そうだ、温泉ダンジョンをパクろう!!   作:マキシマムとと

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13.巫女服の湯

 

 字亞羽大国には神様がいる。

 

 てんなるすいりゅーじん、とか言う中2臭い蛇龍の神様と、じんなるげんりゅーじんとか言う14歳臭い竜人(ドラゴノイド)、つまりリザードマンの上位互換みたいな奴がいて、ソイツ等が前世で言う大昔の天皇陛下よろしくバンザイバンザイ万々歳! といった具合で国を治めて国民を管理しているんだとか。

 

 基本的に国民はカミサマに忠実だし、歯向かうような奴は非国民として村八分の後、この離国に島流しにされるシステムで安全に統治されてる。

 

 まーね?

 それは良いと思う。

 だって前世だってそうだったじゃん?

 強い奴が強い奴にとって有利なルールを作って後から生まれてくる奴らを思う通りに管理して、それでも枠に収まらない規格外品はサクサクサクサク除外して行くやつ。確か………自己家畜化だったか?

 

 神様が存在しない世界でさえ、人間は人間を家畜にしてしまえるんだから、神様が存在してるこの世界ではそれがいちばん正しいんだと思う。

 

 うん、俺は本心からそう思ってる。

 

 ーーーけどな?

 女を男にTSするとなると、話が違うやろ。

 

 は? え? 蝿? となりました。

 マジで頭のネジが飛んだもの。

 いや、俺もまだ混乱してるし。

 ここはまず最初から説明するとしよう。

 

 この世界の人類。

 なんか知らんけどな? 男は頑丈なんだけど魔術が使えなくて、女は逆なんだって。

 

 これは肉体の強度的な話だけじゃなくて、例えば男の場合はダンジョンの壁を壊して瘴気塗れになるとか、あえて魔族の肉を喰ってマナを変質させるとか言う馬鹿な事さえしなけりゃ何日ダンジョンにこもってても平気なんだけど、女の場合は対策無しでダンジョンに入り浸ってたらものの数日ただ呼吸してるだけで簡単に瘴気負けして魔族に変わっちゃう。

 (ちなみに俺は瘴気負けと言う言葉が大好きです。なんかエロいよね? エロくない??)

 

 とまぁ人類側にもそんな背景があるらしく、そんな訳でダンジョンアタックは男の割合がとても多いんだと。

 

 けどさ、ダンジョンって危険でしょ?

 そりゃ字亞羽本国には復活システムがあるから死んだとしても死体を地上に持ち帰れば復活は出来るんだけど、けど死体ごとロストしない保証なんてどこにも無いし、実際死亡(ロスト)率はかなり高いらしい。

 そうなると当然、男の数が減る。

 

 そこで脚光を浴びるのが、現龍神とか呼ばれてる頭のオカシイ変態なんだわ。

 ヒトの性別を奇跡の力で入れ替える。

 男を女にしたり、女を男にしたり…。

 その力でダンジョンへ派遣する人材を確保して魔族の侵略から国土を守ってきたんだと。

 

 んで、この離国に送られてくるヒトは全員漏れなく男に変えられてる。一応は建前もあるんだぜ?

 このダンジョンの外はクソみたいな砂漠環境。

 生きるだけでも一苦労だから、新天地の開拓が上手く行くように祝福したよ! みたいな。

 

 いや実際はね?

 カミサマに逆らうバカの種は後世に残しませんよって事で、言うなればTKSーーー とても(T) 汚い(K) 種絶の呪い(S) ーーーなんだよね。

 男しか居ないなら子供なんて作れないし、字亞羽の神様からすれば管理も楽ちんオチン○ンなんだろうけどさ、それを知らずに、女の子を呼び込むために永遠と心を砕いて頑張っていた可哀想なDMが存在するってこと、知ってた??

 

 あたま狂ってるよね?

 普通に考えて。

 

 ーーーは?

 男を女に変えるならまだわかるぜ?

 けど女を男に変える?

