ぼっちちゃんの彼氏はバスケ部エース 略してぼちバスのひとりと零士が伊豆大学に入ってクズ共と青春を謳歌するストーリー

パロディ回のつもりが完全なぐらんぶるの二次創作になってしまったので、急遽原作ぐらんぶるに短編として投稿しました。

面白いので読んでいってください。

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もしぼっちちゃんの彼氏はバスケ部エースのファンの皆さんは高評価を押してくれると助かります(>_<)


ひとバスIF ぐらんぶる

酒は飲んでも飲まれるな!

 

 俺、鬼龍院零士は、中学3年間をバスケに捧げ、高校3年間は彼女のバンドのマネージャーとして過ごしてきた。

 そして今は海の街伊豆へ引っ越して、そこの地元の伊豆大学に入学した。

 きっかけはアニメ2期が決定したとか訳の分からん理由だったが、決定してしまったものはしょうがない。

 

 あっ、ちなみに俺の彼女であるひとりも数少ない女性の学生として入学している。

 

「しかし、これは選ぶ大学を間違えたか……?」

「こ、これって、何かの事件なんじゃ……?」

 

 入学ガイダンスの朝に大学の講堂の前でパンイチで寝ているバカの集団が目に入る。

 隣で一緒に通学するひとりも、目の前の惨状とも言える光景にドン引きしており、治安の面から入る大学を間違えたかと本気で後悔しかけている。

 

「マジかよ……」

 

 講堂に朝道の真ん中でパンイチで寝てた野郎が平然とパンツ姿のまま出席していた。

 ここはいつの間に裸族の住処になったのかと戦々恐々しながら、入学ガイダンスを終える。

 

 大学生になったからといって何かが劇的に変わる訳ではない。そう思っていたのだが……。

 

 最初の1ヶ月はあっという間に過ぎて行った。

 ガイダンス、オリエンテーションと真面目に受けて単位を貰えそうな授業を選んでいる内にいつの間にか5月になっていた。

 

 大学生活にも慣れ、日常が平凡になりつつある中、伊豆春祭が開催されるらしく、最近どこも騒がしくなってきた。

 とはいえ、俺はサークル活動をしているわけではないので、出店することもない。

 つまり、祭りを見て回るだけで手持ち無沙汰になるのだが、それはひとりも同じことだった。

 

 ならばと2人で見て回る事にしたが、いざ回ってみると予想外に盛り上がっており、文化祭レベルかと思えば普通に祭りのレベルだった。

 地元で有名らしいサークルの出店も色々と食べ歩いて、食い道楽に走る。

 

「あっ、零士君!あそこお好み焼きだって、どうする?」

「ん~、揚げ物ばっかだし、粉ものも食いたいから行くか」

 

 ひとりが見つけた店にふらりと足を運ぶと、ライブクッキングさながらの手際の良さで調理していた。

 オーチューブで暇な時にそういった動画を見ているひとりは生のライブクッキングに感動しているようだが、俺はその調理している片割れが変態(北原)であることにドン引きしていた。

 

 普段周りに干渉しようとしないひとりは北原が変態であることに気が付いていない。というか、店番している2人が同じ学科の人間であることさえ気付いていないな。

 

「ん?おぉ!零士じゃないか、お前もウチのお好み焼きを食いに来てくれたんだな!!」

「ああ、ちょっとばかし粉ものが食いたくてな。……妙な物を混入させたら殺すからな!」

「はっはっは!飲食物を取り扱ってんだぞ、異物混入なんて真似……、おい、その隣にいる子は誰だ!?」

「ちぃっ!」

 

 いつものひとりの格好はピンクのジャージという野暮ったいものだが、今日は祭りでデートということもあって、軽い化粧とオシャレな衣装で来ている。

 だから、普段のひとりと今日のひとりを別人として認識しているのだろう。

 つまり何が言いたいのかというと……。

 

