また似たようなな事件が起こる可能性は否定できない。

 

 ユウカの証言が正しければミレニアムでも同じ事が起こっていた。

 ならば、三つ目の鏡が存在するかもしれない。

 既に被害も出ている為に……安易な決断はできない。

 

 それ故に、今までよりも慎重に扱うべき案件だと先生は考えていた。

 既に他の学園にも連邦生徒会を通して通達済みである。

 堅物なリンも最初はかなり懐疑的だったが無事に説得できた。

 

 しかし、まだまだ楽観的にこの事件を見ている生徒も少なくはない。

 何せ、別の世界の自分の人格を被せられると言うオカルト染みた事件だ。

 すんなりと信じられる方がおかしいとも言える。

 かと言って、既にハッキリと事件の記録はある……と言うか、現在鋭意制作中なわけで。

 

"……まだ忙しい日は続きそう"

 

 これまで通り生徒のお願いはなるべく聞いてあげたい。

 つまり、先生のただでさえ山積みの業務がさらに高く積み上がったのだ。

 こればかりは概要を把握している者にしかできないので誰かに任せる事ができない。

 

 更に、先生にとってはまだ頭を悩ませている問題があった。

 原因は不明で解決策も今のところ存在しない……そんな問題が。

 

"……アロナ、解析できた?"

 

『いえ、これっぽっちも……うう、すみません先生』

 

 異変に気付いたのはアルの件があった翌日だ。

 シッテムの箱に見知らぬ機能が追加されていた。

 先生は勿論、アロナにも全く身に覚えもないらしい。

 

"なんなんだろうね、これ"

 

『さぁ……』

 

 スーパーなアロナちゃんにすら理解できなかった不可思議な機能。

 それは——

 

 

 

『先生、困った顔をされるとその……』

 

"……アルは悪くないもんね、ごめん"

 

 

 

 シッテムの箱から生徒の声がする。

 画面に映っているのは先日出会ったばかりの、風紀委員長だった世界線のアルだ。

 もう会う事はないと思っていたけれど物凄い速さで再会した。

 

 アルの声はアロナと同様に先生にしか聞こえないらしい。

 アロナにも聞こえてはいるけれど、声を届けられはしない。

 検証した結果分かったのはこれだけ。

 

 あとは画面をちょっと弄ると……映る人物が変わるってくらい。

 

『先生、そっちも忙しそうだね』

 

"うん、カヨコも忙しいのかな?"

 

『私は平気。最近は委員長も頑張ってくれているし、ね』

 

 シッテムの箱を通してアルとカヨコと接触できるようになった。

 それも……異なる可能性を辿った世界の二人に。

 向こうもどうやって先生と話をできているのか分からないようだが……

 今のところ、話ができるのはこの二人だけだ。

 

 この別の世界を、アロナは鏡の世界と名付けていた。

 口にすると妙にしっくり来たので報告書にもその呼び方を採用する事にした。

 さしずめ、鏡の世界から接触された生徒は『ミラー』とでも言うべきだろうか。

 

 鏡のアルとカヨコはこの前に居たアルと同じ世界の生徒らしい。

 二人と同時に会話するのは不可能みたいだけど。

 そもそも、二人がどうやってシッテムの箱に干渉しているのだか……

 

 アルの方にはあの時、この世界のアルと共に話をした記憶がある。

 今ではアロナの代わりに朝起こそうしてくれる事もある……主にカヨコが。

 

 鏡のカヨコとは初対面だが性格はほぼ同じに見える……が、細かいところは異なっている。

 常に仕事の事を考えている様子だし、敵対者にはさらに苛烈みたいだし……

 アコと同じ立場にいるみたいだけれど雰囲気はヒナの方が近いかもしれない。

 

 

 

 しかし、本当に何故にこんな現象がシッテムの箱に……?

 

 実害が出ているわけではないが、特異現象には変わりない。

 一体何が原因なのか皆目見当も付かないが、もしこれについて調査するなら先生一人では限界がある。

 誰かこう言った不思議現象に関する専門家で、かつ頭脳明晰で天才な人が居てくれたら苦労が減るのだが……

 その人物と先生が接触するにはもう少し時間を浪する必要があった。

 

 

 ……とにもかくにも、考える事が多くて疲れる。

 

 

 先生は一旦シッテムの箱に起きた異変については脇に置いておく事に決めた。

 本当に実害はこれっぽっちもないので、新しく何かが起きない限りは平気だろう。

 ……そんな事考えてたら何かが起きそうなので思考の隅にまで追いやっておく。

 