 存在している事自体がひとつの奇跡とすら言えるおにゃの子様を男に? しかもあんな肉ジバン着込んだみたいなムッキムキの世紀末男性に作り変えるとか趣味が悪過ぎて吐きそうーーーと言うか、俺が毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日、筋肉奴隷のクソ臭い筋肉にうなされてゲロ吐き続けてたのは現龍神のせいなんだよな? え、殺すよ? ブチ殺すよ? 聖戦開幕待ったなし!!

 

 神様がナンボのモンじゃい!!

 (# ゚Д゚)プギャー‼

 

 イヌイは怒った。激おこプンプン丸と言う死語を思い出す程度には激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の神を除かなければならぬと決意した。

 イヌイには政治がわからぬ。イヌイは魔族のDMである。おっぱいを眺め、お尻を愛して暮して来た。けれども雄の群れが発する汗や口臭に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 臭いに敏感で…あったのだッ!!

 

 どれだけ、どれだけ俺が苦しみに喘いだか…思い知らせてやる。

 

 俺は決意し…かけたのだが。

 

 「イ・ヌ・イ・君♡」

 

 「はわわわわわわわわわ…」

 

 ぽにん、と背中に温もりがフィットした。

 

 「どうしたの? なにかイライラしてた?」

 

 細いのに柔らかい腕が俺の胴体を包み、しなやかで心地良い指が俺の手の甲の上から覆い被さる。

 

 「ほよろろろろ…」

 

 「お顔が怖〜くなってた。いつにも増して格好良いけど、僕はいつもの優しいイヌイ君がイーなぁ」

 

 はぁ〜…温かいんじゃー。やわっこいんじゃ〜。

 温泉では摂取出来ない成分が、ココ(背中)・に・ある!

 

 「えーい、コーちゃんもこちょこちょしちゃう!」

 

 俺の膝上に乗ってたコーちゃんも、ロリ巨乳様の愛撫にご満悦。いやそりゃそうだよ。

 匂いからしてフローラルだもの。

 幸福感で脳がとろける…あひぇ〜。

 

 たぶん現龍神はバカなんだよ。

 この幸福を知らんような大馬鹿だからこんな美少女を筋肉野郎にTSするような暴挙に出られたんだ。

 

 ーーーそう。

 

 ロリ巨乳の正体…いや違うか。

 アシレーヌの正体はなんと、どこの究極で完璧なアイドルなのかと問い合わせたくなるレベルに完成された美少女ロリ巨乳様だったのだ…!!

 今から約2年前にTSの呪いをかけられ、この離国へ島流しにされて来たんだとか。

 

 俺もまさかそんな事情があるとは知らんやろ?

 死んだなら死ぬ前の時間に肉体を巻き戻せば生き返るだろJKってなノリで若返りの湯に頭から投げ込んだアシレーヌの死体がだよ? まさか美少女に再TSして復活してくるだなんて、予想出来る訳もなく。

 

 マジで誰やねんコレってなったもの。

 

 ショートボブの青い髪はアシレーヌ(オス奴隷)時代と同じ色だけど、身長も骨格も目つきも肌色も…とにかく何もかもが全く違う。

 この離国に流されて来る前の肉体だからか、肌もおっぱいもモチモチぷにぷに。

 小型犬みたいにクリクリした可愛らしい目に小さくて綺麗な桜色の唇。

 声はどことなくアニポ○のアシ○ーヌのアローラなトレーナーさんに似てる気がする…つーか豊満なおっぱい以外はかなり似てる気がする。

 (つまり、美少女…!!)

 

 マジマジ眺めたいし、本人からはそれ以上の許可すら貰っているのだが、それが出来ない。

 

 何故なら俺の脳の中にはアシレーヌ=オスと言う図式が完成されていて、今のアローラな姿のアシレーヌを見ると脳がバグって鼻血がダバダバ噴き出してしまうのだ。

 

 やはり許せん。

 許さんぞ現龍「そう言えば、第5階層のモンスター考えた?」あへぁ、耳に吐息が来てへぇぇぇぇぇぇぇぇ。

 

 「う、うううう…うん? はッ…は〜アレね? アレアレ。今アレだよ、ある程度は候補を絞ってるんだけど、どれも悩ましくてなかなかーーー」

 

 テンパりながらポチポチとタブレットを操作してモンスター召喚リストを見せる。

 アシレーヌ復活から僅か3日。

 俺達は新階層の創造に着手していた。

 

 「う〜ん? よく見えないなーw」

 

 ギュッとして地デジ。

 ダメだ。

 もう柔らかさと温もり以外何もわからん。

 こんな美少女に抱きしめられるとか夢か?

