勇者が仲間達とともに邪神を討伐するまでの物語。



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ラプラス戦役頃。

ガウニスの親友、ペルギウスの戦友の物語。

戦闘描写はありません。
……、難しいから。


勇者の昔話

 

 

 

 とある王都の中心から少し外れた場所。たとえこの世界で最も繁栄している国であろうとも一歩路地裏へと向かえば闇が広がっている。

 表からでは分からない建物の壁にはひびがあり、道端には食べかけのパンの欠片や使い古された木箱、放置され錆びだらけとなった金属などが散乱し、悪臭が漂う。

 

 そんな場所に倒れ伏している1人の少年が居た。痩せ細った体、汚れまみれの服。誰が見ても死へのカウントダウンが迫っていることが分かる。だが、ここではありふれた光景。救いの手を差し伸べる者など存在しない。――奇跡でも起きない限り。

 

 ただの肉塊になるまで残り数秒という時、突然少年が上から糸で引っ張られた人形のように体を起こした。自分の体と周りを見た少年は、知らない体で知らない場所に居ることに驚きのあまり叫び声を出す。だが、その行動はここではナンセンスである。

 

 

 

「こんなところに見た目のいいやつが居るとは」

 

 

「お頭ぁ、分け前は多くしてくださいよ?」

 

 

 

 人攫いだ。少年が居る国では表向き奴隷制度は禁止されているが、奴隷の需要が高く供給が追い付いていないため人攫いが横行している。

 意識を取り戻した少年は何が何だか分からなかったが、自分の命の危機であることは雰囲気から感じ取った。何とか回避するために会話を試みようとするが、今まで食事をまともに採れなかったせいか、上手く言葉が出せない。

 

 逃げる体力もない少年は絶望するがそんなことを察するほど人攫いは優しくない。お頭と呼んだ男が首枷と手枷を持って少年に近付いていく。少年は抵抗しようと後ろへ体を引きずるが現実は無情だ。

 

 ついに少年は男に捕まる――ことは無かった。

 最後の抵抗で少年が男に触れた瞬間、まるで限界まで膨らませた風船のように体が散り散りになる。

 

 突然のことに驚く少年と残った男。仲間が殺されたことに怒り狂った男が腕を大振りに振るった。少年は反射的に手を前に向け顔を守る。少年がガードする手に男が触れた瞬間、先程と同じように体を破裂させた。

 

 残ったのは、少年と男たちの溢れ出した血肉。あまりの悲惨な現場に、行った張本人である少年は胃をひっくり返すように嘔吐するが、胃袋にはもとから何も入っていないため胃液が出てくるだけであった。

 

 自分ではない体、見知らぬ場所、初めての命の危機、人を殺した感触、そして飢餓感。様々なことが一気に少年へと襲う。瀕死寸前だった体は、さらに悪化しこれ以上動けなくなるが、このままでは本当に死んでしまうと直感した少年は、体に鞭を打ち大通りへと向かう。

 

 息を堪えさせながら体を引きずり数分かけて大通りへと出るとそこには、路地裏とは違い華やかな風景が広がっていた。何故、自分がこのような状況にあるのか嘆きたくなったが、それよりも命を優先して助けを求める。

 しかし、誰も手を差し伸べる者はいなかった。寧ろ、路地裏から体を引きずりながら出てきた少年に恐怖心を抱いた王都民は兵士へと通報し、すぐさまどけるように要請する始末である。

 

 通報を受けた兵士が少年を担ぎ、奴隷商へと連れて行こうとしたその時、一際豪華な服装だがところどころに汚れが付いている少年が現れた。現れた少年は、兵士を止め少年を引き取った。

 疲労困憊である少年は意識を失う前、引き取った少年から話をかけられる。

 

 

 

「俺が居てよかったな。丁度、民衆と距離が近い友達が欲しかったんだ。そういえば、まだ名前を言ってなかったな。俺はガウニス!」

 

