今回もちょっと地味目。
申し訳無い。
アストレア・ファミリアと【静寂】のアルフィアの間には、言葉では言い表せない因縁がある。
最初の出会いは暗黒期の頃、後に“大抗争”と呼ばれる
一度目は完膚なき迄に蹂躙され、二度目も魔女の気紛れで生き延びた。三度目の戦いでは死力を尽くし、当時病に犯されていたアルフィアの限られた活動時間をどうにか生き延びた事で活路を見出だし、ファミリア全員の力でどうにかこうにか勝ちを拾う事が出来た。
彼女───アルフィアの言う“英雄としての作法”を心身、魂の髄にまで刻まれた正義の眷族達は、今日も自分達の正義を掲げ、悪に立ち向かう。
───の、筈だったが。
「いや無理。絶対無理。何で歓楽街くんだりまで来て死地に飛び込まなきゃ行けねぇんだよ!」
爆心地近辺にて正義の眷族の一人、【
「リリルカ・アーデの……いや、ヘスティア・ファミリアの懸念が現実のモノになったか。イシュタル・ファミリアの間抜けめ、雑な仕事をしおってからに……」
一方、何かとライラと組むことの多い副団長の輝夜はイシュタル・ファミリアのお粗末な暗躍にこそ苛立ちを募らせているが、事の顛末を聞き及んでいる彼女は違和感に気付き推察を立てる。
「……いや、こうまで雑だと却って意図的であると考えた方が自然か」
事の発端はイシュタル・ファミリアがヘスティア・ファミリアの新入りのみのいる時を狙って襲ってきたのが実情だ。しかも片方は直ぐには動けない程度にボコし、ムザムザ取り逃がしたという。
こうなればワザとこの事態を引き起こしたと考えた方が自然。性愛の女神イシュタルは相当自らの眷族から嫌われていたらしい、今回の騒動の裏側を何となく理解した輝夜は呆れた様に笑うしかなかった。
「ライラ、輝夜! そっちは終わった?」
「アリーゼ」
燃え盛る瓦礫の上から、自分達の団長であるアリーゼとリュー・リオンが駆け付ける。
「おぉ、リューもこっちに来たのか……って、どしたのお前、能面みたいな顔をして」
「な”に”も”、な”い”」
「あぁ、リオンってば男女の営みの場面をバッチリ目にしちゃったから、心を保つために感情を無にしているのよ」
潔癖なエルフにとって、色街は禁忌の中の禁忌。特にリオンはその気質が強く、男女の営みに関しても独自の価値観を持ち、その潔癖さに同じエルフからすら引かれているという。
そんな潔癖な彼女だが、流石に人命には変えられない。燃える歓楽街から娼婦やその利用客を逃がし、遂には濡れ場にも遭遇したが、正義の眷族として根性で耐えて見せた。
「おーい、リュー、大丈夫かー?」
「ダイジョブ、マダイケル」
「相変わらずの潔癖症め……いや、この場合は良くやったと褒めるべきか?」
自ら心を閉ざして耐えてはいるが、それでも顔は紅くなっているので相当我慢しているのだろう。そんなライバル兼仲間に輝夜は呆れつつも感心していた。
「ネーゼ達はガネーシャ・ファミリアと一緒に向こうで避難誘導している。私達は予定どおり、“彼女“を止めに───」
そこまで言い掛けた所で、アリーゼ達の前にあった娼館が爆散する。直前に力の起こりを感じ取った彼女達は咄嗟に回避、爆発に巻き込まれる事はなかったが、吹き飛んで地に倒れ伏すアマゾネスに目を剥いた。
「おい、コイツ確かイシュタル・ファミリアの【
「この顔、どうやら件の首謀者である【
全身傷だらけで、控え目に見ても重傷。普通に
何せ、彼女がここにいるという事は……。
「
刹那、音による衝撃が辺りを蹂躙する。
冒険者としての直感を総動員しての回避、運良くアイシャを抱えながら無傷で切り抜けた事に正義の眷族達が安堵したのも束の間、炎の壁から現れる灰の魔女に四人は顔をひきつらせる。
「ちきしょう、本当にいたよ」
うつむき、長い灰の髪が顔を隠している所為か表情が見えない。しかし明らかに常軌を逸している様子のアルフィアにアリーゼ達は固唾を呑んだ。
「おいライラ、以前
「はぁ!?」
まさかの輝夜からの提案にライラの顔が凍りつく。
「そうね、話し合いは大事よ。聞けば今回の騒動は義理の息子であるベル君がイシュタル・ファミリアに攫われたって言うのが原因なんだもの、
「ライラ、頑張れ!」
「おいコラリュー、テメェ絶対今シラフだろ!?」
挙げ句、人一倍正義感の強いリューまでもが