 俺は夢を見ていた? 死んでから今日までのアレコレは全てが夢幻のみせた花びら…?

 

 

 

 「ーーーーーハッ!?」

 

 意識飛んでた。

 気付いたらアシレーヌが何処かに消えてる。

 あまりにも強烈なハニートラップに俺の自己防衛機構が自動的に発動して意識を遮断したらしい。

 

 「おわー。怖…なんなんだよアイツはよぉ……」

 

 完全体美少女なのは認めるが、あそこまで行くと困る。

 下手したら前のアシレーヌが恋しく…は無いんだけど、あんなトLoveルを連発されたらお仕事進まないというか、呼吸以外何も出来ない。

 せっかく育った心のオチン○ンが爆発したら誰が責任取ってくれるんだよまったく。

 

 「はぁ…えっと、アシレーヌはどこ行ったかな?」

 

 「ポンぷる」

 

 膝上のコーちゃんが身体を伸ばしてタブレットに触れる。個別サーチ機能に登録してくれてたらしく、すぐにアシレーヌの姿が確認できた。

 

 「……………う〜む」

 

 素晴らしい。

 画面越しなら問題なく愛でれるんだよな。

 タブレットに映るのは巫女装束姿のアシレーヌ。そして隣にはいつもの白いローブ姿のエルヴァさんが並んでいた。

 (巫女装束はあれだよ? すっぽんぽんのままだと完全にマズイから俺の前世の知識からイロイロ候補を上げた結果、アシレーヌ本人が選んだんだよ? *1決して俺の趣味という訳ではない!!)

 

 ロリっ子ボディーに巫女装束。

 たまらんよね。

 隣に立ってるエルヴァさんは身長高めでアシレーヌはロリだからその対比もまた良い。

 チっパイ&オッパイが逆転してるのもヨキ。

 

 良すぎるんだが、この娘たち。こうして見てて納得なんだが、アシレーヌ・オス形態の頃から2人が仲良かったのにもちゃんとした訳があったんだね。

 ロリ巨乳に変貌したアシレーヌが人間どもの前に姿を現した時の驚き方からして、本当のアッシーは女で歳が自分と近いってのも知ってたらしく。

 

 『アーちゃん、なんて素敵なの…!』

 

 なんて言って普通に受け入れてたし。

 トーマくんは『感謝する…心から、感謝する!! 生き返るだけでなく、まさかまたあの頃のお前に出逢えるとは…!!』なんて言ってオイオイ泣いてたもんな。

 

 まったく、トーマくんったら。

 なんべん感謝した所でお前が俺の犬小屋の前でチン○ン大風車した事実は消えねぇんだからな? この大罪人が…ッ!!

 まぁそんなギルティなトーマくんは置いといてだ。

 いま話題のアシレーヌちゃんな。今はエルヴァさんからミロクちゃんを手渡されて楽しそうにユリユリしてる。

 赤ちゃん特有の動物っぽい笑い声がまた良いよな。

 タブレット越しでも和む。

 

 「………はぁ…ヨキ」

 

 なんかさ、女子のじゃれ合いってリアルで見ると謎の圧力あるよね? なんだろ…女子圧? 異様にこう、女子特有のテンションがあって気圧されるんだけど、こうやって画面越しに眺めてると普通にほっこりするんだよね、不思議と。

 

 「ポキポキん?」

 

 「あ、せやね!」

 

 (ロリ巨乳)の居ぬ間になんとやら。

 こう言う時にすかさずフォローしてくれるからコーちゃんは素敵なんだよな。

 よし、さっさと新階層の創造に手を…て、アレ?

