魔術の存在を忘れてました。
いやね?
俺って魔族じゃん?
転生した瞬間から魔法が手元にあったから、ここが剣と魔法の世界だってのは知ってたんだよ。
けどね?
来る日も来る日も山のような重労働のすべてを筋肉で解決するムキムキな雄奴隷達を眺めてたらその感覚が麻痺しちゃうのも仕方がないんですよ。
「中位なる風の精、俺の命に応じ顕現しろ」
シブちゃんが内包したマナを消費して世界のマナに干渉する。魔族の『魔法』とは系統樹の異なる『魔術』の作用により、何も無かった中空に蛍色の魔方陣が描かれた。
「
詠唱完了と共に、見た目は半透明で薄緑色のトンボが召喚された。
「仕事だぁ」
シブちゃんの支配下にある風の精霊が迷宮を駆ける。
通路の分岐ごとに最初のトンボと同じ大きさの分身を生み出しながら、超高速で2階層をマッピングして行く。
彼らの通った道はシブちゃんの目の前の空中に透明な地図として表示される仕組みになっていて、ものの数分で2階層の構造が暴かれてしまった………え? それズルくないですか? 俺が何時間かけて創ったと思ってんの? え? マジでふざけんなよお前マジでシブちゃんが女じゃ無かったら今頃ガノとトトス部隊に命令『
マジでクソ。
この世界のルールがクソすぎてクソ。
キングオブクソ。
なんだよマジでチートだろソレ、もうほんと人間の魔術とかこれだから嫌いなんだよぉおお!!
「なるほどな、見える範囲にはゲートも階段も無ぇ…か」
「え!? それってどういう事?」
普通、ダンジョンに行き止まりは無い。
特に2階層なんかの超が付くほどの低階層ではDPの関係で隠し扉なんかの仕掛けもつけられないから、マッピングすれば必ずゴールが見えるようになってる。
な・の・に・!
俺の素晴らしい2階層にはゴール*1が無い!
ぐはははは!
コ○ン君でさえ解けない謎!
所詮はゴリラの亜種である貴様ら人間に解ける筈がなかろう!!
「湯の中だな」
ひょぴ!?
なんでバレたし!?
即落ち? 即落ちモノなの?
やめてとめてやめてとめてやめぁひ〜ッ!
「魔族の分際にしちゃ知恵があるじゃねぇか」
メッチャ鼻で笑われてるんだが(激怒)
しかし愚かなり人類!
貴様らは
つまりこの勝負は俺の勝ちなの………ん?
なんか、シブちゃんが耳飾り(真珠っぽいヤツ)を片方外して口に入れましたな? ガリッと噛んで(その破片で口の中切ったんだろう)血と一緒にペッと吐き出して。
「
魔術の発動により黒いモヤが立ち上り、真珠の中に封じられてたらしいゴーストくんがコンニチハ。
「湯の下を探せ、必ず何処かに抜け道がある」
目のある辺りがぼぅっと赤黒い彼(彼女?)は、よくあるゴーストゴーストしたゴーストでして、半透明の白い布を頭から被った幽霊さんでしてね?
この子がまぁ優秀。
死んだ時点で魔族に片足突っ込んでるのかな? 魔法と魔術を足して2で割って水分抜いた感じの………法術とでも言うのか、変な技を使って複数のゴーストコウモリを召喚。
(使役物の癖に使役物を呼ぶとか反則)
そのゴーストコウモリ達は温泉の影響を受けないらしく、次々にお湯の中に飛び込んでいった。
こうなると隠し通路の発見は時間の問題。
…いやズルくね?
人類ズル過ぎじゃね?