「はい、お待ちどおさま!」

「……このお好み焼きの真ん中に飛び出しているのはなんだ?」

「え~、それは同じ学友へのサービスです」

「これ針だよな?異物混入はしないって話はどうした?」

「いやいや、まっさか~!それは異物じゃなくてサービス(殺意)ですよ!!」

 

 北原の殺意が籠ったお好み焼きを食わされそうになる。

 

「お~い、店員さん。これ、別のと交換してくれない?」

「えっ、はい。って、伊織!何これ!?こんなのお客さんに出したっていうの!!」

「なっ、おまっ、千紗に密告はズルいだろ!?」

「いや、密告じゃなくて、これは普通にクレームだが?」

 

 北原の殺意お好み焼きを千紗が処理して、新しい普通のお好み焼きを作ってもらう。

 

「ってか、零士。お前恋人いたんだな」

「お前らに言ってないだけで、中学からの付き合いだ」

「マジか!?てっきりお前のことだから、女なんてとっかえひっかえしてるとばかしに……っは!まさか、二股かぁ!?」

「いい加減にその口閉じねぇなら捻り潰すぞ!」

 

 名誉棄損どころの騒ぎじゃないことを言いだした北原の口を物理的に塞ぐ。

 というか、彼女がいる目の前でデリカシーの欠片もないコイツを殺すのは正当防衛の領域にあるのではないだろうか?

 

「え~っと、ウチの伊織がすみません。なんかデリカシーのないこと言っちゃって、その彼女さんですよね。変な誤解とかしないでくれたらいいんですが」

「あっ、いえ、その、昔から私なんかが零士君と釣り合ってないってのは知ってるんで大丈夫です」

「…………っ!?」

「いや、マジでごめんなさい」

 

 PaBにはいない純粋無垢で儚い幸薄系なひとりの返答に、千紗にゴミ屑でも見ているような眼で睨みつけられながら、北原はひとりに誠心誠意謝罪するのだった。

 これに慌てたのはひとりだった。

 

「だ、大丈夫ですよ。私にそう思われるだけの魅力がなかったってだけの話で……」

「……っっっ!!?」

「本当にすみませんでしたぁぁぁ!!!」

 

 焼き土下座して謝れといわんばかりの千紗の視線を受けながら、地面に頭を擦りつけて土下座をかます北原。

 その北原の姿を見て、逆にひとりがショックを受けた顔をしてしまっていた。

 

 それもその筈、平凡な一般人で自己肯定感が低いひとりにとって、自分がするならともかく自分に向けられて土下座されるなどという行為は耐え難いものがある。

 まあ、北原が悪いから謝る事に関しては俺は止めはしないがな。

 そんなクズの土下座を見世物に、俺のお好み焼きが出来たので受け取ってそのままこの場を去ろうとする。

 

「あっ、そうだ零士!聞きたいことがあんだけどさ?」

「なんだ?くだらねえことなら拳が出るぞ」

「あっ、それなら普段からそうなので、遠慮なくどうぞ!」

「千紗!?って、そうじゃなくて、零士お前、男コンに出るのか?」

「男コン?……ああ、男子コンテストのことか。随分と悪意のある略し方だな。一瞬、彼女の前で何言ってんだと思って拳が出かけたぞ」

「怖えよ!じゃなくて、出るのか出ないのかどっちだよ?」

「いや、別に出る気はねえな。今日はひとりと伊豆春祭でデートを楽しむつもりだが」

「クソがぁ!!」

 

 ライバルが減るのは嬉しいが、その理由が男として羨ましいので、北原が嫉妬の炎を燃やす。

 そんなクズの叫び声を肴に食うお好み焼きは美味かった。

 

 

 

 

 

 伊豆春祭を終えていつもの大学生活が始まる。そういった思いと共に講義室に入ると殺気に満ちた野郎どもがいた。

 それも1人や2人なんて小さな数じゃなく、ほぼ全員がそうであり、中には生殺しマニュアルだなんてサイコパスに憧れる男子中学生が読むような本を本気で熟読している変人もいた。

 

(マジで治安最悪だな。ここは伊豆大学と書いてヨハネスブルグとでも読むのか?)

