なんとかエタらずに進めそうなので投稿します。
更新頻度は遅い(10日で1話ペース)ですが気長にお付き合い頂ければ幸いです。
あれからしばらく。
シブちゃんのシミ仲間御一行の来訪もまばらになった頃、本格的に2階での温泉汲み上げ作業が開始された。
「なぁなぁアッシーや?」
「はい? どしたのイヌイ君?」
たぶん100%コネで出世したんだろう、トーマくんから1階の奴隷監督任務を任されているアシレーヌに声をかけた。
今はお昼の休憩中。
最近は奴隷にも優しい職場作りがトレンドになってるらしくてな? なんとお昼に1時間も休憩タイムがあるのだ。
DPの収益的に見ると良くはない。
本当ならもっともっと追い込んで肉体も精神もズタボロにしてから水風呂に投げ込むのが最適なのだが、最近になってココに送られてくる奴隷どもは初期奴隷と比べると根性が無いからね。
雑魚を受け入れつつ長期的に現場を回すためにはある程度のロスも許容しなくてはならない。
それにーーー。
ふうふうと荒い息を吐きながら犬小屋の横に座り、壁面にもたれる格好で背をあずけるアシレーヌ。
その流れで溢れ出す汗を手ぬぐいでお行儀よく拭う姿に、唇の端がどうしても歪む。
う〜ん、いつもの事だしもう諦めてはいるんだけど、お前の汗が犬小屋に染み付いてる気がして毎回すごく気分が落ち込むんだよなぁ…。
まぁ仕方ない。
アシレーヌは情報源としては有用だから少しくらいは譲歩してやるのだ。
「今更だけどさ、キミらってなんでわざわざ2階の温泉汲んでるの? 1階以外の階層で汲んだお湯は別の階に持って行くと効能が消えちゃうってのは知ってるんだよな?」
原作でも似たような記述があったけど、俺のダンジョンにも消失ルールはあるからね。階層を跨いで湯の持ち運びをしても無意味なんだわ。
それなのに最近はわざわざ2階まで降りていく第一隊と、今まで通り1階で汲み上げ作業を頑張る第二隊にわかれて仕事してるし、お湯を詰めた樽の搬出口も別々にしてる。
人間はアホな種族だけどトーマくんという
いやチン○ンで
そんなトーマくんが計画して最速で実行した2階温泉運搬プロジェクトだろ? なんか意味があるかもしれん。
そう思っての問いかけだったんだけど。
「あれ? イヌイ君知らなかったの?」
肉体労働から開放され、ようやく息が整ってきたアシレーヌが水筒に入れた冷たい温泉水をゴクリ。
「アレは塩を取ってるんだよ」
「んへ……? しお??」
しおってあの塩だよな?
………なんで?
「イヌイ君には
でもね! 階層を越えたら効能
ほら、2階のお湯って凄く塩っぱいでしょ?
前にメルティが2階から帰って来て、そのままダンジョンの外に行ったんだ。そしたら太陽の光で水気が飛んで、後は全身塩まみれな塩漬けメルティが完成してね!
ふふふ…あっ! ぼ、僕は違うよ!? 僕はちゃんと水風呂に入ってたから平気だったんだけど………えっと? あ、そうそう! それでおに…トーマさんが、ここの2階からは塩が取れるんじゃないのか!? て喜んでね。
それで裏口から出て真っ直ぐ北に行った所にナユタヤ砂漠っていう砂丘があるからそこでアゲハ魔式製塩法で塩を取ろうって話になったんだ!
最初は人力でやってたんだけど炎天下の下であの距離でしょ? 流石にキツくて、それでどうしようってなった時にエルヴァちゃんがスケルーーー」
・・・・・・長い。
うん、知ってたんだけど、アシレーヌ話長いんだわ。
女子か! とツッコミたくなるくらい長い。
なんかなぁ。
たぶんコイツってガキなんだよね。成人前…16〜17歳くらい? 顔も身体もゴツゴツだし何よりオスだし、日本人とは人種が違うのもあって最近までわからんかったんだけど、たぶんまだ子供。
俺にみょ〜に懐いてて凹む。
チン○ンがなかったら許せたんだ。
チン○ンさえなかったら、どんな顔でも骨格でも話がバカクソ長くても愛せる自信がある。
もちろんオスにしては良い奴なんだけど。
はぁ…筋肉奴隷はこれだから。
それにしても塩かぁ…。
地形で言うとここって高知の辺りだし、近くに海はあるんだよな。詳しくは見れないけど浜辺くらいはあるだろ? けどわざわざ
………ふむ。
海は強い魔物が多い、とか?