シブちゃんが言うにはコスト面の問題があるらしいけど、所詮は耳飾り一個だろ? こんな簡単に短時間で迷宮突破されたら俺の立つ瀬が無いんだわ。
◆
「これは無理だろ定期…」
2階層攻略組を監視していた俺とコーちゃん。
死霊術を行使したインチキ霊媒師ことシブちゃんの活躍に戦々恐々とお互いを抱きしめあった。
ダンジョンには弱点が3つある。
ゲートってのは常にダンジョンの最深部に存在する門で、魔族の領域とこちら側とを結んでる。
そこから瘴気が漏れてくるから俺らは息できる訳で、この門が閉じられたり破壊されたりしたら俺らの負けなんだよ。
トーマくん達は温泉という金のなる水の魔力に負けてくれたけど、シブちゃんは違う。
この短時間でも2階層の効果で髪が艶々になってるけど、まるっきし気にしてない上に、空気から伝わってくるダンジョンへの殺意がドンドン大きくなってきてる。
もしこのままシブちゃんがゲートまで辿り着いたなら、かなり高い確率でこのダンジョンは崩壊させられる。
「やっぱし、奥の手を使うしかない」
「ぐぽむんっ!!」
俺の言葉に食い気味で反応し、イヤイヤと身体をよじる黒いスライム状のコア。
その愛らしさの破壊力は俺の魂に甘く語りかけてくる…が、しかし!!
「コーちゃん」
俺のハートの中核。
前世から引き継ぐ氷山のようなドデカイ未練が、その甘えを許さない。
「コーちゃんが嫌がる気持ちはわかる。ダンジョンマスターとダンジョンコアだもの、すげー深く理解できるよ。けどこれは無理」
奥の手、と言うのは第3階層の創造。
2階層を創った時点でDPは枯渇。
それからシブちゃんが訪れるまでに1階の奴隷連中から少量は回収出来たけど、そんなもんは焼け石にお湯でして。
当然、3階層なんて創造してる余裕は無い。
普通にやれば…ね。
「『FP
ーーーけど。
「コーちゃん、俺は決めてるんだ。俺は何があってもこのアマノ温泉ダンジョンを天原先生の描いた原作と同等に…いや、それ以上に素敵なパラダイスみたいなダンジョンに仕上げるとッ! その為ならどんなリスクだって抱き込める」
DMタブレットで第3階層を創造した場合、無数にある建築予定ポイントの中でたった1つだけDP消費無しで【シミ消えの湯】を作成可能な地点があって、そこでは以前アシレーヌの水浴びイベントでゲットしたFPとかいう謎ポイントを借銀する(借金の類義語らしい、コーちゃんに教えてもらった)事が条件になっていた。
このFP。
どうすれば貯まるのか、誰に対する借り入れなのか、返せなかったらどうなるのか。
何もわからないし、DMの本能が他人のゲロやうんちを目の前にした時のように
「俺は生きたい、生きてコーちゃんと笑いながら女の子の裸を楽しく鑑賞し続けたい」
コーちゃんはコアだ。
だから俺よりももっとダンジョンの本質に近い。
だからこの選択による延命がダンジョンの崩壊よりも受け入れ難いんだと思う…けど。
「俺は1回死んだ。アホだから死ぬまで気付なかったけど、それでも今は前世の記憶があるから思えるんだ。人生ってのは一期一会。俺とコーちゃんが出逢えたのも奇跡だし、今このタイミングでシブちゃんと出逢えた事だって奇跡なんだって………正直俺は良い、死ぬのは怖いしガチで嫌だけど、それでもコーちゃんに辛い思いさせてまで生き延びたいとは思わん」
コーちゃんから震える思いを物理的に感じててちょっと心地良いのはグッとこらえて。
「けど、シブちゃんは違う。俺がここで諦めたらこの子はどう思うか…『温泉ダンジョン? あぁ昔そんな所にも行ったけど、特に印象に残る事もなかったなー』なんて、思われるに決まってる! 俺達が本気を出せば違うのに! 絶対に絶対に忘れられない最高のダンジョンだってわからせられるのに…あの子の人生を変えることが出来るのにッ!!」
スライムになる前のコーちゃんの姿は知らない。
けど、コーちゃんだって望んでこんなにぷよらかになったわけじゃない。
「助けてあげたい。あの顔のシミ…俺達なら取り除いてあげられる! 俺達のアマノ温泉ダンジョンなら、それが出来るんだ、だから…!!」
俺はただ女の子の裸が見たい訳じゃない。
温泉に入って、リラックスして、心地良くなって、ホカホカの身体と癒やされた心で。
(あぁ、温泉に来て良かった…)
そう思ってもらいたい。
そんな心からの笑顔が見たい。
誰かの幸せを感じていたいんだ…。
「ぐ………ムムぽ」
悩むコーちゃん。
あとひと押しの言葉を探す、その前に。
『みつけた』
隠し通路をコウモリの幽霊が抜ける。
ゲートまでの予想到達時間は残り60秒。
「コーちゃん…ッ!!」
ゲートが見つかるまでなら、まだ取り返せる。
人間に見つかる前に第3階層を創造すれば、ギリで行ける!