 

 「ん? コイツらのDP…1桁減ってない?」

 

 なんか、召喚コストが変…な気がする。

 

 いやほら、今の俺のダンジョンって第2階層以外の階層は全然理想とかけ離れてるじゃん?

 ダンジョン(笑)てくらいの、ただの洞窟温泉になっちゃってる。

 

 1階はDP不足。

 3階もDP不足。

 4階もやっぱりDP不足。

 各階層に召喚してる魔族はお掃除スライムだけ。

 

 温泉の主としてはそれもアリなんだけど、俺は温泉『ダンジョン』のDMですやろ? 本能的なモノなのか、今のこの凄く不健全なダンジョン構造がとても心地悪いんだよね。

 

 この状況を打開し、常識的なダンジョン経営ライフを取り戻すためにタブレットとにらめっこして召喚する魔族の候補を絞ってきた訳なのですが。

 

 「減ってない…のか? もとから見間違いしてた?」

 

 俺の見間違いだったのか?

 召喚候補として睨んでた内の2種類の魔族、その契約料がガクンと激減してる。

 

 「う〜む………」

 

 「ポヨルるん?」

 

 なんか、嫌だな。

 …いや、当初の予定からすれば万々歳なんだよ?

 けどこうも唐突に理想通りの展開になってくるとなんか、ひねくれたくならない?

 

 そもそも最初から普通のダンジョンらしく普通に強い魔族を呼んで普通に人類にダンジョンアタックさせる…という思考が面白くないとは思ってたんだ。

 もうちょっとこう…変化球的な。例えばそう、設置する温泉の効能とシナジーするような魔族とかが居れば…………うん……ふむふむ………うぬ!?

 

 あ、なんかエンジンかかってきた気がする。

 

 

 

 ◆メルティ〜本物の奇跡〜◆

 

 

 

 アタイは鍛冶屋のひとり娘として生まれた。

 生まれた時からバカデカくて、歩けるようになってから1月も経たないうちに自分の体重と変わらない重さの岩を持ち上げる事が出来たらしい。

 

 そりゃ子供の頃は良かったよ。

 

 物心ついた頃には鍛冶屋の火に魅せられてたアタイは親の仕事を見様見真似で手伝ってたんだ。そりゃ子供だから多少のヘマはしただろうが、アタイにはそれを差し引いても余りある腕力があった。

 そんなアタイを親は手放しで褒めたし、たまに外に遊びに行けばアタイの天下よ。

 力が強ければ際限なく人気者になれるのが子供の世界。ガキ共は軽く投げ飛ばせば簡単にアタイの子分になったし、親の手伝いで顔が赤黒くなってるようなガキは大通りに店を構える大人達にもウケが良かった。

 

 ーーーメルティは本当に良くできた子だ。

 ーーー本当に素晴らしい。

 ーーーうちの子もメルティくらい働き者だったら。

 

 その頃のアタイは世界の中心で、小さな町の小さな王様だった。

 けれど、そんな日々は長く続かない。

 

 アタイは女の癖に魔法にてんで適性が無かった。

 アタイの筋肉はどんどんどんどん太くなった。

 あれよあれよと言う間にアタイは村一番の頭抜けた巨漢に育ったし、唯一アタイを大切にしてくれた両親は流行り病でポックリ逝っちまった。

 

 寂しさを紛らわすため、鍛冶に没頭して。

 気付いたら股ぐらから血を出す年頃になってた。

 怖かった。

 不安だった。

 周りの女はどんどん綺麗になって、柔らかくて、温かくて、アタイとは全然違ってて。

 なんで、なんでアタイだけこんななんだと絶望して。

 

 顔馴染みのお得意さんはアタイの相談にのってくれたけど、同い年の…昔、子供の頃に一緒になって泥まみれになった友だち…だと思ってたヤツらからはバケモノ扱いされて、仕舞には他所から来た旅人や商人への見世物として小遣い稼ぎの道具にされた。