 

 今日は念の為にひとりの隣に座って講義を受ける。

 普段は周囲の注目を嫌うひとりのために離れて講義を受けていたが、今日の講義室の雰囲気は異常であるため、ひとりを襲おうとする変態が近寄ってくる可能性を考慮して隣に座ろうと思ったのだ。

 ちなみに、ひとりの奴は俺が隣に座ってきたのに気を取られて周りの異変にまるで気が付いていない。

 

「うぃ~っす!」

「おっす!」

 

 気の抜けた声で()()()()()の北原と耕平の2人が講義室に入ってきたその時、周囲の殺気が跳ね上がった。

 理由は分からんが、この殺気の原因があの2人のどちらかあるいは両方であることは分かった。

 

 とりあえず、俺らには関わりのないことのようだから放置でいいだろう。

 今はそんなことよりも、今後の単位の為に少しは真面目に講義を受けとかないとな。特に隣に座っているひとりは真面目にやっても1人じゃ単位落として留年しそうだし。

 結局、そんな殺伐とした空気の中、お昼まで講義を乗り切り、昼食は折角だからひとりと一緒に食堂で飯を食う。

 なんかちらりと大量の不幸の手紙と殺害予告の手紙を持った北原と耕平が見えたが無視しとこう。

 

「「お前ら如き変態でも彼女が作れる催眠術だよ」」

 

 ……マジで無視できればいいんだがな。

 だが、もし万が一でもあの変態2人がそういうのを会得しているとなれば、可能性が低いかもしれないが、奴らの魔の手がひとりに迫るかもしれない。

 杞憂に終わるかもしれないが、念の為に奴らの会話を盗み聞きしておくとしよう。

 

「お前ら喧嘩売ってんだろ」

「え……?ないのか?」

「なら、お前に彼女なんて不可能なはず……」

「全くだ、この変態」

「お前ら全員表出ろやボケェ!!」

 

 どうやらなさそうだ。それもそうだな。たかだか伊豆の大学生ごときが人を操作する催眠術なんて出来るはずがなかった。

 

「……?どうしたの、零士君」

「いや、馬鹿がバカやってるなと……」

 

 馬鹿共のやり取りに呆れていると、食事の手を止めていた俺の様子に気付いたひとりが心配そうな目を向ける。

 何でもないと伝えて、食事を再開した。

 

「そ、そうだ!伊豆春祭で零士の奴が美人の彼女とデートしていたぞ!!!」

「「「「ほぉ……」」」」

 

 命乞いを諦めた北原の野郎が道連れを増やそうと俺にまで火の粉を振りかけてきやがった。

 ギロリとこっちを睨み付けてくる同じ学科の連中が全員コナン君に登場する犯人の黒タイツに見えてきやがった。

 

「零士ィィ、お前も一緒にこっちに来て遊ぼうぜぇぇぇ!!」

「勿論、俺らが鬼でお前らが逃走者なぁぁぁ!!!」

「集合場所は裏山だけど、面倒なら俺らが連れてってやるよ。ただし、ロープでぎっちりとふん縛ってなぁ!!」

 

 犯罪行為を隠そうともしない態度は、いっそ清々しいぐらいに最低だった。

 このままいけばマジで裏山に連行されて明日の新聞の一面を飾りそうだったので、仕方なく俺は食事に使用していたフォークを握って奴らの方へ向ける。

 

「なんだ、せめてもの抵抗かぁ?」

「けっ!そんな食器1つでなにが出来る!!」

 

 スコップを片手に自信満々の様子で近づいてくる馬鹿共に、フォークの先端部分をデコピンで吹っ飛ばして顔の横スレスレに突き刺してやる。

 

ズバァン!!!

