暑いと思ったら今度は肌寒い。
マジで風邪引くって。
そんな訳で初投稿です
イシュタル・ファミリアの崩壊から二週間、歓楽街の一部崩壊は表向きはフレイヤ・ファミリアとの抗争によるものだと世間に公表され、さざ波立っていたオラリオの喧騒は日が経つに連れて徐々に元の日常に戻っていた。
そんな二週間の間に歓楽街は様変わりとなった。顔役であるイシュタル・ファミリアが崩壊した為に歓楽街は機能不全に陥り、抉れた土地の修繕や崩壊し瓦礫となった娼館の撤去等は片付いても、当分の間は本来の機能を取り戻すことは無いだろう。
歓楽街は行き場の無い女性の最後の拠り所。それを分かっている人々や神々もいることから、現在は裏で密かに復興のアレコレを画策しているそうだが、歓楽街という街はオラリオでもセンシティブ且つデリケートな部分。
先程も述べたが、様々な要因が重なっている為、歓楽街が本来の機能を取り戻すのはまだ当分先の未来の話になるだろう。
それに、変わった事があるのは歓楽街だけではない。イシュタル・ファミリアの団長をベルが単独で倒した事により、何とベルのステイタスは鰻登り。
各
これにはヘスティア・ファミリア全員が騒然……とはならなかった。何せ相手は腐っても第一級冒険者に名を連ねる猛者、【
義母であるアルフィアは勝って当然だと吐き捨ててはいるが、一応格上の冒険者をぶちのめした事で何気に嬉しそうに微かに口元を弛んでいるのをベジット達は見た。
因みにだが、ベルはこれ迄の昇格で全ての能力値を
明らかに普通じゃない成長速度、嘗てのリリルカ・アーデだってここまでではなかった。
原因は間違いなくベルの
その明らかな異常とも取れる成長速度にベジット達は最早呆れていた。何せベルがヘスティア・ファミリアに属してからまだ半年未満、たった数ヶ月で冒険のぼの字も知らなかった子供が、第一級冒険者に片足を踏み込もうとしているのだ。
こんなに早く強くなって、体の方は大丈夫なのか? 【憧憬一途】の項目にある“早熟する”という一言に嫌な予感がしたベジットとヘスティアは、近い内にベルを精密検査して貰うべく、ディアンケヒト・ファミリアに連れていくことをアルフィアとザルドにも話しを通して決めた。
さて、そんなベルの飛躍に期待と一抹の不安を抱えたヘスティア・ファミリアだが、他にも一つ大きな変化があった。
「おはようございます皆様方、朝の食事が出来ましたよ」
それはイシュタル・ファミリアの元眷族であるサンジョウノ・春姫がこの度ヘスティア・ファミリアの眷族に
春姫の魔法【ウチデノコヅチ】。任意に相手の
もし春姫と彼女の魔法の存在が外部に知られた場合、オラリオ中の派閥から狙われる事になる。万が一その派閥が悪意で満ち、且つ闇派閥と繋がってたりしたら、彼女の末路はイシュタル・ファミリアに属していた頃より悲惨な事になるのは明白だろう。
加えて春姫の性格的に荒事には向いておらず、ダンジョン探索に積極的な派閥とは基本的に相性が悪い。故にヘスティアは彼女の身柄は自分達で預かる事に決めた。
因みに、他のイシュタル・ファミリアの眷族達は現在別派閥のファミリアへの移籍をまっており、春姫の事を何かと気にかけていたアイシャ・ベルカはヘルメス・ファミリアに移籍する事となった。
今回の件で、事の顛末と事情を把握したヘスティアはそんなまどろっこしい事をしないで直接自分達に助けを求めろと軽く説教。
闇派閥と繋がっている主神をどうにかしたいと嘆願書でも提出すれば、それだけでアストレア・ファミリアやガネーシャ・ファミリアが動くだろうし、春姫の魔法に関しても決して悪いようにはしなかったと語った。
アルフィアという恐怖を知り、自分のやらかした事の重大さを思い知ったアイシャはヘスティア・ファミリアに謝罪と感謝の言葉を並べると、取り巻き達と共にオラリオの街へと消えていった。
閑話休題。
一方で、本来なら幼少期の頃から共に過ごしていたとされるタケミカヅチ・ファミリアに春姫の身柄を引き渡するつもりだったのだが、その案は他でもないタケミカヅチとその眷族達自ら断ってきた。
『今の自分達では春姫を迎える資格はない』
ベルがイシュタル・ファミリアに拉致られ、歓楽街で騒動が起きていた時、なにも出来なかった自分達が春姫の身柄を主張する事は許されない。