 

 皆が皆、そんなクズだったわけじゃなかったんだと思う。けれどその時のアタイは冷静じゃ無かった。

 誰も信じられなくて、手当り次第に殴り飛ばして田んぼに頭だけ出して植えてやった。

 

 女の魔法も、男の筋力も。

 このアタイの豪腕の前には紙切れ当然。

 暴れに暴れて、主犯の女の家は殴り壊して。

 

 あのクソ女はそれでも折れず、翌日にはアタイの大切な鍛冶屋を魔法で燃やしやがった。何がそこまで気に食わなかったのか知らねぇが、皆で結託してアタイを村から追い出そうとしやがったんだ。

 

 その後の事はあんまし覚えてない。

 まぁアタイの事だ、憲兵にとっ捕まるような馬鹿騒ぎを巻き起こして、離国に流されるような大立ち回りを演じたんだろうな。神様の奇跡を受けた影響か、その辺の記憶は曖昧なんだが。

 

 けど、アタイは感謝してたよ。

 

 普通よりは少し強いけど、アタイは神様のおかげで『普通』になれた。

 普通の男の中に混ざって、普通の男として生きる時間はとても充実してた。

 生活は死ぬほど苦しいし喉はずっとずっと乾いてたけど、字亞羽では得られなかった仲間と出会えた。

 

 ーーーけれど。

 

 「メルティ、お前は本当に良く働くな! 気も利くし人に優しい。辛い仕事にも愚痴一つ溢さんとは…まったく若いのに良く出来たヤツだ。女だった頃はさぞモテたろう」

 

 女だった頃のアタイですら五分の勝負となりそうだと、そう思わせる男が居た。

 

 「もし迷惑なら断ってくれて構わないのだが、俺の妹が流されてくる事になってな…俺ではきっと、今のアイツを支えてやれない。良ければお前の力を借りたいんだ。どうか頼まれてはくれまいか」

 

 頭を下げられて、信頼されて。

 

 「変わる前のお前に出会っていたら? そんなもの、一撃で悩殺されたに決まっておろう! ガハハハハハハハハハハ!!」

 

 酒臭い息の彼に肩を組まれ、抱き寄せられ。

 力強く微笑まれて。

 

 

 

 夢を見るようになったんだ。

 

 

 

 アタイはあの頃のバケモノ女。

 ドキドキしながら、トーマ様の前に立つ。

 すると、あの人は、顔を歪めて。

 他人のゲロでも見るような目付きでアタイを蔑んで…。

 それで、目が覚める。

 

 怖かった。

 気持ち悪かった。

 その夢を見た朝は必ず吐いた。

 

 アタイに与えられた奇跡には未来なんて無いんだ。

 

 それがアタイの奇跡なんだ…!!

 

 「ーーー僕を信じて」

 

 アタイはまだ、ココに流されてから2年と11ヶ月。

 戻ろうと思えば戻れるギリギリの状態で、周りの野郎どもが次々と女の姿を取り戻し、歓喜と狂乱に沸き立つ姿をただぼぅっと眺めていて。

 

 そこに、現れたんだ。

 人生で初めて得た親友が。

 親友だと、思っていた…女が。

 

 「僕はお兄様をずっと見てきた」

 

 「そんなのアタイだって同じだ…!!」

 

 過ごした時間だけじゃない。

 一緒に居て、一緒に感じて。

 …けど!!

 

 「きっとお兄様は貴女を選ぶ」

 

 ペテン師が。

 無責任な言葉に、心の奥底から憎悪が溢れた。

 

 「ーーーふざけんなよ、アシレーヌ」

 

 庇護欲を掻き立てる小さな身体。

 暖かくて柔らかい胸。

 ふっくらとした桜色の唇。

 柔らかい髪に良い匂い。

 

 アタイが持って無い、全てを持っている癖に!

