仮面ライダースカル ──鳴海荘吉の肖像──   作:なら小鹿

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映画を観てた作者がハイドープ化して、その日のうちに書き上げたエピソードです。



Sの肖像 / 語られざる闘い

 

 猛暑の太陽が風都を照らしている。

 だというのに、その男は白いスーツを着込んでいた。ハットも白。ベストも白。ネクタイも白。

 

 潔癖というよりもどこか不吉さを漂わせたそれらは、例えるなら髑髏のような白だった。

 

 

 

          ◆ ◆ ◆

 

 

 

「──水道が出ない?」

 

 鳴海荘吉(なるみそうきち)は怪訝の二文字を顔に貼り付けた。

 風都の一角に立つ鳴海探偵事務所。その所長と探偵を兼任する荘吉の差し向かいにはテーブルを挟んで依頼人座っていた。

 

 オペラ歌手・メリッサ。

 風都ではよく知られた歌姫であり、荘吉の古い友人……とこちらはあまり知られていないし、誰かに知らせる気もない。

 

 そんなメリッサが鳴海探偵事務所の扉を叩いたのは依頼があったからだ。

 

「そうなの。昨日も劇場の水道がダメになって。この猛暑でしょ。だから困っちゃって」

「そいつは大変だったな。しかし、水回りのトラブルなら探偵じゃなく、業者に頼むんだな」

 

 それじゃあな、と荘吉は席を立って事務所の扉を開ける。私立探偵をしているが、猫探しから何まで引き受けているわけではない。

 

「そういえば今日は彼、いないの?」

「ああ。盆休みで実家に墓参りに行っている」

 

 彼とは荘吉の相棒を務めている男だ。荘吉自身も頼りにしていて、調査なども基本的に二人で行っている。だから、不在の間は『臨時休業』も貼り紙をしていたのだが、どうやらこの町の歌姫はなかなか我が儘なようだ。

 

「わかったらさっさと帰れ」

「ねぇ、鳴海さん」

「まだ何かあるのか」

「この頃、水回りのトラブル、やけに多くない?」

「……」

 

 メリッサの言っていることは事実だった。

 連日続く猛暑。それに合わせるようにして風都では『水が止まる』というトラブルが相次いでいた。

 

 ワイドショーいわく水道管のつまりが原因らしい。しかし、冬場の凍結ならまだしも、夏場に水道管がつまるなんてあり得るのか。いや、現に起きているのだから、あり得なくはないのだが……。

 

「これ、もしかしたら、いつかの蝙蝠(コウモリ)男の時みたいな……」

「よすんだ、メリッサ。それ以上は言わなくていい」

 

 蝙蝠男──荘吉にとってはバット・ドーパント──と呼ばれる怪人が町を騒がせてからもう二週間になる。

 事件そのものは終息したが、町を泣かせる悪党には盆休みなどありはしない。

 

「鳴海さん」

「……わかった」

 

 その言葉にメリッサの顔が明るくなる。まさか狙っていたわけではないな、と荘吉は勘ぐってしまう。

 だが、仮にそうだったとしても一度した決断を覆すのはハードボイルドではない。

 

「臨時休業は今日でしまいだ」

 

 荘吉は表の貼り紙を剥がし、屑籠に放り込んだ。

 

 

 

          ◆ ◆ ◆

 

 

 

 聞き込みは探偵の初歩の初歩だ。

 気取った格好で街角に立っているだけでは展示品のマネキンと変わりない。荘吉は常々そう考えている。

 

「やぁ、鳴海の旦那。こんな暑い日にも調査ですか。精が出ますね」

 

 声をかけてきたのは自転車を押した交番勤務の巡査だった。

 刃野幹夫。彼もまた荘吉とは付き合いの長い相手だ。そして、貴重な情報提供者でもある。

 

「少し依頼が入ったので。ところで刃野さん、このところ妙な事件や事故は起きていませんか」

 

 荘吉が尋ねると、刃野巡査は周囲を見回して声を低くしてかから、

 