 

「は、ハル……」

 

 

 

 そう答えると少年――ハルは糸が切れた人形のように動かなくなった。意識を失ったことに焦ったガウニスは急いで自分の家――王城シルバーパレスへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数年後~

 

 

 

 とある王都の一画にて。

 肌に触れる心地よい木陰の涼しさに紫色の髪をした青年の意識がゆっくりと広がる。まぶたを薄っすらと開けると、視界の隅には揺れる葉の影が映り、木漏れ日が柔らかく差し込んでいた。

 葉のすき間から溢れる夕暮れ時の光に青年は思わず目を細める。

 

 耳を澄ませば、優しい風に揺られた葉がさらさらと心地よい音を鳴らし、近くでは鳥がさえずる音が聞こえる。

 穏やかな音色に青年は先程見ていた夢を思い出す。

 

 

 

「思えば、随分遠いところまで来たなぁ……」

 

 

 

 そう呟くと青年――ハルは、のびをするように体を軽くほぐし立ち上がり、これまでの人生を振り返る。

 

 目を覚ますと死にそうな目に遭ったこと。

 人を殺したこと。

 誰にも助けてもらえなかったこと。

 でも一人だけ自分を助けてくれたこと。

 今やそいつが親友であること。

 親友の妹と恋に落ちたこと。

 身分差を覆すために剣術と魔術を極めたこと。

 親友が機転を利かし、妹との結婚にありつけたこと。

 

 本来であれば終わるはずだった命だ。ハルの命は路地裏で死ぬと強い運命に決められていた。しかし、何の因果か全く新しい魂が肉体に宿ることになり、今日まで生きている。超常現象だが、前例がないとは思えなかった。

 何故ならハルの前世とは違い剣と魔術が存在する世界だからだ。剣と魔術を訓練していくとどうやら両方に天性の才が有ったらしく、転生特典だと思われる”雷の能力”を使って新しい魔術と流派を作ったほどだ。しかし、雷の能力ありきな流派であるため門下生は誰も居ないが。

 

 だが、武勇が評価されたのか戦乱の中繰り上げ式に王位を継いだ親友――ガウニスが機転を利かし、ガウニスの妹であるミレーヌと結婚することができた。

 

 正式な結婚式は、戦乱が終結した後で行う予定だ。現在、戦乱の原因である魔神ラプラスを倒すため七人の英雄が立ち向かっている。全人類国家はその七人の英雄に全てを託し魔神討伐の支援を行っているため激戦の後、辛勝するであろう。

 

 ハルはふと肌を刺す冷たい風を感じ、思わず身を震わした。いつの間にか夜の帳が降り、周囲は深い静けさに包まれ、空には満天の星空が広がっている。感動的な景色であるが、冬の夜はいつもより冷えるため急いで未来の住まいである王城シルバーパレスへと向かった。

 

★★★

 

 目を開けた瞬間、ハルは真っ白い空間にいた。白以外何もない空間だ。先程、王城の自室にて眠りについていたはず。ゆえにこれは、明晰夢というやつだろうと判断した。夢だからだろうか、ふわふわと浮いているような感覚に襲われる。

 ふと自分の身体を見下ろしたハルは、驚愕で目を見開いた。

 

 

 

「えぇ……。俺の肉体どこやねん」

 

 

 

 あまりの驚きように、前世のとある地方の方言で突っ込んでしまった。だがそれにも直ぐに慣れたハルは、この空間がどこまで続いているのか気になり奥へ奥へと進んでいく。

 

 道なき道を赴くままに移動していると何時の間にか、目の前にのっぺりとした白い顔でにこやかに笑っている人影が立って居た。特徴をはっきりと覚えることができない。顔や身体を認識するとすぐに記憶から抜け落ちて行くからだ。そのせいで彼なのか彼女なのか判断することができない。

 

 だが、ハルには分かった。それが邪悪に染まり切った”悪”であることが。

 

