なんか知らんが上手く行った。
それは確かなんだけど、俺のダンジョンってさ、やっぱ…なぁ〜んか違うくね? 天原先生のオリジン温泉に本当にたどり着けるのかどうか、本当に最近怖いんだが。
「ヒャッハー! 冷たくてギモヂィヒィーー!!」
肉だるまAが頭からザバンと飛沫を上げて水に飛び込む。
「ウッヒェ〜〜〜!! イヌイっち最高ォ!」
「DMしか勝たんッ!!」
「ヒャーウィーゴ〜!!」
あとに続けとB・C・D〜Tまでの筋肉野郎どもが団子となって一斉に飛び込み、盛大な飛沫を撒き散らす。
補足として、イヌイってのは俺の事だ。
鉄子は雑な人間らしく、人の名前を直ぐに改悪する。トーマならトンマだし、商隊長のバッカスはバカ、てな具合だ。
「ーーーて事はさ『犬』って呼ばれてるDMさんはイヌイ君って事になるんじゃないかな?」
と、アシレーヌのバカが雄肉共の前でフザケた持論を展開し、何故かそれが大多数のイーネェを獲得してしまった。
まぁ、自分で思いつく名前も無かったからとりあえず受け入れてはいるんだけどな。
ーーーで、話を戻すのだが。
ここは第一階層で、第一階層には【肌艶の湯】しかない。
何故なら最初にダンジョンメイクした段階で同階層に複数の温泉を配置する事は出来ないルールを設定してあるから。
にも関わらず、ここには【水風呂】が新設された。
10人サイズのデカイ穴。
そこに溜めた水の中に水死体のように約20人の筋肉だるまが浮いたり沈んだりする。
(芋の子洗う感じで見た目ちょっと危険)
(見苦しいと言う意味では間違いなく危険)
その順番待ちの長いこと長いこと。
一組20人で持ち時間は2分なんだけど、どいつもこいつも制限時間ギリギリまで水に浸かってる。
普通なら直ぐにヌルくなりそうなもんだけど、奴らから回収できるDPを使って自動温度調節の冷却魔法陣を起動してあるからいつでも快適。
ついでに前世で使ってた金魚の水槽のろ過装置を参考にして水の循環と温泉でも使用してるお掃除スライム君(汚れ取りのフィルター代わり)を設置して衛生面にも強い仕上がりとなっている。
地獄のサウナ空間で脳が湯立つまで働いた筋肉軍団にとって、この【水風呂】は地底の底で見つける金銀財宝と同等の価値を持つ。
重労働がもたらす極限の苦しみと絶望感、そこからの水風呂! その開放と多幸感たるや!! 奴らの肉体&精神の急激な変化が大量のDPへ変換され、俺の懐をジャブジャブジャブジャブと潤す。
この調子なら地下4階の【若返りの湯】建設まで半年もあれば手が届く!
「クククッククケ、クゲ…ゲフャッハー!!」
( ´ཫ` )ゴファ…
あと半年もの長期間をあの腐れ筋肉に包まれて過ごさなくてはならないと言う地獄の可能性に気付いた瞬間吐血してしまった。
「だいじょうぶ」
「だいじょうぶ」
「だいじょうぶ」
「さくらちゃんも言ってたから俺はきっと大丈夫」
脳内さくらちゃんの笑顔に希望を見出した俺は、気力を振り絞って半年後の未来を思い描く。
俺を崇め奉るクソ筋肉連中を全員綺麗に1匹残らず排除して、やわらか女神達の楽園を築くその未来を…ぐふ、ぐふふふふふふふふふ…!!
クソ馬鹿なオスどもめ。
この【水風呂】はルールの穴を突いて、奴らに作らせた物だ。
人間が温泉を取得する事で水の温度変化が可能になる。なら、ダンジョンの中にデカい穴を形成し、奴らの使用する冷却の魔法陣やお掃除スライムなんかを設置。後はそこに温泉水を流し込むように看板で命じれば超低コストで奴らからDPをギュンギュン吸収する魔法の水風呂が完成すると言う、実に! 実に天才的な大発明なのであるッ!!