「俺は」
魂で叫ぶ。
「女の子の」
燃やせ!
「
心を燃やせ!!
「オッパイも見たい!」
「お尻も見たい!」
「太腿のムチムチした所も見たいし」
「うなじも凄い好き!」
「指の先まで凝視したいし」
「脇の下を舐めるように眺め回したい!」
「オヘソの形も見たい」
「色んな女の子の裸を暴きたい」
「ちっちゃい子からお婆ちゃんまで」
「おデブちゃんから鶏ガラさんまで」
「俺はあらゆる裸を愛する哲人」
「どんな部位でも好き!」
「どんな女でも良き!」
「どうあっても俺は女が見たい」
「見たい」
「見たい」
「見たい」
「見たい」
「見たい」
「見たい」
「見たい」
「見たい」
「見たい」
「見たい」
「見たい」
「見たい」
「どんなリスクがあろうが関係ない!」
「今ここでシブちゃんの裸が拝めないなら俺が生きてる価値なんて無い!」
「ここが始まりなんだ!」
「頼む!」
「オッパイだけで我慢するから!」
「俺にピンクを見せてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
鼻血 大・放・出 記念!!
◆冒険者ギルド離国支部長◆
亡翼のイツカ・フォル。
その監視こそが俺に残された蜘蛛の糸。
ヤツの失策だけが、俺の未来を照らす。
「シルヴァ!」
トルマリオンの咆哮を背に、俺は悠々と階段へ向かった。
「どうしても必要なんです!!」
アシレーヌの嘆願を鼻で笑う。
「この地獄の世界で生きる。その為ならば売国も、人類への裏切りすらも辞さねぇ…か。離国の民とか言う劣等人種にはまったくほとほと呆れ果てるぜ」
こちら側へ繋がる通路は風と死霊での複合魔術で封をしてある。その封は男の『腕力』でどうにかなる物ではなく、奴らの放つ無意味な打撃音がそよそよと空気を揺らす。
結局はそれが奴らの限界。
「俺達を最初に裏切ったのは字亞羽の現龍神だ!」
「だから? だから何だってんだよ馬鹿がよぉ。その現龍神様の慈悲で生かされる俺らに、それを誹る権利なんざねぇ、産まれたてのガキだって承知の事実だろぅが」
そう。
俺達は生かされている。
無意識に顔の左面を指がなぞる。
これは神罰の具現。
天に唾する愚か者の血を引く俺が、俺達
「俺は剣として生き、剣として死ぬ」
ーーーこれは俺の自戒だ。
俺は使命を成し遂げる。
それが、あの子を救う事に繋がる。
俺よりも重い神罰を受け、俺より過酷な宿命に殺され。
それでも俺の為に生きてくれる妹。
俺が狂わせ、この地獄にまで落とし。
それでも恨み言一つ零さねぇ、俺の愚かで哀れな、たった一人の妹の為になら。
「だから、テメェらは………死ね!」
俺は離国の人間を根絶やしにして。
その屍の上で笑ってみせる。
「シルヴァ、貴様ァァァァァァ!!」
トルマリオンの悲鳴にも似た慟哭。
それが少しだけ、俺の胸を揺らした。
階段を降りる足が、やたらに重い。
「………………」
ーーーさようなら、トルマリオン。
さようなら。