「……実はそれについて、ちょっと耳に入れときたい情報が」

「なんです」

「……ここ最近、熱中症患者が多いじゃないですか。どうやらこれ、単なる暑さのせいじゃないみたいなんですよ」

「というと」

「病院に担ぎ込まれた連中……っていたら失礼か。患者の大半が水を飲んでなかったんです」

「水を?」

「ええ、なんでも家の水道が出なくなったとかで。水道局にも電話が殺到してて手が回らんそうです」

 

(ここでもまた、水のトラブル……)

 

「鳴海の旦那?」

「すいませんが刃野さん、今月いっぱいでその水道が出なくなった場所の情報、教えてもらえませんか」

「構いやしませんけど、てんでバラバラですよ?」

 

 

 

          ◆ ◆ ◆

 

 

 

 コルクボードに貼った地図には赤いピンがいくつも刺さっている。イブクロ横丁に、夕凪商店街、風都グランドホテル、青嵐町(せいらんちょう)、空風町、そしてメリッサのホームである風都劇場。

 

 どこも今月に入ってから水道が止まった場所だ。

 大型の商業施設から個人宅まで、刃野巡査の言ったようにてんでバラバラだった。水道局にも電話を入れてみた。すると、水道局員もかなり参っているらしい。

 

『またですか……はぁ……。もう今日だけでも水道が止まったっていう電話は三件目なんですけど……』

「その調子だと、週単位ではもっと?」

『ええ、とんでもない件数ですよ。おっと、いけね……。それじゃお名前と住所をうかがってもよろしいですか』

「いえ、情報提供感謝します。では」

『えっ、あっ、ちょっと──』

 

 今どき珍しいダイヤル式の電話に受話器を戻すと、荘吉はコルクボードの地図に向き直った。

 

(水が止まったのは恐らく水道管自体に細工をしたからだろう。大本で水を止めなければ、これだけの範囲に被害を及ぼすのは逆に困難だ)

 

 その証拠に狭い地区に絞って見れば、水のトラブルを示す赤いピンは固まっていた。青嵐町では五世帯、空風町では七世帯。どこも商業施設が近くにあるので、そちらが狙い目で個人宅はその巻き添えを食ったように見える。

 

 しかし、そこまでだった。猛暑のせいで頭が鈍っているようだ。

 

(コーヒーでも淹れるか)

 

 荘吉は椅子から立ち上がって、キッチンに向かう。

 男二人でやりくりしている探偵事務所なだけあって食器類は必要最低限のもののみ。その割にコーヒーを淹れる道具にはえらく凝っている。

 娘の亜樹子が見たらなんていうか。と、そんなことを考えながらポットに水を注ごうとして、

 

「……ん?」

 

 ひねった蛇口から水が出ない。試してみたが、シャワーやトイレもからっきしダメだった。

 

「……確かに、こいつは厄介だな」

 

 鳴海荘吉は静かに息を吐いた。

 

 

 

          ◆ ◆ ◆

 

 

 

 メリッサはコンサートの前に紅茶を一杯飲む。

 コンサートホールであれ、特設ステージであれ、会場まで足を運んでくれた観客たちに最高の歌声を届けるには喉を温めておく必要があるからだ。

 

 今日の会場は風都中央ショッピングセンターの特設会場なのだが。

 

「……はぁ」

 

 スタッフオンリーの扉の奥に設けられた控え室で、メリッサは溜め息をこぼす。

 

「ここもなの」

 

 ひねった蛇口から水が出ない。

 

 いつものコンサートホールだけでなく、自宅でも同じことが起きていた。それだけじゃない。メリッサの行く先々で水のトラブルが多発していた。

 

 そのせいでSNSではメリッサが水を止めているなんてデマが飛び交っているぐらいだった。

 

 今からスタッフにコンビニまで走ってもらっている時間はないし、今日はこの喉でいくしかないようだ。そうメリッサが諦めかけた時だ。

 

 コンコン、とドアがノックされた。

 

「はーい、どなた?」

「滝口です。入っていいですか」

「ええ、どうぞ」

 

 ドアが開くと、純朴そうな青年が湯気を吐いたケトルを手に入ってきた。

 

「それは?」

「ああ、いつもコンサート前に紅茶を飲んでるじゃないですか。なので、せっかくだから」

 

