他の男と仲良くしておいて今更幼馴染の俺に告白してきても遅いんだと言いたかったが手遅れなのは俺だった   作:古野ジョン

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おまけ
四人で集合する


 京都から帰ってきて、数日後。俺は近江の家に向かって歩いていた。プロポーズがうまくいったことと、朱里の記憶が戻ったことのお礼参りの意味も込めて、なんとなく参拝したくなったのだ。

 

 俺と朱里はもう実家を出て他の街に住んでいるから、あの神社に行くのはかなり久しぶりだ。あの時、俺たちはこの世界と縁で結んでもらうことで生き延びることが出来た。そんな記憶が脳に色濃く残っている。

 

「おお……」

 

 遠くに鳥居が見えてきて、思わず声を上げる。懐かしいなあ。忘れもしない、令和六年十一月五日。あの日、俺は鳥居の前に立って朱里を救うと決意した。そして紆余曲折がありつつも、なんとかその目的を達成することが出来たのだ。

 

「おーい、嶋田―!」

 

 敷地の中から顔を出したのは、パーカーを羽織った「元」ギャルだった。あの頃より髪は短くなり、いくらか雰囲気も大人びている。しかし面影は当時のまま。お参りに来ることを事前に連絡していたので、わざわざ迎えに出てきてくれたらしい。鳥居の前に着くと、俺たちは握手を交わして再会を喜んだ。

 

「久しぶりだなー!」

「よく来たね、元気してた?」

「ああ! 近江こそどうだ?」

「うん、いろいろと順調だよ。とりあえず上がってよ」

「ありがとな。でも――まずはお参りだよ」

 

 鳥居をくぐり、参道を歩いていく。そして拝殿の前に立ち、二回手を叩いて目を閉じた。縁結びの神様、いろいろとありがとうございました。あなたがまた縁を結んでくれたのかは知りませんが、俺と朱里は無事に一緒になることが出来そうです。ジジイ、てめえは知らん。

 

「アンタは律儀だねえ」

 

 もう一度頭を下げたところで、後ろにいた近江に声を掛けられた。そうは言っても、俺は命を救ってもらった立場なんだ。何度頭を下げても足りないだろう。

 

「寒いでしょ、家でお茶でも飲んで」

「ありがとな、近江」

 

***

 

 境内にある近江家にお邪魔させてもらい、居間に通してもらった。今は十一月で、冬の気温とまでは言えないが肌寒い。ありがたいことに、こたつに入れさせてもらった。

 

「はい、お茶」

「ありがとう」

 

 近江は急須から湯呑にほうじ茶を注ぎ入れ、俺に差し出してきた。ちょっとぶっきらぼうなところは変わっていないが、それでもだいぶ物腰が柔らかくなったと思う。湯呑を持ってお茶を飲もうとすると、近江が口を開いた。

 

「で、早速だけど」

「何?」

「プロポーズ――うまくいったの?」

「ぶっ!?」

 

 唐突に深いところまで突っ込まれてしまい、思わずお茶を吹き出した。きゅ、急に変なことを言うなって!

 

「な、なんだよ急に!?」

「アンタの方から相談してきたんでしょ? そりゃ気になるじゃん」

「そうだけどさあ……」

 

 持っていた湯呑をトンとこたつの上に置いて、なんとか呼吸を整えた。たしかに、俺は朱里へのプロポーズについていろいろと近江と話し合ったのだ。どんな場所がいいのか、どんな言葉がいいのか。朱里のことをよく考えている近江に助言を貰ったからこそ、うまくいったのかもしれない。

 

「……まあ、うまくいったよ。ありがとな」

「そっか。良かったじゃん」

 

 近江は自分の湯呑を持ち、ずずずとお茶を啜った。その左手には――指輪がキラリと光る。

 

「やっぱり洋一には先越されちゃったなあ」

「べ、別に……。アタシらだってまだ籍入れてないし」

 

 さっきまで余裕だった近江の顔が、途端に赤くなった。まだ実感が湧かないのだろう。そう、洋一と近江も――晴れて結ばれることになったのだ。

 

 あの一か月の後、俺は朱里に付きっ切りだったので、近江と洋一の間に何があったのかは詳しく知らない。付き合ったり別れたり……ということが何度かあったらしいが、二人はそれを表に出さず、俺と朱里の仲を取り持つことに協力してくれていたのだ。

 

「本当に近江たちには感謝してるよ。ありがとな」

「きゅ、急にそんなこと言うなって! なんか恥ずかしいだろ」

「別にいいだろ、本当の気持ちなんだから」

「そうじゃなくてさ。……アンタらに申し訳ないんだよ」

「えっ……」

 

 近江は静かに俯く。申し訳ない、とはどういう意味だろう。二人がしてくれたことは紛れもなく俺たちのためになったというのに。

 

「な、なんで謝るんだよ」

「アタシと洋一はこうなったけどさ。――あの時の梅宮は、まだ帰ってきてないから」

 