なんかトトス君が言うにはシーゴク連邦の近くの海は海洋汚染がバチクソにやべー事になってるらしいし、その影響で難民的な水棲魔族が太平洋側に進出してきてたりする?
う〜んわからん。
わからんけどそこまで興味無いから放置推奨かな。下手に聞くとアシレーヌのマシンガントークがさらに加熱しかねん。
とりあえず疲れた。
聞きたいことは聞いたから話の止まらないアシレーヌをボケーっと眺めてみる。
う〜ん……………筋・肉・☆
「あ、そう言えばキミらって案外俺にフレンドリーだよね? 人間からしたら俺は悪い侵略者だろ? 普通殺し合いになると思うんだが」
「へ…? 確かにそう言う人もいる…かな?」
トウモロコシっぽい植物で作った粉を水に溶かして焼き上げたパイ生地に野菜を挟んだ昼ご飯をアシレーヌが取り出した。
「はい! はんぶんこ!」
…そう言って、何故か俺に飯を食わせようとする。
『俺は腹へらないから』
『(お前ら奴隷なんだから)飯は貴重なんだろ?』
『ちゃんと食ってもりもり働けよ(俺のために)』
と言って断るのだが、毎回諦めずに食わせようとしてくる。
だから最近ではとりあえず受け取ってコーちゃんのご飯として活用するようにしていた。
犬小屋の前の専用皿に置かれた飯。
小屋から手を出して一瞬でかすめとる。
「どうかな! 今日はイヌイ君に教えてもらったマヨネーズを作って入れてみたんだ! 塩も振ってあるから前よりは美味しいと思うんだけど…」
………くんくんくん。
うむ、相変わらずオスの手汗の臭いが…。
マヨネーズの香りも無くはないが…おぇぇ。
キモいんだけど、俺はDMだ。
最低限コアの健康を守る義務があるからね。
仕方なく一口だけ齧り安全確認。
うん…まぁアレかな。
35点。
塩が減点要素かな。
味は悪くないんだけど奴隷印の塩だと思うと気分が悪くなってしまうんだわ。
いや、まぁ俺は大人だからね。
アシレーヌには適当に返事を返しておいた。
んで、DMについての話な。
「う〜ん。字亞羽の北にある試練特区の人なんかはダンジョンに恨みがあるし、あと殺魔帝国の人はアレだけどね。普通の人はダンジョンから得られる宝物や経験値しだいで対応変えてるかな? 一応建前としてDMは退治しなさいってなってるし、ダンジョンの拡大を手助けする事は禁止されてるけどね」
それは俺の知識にある情報とは違っていた。
・ダンジョンの主である魔族は人間界侵略のために派遣された『ザ・人類の敵』であり、見敵必殺が人間の常識。
もしかしたら↑の情報は俺みたいな転生者が下手に人類になびかないようにする為の偽情報だったのかも。
「つか試練特区ってなに? 字亞羽大国の北にはシーゴクかシーゴクの植民地しか無いやろ?」
聞くと、やはりアシレーヌの言う試練特区とは日本地図で言う北海道を指していた。
俺の知識には間違いなくあそこはシーゴク連邦の植民地として記載されている。
「え? 試練特区は字亞羽の領土だよ? 領主がダンジョンの管理に失敗してかなり広い土地が瘴気に汚染されちゃったけど、字亞羽は奪還も諦めてないし、国際的にもまだあこは字亞羽大国の領土なんだけど…」
ふむ、ふむ、ふむ。
…マジ、こう言う情報のすり合わせが出来るのがデカいんだよ。アシレーヌやガノとトトスくんから聞いたり、他の奴隷の会話を盗み聞きした所、この身体の中にある基礎知識はちょっとかたよってる臭いんだよね。
俺の製造元であるシーゴク連邦ってのは結構ヤバい国らしくてさ。俺の身体にインストールされてる知識によるとシーゴク連邦の代表である【魔王様】は世界全土を統べるべしと定められて産まれた救世主であり、全知全能と完全無欠、博愛精神に溢れた真なる唯一神らしいのだが、外の国から見たらちょっと…ね?