 青年は控え室にあったコップを取り出して紅茶を淹れ始める。

 

(気持ちはありがたいんだけど……)

 

 どうして、その抽斗にティーカップが入っていると知っているのか。メリッサは顔が強張らないよう意識した。

 

 滝口は真面目でいい青年だ。

 彼がメリッサを知ったのはいつもの劇場でのコンサート。その時は後ろの席だったらしいが、次からはいつも最前列にいた。

 さらに聴くだけでなく、アルバイトの劇場スタッフとして裏からメリッサをサポートしてくれていた時期もあった。仕事もしっかりこなして、劇場支配人からは正規雇用の誘いもあったらしい。

 

 けれども、滝口はその話を蹴った。

 メリッサのそばで仕事をするには身軽でいた方がいい、と言ったそうだ。これには劇場支配人も苦笑いしたとか。

 

 そこから紆余曲折あって、今はメリッサに付き添うスタッフのひとりになっている。生真面目でよく気の回る青年……なのだけど、メリッサは少々この青年が苦手だった。

 

「どうぞ」

 

 湯気のたったティーカップがテーブルに置かれる。いつものアールグレイだ。しかし、メリッサは首を振った。

 

「ごめんなさいね」

「えっ、どうしたんですか、急に」

 

 滝口は狼狽える。

 

「あなたの気持ちはすごいありがたいんだけど、こういうのはもう」

「あぁ、す、すいません……出過ぎた真似をしてしまって……。で、でも、僕、メリッサさんのことが心の底から好きで、僕にできることなら何だって……!」

「うふっ」

「メリッサ、さん?」

「あなたお節介なのね」

「え、えぇ、人からもよく言われます」

「でもね、私は誰かから与えられるばかりじゃなくて、誰かに与えたいの。だから、紅茶くらいひとりで淹れられるわ」

 

 風都の歌姫。メリッサはそう呼ばれ、歌うたびに大勢から歓声と拍手をもらっている。だからこそ、彼らに支えられてばかりではいけない。

 

 自分の足でしっかり立ち、自分の歌声でひとつでも彼らに与えられるものがあるのなら、全力を尽くす。

 

 それが今のメリッサの心情だった。しかし……。

 

「滝口くん?」 

 

 滝口はうつむいて、小刻みに肩を震わせていた。

 それはまるで、例えは悪いがファンがアイドルにプレゼントを断られて癇癪を起こしたような……。

 

「──立派な心意気だぜ、メリッサ」

 

 扉から声がした。ゆっくりと控え室の扉が開き、その男が姿を現す。白いハットとスーツの男だ。

 

「すまないな。立ち聞きする気はなかったんだが、あんたの声はよく澄んでるから」

「だっ、誰ですか、あなたは! ここは関係者以外立入禁止ですよ! 出ていかないなら警備の人間を……!」

「滝口くん、ちょっと待って。彼は私の──」

 

 警備室直通の電話を取ろうとする滝口の手を、メリッサは押さえようとした。その時だった。

 

「離せ!」

 

 滝口がメリッサの手を乱暴に振り払った。

 

「た、滝口くん……?」

 

 その形相はメリッサが知る滝口ではなかった。

 

「猫を被るのはやめたのか」

「うるさいっ! だいたい誰なんだお前は!」

「鳴海荘吉、探偵だ」

「探偵だって?」

「古い友人からの依頼で、今は風都で多発している水道とトラブルを調べている」

「探偵が水道局員の真似か。だったら、さっさと修理してくれよ、この部屋の水道も止まって使い物にならないんだからな」

 

 我が意を得たりと蛇口を指差す滝口。そこでメリッサは気づいた。

 

「ねぇ滝口くん、あなた、どうしてこの控え室の蛇口が使えないって知ってるの?」

「えっ、それは……はっ!」

「語るに落ちる。口は災いの元だぞ、坊主」

 

 荘吉がメリッサと滝口の間に入る。まるで青年からか弱い歌姫を守るように。

 

「そ、それは他のスタッフから聞いて……」

「いいや。水道のトラブルとひと口に水道のトラブルといっても、それは多岐にわたる。蛇口がつまっているだけなら、他の水場は無事だが、建物全体につながっている給水管が塞がれていたなら、被害も建物全体に及ぶ。水道局員でもないお前に、なぜそれがわかったんだ」

