他の男と仲良くしておいて今更幼馴染の俺に告白してきても遅いんだと言いたかったが手遅れなのは俺だった   作:古野ジョン

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第33話 事件が起こる

 修学旅行は早くも二日目。今日は午前中に学年全体で法隆寺を訪れ、その後に京都に移動する予定となっている。俺たちはバスを降りた後、皆で集まって先生の指示に耳を傾けていた。

 

「え~集合時間を守って、各班で行動するように。では、いったん解散」

 

 皆が班ごとにまとまり、境内に向かって出発していく。俺たち四人も集まり、出発しようとしていた。

 

「法隆寺か。柿持ってくればよかったな」

「しまちゃん何言ってるの?」

「洋一、そろそろ行こうよ」

「そうだな。周平に梅宮さんも、そろそろ行くよー」

「「はーい」」

 

 かの有名な五重塔に向かって足を進めようとした、まさにその瞬間――俺たちのことを呼び止める声がした。

 

「き、菊池くん!!」

 

 四人で一斉に振り向く。するとそこには、友人らしき生徒たちに囲まれた一人の女子生徒がいた。顔を真っ赤にしてもじもじとしており、尋常でない様子。他クラスの女子みたいだけど、何の用だろう。

 

「どうしたの?」

 

 洋一はお馴染みのイケメン・スマイルで返答し、声をかけてきた女子生徒に優しく微笑む。いつだってコイツは完璧だ。見習いたいものである。

 

「あの、その……ちょっと、いいかな?」

「どういうこと?」

「ふ……二人でお話ししたいことがあって」

 

 俺と近江は顔を見合わせる。こんな状況であれば誰だって察しがつくだろう。ましてや近江にとっては心中穏やかでないはずだ。

 

「今じゃないとだめかな? 俺、この三人と一緒に周るからさ」

 

 洋一は優しく、しかし牽制するような口調で答えた。あくまで今の時間は俺たち四人のため。義理堅く、それを律儀に守ろうとしているのだろう。

 

「えっと……学年で一緒の時間が、ここくらいしかなくて」

「そっか。明日は班ごとだもんね」

 

 洋一の言う通り、明日は班ごとの自由行動。となれば他クラスの女子が洋一と接触するチャンスは無い。それで――今、ということか。

 

「……わかった。ちょっと二人で話そうか」

「ほ、本当?」

 

 女子の顔がパーっと明るくなった。洋一は依然として優しい笑みを浮かべているが、俺たち三人は戸惑うばかり。

 

「よ、洋一?」

「悪い周平、後で追いつく。先に行っててくれ」

「洋一……」

「由美、心配するなって。じゃ」

 

 洋一は俺たちに手を振り、女子のもとへ向かってしまった。取り残された俺たちの間に、なんだか気まずい空気が流れる。近江は言うまでもなく、朱里も心配そうな顔をしていた。

 

「朱里、大丈夫か?」

「う、うん。行こう、しまちゃん」

「ああ……。近江も、行くか」

「分かってるよ。行こ」

 

***

 

 俺たちは洋一を欠いたまま五重塔の前まで歩いてきた。本来ならば、その美しい構造に目を奪われていたことだろう。だが今はどうにも気が散る。

 

「綺麗だね、しまちゃん」

「そうだな……」

 

 昨日に比べて口数も少ない。修学旅行中に愛の告白とは迷惑な――などと一瞬思ったが、よく考えれば俺も告白の返事を旅行中にしようと画策していたんだな。あまり人のことは言えん。

 

「菊池くん、大丈夫かなあ……」

「洋一ならうまくやるさ」

 

 今のは半分本音、半分願望の言葉だ。他クラスのよく知らない女子だ、洋一がオーケーする可能性はほとんど無いと言っていいだろう。残念ながら、あの女子は必然的に振られることになる。

 

 問題はここからだ。洋一は女子を振る。それと同じことをしようとしているのが――この俺だ。

 

 もし、あの女子が大泣きするようなことがあれば。もし、学年全体の騒ぎになるようなことがあれば。……朱里を振るどころの話ではないだろう。

 

「あっ、洋一!」

 

 珍しく近江が声を張り上げた。後ろを向くと、そこにいたのは苦笑いを浮かべた洋一だった。俺たちの姿を見て安心したようで、駆け足でこちらに向かってくる。思わず、反射的に声を掛けた。

 

「洋一、大丈夫か?」

「まあ、なんとか」

「その……あの子の用件って」

「あはは、言わなくても分かるだろ?」

 

 洋一は俯き、悲し気な表情をしていた。冷たい秋の風が吹き抜けていく。和気藹々と景色を楽しむ周囲の観光客とは対照的に、俺たちの気分はみるみる沈んでいった。

 

「でも、向こうの子は」

「うーん、なるべく穏やかに済ませようとしたんだけどね。泣き出しちゃってね……」

「そっか……」

「なんとか宥めてお友達に引き渡してきたところ。でも、あの様子じゃしばらくはダメかも」

 

 洋一は後ろの方に振り向き、心配そうに見つめている。コイツは中学からのモテ男だ。いろいろな女子から言い寄られてきたのだろうし、そのすべてに応えられたわけでもないだろう。振る側には振る側の苦労があるのだろうな。もっとも、ぜいたくな悩みとも言えるが。

 

「ねえ、洋一……」

「由美?」

 

 その時、近江が優しく洋一の手を取った。普段の堂々とした物言いとは打って変わって、口をもぞもぞと動かして必死に言葉を紡ごうとしている。

 

「あ……アタシがさ」

「うん」

「アタシがついてるから。……ね?」

「……ありがとう、由美」

 

 ああ、またこれだ。秋空に響く乾いた声。上目遣いを見せる近江と、一瞥もくれずに歩き出そうとする洋一。白黒とも形容しがたいコントラストに、ただただたじろぐばかりだった。

 

「周平、時間がなくなるぞ」

「ああ。行くか」

 

 優しく、それでいて確実に近江の手が振り払われる。親友の心中を察することすら出来ず、情けないったらありゃしない。洋一、お前の目には誰が写っているんだ……?

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