(怖いから深くは言わない)
「あ! そうそう! それでね、今ちょうどその試練特区と貿易しようって事になってるんだけど航路が字亞羽の側だし距離も距離でしょ? みんな悩んでて、それならむしろ南のーーー」
う〜ん。
それにしても話が長い。
コイツほんと休憩時間ギリギリまで喋るんだよ。
実は俺ってさ、未練が中核になって存在してるからか、興味無い事はなかなか覚えられないんだよね。
前に字亞羽とか離国の面積も聞いたんだけどマジで聞いた側から記憶が消去されるの。
シブちゃんやエルヴァさんのボディーラインなんかは数値も完璧に覚えてるし、目をつぶってても紙に書き写せるんだけど。
だから今みたく集中力が欠けたらお終い。
あとはコーちゃんのコアでもこしょこしょして時間を潰しましょーか………………って、え!?
「ポほん?」
「あれ!? なんか変じゃね?」
コーちゃんのコアはピラミッドに逆ピラミッドをくっつけたような八面体(◇←こんな見た目)で紫色。質感はつるつるスベスベなんだけど、今日はその手触りに異物を感じた。
「ポンぽぽぽ?」
当コアは気付いてないけど、プロのコショラーであるこの俺の指先はごまかせない。
「やっぱり…」
「イヌイ君? どーかしたの?」
コアの一面に奇妙な膨らみがある…ニキビかな?
「なんか、コーちゃんが変なんだが」
う〜む、ニキビと言うよりは範囲が広いのだが、腫れた部分は赤く色付いている…ニキビかな?
「アシレーヌさ、コアに詳しかったりしない?」
少なくとも俺の知識にこんな症状は無い。
本気で頼るつもりは無かったんだが、焦りからかついアシレーヌに声をかけてしまった。
「う〜ん…僕ね、昔おに、じゃなくて。トーマさんがよくダンジョン攻略してたからダンジョンやコアの事はそれなりに勉強してたんだ。だからって役に立てるかはわからないんだけど、イヌイ君とコアちゃんさえ良ければ見てみようか?」
予想外の返答だったのだがコーちゃんに確認した所、入室OKのサインが貰えた。
犬小屋の扉は俺の部屋のふすまの部分に繋がっているので、そこから首だけを出したアシレーヌとご対面。
…オスの生首が真っ黒なふすまの中に浮いてる。俺の部屋なのに、なんて醜いオブジェクトなのかしら…。
そんな悲しみはあったのだが、アシレーヌ医師いわく「コアの分裂現象に似てる」との事だった。
なんでも地下100階を越えるような巨大ダンジョンで観測された現象に近いのだとか。
………いや、俺のダンジョンまだ3階層までしかないのだが、誤診? アシレーヌ医師誤診でゴザルか??
「もしかして、イヌイ君が天才過ぎるからダンジョンが間違えちゃったんじゃない?」
は?
はぁ〜〜〜〜??
「そそそ、そんなわけあるかよお前ホントお前…!」
「だってどう見てもコアちゃん元気だよ? なのに分裂しかけてるんだからきっとそうだよ!」
「そんな………いやそ〜かなぁ?」
「そうだよ、きっとそう! よっ天才ダンジョンマスター!」
「うへひぃ〜! やめろよアシレーヌぅ!」
「凄い! 世界初!!」
「ポコポコんポ!」
「ウヒョホロホロホロホロ!!」
ーーーそんな事もあって最近はかなり楽しい。
こんな日々もまぁ、悪くは無いかな。
あ、そうそう。
コーちゃんのニキビなんだけど、その後順調に成長しました。そして発見から6日後、無事に分裂。
サイズはコーちゃんの1/3くらい。
コアは紅葉みたいに真っ赤だけど、コアを包むゲルは優しい桜色。何故か重力無視してふわふわ浮いてる。糸みたいな触手がゆったり揺れるやん? それがまたピンク色のクラゲみたいでとってもキュートなんよ♡
水族館のクラゲルームとか1時間近く居座れる男だからね、俺は。
ひと目で魅了されちゃいましたよ。
名前はプヨルちゃん。
可愛いスライムだからね。
いやもちろん最上級はコーちゃん様なのですが。
まだ赤ちゃんコアだけど、プヨルちゃんが大きくなったらどんな事が出来るんだろう…。
新しいダンジョン作れたりするのかな?