「そ、それは……」

 

 言い淀む滝口。メリッサにも真相が見えてきた。そして鳴海荘吉が決定的なひと言を口にする。

 

「犯人は、お前だ──滝口優也」

 

 

 

          ◆ ◆ ◆

 

 

 

「一見するとなんの共通点もないように見える水道管トラブルの発生地。しかし、ある人物の足跡を地図に重ねると、ぴったりと一致する」

 

 鳴海荘吉は背後に目をやった。

 

「もしかして」

「そうだ。例の水のトラブルはメリッサの行く先々で起きていた。劇場はメインとなる仕事場、ショッピングモールは特別コンサート、個人宅は同じ水道管から水を引いていたがゆえに巻き添えを食った」

「……」

「動機はなんだ、と尋ねたいところだが、おおよそ見当はつく」

「!?」

「メリッサに頼られたい、尽くしたい。水がでなければ、自分が紅茶を淹れる機会も増えると踏んだのだろう」

「わかったような口を聞くな!」

 

 滝口は激昂していた。振りかぶった拳を荘吉に向けて繰り出す。

 

「ふっ」

 

 荘吉はそれを受け止め、逆に滝口を投げ飛ばす。背中からテーブルに叩きつけられた滝口に、ティーカップとケトルが宙を舞い、青年の服を濡らす。

 

「暴れるのなら警備員を呼ぶぞ。どうする?」

「舐めやがって……こんちくしょう!」

 

 滝口は完全にキレていた。

 一方的に愛したマドンナの前で無様を晒されたからか、それとも我が儘な愛を受け取ってもらえなかったからか。

 

 いずれにせよ、その眼は黒く染まり、瞳は赤く淀んでいた。そして、荘吉はそんな眼の人間を何人も見てきた。

 

「ぶっ殺してやる!」

 

 滝口がズボンのポケットに手を突っ込んだ。ヤンキーならナイフ、ヤクザなら拳銃(ハジキ)だが、青年が手にしていたものは違った。

 

 あばら骨をかたどった禍々しい意匠の小箱。

 USBメモリにも似たそれにはドロッとした字体で『S』のイニシャルが浮かんでいた。

 

「やはりな、お前」

「メリッサに近づいていいのは僕だけだ!」

 

『──スライム!』

 

 あばら骨の小箱が──ガイアメモリが起動した。

 

 滝口は左腕をまくりあげ、腕にタトゥーされた生体コネクタにガイアメモリを突き刺す。

 変化は一瞬だった。青年の全身から青白い粘液が溢れだし、その姿を異形の者へと変えていく。水滴のような尖った頭、そこから垂れてきたたように青白い粘液が全身を濡らしている。

 

「滝口くん、あなた……!」

「逃げろ、メリッサ。ここからは俺の仕事だ」

「カッコつけてんじゃねぇ!」

 

 ドーパント化したとはいえ、その拳は相変わらず素人同然だった。殴りかかってきたところ身を反らして躱し、テーブルを蹴ってぶつける。

 

「荘吉さん!」

「いいから逃げろ! 警備員は呼ぶだけ無駄だ!」

「わかったわ!」

 

 控え室から脱出したメリッサを見て滝口も──いや、もはやスライム・ドーパントと呼ぶべきか──はマドンナの背中を追おうとする。

 その前に立ちはだかる男がひとり。

 

「退け!」

「いいや、断る。ましてや俺の依頼人に手を出そうとするやつの言葉なら尚更だ」

 

 鳴海荘吉。

 その腰には奇妙なものが装着されていた。メタリックなベルトで、バックルにはL字のスロットがある。

 

「な、なんだ、それは……!?」

「今にわかるさ」

 

 荘吉は左手にハットを、そして右手に『ガイアメモリ』を構える。ただし、先のドーパントメモリとは打って変わり、全体的にシャープな意匠。そこには髑髏の横顔を模した『S』のイニシャルが刻まれている。

 

『──スカル!』

 

「変身……」

 