とはいえ、争いを避けられる余地があると言うのなら、そうしたいのはライラも同じ。1日とはいえ一度は同じ目的で人造迷宮を潜った仲、甘さは無くとも人の親となった事でそれなりの情があることを期待しながら、ライラはアルフィアとの対話を試みる。
「あー、その、アルフィアの姐さん? ちょっとで良いからアタシとお話してくれない? 勿論、時間は取らせないからさ?」
「…………」
お願いだから何か言って。無言でその場に佇むアルフィアに浸すら恐怖を感じる。第一級冒険者となり、嘗ての頃よりずっと場数も経験を重ねてきたライラだが、怖いものは怖い。
何ならそこいらの階層主よりよっぽど目の前の魔女の方が恐ろしいとライラは断じる。
冷や汗ダラダラで場を和ませるつもりの笑みも引き吊り始めたその時、アルフィアの口許から声が漏れ出た。
「………報いは、私が受けよう」
「は、はい?」
「私は既に咎人だ。派閥を変えた所で嘗ての行いは消えはしない」
「…………」
「アルフィア……」
彼女の言葉は嘗ての大罪、オラリオを恐怖に陥れ、多くの大切な人を傷付き、奪ってきた過去の過ち。
その咎を受けるのは自分であると、改めて口にする彼女が………アリーゼ達にはどこか痛々しく見えた。
「だが……」
「ん?」
「ベルを、あの子の忘れ形見に手を出すと言うのなら………容赦はしない」
「ンン?」
「あの子との思い出の場を壊すだけに飽き足らず、ベルまでその牙を向けると言うのなら───滅尽滅相。全てを塵にしてやる」
おっとぉ? なんかウルッとくる話から一転、急に物騒になってきたぞぉ?
コハァッと、口から気炎を吐き出す灰の魔女にライラは全て察した。
「あ、これ無理だわ」
言葉では解決できる段階はとうに過ぎた。アルフィアの全身から迸る気という力の奔流が、周囲の大気を奮わせる。
その迫力を間近で受けたライラは微笑みながら涙を流し、なんならちょっとだけチビッた。
嗚呼、こんな事ならもう少し【
「やれやれ、三十路過ぎのババァが我を失うなんて情けない」
【大和竜胆】が、腰に指した太刀に手を添えて前に出る。
既にアルフィアは正気ではない。いや、正気かも知れないがこの際どちらでも構わない。
大事なのは、これ以上奴に暴れさせてはいけないと言うこと。歓楽街は一応オラリオが公認する共有施設、これ以上の破壊は今後の運営に差し掛かる。
いや、既に五分の一程更地になっているから、今更な気もしなくもないが……それはそれ。
「七年前と同じく、引導を渡してくれる」
居合いの構えから抜き放つ輝夜の魔法、【ゴコウ】。任意の位置に魔力の斬撃五つ、アルフィアに向けて放つ。
相手は才能の怪物と謳われる規格外の化け物、病を克服し、その強さは最早自分達では推し量れない領域だが……正義の眷族として、なにより一度は勝った相手を前に逃げることは彼女の矜持が赦さなかった。
故に、再び倒す。この七年間でより冒険者として高みに至り、Lv.6となった事でより鋭く、速くなった輝夜の居合い。
間合いへの踏み込みもタイミングも申し分ない。アルフィアに詠唱する間も与えない一刀は、確かにアルフィアの喉元へと迫り……。
「コキュッ」
気付けば、輝夜は首もとを裸絞めで締め上げられて気絶。更に惨いことに、輝夜の下腹部から湿った液体が漏れ出すのをライラ達は目撃してしまった。
「ひ、酷ェ、ワザと失禁するように締め上げやがった!」
恐らく、三十路のババァ呼びが悪かったのだろう。人の尊厳を弄るものは、同じく尊厳を踏みにじられるのだという、アルフィアの肉体言語による証明であった。
ここに後輩たちがいなくて、本当によかったとライラは心底思った。
と言うか、一連の動きがアリーゼ達にはまるで見えなかった。避ける素振りも挙動もなく、気付けば輝夜の背後に立ち、頚を絞めていた。
「……おいてけ」
「へ?」
「その娘、おいてけ」
垂れ下がる灰の髪の隙間から見えるアルフィアの眼差し。血走り、狂気に満ちた眼光。
もう怪物というより怪異とかの類いじゃん。ライラは泣きたくなった。
アイシャ・ベルカを置いていけと命じる。もう半分妖怪と化しているアルフィアにライラもアリーゼもリューも涙目になった───その時だ。
「待たせたな」
全身を鎧を纏い、全力戦闘の用意で現れたヘスティア・ファミリアの料理番、ザルドと。