だったらどうすっかな〜。
いやいや、コレだからDMはやめられないんだわ。
◆離国の外の世界◆
「凝血鉱石の採掘量をもっと増やせんのか!?」
荒々しくテーブルに拳を打ち付け、丸い顔のヒトが怒鳴った。唾が飛んで、テーブルの中央にまで届く。
「げ、現状は先月より2割増しとなっており」
細い身体のヒトは弱々しい。
味方の居ないこの部屋で、言葉で殴られるのがお仕事なんだね。えらいね、えらいね。
「2割だと? 貴様は此方におわす現龍神、キツト・フォル様を馬鹿にしておるのか!? なんのために輸送船を増やしたと思っておるのだッ!!」
そりゃもちろん、丸い顔のヒト達が富栄える為だよね。人類の繁栄を司る現龍神の忠実なしもべ様。
栄えるという事をよくわかっていらっしゃる。
「よいか!? 2倍だ! 来月には2倍の数値報告しか受け付けんぞッ!!」
「そ、そんな…」
絶望の細いヒト。
そんな彼に、お髭のヒトが声をかける。
「なに、簡単な事よ。輸送船を増やせば良い。偉大なる現龍神様への不忠者をちょいと炙り出して島送りにする。馬鹿でも餓鬼でも出来る簡単な仕事ではないか」
にやにやしてるお髭さん。
他にも沢山のヒトが居て、その全員が富栄える事を目指して細いヒトを追い詰める。
「し、しかし…現在の物資でこれ以上の増員は」
「馬鹿者がぁ!!」
優しくなだめて、激しくおこる。
うんうん。
繁栄してるねぇ…。
「貴様はキツト様の姉上をなんと心得る! 恐れ多くも現龍神の片割れであらせられるぞ! その御方のお力を信じぬとは、不敬なり!!」
ドンドンドンドンドンドンドン!!
集団で机を叩いたり、椅子に座ったまま足を踏み鳴らしたり。そうすればホラ、ヒトは簡単に折れるんだ。
みんな、半泣きで部屋を追い出された細いヒトを笑う。
まったく、同じヒトなのにね? ちょっと立場が違うだけで、ヒトはどこまでも残酷になれる。
なんて、かわいいんだろう。
「…それにしても、美味い話があったものですな」
「まったくです、ナチュラルオブジェクトとして売れれば儲け、程度の価値しかなかった石ころにまさかあれ程の値がつくとは」
「しかも掃いて捨てるしかない
「古いゴミは面倒ですからなぁ、やれ病気だ、やれ待遇が悪いだのと。頭の腐った老害を使い潰し、その益で新鮮な家畜を育てる。その過程で現龍神様の奇跡を知らしめる事まで出来るのですから! なんともはや、素晴らしい循環ではありませんか」
わはははは。
楽しいね? 楽しいね?
「さて、ではそろそろお薬の時間ですので」
「うむ? おお、今日は貴公の日であったか」
「はい、首を長くしておりましたので」
そう言って、髭のヒトが僕の前に立つ。
「現龍神様、どうぞお部屋に」
にこにこ、にやにや。
こう言うところも、かわいいんだよね。
【ヨキニ、ハカラヘ】
ボクはそう答える。
そのように設定されているから。
欲望を隠すことも無い。
でも大丈夫。
みんな、みにくいもの。
ねぇ、姉上。
姉上が信じたヒトは、こんな顔をするんだよ。
ペリアの雨が。
本来不変である筈の雨の量が、ほんのほんの少しだけ減ったね。
この国の誰かは気付いてる。
アグナの音が。
とてもとても小さいけれど、ボクにはアグナの鼓動が聞こえてる。
あの国の誰かが隠してる。
あぁ。
楽しみだ。
ボクは現龍神。
最新にして最弱の。
けれど、誰もが忘れてる。
ボクは繁栄だけじゃない。
ペリアが生だけではないように。
アグナが死だけではないように。
ボクは人なる現龍神。
【繁栄】と【報復】の化身。
さぁ。
増えて、栄えて。
驕って、狂って。
もっともっと。
もっともっともっともっともっと。
ボク と あそぼう。