だから自分達が第一級冒険者となるまで、春姫を大事に預かって欲しいと、他でもないタケミカヅチ・ファミリアがヘスティア・ファミリアに託したのだ。
いつか、自分達がオラリオでどんな奴が相手でも侮られない位に強くなる。そう固く誓う命達にベジット達は承諾した。
そんなこんなで新たにヘスティア・ファミリアに加わったサンジョウノ・春姫。気品漂う彼女は現在、ザルドの料理補佐兼家事担当……所謂、
「おぉ、今日は焼魚に味噌汁、そして白米に漬物か。ご機嫌な朝飯だな」
「いやぁ、極東の料理はあまりレシピが無かったからな。春姫の嬢ちゃんのお陰でレパートリーが増えたぜ」
「そんな……ザルド様のお料理の腕前は素晴らしく、私なんて全然……」
「いや、でも本当に美味しいですよ春姫さん! アッサリとしているけど確りと味付けもされていて、僕、この味好きだなぁ」
「へぅ! あ、ありがとうございます……ベル様」
美味しそうにご飯を頬張るベルに褒められた春姫が頬を紅くさせる。フリフリと揺れる金毛の尾から凄まじく喜んでいるのが手に取るように分かる。
「春姫さんは家事もそつなくこなしてますし、洗濯物も綺麗に畳んでくれますからね」
春姫は器量だけでなく家事に対する要領も良く、洗濯や本拠地の掃除、そして料理と幅広く活躍してくれている事から、改宗から早一週間で既にヘスティア・ファミリアの縁の下の力持ち的なポジションに収まりつつあった。
食事時は料理長のザルドの補佐をして、掃除や洗濯は風の(大)精霊であるアリスの補佐。
そして補佐だけでなく実際にメインを張れる程の家事の腕前。以前より快適になった本拠地の生活に既にヘスティア・ファミリアのほぼ全員が春姫の存在を受け入れつつあった。
約一名程除いて……。
「………」
「あ、あの……アルフィア様、お味の方はどうでしょうか?」
「………」
ムスーっと仏頂面で黙々と朝食を頬張る。文句の一つも出てこない事から、口に合わないとか、不味いなんて事はないのだろう。
「おいアルフィア、なに膨れてるんだよ。春姫がなんか気に障る事をしたのか?」
一人だけ不機嫌オーラ全開なアルフィア、ファミリアの長としてベジットも場の空気を整えようと注意するも、彼女は春姫をギロリと睨み付ける。
その迫力に春姫の表情は真っ青、ガクガクと震える。恐らく、アルフィアの恐ろしさを誰かから聞いたのだろう、アワアワと震える彼女にアルフィアはゆらりと席から立ち上がる。
「そこの小娘が我々の一員になる事、それ事態に異論はない。家事もでき、作る飯も悪くはないからな。非戦闘員として派閥に置くのも納得はしている」
「じゃあなんでそんなに不機嫌なんだ?」
どうやらアルフィアも春姫の家事能力全般には文句はないようだ。なら何故? 不思議に思ったベジットがファミリアを代表としてアルフィアに問うと……。
「近すぎる」
「………は?」
「近すぎるのだと言っている! なんだその距離感は!? なんで飯時にそうまで席をくっついている!? 必要ないだろうが! 絶対!!」
「ミコンッ!?」
ヘスティア・ファミリアの本拠地の食堂は割と広く、使われていないテーブルや椅子には埃が積もらないようシーツを掛けている程。
ファミリア内で食べる時も、皆は余裕を以て席を開けているのにどういうわけか春姫はベッタリとベルの隣に陣取っている。
いや、本当に近いな。アルフィアに言われ、漸く彼女の不機嫌な原因を理解したベジットはそれもそうだと納得し、注意の矛先をアルフィアから春姫に変更する。
「確かに。そんだけ近くてはベルも飯を食べ辛いだろう。春姫、離れてやんなさい」
「は、はい……」
名残惜しそうにベルから離れる春姫、物分かりのいい彼女にウンウン頷くベジットだが、ネットリと絡み付いていた金色の尾がほどけていく様を見て、若干引いた。
同じく甥の体に絡み付いている春姫の尻尾を見たアルフィアも顔中に青筋を浮かべて激怒している。もうホント、いつ
「そ、それではベル様、せめて私の手から一つ……アーン」
「え、えぇ?」
何がせめてなのか、頬を紅くさせてアーンと食べさせようとする春姫にアルフィアからブチりと何かが千切れる音が聞こえた。
「ほっ、ほほぉ? 良い度胸だな女狐、私を前にしてその胆力………中々類を見ない豪胆ぶりだぞ?」