 

 「お前に何がわかるんだッ!! バケモノだって笑われて、殴り飛ばしたら怖がられて! アタイはこのままが良いんだ、普通の男でいられれば、それだけで。トーマ様はきっとーーー」

 

 「きっと、このままじゃシルヴァさんに獲られちゃうよ」

 

 「ーーーッ!!」

 

 「メルティの悪夢は知ってる。けれど、メルティ…それは夢なんだよ? メルティは現実を、本当のお兄様を見てない!!」

 

 「それは…だって、アタイは」

 

 無理に決まってる。

 トーマ様は本当に良い男だ。

 だけど、それでアタイが変わる訳じゃない。

 アタイがバケモノだって言う事実は。

 

 けれど、アシレーヌの。

 アタイの人生で初めて得た親友の言葉が。

 こんなアタイのためだけに歪められた、その悲痛な表情がアタイの苦しみに引っかかる。

 

 「信じて欲しい。僕じゃなくて、メルティが愛してる僕のお兄様を、その性癖を信じて欲しい!!」

 

 グチャグチャになった思考に、何か変な言葉が混ざって聞こえた………ようなーーーん?

 

 「…………………………せ? へき?」

 

 せーへき? え、性癖…つったか?

 え、アシレーヌ…さん??

 

 「今まで言わなかったけど、お兄様の部屋のベッドの下。凄いんだよ!? バッキバキに腹筋が割れた女の子の絵しか入って無いんだから! あの人は盛れば盛るほど好きなんだ!! 絶対なんだって! 絶対もとのメルティはお兄様のドストライクッ! 賭けてもいい! 最強メルティ(女子)と出会った瞬間、お兄様の脳は壊れちゃう! ここで踏み出さなきゃメルティは一生後悔するよッ!」

 

 ざわざわ。

 ザワザワザワ*2

 

 4階層の若返りの湯(3歳)の前は凄まじい人混みで賑わっているのだが。

 その人々の放つ、てんでバラバラの会話が消え去りトーマ様の性癖トーク一色に染まった。

 

 

 ーーーマジで?

 ーーーなんか目付きがヤラシイと思ってたけど。

 ーーーうせやろ?

 ーーーえ、俺の尻狙われてた?

 ーーートーマくん草ぁw 性癖暴露クッサァww

 ーーーアタシにもチャンスあるかな!?

 ーーーガチムチ女が趣味…だと?

 ーーーそんなトーマ様も素敵。

 ーーーここはひと肌脱ごうぜ!

 ーーーメルティの恋、俺が叶えてみせる!

 ーーーイイなソレ! やろう!

 ーーー俺らのメルティが最強だって事を!

 ーーーソマザの姉ちゃんに見せつけろッ!!

 ーーーメルティ!

 ーーーメルティ!!

 ーーーメルティ!!!

 

 

 それは肉の津波だった。

 抗えない暴力と純粋に迫る善意。

 アタイは初めて、その恐ろしさを身に染みて理解した。

 

 

 

 

 ーーーそして知る事になった。

 

 本当の、本物の。

 …神の、奇跡を。

 

 

To Be Continued !!⇨

 

*1
選択肢は『懐かしのセーラー服』『懐かしのブルマー体操服』『紺色エ□ゲーなスク水』『らん○1/2復刻おめでとうチャイナドレス』『ちょっとだけ胸元が怪しい巫女装束』の5点でした。

*2
矢木に電流走る





 文書量が安定しなくてすまない。
 たぶん、前回文書量ダイエットに挑戦した反動でリバウンドしたんだと思います。
 来年はリバウンドしないように頑張ります。
 知らんけど。

 あとメルティについて。
 この人はモデルが存在してて、作者の好きな作家さんの主人公だったりします。
 メルティ・赤髪・鍛冶屋。このワードでピンと来た人は作者のソウルブラザーな可能性が高いですね。
 握手してください。
 (問題があったら書き換えるけど、まぁヘーキやろ)


 さてさて、それはさて置き年末年始は更新できない可能性が高いので、とりあえず今回でひとこと。

 ここまで読んでくださった貴方へ。
 いつも有り難う。
 良いお年をお迎えください。
 来年もよろしくお願い申し上げます。
 m(_ _)m
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