 

 

「やあ、初めましてかな。ハル君。僕は人神という神様だよ」

 

 

 

 中性的な声が何もない空間に響く。その声を聞いた者はどんな生物であろうとつい心を許すだろう。だが、ハルはそんなことを考える余裕すらなかった。

 何故かハルはヒトガミと名乗る者の魂を認識することができたのだ。その魂を見た瞬間から胸の奥から嫌悪感が込み上げてくる。何かが腐り果て、闇に見えたものが形を成しているような形容しがたいその存在を見るだけで背筋が凍りつき、吐き気が襲ってくる。

 こいつの言葉を聞いてはならない。こいつは平然と命を弄び楽しむ外道だ。ハルの脳はこの言葉で溢れていた。

 

 そんなハルの心情を読めないのか、ヒトガミは話を続ける。

 

 

 

「実は君に助言を送りたくて「黙れ……」……なんだい?」

 

 

「黙れと言ったんだ! 一目見た瞬間からお前が腐れ外道であることなどお見通しだ! さっさと消え失せろ!」

 

 

「……そうかい。ここまで僕をコケにした奴は君が初めてだよ……。後悔するなよ?」

 

 

「いいから消え失せろ!」

 

 

 

 ハルの叫びと共に白の世界が崩壊する。意識が薄れて行く中、ヒトガミと名乗った存在がハルを見つめながら告げる。

 

 

 

「残念だよ。こんな形になるなんて」

 

 

 

 その言葉を最後にハルの意識は消えた。

 

 

 

★★★

 

 

 

 あの白昼夢以降、ハルは気が気でなかったが特に事件など起きず只々時間が過ぎて行くだけであった。ある知らせが届くまでは。

 

 数日間続いていた晴天が嘘のように終わり雨が痛いほど強く地面に打ち付けていた日。王城シルバーパレスに1つの凶報が流れてくる。魔神ラプラス討伐へ向かった7英雄の内4人が殉職、若年のペルギウスが重症の後、一時撤退したとのことだった。

 

 知らせを受けたときガウニスは酷く荒れていた。ペルギウスは本当の意味で心を開くことができた数少ない友人の内の一人であるからだ。臣下に諫められ落ち着くが、次の瞬間壁に飾り付けていた剣を腰に付け、王城を出ようとする。臣下たちは王の突然の行動に慌て止めようとするが、中途半端に武勇に優れていたため王城に居る者たちでは誰も止めることができない。ただ一人を除いて。

 

 ガウニスは、止めてくる臣下を心を鬼にして立ち向かい、時には峰打ちで気絶させ、時には頭上を飛び上がり逃避し王城の出入り口までたどり着く。

 

 全力で駆け抜けていたため目的地である馬小屋まではもう少しであった。しかし、突然現れた人影が彼の進路を遮る。焦りのあまり周りを見ることができなかったガウニスは、先程までと同じように峰打ちを狙い人影の首元へ剣を振るうが、ガギンッという剣がぶつかり合う音の後に鳩尾に衝撃を受け、石が水面を何度も跳ねるように地面に体をぶつけながら後方へと下がった。

 

 自分以上に強くそして王に遠慮なく剣をぶつける存在など王城には一人しかいない。人影の正体に見当がついたガウニスは、親友に向けるべきではない目をやる。それに応えるように人影――ハルはガウニスへ問いただす。

 

 

 

「どこに、行くんだ?」

 

 

「……、ペルギウスを助けに行く」

 

 

 

 ハルは、まじまじとガウニスを見る。助けに行くということは、つまり魔神ラプラス討伐の最前線である魔大陸へ向かうということだ。

 もう一度、ガウニスを見つめる。ハルの特訓に付き合っていたためある程度の実力はある。ハルほどの剣の才能は無かったが、それでも剣聖の実力は持っている。確かに前線まで向かうことはできるだろう。だが、ペルギウスは最前線に居る。ガウニス程度の実力なぞ瞬きする間も無くやられるのが落ちだ。