「い、いえ。私はただ私の命を救って下さったベル様に一生懸命ご奉仕したいだけなのです。お義母様」
「よし、その喧嘩買った」
「いやー、本当に美味しいね極東のご飯も」
「ザルド様、お味噌汁のおかわりってあります?」
「俺も頼む」
「順応し過ぎじゃない? お前ら」
「これが、未知を既知に変える。って奴ですか」
「多分違うぞ」
ギャーギャーと騒ぐアルフィア達を余所に、じっくりと朝食を堪能する仲間達。達観している主神と二人にザルドとヴェルフはちょっぴり心配になった。
◇
そうして、何時ものようにダンジョンへ向かうベル達を見送り、主神であるヘスティアもアリスと共にバイト先へ向かい、現在残されたベジット達は中庭に集まっていた。
ヘスティア・ファミリア内で定期的に行われる上位陣による実践形式を持ち込んだ組手。基本的に参加は自由とされるこの催しに、珍しく今回は上位勢全員が参加となっていた。
「さて、今回は春姫の魔法の検証と【魔力】の能力値の底上げという事だが……誰からやる?」
相手は派閥の長であるベジット。すっかり愛剣となった“DXドラゴンころし”を片手に中庭に集まった面子を見回すと、漆黒のドレスを身に纏ったアルフィアが前に出る。
「最初はアルフィアか。分かっていると思うが、魔法は極力使うなよ? 使うにしても威力と範囲は最低限に絞れな」
「分かっている」
「よし、それじゃあ春姫、始めてくれ」
「は、はい!」
ベジットに言われ、春姫は魔法発動の詠唱を始める。詠唱式である祝詞が進むにつれ、春姫の尾が輝きを放ち、軈て完成間近になると蓄積された魔法のエネルギーが春姫の尾から解放される。
「【ウチデノコヅチ】! 舞い上がれ!」
弧を描き、詠唱を唱え終えると同時にアルフィアに
腹の底から沸き上がってくる力、その規模の大きさに流石のアルフィアも目を見開く。初めて体験する位階ごと上昇する自身の力、その凄まじさに自身の手に視線を落とし、納得するように「ふむ」と呟く。
「成る程、凄まじい底上げだな」
「これで、今のアルフィアはLv.9になった訳だ。どうよ、感想は?」
「お前を叩き潰してから、述べるとしよう」
言うや否や、地を蹴りベジットへ肉薄するアルフィアに全員が目を見開く。地を蹴る挙動も、ベジットの懐に潜り込む動作も、その悉くが目視では確認できなかった。
まるでベジットの瞬間移動のよう、けれどそれ自体は
「いやぁ、やっぱヤバイですね。アルフィア様の適応力」
「通常、レベルが上がった直後の冒険者ってのは自身の器とのズレに困惑するもんだが……アルフィアの奴、まるで意に介してねぇな」
Lv.8からLv.9という常識外れの昇華はアルフィアにとっても未知の領域だろうに、飛躍した己の力をそのまま自身の実力として存分に奮う彼女にベートとリリルカの二人は呆れと畏怖、そして純粋な感心を抱いた。
そんな二人の感想に同意するようにザルドは頷く。
「そう、それがアイツのおっかない所の一つだ。如何なる未知に対しても即座に適応し、順応し、踏破する。俺達も当時からその様に心掛けていたが、アイツの適応力はその中でも群を抜いていたな」
オラリオに
未知を即座に己の既知とする。それは一種の教えであり、教訓。如何なる窮地に陥っても即座に対応し踏破するのは彼等にとっても必要基準。
そんな彼等でも異様な程に適応力が高いのがアルフィアだった。冒険者………いや、英雄になる為に必要なものが最初から備わっていた異常な程の才能の塊。
当時の事を思い出して染々と語るザルドに改めて二人は戦慄するが……。
「でもベジット様、当たり前の様に捌いてますよ?」
「あぁ、しかも普通の状態でだ」
「………もうマジでなんなんアイツ?」
アルフィアの人知を越え始めた体術、Lv.9へと至り現時点でマトモに彼女と戦える存在はオラリオ中探しても見当たらないだろう。
しかし、ここに例外が存在した。アルフィアの突きや貫手、蹴り、挙動も動作も最小限でマトモに防ぐことも困難なアルフィアの猛攻をベジットは涼しい顔して見切り、捌いていた。
逸らし、流し、受け止める。アルフィアの猛攻を前に不敵の笑みを崩さず、片手で捌くベジットにザルドももう笑うしかできなかった。
軈て、【ウチデノコヅチ】の効果が消える。アルフィアに纏っていた金色の光は消え、同時に審判役のアリスが「そこまで!」と静止する。