 妖怪MAXの在庫が数本あるのを確認し、今はコーヒーで何とか頑張ろうと先生は決意する。

 しばらくはこの書類の山と格闘しなければならない。

 今の心情は例えるなら魔王に挑む勇者に似ているだろう。

 

 ……ああ、勇者と言えば。

 先日ゲーム開発部の生徒達と一緒にゲームをした時にこんな事を言っていた。

 

 「強敵を相手にする際は回復アイテムを温存しておくのが定石だよ」と。

 

 なので、妖怪MAXの缶だけは最後まで取っておくと先生は自分を戒めた。

 当たり前だけど、最後まで使わなければその方が良いに決まっているのだ。

 飲み過ぎるとヴェリタスの子みたいにカフェイン中毒になりそうだし。

 

"……折角立ったんだし、気分転換にテレビでも付けようかな"

 

 そう思って先生はテレビの電源を入れた。

 画面に映し出されたのはクロノス報道部による生中継。

 左上に載っていた文字は……"災厄の狐"再び現る!?

 

"ワカモ……?"

 

 知り合いの名前を見て、先生は思わずコーヒーカップを置いてテレビに注目した。

 

 画面にはヴァルキューレの生徒に囲まれながら争っている二人の生徒が映っていた。

 その二人は両者共に狐の面を付けている。

 バレンタインの時みたいにまた影武者を立てたのだろうか?

 

 いや、それにしては何か違和感があるような……

 

『市街地にて、あの"災厄の狐"が暴れ回っています! しかも、二人も! これは一体、どう言う事なのか〜!?』

 

 テレビ越しじゃよく分からないけれど、本気でやり合ってるように思える。

 ワカモの攻撃的で苛烈な性格が如実に現れている。

 他人では決して出せない、彼女だけが持っている個性だ。

 

 

 そして、何故か両者共にその特徴は見られた。

 

 

"……?"

 

 何か違和感を覚える先生だったが、ふと仕事机の書類の山を見て現実に引き戻される。

 しかし……ワカモの事が気にならないと言えば嘘になる。

 幸い、現場は行こうと思えば行けなくもない距離だ。

 

 どうしたものかと悩んでいると、先生のスマホが鳴った。

 相手は……忍術研究部の部長、千鳥ミチル。

 そう言えば、ちょっと前に少女忍法帖ミチルっちをチャンネル登録したっけ……

 

 そんな事を思い出しながら先生はスマホを取った。

 

"もしもし"

 

「先生! 良かった、先生も繋がらなかったらって考えるとヒヤヒヤしたよ……!」

 

"……何かあったのかな?"

 

 普段は自信に溢れていて明るいミチルだけど、今はあまり余裕がない声色だ。

 何かがあったのは想像に容易かった。

 先生はコーヒーカップを置いて事情を聞こうとする。

 

「それが、その……イズナと連絡が付かなくって」

 

"イズナと?"

 

 久田イズナ。

 『百夜ノ春ノ桜花祭』に行った時に初めて知り合った、忍者を夢見る生徒。

 快活で明るい性格なので、他人とのコミュニケーションを蔑ろにするのは違和感がある。

 部長のミチルとも仲良くやっていたように見えたのだが……

 

「うん。でもでも、今朝は新しい忍者グッズが発売されるからって出掛けるってモモトークで言ってたんだけど……返信がないし電話しても出ないし……!」

 

 もしかして手が離せない状況なのだろうか?

 イズナなら戦闘中だろうと電話には出そうな気もするが。

 そう考えると少し心配かもしれない。

 

「ツクヨも私もかなり心配で……それでその、先生の方から電話したら出たりしないかなぁ〜って」

 

 ——それはそれでちょっと傷付くけど。

 

 電話越しでも顔にそう書いてある様が見えた気がした。

 まあ、そこは置いておくとして。

 イズナの安否が心配なのは先生も同じだ。

 

"分かった、すぐ掛けてみるよ"

 

 先生は一旦ミチルとの通話を切りイズナに電話をかけた。

 

 これで出なかったらアロナに頼んででも捜索した方がいいかもしれない……

 そう考えていたのだが、数度のコール音の後に通話はあっさりと繋がった。

 

 ——思っていたよりも簡単に解決しそうで良かった。

 

 最初、先生はそう考えていたのだが。

 

「もしもし、()()()! 主人様のイズナです!」

 

"イズナ。心配したけど、元気そうで良かったよ"

 

「し、心配……イズナを主人様がですか!?」

 