 

 ハルは無情にもガウニスへ告げる。

 

 

 

「ガウニス、お前じゃ無理だ」

 

 

「だが、ハル……ペルギウスが、瀕死なんだぞ!?」

 

 

 

 普段見せないガウニスの弱い姿。王として国民に見せてはならない姿。きっとここに居るのが臣下であれば、たとえこの状況であろうとも泣き腫らしながら訴えることなど無いだろう。親友だからこそ見せる姿だ。

 

 ガウニスは泣き腫らした目をハルに向ける。

 

 

 

「俺に、お前程の強さがあれば! 俺が王でさえなければ! なんで……」

 

 

「……」

 

 

 

 ハルは、剣神流奥義「光の太刀」を雷の能力で強化することで速度と威力を更に上げ、文字通りの先手必勝一撃必殺な技へと昇華させた。他にも剣神流と並び二大流派と呼ばれる水神流も水帝レベルだ。文字通り剣の神に愛されている。更には、雷の能力を使い雷系魔術を作り出した。

 

 身分で言えば、将来的に王族入りする予定であり重要人物でもある。だが、それは将来的な話でありまだ王族ではない。

 

 つまりハルは実力的にも立場的にもペルギウスを助けに行くことができる。ガウニスのように行きたくても行けないというわけではない。

 

 決断したハルは強い意志を瞳に宿しながらガウニスへ告げる。

 

 

 

「……、ガウニス。わかったよ」

 

 

「ハ、ハル……?」

 

 

「俺が、助けに行く。ペルギウスを。俺たちの友達を」

 

 

 

 王城シルバーパレスであれば、ハルが居なくともミレーヌやガウニスに危険が及ぶことなど無い。ハル以外に居ないのだ。世界中を横断し魔大陸へ赴き手を貸せる存在は。

 

 

 

★★★

 

 

 

 魔神ラプラスは強大な存在であった。だが、重症のペルギウスと龍神ウルペン、北神カールマン・ライバックと共に激戦の後、封印することに成功。

 

 封印後、ミリス神聖国でペルギウスの治療を行うことで再び召喚することができるようになったケイオスブレイカーを経由しアスラ王国へと直帰する。その際、ウルペンとカールマンとは別れることになった。

 

 王都の大通りは、祝勝ムード一色で普段以上に賑やかであった。空にはカラフルな旗がはためき、家々の窓には彩り豊かな花が飾られている。大通り沿いには魔神ラプラスを封印した偉大なる英雄を一目見るため群がり熱気を放っていた。

 

 祝われたハルとペルギウスも民衆に応えるように堂々と大通りを進み王城シルバーパレスへと向かう。ここでも大通りのように賑やかであるのだと思っていた。

 

 王城へと着いたハルたちは玄関先で悲壮な表情をした宰相が立っていることに気付く。こちらに気付いた宰相が重く口を開いた。

 

 

 

「おかえりなさいませ。ハル様、ペルギウス様。……、国王陛下が王妹殿下の私室にて、ハル様ッ!」

 

 

 

 ハルは宰相の言葉を最後まで聞かずに駆け抜けていった。頭の中は混乱し、ただひたすらに彼女の名前を何度も心の中で呟く。大丈夫なはずだ。何も問題はない。だってここは人類圏で最も安全な場所だから。そう自分に言い聞かせるが、不安はどんどん膨張し、喉が裂けるほどに呼吸が荒くなっていく。

 

 部屋の前までたどり着いたハルは荒げた息を整える。ハルは焦燥感に襲われた心を騙し、ミレーヌが好きだと言ってくれた笑顔を無理やり作り扉を開ける。

 扉の向こう側にはこちらに気付いたミレーヌが駆け寄りハルに抱き着き、そしてミレーヌの後ろからガウニスが自分とペテルギウスの帰りを祝う――そんな光景を思い浮かべた。だが、現実はあまりにも無情であった。

