他の男と仲良くしておいて今更幼馴染の俺に告白してきても遅いんだと言いたかったが手遅れなのは俺だった   作:古野ジョン

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第22話 服を物色する

 さて、俺たちは水族館を出て、ショッピングモールへ向かって歩いていた。

 

「二人とも、行きたい店とかある?」

「んー、そういえば洋服も見たいかもです!」

 

 洋一の質問に対し、朱里がそんな返事をしていた。洋服か。こういう男女のお出かけでは定番だよな。いや、正直あまりファッションのことは分からないのだけど……朱里が行きたいというのなら止める理由はない。

 

「周平は?」

「朱里がそうなら、俺も服屋だ。適当にぶらついてみるか」

「お前、服のことなんて分かるの?」

「有馬記念の予想くらいにはな」

「何も分かってないじゃんか!」

「ふふ、しまちゃんったら面白~い」

 

 朱里はあははと声を出して笑った。今日は俺が何を言っても朱里が面白がってくれる日らしい。こういう幼馴染には本当に救われる思いである。……十四日後に別れが来るとは信じたくない。

 

 モールに入り、二階に上がってみる。……服屋が多すぎてよく分からん。ユ〇クロくらいしか知らない俺には酷な場所だぜ。っと、朱里が立ち止まった。

 

「ここ、入ってみませんかっ?」

 

 指さしていたのは――えーと、なんて読むんだこれ。読み方すら分からん店名だけど、いろいろ服はありそうだな。もうここは朱里に任せるとしよう。

 

「うん、いいね!」

「梅宮、なかなかいいじゃん」

「えへへ、そうですかあ……?」

 

 洋一と近江はなんだか感心している様子だ。……分かってないのは俺だけかよ! というか近江は服のことなんか関心ないと思っていたのに! 裏切ったな!

 

「周平、何してるの?」

「おい嶋田、置いていくぞ」

「ちょちょちょ、待てって」

 

 店内にさっさと入っていく面々を慌てて追った俺であった……。

 

***

 

「じゃあ、試着してくるねっ!」

「おう、行ってらっしゃい」

 

 朱里は気に入った服を抱えて試着室のカーテンをシャッと閉めた。近江は近江で試着しているみたいだ。俺と洋一は男二人で残される。……Wデート中に男だけで話す時間って、なんか空しいな。服を物色するフリをして、店内を歩き回ろうとしたのだが、洋一に呼び止められた。

 

「なあ、周平」

「なんだよ?」

 

 洋一は目の前の棚をじっと見ていた。そして積まれていた紺色のトレーナーを手にして、しげしげと眺めている。

 

「これ、梅宮さんに似合うんじゃない?」

「えっ、朱里に?」

「今日はピンクのスカートだから合わないかもしれないけどさ、こっそり買ってあげたら? なんなら周平とお揃いでさ」

「あはは、そりゃいいや」

 

 俺は洋一からトレーナーを受け取った。無地でシンプルなデザインだが、素材は着心地が良さそうだし、冬に向けて買っておいてもよさそうだ。……いや、冬にはもう俺はいないんだった。お揃いの服なんか買った挙句に死んだら、自分勝手極まりないというものだ。

 

「……いや、いいよ。お揃いなんて恥ずかしいし」

「ええ? せっかくなら――」

「着替えましたー!」

 

 その時、俺たちの会話を遮るようにして朱里が試着室から現れた。その姿のまぶしさに、思わずクラっとしてしまいそうになる。朱里が着ていたのは夏物の真っ白なワンピースで――長身がよく映えて、まるで鉄道会社か何かのポスターのようだった。

 

「どうかなー、しまちゃん?」

「……綺麗だ」

「えっ?」

「すっごく綺麗だ。本当に」

「そっ、そう? て、照れちゃうよ……」

 

 素直な感想を漏らしてしまい、朱里の顔を真っ赤に染めてしまった。しかし本当に美しい。もう秋だというのに、真夏の日差しが心を突き刺してくるような幻覚すら見える。

 

「すごいなあ……」

 

 横にいた洋一も感嘆の声を出していた。こんな服を着た人間がいたら誰だって見惚れてしまう。いくら数多の女子から言い寄られている洋一であっても、流石に感じるものがあったようだ。朱里の持つポテンシャルというのは俺の想像以上に大きいのかもしれないな。

 

「いや、本当にすごい。よく似合ってるよ、梅宮さん」

「き、菊池くんまで……。ありがとうございますっ」

「朱里、これ夏物じゃないの? なんで今?」

「えへへ、安かったからさ。ちょっと着てみたかったんだあ……」

 

 朱里はぽりぽりと頬をかいた。きっと照れ隠しなのだろう。

 

「しまちゃん、あの……さ」

「なに?」

「私、これ買うから。来年の夏にさ」

「う……うん」

「一緒に海水浴とか行こうね!」

「あはは……そうだな。それがいいな」

「もー、楽しみじゃないのお?」

「楽しみに決まってるだろ、有馬記念くらいに」

「まだ馬券買えないでしょー!」

 

 けらけらと笑う朱里。なんだか騙しているようで気分が悪くなる。来年の夏……なんて、俺には存在しないんだ。この服を着て墓参りに来てくれよ――なんてとてもじゃないが言えない。

 

「じゃ、買ってくるねっ!」

「ああ」

 

 朱里はいそいそとレジに向かった。そういや、近江も試着していたよな。何してるんだろう。

 

「洋一、近江は?」

「ああ、あっちの試着室だよ」

 

 洋一が指さす先のブースを見ると、ちょうど近江が出てくるところだった。白いレース付きのトップスで、普段とはまるで違う格好。なんだか可愛い系の服だな。近江は俺たちに気が付いたようで、こちらに歩み寄ってくる。

 

「よ、洋一……」

「どうした?」

「これ、どうかな……?」

 

 珍しく殊勝な声色で、近江は洋一に服を見せていた。割と似合っていると思うけどな。長い黒髪と対照的な色で、綺麗に――

 

「ああ、いいんじゃない?」

「えっ……」

 

 聞こえてきたのは、乾いた感想と近江の戸惑った声。洋一は一瞥もくれずに別の商品棚を見やり、まるで興味などなさそうだった。その時の近江の顔はとても悲し気で――強く俺の脳裏に刻まれることになる。

 

「お待たせしました~!」

 

 何も知らない様子の朱里がレジの方からやってくる。俺は洋一たちから目を背けるようにして、可愛い可愛い幼馴染に視線を向けたのだった――




 新作ラブコメを書いています。慣れない家庭教師を任された主人公が、癖のある天才少女と心を通わせていく物語です。よければお読みください。

「家庭教師先の天才少女は俺にだけ心を開いているらしい」
https://syosetu.org/novel/361536/

 この「他の男と仲良くしておいて今更幼馴染の俺に告白してきても遅いんだと言いたかったが手遅れなのは俺だった」についても、不定期ではありますがちょびちょびと更新していきます。よろしくお願いいたします。
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