「俺・天才!!」
…まぁ、そのせいで反響が反響を呼んで少し困った事態も発生したりもするのたが。
「出てこいイヌイ! 俺はお前と熱く筋肉でトークしたいだけだッ!!」
いつも通りのむさ
ゴリラことトーマの大声に、俺も負けじと反撃した。
「いや、絶対に嫌だ。お前みたいな陽キャと話す事なんて無い! どうしても話したいならそのムチムチの胸筋をぷにっぷにのオパーイに取り替えてから出直してくるんだな小僧ォ!!」
困った事に、奴らは俺が『話しの通じる素敵なDM』だと勘違いしてしまったらしい。
俺の
『もっと水風呂を!』
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『水風呂を所望するナリ!!』
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『イヌイ君お願いッ!!』
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鉄子が不在だからか、最近調子に乗りすぎなんだよ。
俺の看板を真似してか、プラカードを掲げる数人のマッチョが特にウザい。
特に書いてる文字が丸っこいのがキモい………って、また貴様か
アッシーはこれだからーーーいや、ここはまぁ置いといてだ、そりゃね? 水風呂は奴らの数に対して断然に少ないしクッソ狭いから仕方ないんだけどね?
労働終りの湯気立つ肉だるまが群れて並んでる地獄絵図が永遠とダンジョンの果まで続くんだもの、気持ちはわかるよ。
見てるだけでもキモいんだから並ぶとなるともっとキモいんだとは思う。
それはわかるよ?
けど、その苦痛や限界を通り越したような…ゲロを煮詰めて腐らせたような…! そんな
つ・ま・り・!
貴様らが苦しめば苦しむほど、俺は富み栄るわけだよチミィ…www
なんて、なんていう完璧な構図!!
それ故に…!
「水風呂増設はしない、絶対にだッ!!」
俺の決意を感じたのか、人間共が表情を硬くした。
ふっ、人間風情がこの俺様にーーー「よぉぉぉっし、わかった! お前がその気なら俺にも考えがある。総員、構え!!」ーーーえ?
完全に統率された動きで全員が腰に手をあて。奴らの『人間』を証明するたった1枚のこ汚い布切れを取り払ってーーー!?
「全力! 大・風・車!!」
お○ん○んをグルングルンと大回転させた。
「どうだイヌイ! やめて欲しいか! やめて欲しければ俺との話し合いに応じるんだッ!」
「オギャッ!! やめ…やめろぉ! 目が、目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
バルスの光より強烈な滅びの光景。
俺が生き延びる為には折れるしか…なかったんだ。
『ダンジョン改築中』
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『ダンジョン改築中』
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『ダンジョン改築中』
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『ダンジョン改築中』
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◆
そんなこんなもありながら。
我がアマノ温泉ダンジョンは開放10日目にして地下2階【髪艶の湯】の創造に着手した。
「最終チェック頼める?」
「ウミュン!」
ぷるぷると震えてコアの真上に『O』『K』と文字を作るのは我がダンジョンコア。
ダンジョンがある程度の形になって、コンスタントにDPを回収できるようになった今も、我らがコアは黒いスライム状から変化はなく、それでもコアの核から生み出す泡で上手にコミュニケーションが出来るようになっていた。
「ふぅ…」
かわいい。
「コーたんは本当に可愛くて美人で優しい最高コーのコーちゃんでガンスねッ♡」
スライムの中に手を突っ込み、コアの部分を指の腹で優しくサワサワする。デリケートゾーンですからね、丁寧に丁寧にナデナデさせて頂くのだ。
「グポパン♪」
コーちゃんのご機嫌が指に伝わる。
はぁ。
生きてて良かった。
ちな、コーちゃんはコアの名前。
コアから取ってコーちゃんでもあるし、どことなく雰囲気が子供の頃に飼ってた黒猫のコタローに似てたからでもある。
さて。
今回の地下2階創造なのだが、実は当初の予定よりは計画が遅れている。
それもこれも全て筋肉どもがワガママなせいだ。
…うん、ワガママな筋肉ってのは字面が悪いな。
なんかこう、昔懐かしのボンキュッボンのワガママボディ的な響きと被るのが凄くしゃくに触る。
5日前だったかな?
