他の男と仲良くしておいて今更幼馴染の俺に告白してきても遅いんだと言いたかったが手遅れなのは俺だった   作:古野ジョン

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第51話 決断する

「そうか。共に死ぬ道を選ぶか」

「……はい」

 

 俺は静かに頷いた。やっと解放される。この一か月、いや人生という苦役からようやく解放されるんだ。どれほどの喜びか。そして……どれほどの悲しみか。

 

「嶋田、アンタは……」

「笑えよ、近江……」

 

 近江は立ち尽くしたまま、悲しい目で俺のことを見つめていた。ここまでしてもらったのに。どんなに軽蔑してくれてもいい。ここ一番でこの選択をした、俺のことを嘲笑ってくれよ……。

 

「周平」

「……へっ?」

 

 その時、洋一が俺の肩を持ち、無理やり起き上がらせてきた。なんとかバランスを取って自立する。なんだよ、おい。今更なんだってんだよ――

 

「お前、勝ち逃げする気かよ!!」

「ぐはあっ!?」

 

 朦朧としていた脳味噌に、目覚めのどぎついパンチを食らわされてしまった。周平の右ストレートが綺麗に突き刺さり、俺は勢いのままに再び倒れこんでしまう。

 

「洋一! アンタこんなときまで……!」

「目が覚めたか、周平!」

「あ……ああ……」

 

 荒療治だが、だんだんと頭が冴えてきた。隅々にまで血液が行き渡り、自らが生きていることを強く実感する。そうだよな、何考えてたんだ俺は。せっかく生き延びようとしていたのに、その命を捨てようとしていたなんて。

 

「お前なあ、梅宮さんを連れてあの世に逃げる気だったのかよ?」

「……そうだよな、ズルいよな」

「そうだ、分かればいいんだよ全く……」

 

 洋一は腕を組んでうんうんと頷いていた。やはり親友というのはありがたい存在だ。こんな時でも空気に飲まれず、冷静に俺に助言をくれたんだ。いつだってコイツは他人のことをよく見ている。……だけど、それとこれとは話が別だ!

 

「おい、洋一」

「えっ?」

「死にかけの人間を殴る奴があるか!!」

「ごほおっ!?」

 

 お返しとばかりに、洋一の左頬に拳をお見舞いしてやる。あーあ、こんな綺麗な顔を殴るのって罪深いよな。まあ、親友の特権って奴か? なんでもいいけど、殴られっぱなしじゃ気が済まないからな。

 

「ちょっ、嶋田も! いい加減にしなよ!」

「あはは、悪い悪い。おかげで目が覚めたよ」

「いってえなあ、帰宅部のくせに」

 

 笑いながら、改めて考え直す。たしかに朱里の記憶が失われてしまうのは悲しい。今まで共有していた様々な思い出が消えてしまうような気がして、とてつもなく切なくなる。だけど――生きてさえいれば。生きてさえいれば、また新たな記憶を紡ぐことが出来るんだ。

 

 俺は朱里のことを守ると誓った。だけど俺が守るべきなのは過去の朱里じゃない。これからを生きていく朱里なんだ。もしかしてこれも俺の自己満足なのかもしれない。けど、努力すればいいんだ。この道を選んでよかったと思えるその日まで、ひたすらに。

 

「……どうするのだ?」

 

 俺たちの様子をじっと眺めていた神が、静かに尋ねてきた。もう迷わない。楽な選択肢はいくらでもある。だけど違う。朱里のためなら、どんな茨な道でも進んでみせる。だって……俺は朱里を愛しているのだから!

 

「決めました。神様、聞いてください」

「ほう、申してみろ」

「俺、朱里と一緒に生きたいんです。だから……縁結びを、どうかお願いします!」

「お願いします!」

「お、お願いします!」

 

 俺が礼をするのと同時に、洋一と近江も頭を下げてくれた。頼む、今度こそうまくいってくれ。もう嫌な思いをするのはごめんだ。朱里のため、洋一のため、近江のため、そして俺自身のために。今度こそ蹴りをつけるんだ!

 

「ふぉーっふぉっふぉっ!」

 

 神が答える前に、ジジイが高笑いした。てめえに用はねえ! 引っ込んでろ!

 

「弟よ、やはりこうなったじゃろう?」

「……流石、兄上が手助けするだけはありますね」

「はっ?」

 

 二人はよく分からない会話を繰り広げている。俺たち三人がぽかんとしていると、ジジイは再び口を開いた。

 

「ワシはのお、最初からお前たちがこの道を選ぶと思っておったのじゃ」

「えっ?」

「じゃが、弟だってただで縁を結ぶわけにはいかんからの」

「ど、どういうことだよ?」

「ふぉーっふぉっふぉっ! 簡単じゃよ、縁を結ぶに値する人間なのか――試しただけじゃ!」

「すまない、許してくれ。本当に兄上は性格が……」

 

 しゅ、趣味が悪い……。コイツ、どこまで俺たちのことを振り回せば気が済むんだ。でも、そうだよな。簡単に運命を変えられるわけがない、そんな覚悟は決めていたんだ。これくらいの試練はあって当然なのかもしれないな。

 

「でも弟よ、ワシもたまには良いこともするんじゃ。あまり言ってくれるな」

「自分で仰っては台無しですよ。……それより君、時間がないのではないか?」

「あっ、そうだ!」

 

 気が付けば時刻は夜の十一時半。俺が死ぬまであと二時間しかない。早く縁を結んでもらわなければ意味がないんだ。

 

「では今度こそ、君たちをこの世界と縁で結ぶ。心構えはよいかね?」

「はい。お願いします」

「ふぉっふぉっ、お前を忘れた娘が息を吹き返せば、そっちの男前に惚れるかもしれんのお。それでもいいのかの?」

「あ、兄上……」

 

 ジジイに指を差され、洋一は困惑した表情を見せた。だがすぐに真剣な表情になり、堂々と口を開く。

 

「周平は今までの思い出を全て捨てても、梅宮さんを愛そうとしています。そんなの、俺にはとても出来ることじゃありません」

「洋一……」

「目が覚めた後、誰を選ぶかは梅宮さんの自由です。でも――少なくとも、俺なんかより周平が隣にいるべき人間であることだけはたしかです」

 

 ああ、なんて良い親友を持ったんだ。ジジイよりよっぽど神に相応しい人格の持ち主じゃないか。神様仏様洋一様だな。人は他人なしじゃ生きられない。そのことを改めて思い知らされた気がする。

 

「ふぉっふぉっふぉっ、良き友人に恵まれておるのお」

「てめえに言われたかねえよ」

「では、始めるぞ。いいかね?」

 

 神は俺の目を見つめた。本当に辛く、失敗ばかりの一か月だった。ある意味、死ぬよりもひどい経験もした。それでも俺はこの運命を選び取ったんだ。

 

 ちらりと、洋一と近江の顔を見る。二人とも微笑みを浮かべてしっかりと頷いてくれた。朱里、洋一、そして近江。この三人のおかげで、ようやくこの結末にたどり着くことが出来た。これが本当に最後。俺たちの青春に一区切りをつける――最後の言葉だ。苦しい肺で息を吸い込み、精一杯の声で言い放った。

 

 

「はい。俺は――朱里と生き続けます!!」

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