 

 部屋の中には、天井付きのベッドの側で力なく座っているガウニスが居た。ベッドに近付くとミレーヌが優しい笑みを浮かべながら眠っている。体の半分を結晶化させながら。

 

 

 

「嘘だ……。こんなのって……」

 

 

 

 信じられなかった。ベッドに横たわるミレーヌの体はあまりに静かで、冷たくて、まるで別人のようだった。膝から崩れ落ちるとハルは無我夢中でミレーヌを抱きしめ頬を何度も撫でる。ミレーヌが少しでも温かさを取り戻すのではないかと自分の体温を押し付けるように強く抱きしめた。だがミレーヌの体は、現実を容赦なく突きつける。

 

 ハルは生まれて初めて心の底から泣いた。先程まで空虚な静寂が広がっていた部屋には、ハルのすすり泣く声が悲しい程に響き渡り抱きしめているミレーヌの頬を濡らし続けた。

 

 側にいたガウニスは何も言わずハルの背中をさすった。しばらくしてペルギウスが宰相を連れてやってきたが、ハルは構わず泣き続ける。だが、すでに涙と声は枯れ嗚咽だけが部屋に響き渡るだけだった。

 

 突然ふっと身体の力が抜け、ハルはその場に倒れた。涙の跡を頬に残しながら静かに瞳が閉じられ呼吸がゆっくりと深くなっていく。

 

 

★★★

 

 真っ白な空間にお腹を抱え笑いながら床を転ぶヒトガミが居た。ヒトガミの高笑いが不快に耳を刺す。

 ハルは怒りを抑えきれず、静かに無い拳を握りながら詰め寄る。

 

 

 

「何が、そんなに面白いんだ……?」

 

 

「いやー面白いね! もう駄目かと思ったけどまさか君が馬鹿だとは思わなかったよ!」

 

 

 

 その言葉にハルはピクリと反応しヒトガミは滑稽なものを見たような目をハルへと向ける。

 

 

 

「何のことだ……」

 

 

「君がミレーヌの側を離れたことだよ。マ・ヌ・ケ君?」

 

 

 

 その言葉がハルの胸に深く突き刺さる。ミレーヌのことを考えると激情が一気に湧き上がるが、言葉が出てこず上手く返すことができない。

 悔し気に睨みつけるハルの反応を楽しむようにヒトガミはさらに言葉を重ねる。

 

 

 

「ミレーヌ自体の運命は強くない。だけど君は違う。強すぎるんだよ。運命が強い生物の周囲を操ることはできないから君には側を離れてもらう必要があった。でも君に見破られた時、僕は終わったと思ったんだ」

 

「でも希望はあったんだ! 君が勝手に側を離れたことさ! そしてミレーヌは妊娠していた! 全てが揃ったんだよ!」

 

 

 

 ヒトガミは手を広げ大げさに喜ぶ。ハルは大げさなヒトガミの反応にいら立ちが募るが不意打ち気味に知らない事実を聞き、ヒトガミに尋ねる。

 

 

 

「妊娠していたって……」

 

 

「ん? 知らなかったのかい? 生きていたら丁度生まれるぐらいだったんじゃないかな? 残念だったね、パパ?」

 

 

「そんな……」

 

 

 

 ヒトガミは、意気消沈しているハルの方へ歩くが反応がないことに気付くと揶揄うようにゆっくりと手を伸ばす――ことはできなかった。指先がハルの精神体に触れた瞬間、何かが狂い始めた。

 

 

 

「な、なんだ!? 体が壊れる!?」

 

 

 

 ヒトガミの表情が驚愕に染まる。指から肌がざらざらと砂のように崩れては落ちて行く。まるでヒトガミ自身が無数の粒子に分解されていくかのように、その崩壊は徐々に腕全体、そして肩へと広がっていった。

 