 スカルメモリをセットし、スロットを倒す。それが変身の合図だった。『スカル!』と再び声をあげるメモリ。

 

 荘吉の足下で風が巻き起こった。セルビアに吹くコシャヴァを思わせる冷たい風。その風に舞った黒い装甲が、白いスーツの身を次々と覆っていく。

 

 胸には肋骨のような銀の鋭角が、首には破けたスカーフがたなびく。頭を覆ったフルフェイスのマスクは髑髏を連想させた。そこに火花を散らしながら刻まれるのは尖った『S』のイニシャル。

 

 ゆるりと、白いハットがその頭に被せられる。そうして男は告げる。

 

「──さぁ、お前の罪を……数えろ」

 

 

 

          ◆ ◆ ◆

 

 

 

「骸骨男……!」

「その呼び名は非常に不本意だ。ゆえに訂正しておこう」

 

 果たして消え行く相手に名乗ってどれだけ意味があるかはわからないが。

 

「──俺の名はスカル。仮面ライダースカルだ」

 

 

 

          ◆ ◆ ◆

 

 

 

「骸骨のメモリなんかに、僕が負けるわけねぇだろ!」

 

 うおぉぉ、と雄叫びをあげ、右の拳で殴りかかってくるスライム・ドーパント。スカルは身を反らして敵の右ストレート──と呼ぶにはお粗末な拳──を躱し、カンターのアッパーを叩き込む。

 

「うおっ!?」

 

 ひるんでガラ空きになった胴へキックを見舞う。蹴り飛ばされスライムは壁をぶち破り、配管類の巡らされたバックヤードに転がった。

 

 マスク越しに触れる空気がひんやりとしている。スカルとしては、こちらの方が肌に合っていた。

 

「くそがぁ!」

「性懲りもなく突っ込んでくるか」

 

 拳がダメと判断したのか、スライムがドリルのような螺旋状になった左腕を振るってくる。

 

 しかし、これもガキのチャンバラ遊び同然。半身で躱すスカルの背後で配管が切断され、噴き出した水がコンクリートを濡らす。キレた若造らしい雑な攻め手だった。

 

 躱すと同時にカウンターのアッパー、さらにキックのコンボ。

 

「うぐぅ!」

 

 蹴り飛ばされたスライムの背後で配管がつぶれ、また水が漏れる。

 

(斬れ味はなかなからしいが、当たらなければ……ん?)

 

 そこでスカルは異変に気づいた。

 足下は打ちっぱなしのコンクリート。スライムが出鱈目に暴れたせいで配管類は滅茶苦茶に破壊され、床は水浸しだった。

 

(なんだ……)

 

 片足を上げる。水が、粘り気を帯びていた。

 

「ひひひっ、今さら気づいても遅いぞ!」

 

 高笑いするスライムは左腕を天井に向けた。螺旋状だった腕の先が開き、青白い光弾が天井を走る配管を撃ち抜く。

 

「何をしている。狙うならしっかりとここを狙え」

 

 スカルは親指で自身の心臓を指し示す。

 そのボディは天井の配管から垂れてきた水でベトベトだった。それで気づいた。

 

(水が、粘性を帯びている?)

 

「ひひひっ、こいつがスライムメモリの力だ! 食らいやがれ、骸骨野郎!」

「何っ!?」

 

 その瞬間、スカルの体を濡らしていた水がセメントのように固まった。それだけではない。足下でベトベトしていた水も瞬時にセメント化している。

 

「スライム……粘体の記憶か。なるほど、こいつで水道管をつまらせて水を止めていたわけか」

「ご名答だ、探偵! だが、これで動けないお前はサンドバッグも同然! 仮面ライダーだかなんだか知らないが、くたばりやがれ!」

 

 スライムは左腕を真っ直ぐスカルに向けた。その腕の先に開いた発射口が連続して光った。

 

 ──ドッ、ドッ、ドッ、ドッ!