大規模マッスル抗議活動があった結果、奴らは水風呂の増設に付け加えて現在の出入り口の反対側に、もう一つ出入り口を追加するように要求してきた。
水風呂は簡単に低コストで増やせるんだけど、出入り口の追加が厄介でね。外の地形にも干渉しなきゃならんから蓄えてたDPがごっそり消えたんだよな。
最初の入り口は樽の輸送に無理があったのかな? とも思ったけど、こんなボロカスに攻略されまくったダンジョンの入り口がそこまで不便な場所にあるとも思えないし、その辺は未だに謎。
謎なんだが、ソレはまぁ置いといて。
その後は新設された入り口から温泉水入りの樽が出荷されるようになって、その後に奴隷(薄汚い筋肉)集団が追加でわらわら入ってきたからDP収益自体は以前より向上してるんだけど、今の所は出費がデカすぎて予定遅れ。
これを取り戻す為、そして俺の干からびる寸前の魂に潤いをもたらす為にも、俺には地下2階が必要だったんだ。
「グー、グー!」
精査が完了したらしく、お返事から『O』『K』の文字でボディランゲージしてくれるコーちゃん。
くっそ可愛い。
知ってる?
コーちゃんて『O』と『K』にしか形状変化出来ないんだぜ? スライム状なのに体硬いとか…天使かッ!!
ともかく、コーちゃんのお墨付きが貰えたのでタッチパネルの【認証】ボタンをポチリ。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!
ダンジョンが広がる。
自分自身が拡張される心地よさはDMにしかわからないんだけど、整形とかにハマる人の気持ちに近いのかも?
少しづつ理想の自分に近付くというか、う〜む整形したこと無いからわからんw
ま、なんにせよ2階層は完成。
俺達のダンジョンはまだここからダゼ!!
◆ダンジョンの外の世界◆
【砂漠】
その文字の連なりを見て想起されるのは金色に輝く粒の細かな砂の海が永遠と彼方まで広がる光景だろう。
しかし、多くの場合【砂漠】とは雨量に乏しく、植物が少なく、大地が石のように固まってしまった乾燥地域を指す。
『離国』と名付けられたその地でも同じく、その大部分はそうした荒廃した土地が果もなく続く環境であり、ごく僅かな地点にのみ、粒子状の砂漠が広がっていた。
この地は太古の昔『天なる水龍神ペリア・ナハル』と『人なる
死と暴虐の化身とされる龍を封じ、世に安寧をもたらしたニ聖神は
過去に訪れた僅かな人間も、その過酷な環境に淘汰され定着する者はなく。
此度の『新天地開拓計画』も頓挫する前提で進められていた。
奇跡はもう無い。
恩寵は失われ、後には焔龍神がもたらす火の怨嗟に焼かれる地獄のみ。
誰もが、そう、諦めていた。
「水が…」
枯れた泉に、水が戻ってきた。
並々と風に揺れる泉からは、何処か不思議な香りがして。
「生き返る…少し臭うーーーいや!? なんだ、これはッ!!」
干物のように生気を無くしていた肉体に宿る、比類なき活力! 体感し、目で見てわかる程にひび割れた肌が修復されて行く。
「奇跡だ…ッ!」
「ペリアの涙」
「姫巫女様バンザイ!!」
「真なる翼!」
「イツカ・フォル様!!」
「字亞羽大国に呪いあれッ!!」
「我らはまだ、見捨てられていなかった!」
照り殺すような日差しの下で沸き立つ群集。
小さな奇跡。
いずれ失われる奇跡だと。
誰もが心の底で嘆きながら。
今ここにある生命を謳歌する。
ーーーその泉の側に生える。
ーーー小さな小さな雑草の。
ーーーその艷やかなる葉の。
ーーー意味にまだ、誰一人気付くことなく。