 ヒトガミは初めて恐怖と混乱に満ちた声を上げるが、声と共にその唇さえもひび割れ、粉々に崩れていく。手を引こうとするが、もはやその手は朽ち果てていた。力なく崩れていく肉体は、まるでハルに触れたこと自体が何かの呪いのように見えた。たまらず、ヒトガミはハルを自分の空間から強制的に退去させる。

 

 白の空間から消えて行くハルはただ、空虚な瞳でその光景を見つめているだけだった。

 

★★★

 

 

 目が覚めるとそこは自分にあてがわれた部屋のベッドであった。ハルは膝を抱え、ベッドに座り込む。周りの景色はぼやけ、耳に入る音も遠く感じられる。ただ、空っぽになった心に広がるのは深い悲しみだけだ。ミレーヌが居ない世界など考えたくもなく、どうしていいのかも分からなかった。

 

 何人もの人がハルを心配して自室へとやって来た。ガウニスに始まり、宰相や臣下、ミレーヌの側付きなど様々であった。だが、誰の言葉もハルには響かなかった。最後にやってきたペルギウスだけは何も言わず出て行ったが。

 

 眠ることができず、ずっと膝を抱え起きていた時、不意に耳の奥でかすかにミレーヌの声が蘇った。かつてハルが故郷へ帰る手段が無いことを知り絶望しそうになった時、笑顔で囁いてくれた言葉が。

 

 

 

『どんなにつらくとも、前を向いて。あなたは絶対、強いから。それに私、あなたが不器用に笑う姿が好きだよ!』

 

 

 

 その言葉が一筋の光となって胸に灯った。ミレーヌの温かさがハルの心に優しく染み渡り、心を蝕んでいた絶望を少しずつ溶かしていく。ミレーヌはもういない。けれど、彼女はハルの中で確かに生き続けているのだと感じた。

 

 目を閉じ、深く息を吸い込むとミレーヌの笑顔が鮮やかに浮かぶ。その笑顔は、いつもハルを支え導いてくれた。そして今もハルの背中を押している。ハルはぎこちなく笑顔を作りハハハハハと大きな声で笑う。涙で喉を震わせながら。

 

 

 

「……、ありがとう。俺、前に進むよ」

 

 

 

 不意に窓から一筋の光が差し込み、ハルの顔を柔らかく照らした。まだ夜の余韻を残す空に東の空からのぞき始めた朝日の光がハルの背中を優しく包み込んでいた。まるで彼の決意を祝福し応援するかのように光が広がり、部屋を暖かい金色に染め上げていく。その光は冷え切っていたハルの体と空虚な心にじんわりと温もりを与える。

 

 涙を拭い、ハルは静かに立ち上がった。空っぽに思えた世界が、少しずつ色を取り戻していく。ミレーヌの言葉を胸にもう一度歩き出す決意が固まった。同時に仇であるヒトガミを討伐する決意も。

 

 窓の外では新しい一日が始まろうとしている。ハルはもう一度、深く息を吸い込み、窓から王城を去っていった。

 

 

 




どうもー、フリーです!
読んでくれてありがとう!

……、わかります。ヒトガミの件ですよね?
私も何書いてるのか途中で分からなくなりました……。
一応、ハルも神子だから……。はい。無理がありますよね。
許せ、いいな?

最後に主人公の設定を載せときます。
今後のネタバレを含みますので注意!
















主人公:ハル・スプリング(バルディカ・バルディス)
種族:不明(不死魔族と人間のハーフ)
容姿:紫色の乱れた短髪。黒の瞳。白の服装。腰に刀をぶらさげている。

名前について:前世の名前とその英語。名前に違和感を持たせることで日本人転生者を探そうとするが、見つかることは無かった。違和感に気付く者が現れるまで約400年かかる。



転生した理由:本当に奇跡の存在。再生の神子は関係ない。うん、本当にただの偶然。



神子:雷の神子(元の肉体)魂の神子(前世)
ジャンプ作品の雷や光系の技を使わせたかった。
魂の神子は、ハルが原作開始まで生き残るために生やした設定。魂・精神に干渉する技でハルが激情に駆られた時だけ発動する(制御可能であれば強すぎる)。呪術廻戦の「無為転変」が元ネタ。
後から不死魔族との関連性を匂わせてしまったから死にネタになった。
いや、でもヒトガミの正体を一目で見破ったり弱体化させるために必要だったから……、ね?