 

 連射された光弾は四発。そのすべてがスカルに命中し爆炎を巻き上げる。ひんやりとしていた空気が一気に熱に犯されていく。

 

「ひひっ、ひひひっ……!」

 

 スライムは腹を抱えて笑った。自身の最も得意とする戦術が決まったからか。それともメモリの力を再認識したからか。

 いずれにせよ、勝敗は既に決したも同然だった。

 

「ひとつ教えておいてやる、坊主」

「な、なんで……!?」

 

 白煙の中からハットを被ったシルエットが浮かび上がる。無傷のスカルが。

 

「ど、どど、どうして、僕の攻撃が!」

「うるさいぞ。ひとつ教えてやると言ったのは」

 

 真っ直ぐ構えられた右手には黒塗りの銃──スカルマグナムが握られていた。その銃口からは白煙が昇っている。

 

「まさか……僕の攻撃を撃ち落として……!」

「それだ、それ」

「……え?」

 

 唖然とするスライムに、スカルは告げる。

 

「無駄にしゃべるやつは嫌われるぞ」

 

『──スカル! マキシマムドライブ!』

 

 スカルマグナムに装填されたメモリが三度目の声をあげる。それは一撃必殺の合図。

 

「ひっ、ひぃ……!」

 

 踵を返して脱兎のごとく逃げるスライム。だが既にスカルマグナムは構えられている。

 

「──終わりだ」

 

 トリガーが引かれる。銃口が光り、巨大な髑髏をかたどった弾丸が射出される。次の瞬間、髑髏がドーパントの胸を貫いた。

 

 

 

          ◆ ◆ ◆

 

 

 

 風都中央ショッピングセンターの特設ステージで行われたメリッサのコンサートは無事に幕を閉じた。万雷の拍手を浴びながら舞台を降りた歌姫は、白いスーツの背中を見つけて足を速めた。

 

「鳴海さん」

「よう、今日もいい歌声だったぞ」

 

 まるでいつもの劇場でなコンサートと変わらないように言う荘吉に、メリッサは問いかける。

 

「あの、滝口くんは……」

 

 荘吉は首を振った。それでメリッサも理解した。

 

「……そう」

「もうすぐ警察が到着する。そしたら飽きるほどしゃべらなくちゃいけないだろ。ほら」

 

 言いながら荘吉はペットボトルの紅茶を手渡してくる。

 

「本当はティーバッグから淹れたかったんだが、あいにく見当たらなくてな」

「ふふっ」

 

 メリッサは笑った。コーヒーも上手に淹れられないのに、今度は紅茶にも挑戦するつもりなのか、と。

 

「でも、ごめんなさいね。これからは自分で淹れるから」

「おっと、そうだったな」

「あたなも意外と世話焼きね」

「よしてくれ。俺はそんなタチじゃない」

 

 そうなのかな、とメリッサは心の中で首を傾げる。この町で探偵として、ひとりの男として、風都を泣かせる者と闘う彼はきっと──。

 

 そこまで思考が巡ったところで、サイレンの音が耳に入ってきた。しばらくすれば駐車場は警察車両で埋め尽くされることだろう。

 

「さぁ、俺の出番はここまでだ。それじゃあな」

 

 気に入っているらしい白いハットを被り直して、鳴海荘吉は再び背を向けた。もうメリッサがその後ろ姿に声をかけることはなかった。

 

 

 

          ◆ ◆ ◆

 

 

 

ドーパント・データ

名 称:スライム・ドーパント

メモリ:スライムメモリ / 粘体の記憶

身 長:190cm

体 重:95kg

特 徴

 水を含む液体の粘度を操るドーパント。

 ドロドロしたゲルのような状態から固めたセメントのような状態まで、自身の触れた液体であれば種類を問わず操れる。変身者である滝口優也はその能力を悪用し、水道管内の水を固めて、風都各地で蛇口から水が出ない事態を発生させていた。

 また螺旋状になった左腕からはエネルギー光弾の他にも、作中では使われなかったが粘液質のスライムショットを撃ち出す。周囲を水浸しにして凝固、またはスライムショットで相手を固定、そのままエネルギー光弾で狙い撃ちするのが基本戦術。





こんな感じでドーパント1体を倒して1話完結するようなエピソードで書いていければと思います。

あと、スライムドーパントのイメージは実写版で登場したスイーツドーパントがモチーフになってます。片腕がドリル(?)になってるのとか、まさにそれです。
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