他の男と仲良くしておいて今更幼馴染の俺に告白してきても遅いんだと言いたかったが手遅れなのは俺だった   作:古野ジョン

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第23話 幼馴染と飯を食べる

「周平、昼飯にしない?」

「……そ、そうだな」

「ん、どうかした?」

「いや、別に」

 

 何もなかったかのような顔で歩く洋一。朱里は紙袋を携えてウキウキの表情だが、近江は何も持たずにムスッとした顔をしている。どうやら近江はあのトップスを買わなかったらしい。いや、買えなかったと言うべきかもしれないな。

 

「朱里、何か食べたいのはある?」

「フードコート行こうよ、それならみんな好きなの食べられるし」

 

 それがいいかもしれないな。お洒落なレストランもいくつかあるけど、ここは高校生らしくハンバーガーでも食うことにしよう。

 

 洋一はまたも作り笑い。ここまで徹底していると不気味にも思えてくるな。悪い奴じゃないのは知っているんだけど、それでも気になると言えば気になる。

 

「二人とも、朱里の言う通りでいい?」

「俺はいいよ」

「アタシも」

 

 了承を取り付けたので、俺たちはフードコートの方に向かって歩き出したのだった。

 

***

 

 結局四人ともハンバーガー屋に行き、各々が適当にバーガーやポテトなどを注文した。昼飯時ということもあって混雑していたので、俺たちはトレーを持ってコート内を彷徨う。

 

「あっ、あそこ空いてる」

 

 洋一がテーブル席を見つけ出してくれた。さすがはサッカー部、視野が広いな。

 

「梅宮さん、どーぞ」

「ありがとうございます!」

 

 素早く椅子を引いて、朱里を座らせる洋一。なんて紳士的な対応なんだ。俺なんてポテトが一本も零れ落ちないように歩くことだけに集中していたのに。

 

「よっこらしょ……」

 

 そして全員とも席についた。俺の向かいに朱里、右斜め前に洋一、右隣に近江。なんだか不思議な配置だ。

 

「いただきまーす!」

「いただきます」

「……」

 

 元気そうな朱里、通常運転の洋一、何も言わぬ近江。三者三様である。朱里はこの二人を見て何も思わないのだろうか? それとも何か感じ取ってはいるものの、あえて明るく振る舞っているのだろうか。

 

「ハンバーガー食べたの久しぶり~!」

「そうか。美味しい?」

「うん、美味しいよ!」

 

 朱里は陸上に打ち込んでいるから、普段はあまりファストフードを食べないらしい。それでこんなに幸せそうに食べているようだ。何をしていても楽しそうな人間って、見ているとこっちまで嬉しくなる。

 

「周平、午後はどうする?」

「カバン屋に行くか。そのために来たんだし」

「それがいいね」

 

 すっかり忘れていたけど、今日の目的はあくまで朱里のカバンを買うこと。修学旅行が始まるのはちょうど一週間後だ。

 

「本当においひ~!」

 

 ポテトを次々に口に運ぶ朱里。旅行中のどのタイミングで返事をするかにもよるが、せいぜい九日後には俺と朱里の運命は決まってしまう。せめて、その時までは。その時までは平穏に過ごしていたい。

 

 目の前のナゲットを持ち、あることを考えた。一日三食だとして、死ぬまでに俺が口にするのは五十食も残っていないんだな。そう思うと、こんなナゲットでも愛おしく思えてくる。

 

「どうしたの、しまちゃん?」

「ファストフード万歳だな」

「何それ?」

 

 不思議な顔をする朱里をよそに、ひょいとナゲットを食べた。美味い。人生の残り時間が少なくなるにつれて、自分の感じるもの全てが宝物のように見えてくる。肉々しい食感も、塩分の効いた味付けも、目の前にいる可愛らしい幼馴染も。

 

「梅宮さん、ほっぺたにソースついてるよ」

「えっ、本当ですか?」

 

 洋一は手にナプキンを持ち、拭おうとする。しかしその瞬間、黙々と食べていた近江がそれを制した。

 

「ちょっと、洋一……!」

「わっ、どうしたんだよ?」

「それは……コイツの仕事だろ?」

 

 近江は俺の方を見た。きょとんとした顔でやり取りを見守る朱里。しかし間もなくその意味を理解したようで、みるみる顔を真っ赤にしていった。

 

「なっ、なんでそんなこと……!」

「ごめんごめん、梅宮さんには周平がいたもんね」

「そ、そうですけどおっ……!」

 

 アワアワとうろたえる朱里。だが、俺の内心は――複雑だった。朱里に優しくしてあげたいという気持ちと、死後に引きずらせたくないという躊躇い。いつもいつもこの二択の狭間に立たされている。

 

「ほら、さっさと拭いてやれよ」

「あ、ああ……」

 

 近江に渡されたナプキンを取って、頬についたソースをふき取った。朱里はこそばゆいといった表情をしているが、恐らく俺の顔は引きつっていると思う。

 

「ありがと、しまちゃん……」

「いや、これくらい……」

 

 微笑ましい青春の一ページ――のように思えるが、俺にとっては走馬灯の情景に過ぎない。朱里との思い出が積み重なっていくほど、この世への未練も山のように降りかかってくる。

 

 本当は修学旅行までに楽しい思い出をたくさん作るはずだった。それを胸にして、あの世に旅立っていくつもりだったのだ。だけど現実はうまくいかない。死んだ後の朱里を想うほど、朱里との愛情を育むことを躊躇ってしまう。

 

 いや、それも違うな。朱里を言い訳にして、俺がいつまでも行動を起こせていないだけか。しっかり修学旅行で振って別れる。それが朱里にとっても最良の選択肢なんだ。

 

 自らに言い聞かせるように、決意を再確認した俺であった――

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