強さについて
剣術:剣神・水帝相当。剣術に関して天性の才を持っている。
原作開始までには全ての剣術において神級相当の強さだが、独自に編み出した雷神流を使う。鬼滅の刃の「雷の呼吸」が元ネタ。
魔術:神子の能力を用いて雷系魔術を開発するが、神子ありきな魔術であるため誰も習得できなかった。雷系魔術を習得できる者は水王級魔術「ライトニング」を無詠唱で扱える者だけ。
魔神ラプラスをほとんど一人で追い詰めた。七大列強4位。5位魔神ラプラス。

この作品における強さ順(左に行くほど強い)
完全体ヒトガミ>弱体化ヒトガミ>本気社長>龍神ラプラス>手抜き社長=技神ラプラス=ハル=王竜剣闘神アレク=闘神バーディガーディ>魔神ラプラス>その他

闘神陛下の強さが分からん。龍神ラプラス殺してるからそれと同じくらいだと思うけど……。まぁ、この作品はこの強さ順。

ざっくりとしたあらすじとその後
日本の転生者。原作知識無し。ジャンプの元ネタ知識無し。
スラム街で人攫いに襲われたことにより能力に目覚める。騒ぎに気付いた少年ガウニスに助けてもらう。その後、意気投合し友人になる。数年後、アスラの妹と仲良くなるが身分差で結ばれないことを哀れんだガウニスの起点で結ばれる。この辺りでペルギウスと友人になる。ヒトガミがハルの夢に現れる。その時、ヒトガミを問答無用で拒絶したことで「後悔させてやる」と言われる。ラプラス戦役に巻き込まれ最も活躍する。帰宅後、ミレーヌが死んでいたことで呆然自失となったハルに再びヒトガミが介入。ヒトガミに煽られたが、ヒトガミがハルに触れたとき魂の神子の能力が発動する。これ以降、ヒトガミはトラウマでハル関連の未来を見ることができなくなる。翌日、ミレーヌの言葉を思い出すことで立ち直り、ヒトガミを討伐することを誓う。窓から立ち去る際、これまでの感謝とこれから先のことについて手紙を書く。ハルの存在を風化させないためにガウニスがハルを主人公とした勇者物語を作る。後年では、ペルギウスと共にアスラ王国で人気な存在となる。

オルステッドのループについて
他の住民と同様記憶の継承は行われない。ルーデウスが転生する前のループで初めて邂逅する。その時のループでは、お互いにヒトガミの使徒だと思い込んでしまったため激戦の後、ハルが負け死亡する。後々、ペルギウスに咎められ勘違いだったことに気付く。勿論、魔力を大量消費したためその後の展開は絶望的。次のループ(ルディ転生時間軸)では絶対に仲間にしようと画策し探すが転移事件が起こりどこに居るのか分からなくなる。

ミレーヌについて
ハルがヒトガミを恨むための装置。作者の都合により生まれ死んだ哀れな人族。容姿は某変態王女と瓜二つ。一応、理由付けするならハルとミレーヌの間に生まれる子供が誰かとタッグを組んでヒトガミを封印する未来が見えたから。まぁ、子供の変わりにハルが加わったけど。


原作開始後のヒロインについて
過去ヒロインの後に未来ヒロインについて書く鬼畜。それは置いといて……。
とある神と人間のハーフ。登場するのは大分後の予定。

気が向いたら続けますねー。







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