 その言葉に、胸を貫かれたような思いがした。そうか、近江はそのことをずっと気にしてくれていたんだな。

 

「……それで?」

「別に、今の梅宮が不幸だって言いたいわけじゃないけどさあ。あの頃の梅宮は、し、嶋田が好きだって気持ちを抱えたまま……消えちゃったのかなあって……!」

「近江……」

 

 俯いたまま、ぽろぽろと涙を流し始める近江。きっと今まで罪悪感を覚えていたのだろう。俺と朱里の思い出が消えたまま、自分たちだけ幸せになっていいのか――と。

 

「だって、嫌じゃん……! アタシだって、洋一と結ばれないまま……どっかに消えちゃったら、一生後悔しきれないよ……!」

「ごめんな近江、気遣わせて」

 

 そっとハンカチを差し出し、近江の涙を拭った。俺と直接会ったことで、この七年間の思いが涙となって溢れてしまったのかもしれない。自分の幸せより、他人の悲劇を想うことの出来る友人という存在が――どれだけ尊いことか。

 

「もういいよ、泣くなって」

「でも、でも……!」

 

 その時、俺たちの会話を遮るように呼び鈴の音が鳴った。……来たみたいだな。

 

「ごめん、お客さんだから。ちょっと行ってくる」

「俺も行くよ」

「へっ? なんで?」

「いいからいいから」

 

 近江は不思議そうな表情を浮かべつつ、パーカーの袖で自らの涙を拭っていた。俺たちはこたつを出て、玄関の方へと歩いていく。廊下を進み、角を曲がると――見慣れた二人の姿。

 

「あーっ、しまちゃん! 道迷っちゃったよー!」

「あはは、悪い悪い。一緒に来ればよかったな」

「えっ? えっ?」

 

 俺と朱里の会話を聞き、近江はただただ困惑していた。それを横目に玄関に向かうと、朱里の隣には親友がいる。俺たちは互いの右手をがっちりと握り合った。

 

「元気してたか、周平?」

「ああ、洋一も元気そうだな。朱里のこと、連れてきてくれたのか?」

「さっきたまたま道で会ったからさ。それにしても――()()()()したよ」

 

 洋一は俺たちに起こった()()を知っているようで、ニヤリとほほ笑んでいた。近江は相変わらず呆然としており、何が起こっているのか理解出来ていない様子。

 

「し、『しまちゃん』って……嶋田の、昔の――」

「近江さんっ!!」

 

 いつの間にか靴を脱いでいた朱里が、ぴょんっと近江に向かって飛びついた。近江は慌ててそれを受け止める。

 

「う、梅宮!?」

「近江さん。……()()()()ですね!」

「そんな、嘘でしょ……!?」

 

 近江は信じられないといった表情で口元を覆った。そして再び、両方の目から涙を流し始める。俺と洋一はというと、その様子をただじっと眺めていた。

 

「本当に良かったな、周平」

「洋一こそ、いろいろとありがとうな。……お前たちのおかげだよ」

「なーに、俺らは何もしてねえよ。全部周平が頑張ったからさ」

「あはは、変わらねえなお前は」

 

 相変わらず人が良すぎる親友に、今日も可愛い幼馴染、そして涙を流す元ギャル。この三人で集まったのは随分と久しぶりだ。

 

「ねっ、近江さん! お土産たくさん持ってきましたよっ!」

「由美、リビングに行こう。ここじゃ寒いよ」

「あっ、ああ! そうだね、そうしようか」

 

 洋一に促され、唖然としていた近江もようやく顔を上げた。俺たちは四人揃って廊下を歩いていく。朱里はルンルンと楽し気だ。

 

「朱里、そんなに嬉しい?」

「うん! だってお話することがいっぱいあるから!」

「あはは、そりゃそうか」

 

 ある意味では七年ぶりの集合。だが、あの頃と明確に違う点が一つある。そう、俺たちには――

 

「時間はたーっぷりあるもんねっ!」

 

 余命なんかなく、いくらでも話をする時間があった。さあ、四人で語り合おうじゃないか。俺たちの青春の日々を。そして――俺たちの恋を。

 

「ふぇっ?」

 

 無意識的に、隣を歩いていた朱里を抱きしめていた。洋一と近江も気が付いたようで、顔を見合わせて立ち止まった。

 

「ど、どうした周平?」

「嶋田?」

 

 俺たちは手遅れなんかじゃない。これからも朱里との関係は続いていくのだ。やっぱり、恋という言葉は幼馴染という関係性にそぐわないような気がする。恋というより――

 

「愛してるよ、朱里」

 

 ぎゅうと抱き返してきた優しい感触を、俺は一生忘れないだろう。




 これにて本当に完結です。
 最終話を更新してからも多くの方に読んでいただき、作者として大変嬉しく思います。
 今までこの作品を楽しんでいただいた全ての皆さまに感謝申し上げます。
 本当にありがとうございました!
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