 電話越しに感涙の声が漏れているが、それよりも気になる事が幾つもあった。

 

 

 まず……呼び方が違う。

 イズナは先生の事を主殿と呼んでいた。

 しかし、今は主人様(あるじさま)と大分癖のある呼び方をしている。

 いやまあ普段の呼び方も癖があったけども。

 

 次に、口調と話し方。

 イズナはここまでの感激屋では無かった筈だ。

 涙腺は割と脆いイメージは勝手ながらあったが、流石にちょっとおかしい。

 電話をかけられてちょっと心配しただけでこれは……

 

 また、聞こえる音の中に銃弾の飛ぶ音が混じっていた。

 電話しながら撃たれているのだろうか……?

 流石に先生では銃声だけでどんな種類かは把握できない。

 が、しかし決して聞き覚えのない音ではない気がする。

 

 それと、距離が近い。

 枕詞に『主人様』のなんて付けられるのは初めてだ。

 似たような事を言われた記憶なら、ある。

 今、先生の中で非常にタイムリーな生徒がそうだ。

 

 

 

 そう……今、テレビの画面の向こうにいる彼女だ。

 

 

 

"……えっと、ミチルとツクヨが心配してるって"

 

 この時点で果てしなく嫌な予感を感じた先生だったが、一応確認を取ってみる。

 もし、予感が正しければ彼女の反応はおそらく……

 

「? 誰ですか、それ?」

 

"忍術研究部の子達だけど、知らない?"

 

「……イズナにはよく分からないです。主人様はどうしてそんな話をなさるんでしょうか?」

 

 これはもしかしなくても恐らくは……そう言う事なのだろう。

 違うかもしれないが、何となくそんな気がする。

 

 何より……一つ、重大な事実がある。

 

「ごめんなさい、私が至らないばかりに主人様にご迷惑が……うぅ……」

 

 ……電話越しから響いた爆発音。

 しかし、心配はしない。

 いや、していないのが正しい。

 今イズナが何をどうしているのか……把握出来てしまうから。

 

"大丈夫、イズナは何も悪くないよ。それと、一つ聞きたいんだけどさ"

 

「な、何でしょう?」

 

 ネガティブなイズナを励ましてから、先生はどうしても確かめたかった質問を投げかけた。

 

 

 

"もしかしてさ。今、自分と同じ姿の生徒と戦ってるのかな?"

 

「っ……!? 生中継の所為ですか! 違うんです先生、これにはちょっとした事情があるんです!」

 

 

 

 テレビに映っている"災厄の狐"らしき二人の片方が、スマホを手に取り誰か通話していた。

 先生が電話をかけたタイミングでそうしていた。

 

 爆発音も同じくである。

 三メートルくらい跳躍してバク転しながら躱していた。

 電話は耳元に当てたままで。

 

 これらを偶然とはとても考え難い。

 そう仮定すると、今のイズナの状態は……!

 

 

 

"今からそっちに行くからちょっと待っててね!"

 

「え、あ、はい……え、来るのですか!? 凄く危険なのに——」

 

 通話を切ると先生はカップに残ったコーヒーを飲み干し、駆け足で部屋から飛び出した。

 扉の前には何故か先程訪れた筈のリンが立っていた……

 が、今の先生にとってはそれどころじゃなかった。

 

「先生、すみませんが渡し忘れた書類が」

 

"ごめん、ちょっと用事ができた!"

 

「え、は?」

 

 それだけ言うと急いで走り去って行く先生を、リンは呆然と見送るしかなかった。

 最近は仕事に集中してくれていた筈なのに……

 

「覚えてなさい、全く……」

 

 悪態を吐きながらも、彼女は机の上の書類を手に取った。

 今だけは先生に代わって自分が仕事をこなそう。

 帰って来たら倍の仕事を押し付けると心に決めながら、リンはまた業務へと戻って行った。

 

 






次回、災厄の狐VS災厄の狐!
勝手に戦え!


本文では……と言うか先生は別世界の生徒を鏡の〇〇って呼び方をします。
ですが感想欄では(少なくとも作者は)〇〇*ミラーと呼ぼうと思います。

→ん、語呂も良いしそうするべき
→そういうこったぁ!
→私の心の中の仙人様もそう仰っておられる
→全部お前の所為だなイシュメール!

リンバスとブルアカのプレイ経験はありますか?

  • リンバスだけプレイしている
  • ブルアカだけプレイしている
  • 両方プレイしている
  • 両方プレイしたことがない
  • プロムンの過去作はプレイしたことがある
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