「いい加減落ち着けやアルフィア! ベルはもう本拠地に返した! 事は既に片付いてんだよ!!」
ベルと春姫を取り敢えず自分達の本拠地にまで送り届けたベートと。
「鎮まりたまえ! さぞかし名のある冒険者と見受けたが、何故そのように荒ぶるのか!?」
お祓い棒を手に必死に荒ぶるアルフィアの魂を鎮めようとする
オラリオを代表するヘスティア・ファミリアの最強の男三人衆がアリーゼ達の前に現れる。
やだ、ちょっと格好いいかもと、オジサマ属性を持つアリーゼが全身鎧を纏うザルドの頼もしい背中に若干ときめいた……瞬間。
「【
「「「ウボァァァァッ!!??」」」
「「「……………」」」
これまでよりもずっと殺意と威力を込めた渾身の福音が炸裂。集まった三人の男は無惨にも吹き飛び、アリーゼ達は無情にも悟った。
(((うん、これ死んだわ)))
その後、ベジット達の協力の下で何とか上手く立ち回り、後に様子を見に来たオッタルも巻き込んで、怪異と化したアルフィアを魔力切れに陥るまでの間、その身を呈して歓楽街を守り続けた。
歓楽街に響き渡る福音。それは女神フレイヤの手によって女神イシュタルが送還されるまでの間、鳴り続けたという。
◇
その後、女神イシュタルは同じ美の女神たるフレイヤの手によって、天界へ送還された。その理由は闇派閥と繋がり、オラリオとオラリオに住まう住民の安寧を脅かし、美の女神の力である【魅了】を駆使してその幇助をしていたという事で同じ美の女神であるフレイヤが引導を渡した───と、ギルドはその様に今回の件を処理した。
本当はベルが攫われたと知って、内心バチギレのフレイヤが幹部総出でイシュタル・ファミリアを強襲。副団長のタンムズを【魅了】し、これ迄自身がしてきたことを意趣返しをした上で天界へ送還、闇派閥云々は完全に後付けの設定である。
無論、今回の騒動の真相はギルド………というよりもウラノスとフェルズ、そしてロイマンだけは知っており、歓楽街の五分の一が更地になった原因も存じている。
ただ、本当の事など世間に公表するわけにもいかず、オラリオの市民を下手に不安させる訳にもいかないため、表向きはイシュタル・ファミリアが仕掛けた抗争をフレイヤ・ファミリアが応戦した、という事になっている。
元々女神イシュタルと女神フレイヤは不仲である事で有名だし、何れはこうなっていたと神々も納得。
フレイヤ・ファミリアは元からオラリオ市民から恐れられていた為に、今更どう思われようと気にしていないようだ。
何もかもが自分達ヘスティア・ファミリアに都合の良い顛末となっている。
ただし……。
『歓楽街の修繕費用は解体されたイシュタル・ファミリアの財産で賄う……が、それでも足りない場合、申し訳無いがヘスティア・ファミリアの方から幾つか寄付して戴けると……』
なんて、申し訳なさそうに頭を下げて言ってくるギルド長ロイマンに、否を叩き付ける程ベジットは人の心を捨ててはいなかった。
唯でさえザルド、アルフィア生存の件を伏して貰い、尚且つ派閥ランクの実質的捏造を許容してくれているのだ。その上歓楽街の一部を更地にした原因が此方の方。
事後処理による忙しさと歓楽街一部崩壊の原因を知った事で胃痛で窶れ、少しばかり細くなったロイマンにベジットは否を突き付ける訳にはいかず、修繕費の金額を出すことを承諾した。
幸い修繕費はイシュタル・ファミリアの財産で殆ど賄えた為、ヘスティア・ファミリアが出したのは精々二百万前後。それも団長であるベジットのポケットマネーで済んだので、実質ヘスティア・ファミリアは金銭的にほぼノーダメで済んだ。
と、以上が今回の歓楽街での騒動の一部始終の顛末である。
「あぁ、腹減ったなぁ」
あれから数日後、メレン港へ先の一件に対する謝罪行脚の為にベジットはその足で再びメレン港へ赴いていた。
「お前、また昼飯を抜いたのか。良い歳した男が情けない」
隣にはすっかり落ち着いた様子のアルフィアが、呆れた様子で見やる。
「仕方ねぇだろ。金欠なんだから、誰かさんが歓楽街をぶち壊したから……」
歓楽街の修繕費、その殆どが解体されたイシュタル・ファミリアの財産で賄えたが、それでも全て賄えた訳ではない。