「いやぁ、流石に驚いたぞ。まさかここまで差が出るなんてな」
「ハッ、良くいう。私の攻撃を一度も受けなかった癖に」
「そう言うなよ。こっちも必死だったんだ。もし魔法の使用を許可していたら、一発くらい直撃してたかもしれねぇぞ」
「………フンッ」
そう言って下がるアルフィアは中庭の隅へと座る。恐らくは他の団員がブーストされた様子と、ベジットの動きを観察しているのだろう。
相変わらずストイックな灰の魔女に苦笑いを浮かべていると、今度はベートが前に出る。
「そう言えばザルド様、ここ最近ヴェルフ様に大剣の使い方を教えているそうですね?」
「ん? あぁ、先のアマゾネス達に何も出来ずボロクソにされたのが相当堪えた様でな。土下座する勢いで頼まれた。同じ派閥の手前、断るわけにもいかんし仕方なくな」
「その割には、ザルド様楽しそうですね」
ベジットとブーストされたベートが打ち合う。アルフィア以上の速度で中庭を駆け、ベジットに死角から蹴りを捩じ込む。
そんな殺意増し増しの蹴りを片手で受け流し、返し刀で剣を奮う。
「まぁな。やる気のある若者を育てるのは中々に楽しい。昔とは違う……なんというかな、むず痒くも充実した時間って奴だな」
ドラゴンころしの剣……振り抜かれる大剣の腹を蹴り上げて距離を空ける。
「あーあ、私も槍の師匠が欲しいなぁ~」
「お前には【
「いや、流石に余所様の派閥……しかもその長に気軽に教えを乞うわけにはいかんでしょう?」
今度はベジットが踏み込み、大剣を奮う。振り抜かれる幾重もの剣閃を紙一重で避けながらベートもまた前に出る。
「ザルド様達の頃はどうだったんですか? その、自己鍛練に限界が差し掛かった時とか」
「俺達の場合は兎に角格上に挑んだな。死にかけようが汚泥にまみれようが、苛烈な《洗礼》を浴びながら生き足掻く。これが、ある意味で当時の最も効率良く強くなれる方法だな」
「うーん、そうなるとやっぱりザルドさん達の時代はある意味で恵まれた時代なのですね」
「そう言える時点で、お前さんも適性あるぞ」
ベジットとベートの埒外の戦い。鍛練や組手の範疇を越えた殺し合い一歩手前の攻防、並みの下級冒険者なら見ているだけで気絶してしまいそうな光景を前にザルドとリリルカの会話はのどかなものだった。
「おい、何を無駄口を叩いている」
「アルフィア様、アルフィア様がLv.7になった時、どんなモンスターが相手だったんですか?」
「……あぁ、そういう事か。確かにLv.6からLv.7への昇格は難しいからな」
「ぜぇ、ぜぇ、くそ、一撃も当たらなかった。やっぱいきなり昇格染みた強化は劇薬だな。身体が馴染まねぇ……」
「ベートはならすにはまだまだ時間は掛かりそうだな。よし、それじゃあ次は誰がやる?」
「じゃあ、次は俺だな」
和気藹々とするヘスティア・ファミリア、賑やかに、穏やかに日常を謳歌する一方で。
「おーい春姫、魔法の方頼むなー!」
「は、はい……ウップ」
魔法の連続使用とそれを補うための
ヘスティア・ファミリアの《洗礼》を前に、春姫は泣きながら乗り越えて見せた。
翌日。
「ありゃ、ベル君、その子は……」
「あ、あの神様、この子はその……」
「
「……へ?」
「なんでぇベル、お前異端児を連れてきちゃったのかよ」
「え? え?」
追い詰められた表情でダンジョンから帰ってきたベル達、ベルの後ろで怯えたように隠れる
「取り敢えず風呂を用意してやるか。おーいアリス、風呂を沸かしてやってくれ」
「はーい」
「この事、フェルズは知ってんのかね? ベート、ちょっくらウラノス様の所に行ってきてくれ」
「ったく、仕方ねぇーな」
テキパキと話を進めていくベジット達に、ベルとヴェルフは終始目をパチクリさせていた。
Q.ベジット対アルフィア達(レベルブースト付き)による実践形式の組手は何時まで続いた?
A.主神がバイトから帰ってくる迄、なのでこの日春姫は数十回【ウチデノコヅチ】をしてました。
これで【魔力】の能力値が上がるよ、やったね!
Q.ザルド、ヴェルフに剣を教えているの?
A.先のイシュタル・ファミリアに一方的にボコられたので、その悔しさをバネにヴェルフ君は奮起しています。
「おー! ヴェルフの奴やる気だな。ヨシ、ここは俺も一肌脱ぎますか……」
「余計な事すんな」