たかが二百万。されど並みの冒険者にとっては高額であることには違わず、普段から大食漢で知られるベジットにとっては自身の食費が思わぬ形で減らされた事で若干ピンチ。
ファミリアの共有財産は基本的にもしもの時の備えであり、今回はアルフィアの暴走による所が大きく、公には秘されているとは言え、自分の部下がやらかした以上、責任を取るのは団長である自分の役割。
そう言った意味を含めて、二百万の請求はベジットのポケットマネーから支払われる事になったのだ。お陰で現在のベジットは金欠、気軽に飯屋にもいけない現状だ。
そんな自分の団長を見ていられず、アルフィアは深い溜め息を吐いた後……。
「……悪かったよ。侘びとして、後で飯を奢ってやる」
「…………え?」
申し訳なさそうに、それでいて飯を奢ると口にするアルフィアにベジットは真顔で凍り付いた。
「……なんだ」
「え、あ、いや? なんか、この間からやけに優しいなと思って………何処かで悪いものでも食べたか?」
更に言えば、歓楽街を壊して回った事を嫌味で言ったのに、まるで気にした様子はない。普段ならここでゴスペって来るのに、自分の非を認める処か昼飯を奢ってくれるというアルフィアに流石のベジットも不気味に思えた。
「貴・様・は! イチイチ茶化さないと気が済まないのか!?」
「す、すいましぇん~~ッ!」
顔を鷲掴んでくるアルフィアにベジットはただ謝るしかなかった。
少しは優しさを持つかと思っていたが、やっぱりそうでもなかった。余計な事を口にしてしまった己を悔やんでいると、背後から聞き慣れた声が……。
「ベジット、ここにいたのか」
「あれ? リヴェリア? 何でここに?」
振り返れば取り巻きのエルフもファミリアの連れもいない、ロキ・ファミリアの副団長がいた。
「なに、先日の件で私もメレン港の方法に謝罪行脚をな。あの時、私も相当視野が狭まっていたからな……ベジット、お前にも迷惑を掛けた。済まなかったな」
ベジットを挟んで向こうのアルフィアには目もくれず、自分の目的と謝罪を口にしながら、流れるようにベジットの空いた隣に立つ。
そんなリヴェリアにアルフィアは目を丸くさせて唖然となり、対してベジットは気にすんなと手振りをしながら返した。
「良いさ。俺も、面白い技が見れて満足したしな」
「私があの技を会得する迄に至れたのも、お前のお陰だ。その礼……という訳ではないが、これを」
そう言って、取り出したのは一つの手さげ袋、なんだと思い差し出されたそれを受け取ると、仄かに漂ってくる良い匂いにベジットの腹が鳴る。
「これ、もしかして弁当? リヴェリアが作ったのか?」
「昔、アイズに何度かな。昔取った杵柄……という程ではないが、味には問題ない筈だ」
「マジか。一度リヴェリアの弁当分けて貰った事があったが、旨かったのを覚えてるよ。楽しみだなぁー」
「一体いつの話をしてるんだお前は」
懐かしい話に花を咲かせ、楽しそうに笑う二人。話に付いていけず置いてけぼりのアルフィアが呆然としていると……。
「───フッ」
「っ!?」
一瞬、ベジットが弁当に釘付けになっている隙を見計らって僅かに見せたリヴェリアの笑み。その笑みの意味する事を察したアルフィアは激化する感情を必死に堪えながら、ベジットの腕を掴んで強引に先を促す。
「何時まで無駄話をしているつもりだ。とっとと終わらせるぞ」
「ちょ、ちょっと待てよアルフィア! そう引っ張んなって!」
「全く、落ち着きの無い奴だ。【静寂】の二つ名が泣くぞ」
「黙れ、貴様はとっとと帰れ」
「言ったろ。今回のメレン港での件は私にも非があると。あぁ、お前は帰った方が良いんじゃないか? 話がややこしくなりそうだ」
「あぁ?」
「おぉ?」
激しくメンチを切り合う二人、同じ魔導士だから対抗意識があるのかなと、
Q.アルフィアが魔力切れを起こすまで誰がどのくらいゴスペル担当したの?
A.ベジットが五割、ザルドとオッタルが二割、ベートが一割の計算。
全員アルフィアのゴスペルを真っ向から受け止めて発散させて上げました。
お陰で野郎共(ベジットは除く)の【耐久】のアビリティは鰻登りだったとか。
Q.春姫やアイシャ達はどうなったの?
A.全員が殆ど原作通り。詳しくは次回!
Q.なんか、リヴェリア様の態度露骨過ぎない?
A.「恋はいつでもハリケーンなんやで!!」
そして次回から異端児編へ。