 

「「「「はぁっ……?」」」」

「ヤル気なら文字通り死ぬ気でかかってこい」

 

 そのフォークが突き刺さった壁を見て、馬鹿共は青ざめてようやく俺と自分達の力量の差を理解したようだ。

 

「まあ、1人ぐらい見逃したところでな?」

「今回は北原が古手川さんに手を出した件についての問題だしな」

「さぁて、変態の処理に動くとするか」

「おい、こらぁ!!!」

「ビビってんじゃねえぞ!このチキン共めぇぇぇ!!!」

 

 フォークの一撃にビビった馬鹿共は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 これでようやく食事に戻れると思ったその時だった。

 ガシッ! 俺の肩が背後から何者かによって掴まれる。

 

「零士!お前って彼女いるよな?だったら、彼女の友達紹介して合コン組んでくれよぉぉぉ!!!」

 

 悪霊かと思えるぐらいに気色悪い顔をした北原が後ろに立っていた。

 どうやら、命乞いの為に合コンを組むと無茶を言ったらしい。

 それで俺に協力を要請してきたようだが、無論のことながら断らせてもらう。

 俺にメリットがないし、なによりひとりの友達なんて結束バンドの連中しかいないからな。

 そいつらも今は東京でわざわざ合コンの為に伊豆まで来させる訳にはいかねえし。

 

「なんでだよぉぉぉ!!!もう俺らの命が助かるにはお前が協力してくれる以外に道はねえんだ!!!」

「そうだ!お前が彼女の友達を紹介させるだけで善良な一般大学生2人の命が助かるんだぞ!?」

「すまん、俺とお前らの眼球の光の屈折率が違うのかもしれねえわ」

「「っ!!!」」

 

 何故だろうか?俺はただ真実を告げただけだというのに、獰猛な野犬みたく襲い掛かってきやがって。

 まあ、襲われたところで返り討ちにして黙らせるんだけどな。

 そもそも、やはり治安面でかなり不安が残るな。まだ一か月程度の生活だというのに、ここの連中の民度が低すぎて引っ越しを本気で検討している自分がいる。

 

「あの、考えに耽るのは結構なんだが、まずは俺の顔を掴んでいる手を離してくれないか」

「か、顔が潰れる……」

「おっと……」

 

 襲い掛かってこられたから顔面を掴んで無力化していたことを忘れていた。

 まあ、別に顔面が潰れても北原と耕平なら問題ないだろう。前者は変態だし、後者は3次元には興味がないようだからな。

 

「とりあえず、俺の彼女を当てにするのは止めとけ」

「クソォ!こうなったら梓さんに土下座で頼み込むしか……」

「いや、まだ手はあるぞ耕平……」

 

 北原が何かを思いついたのか、ニヤリと笑う。

 ユラリと幽鬼のように立ち上がり、一緒に食事していたひとりを指さすと、北原は鬼の首を取ったように勝ち誇ったゲス顔で叫ぶ。

 

「零士!お前、彼女がいるのに別の女と一緒に食事してるなんてどういうことだ?それも随分と親しそうな関係でぇ!?これは浮気と断定されかねないなぁ!?」

 

 ここで同類のクズである耕平も北原の意図を的確にくみ取る。

 

「それは一大事だ!だが、親友ならばこの事を胸の内に秘めることもやぶさかではない!」

 

 まるで地獄に天上から蜘蛛の糸が垂れて来るような気分の2人だ。

 これで俺から弱味を握ったと思ったのだろう?残念だったな、馬鹿な北原はまるで気づいていないが、その彼女が目の前で座っているひとりだ。

 当の本人であるひとりはこの状況にまるでついてこれずにえっ?えっ?と困惑しているばかりだ。

 

「いいぜ、俺はどうもしねえから好きなようにしろよ」

「えっ?本当にいいのか……?」

 

 まさかの返答に本気で困惑する北原。まあ、それもそうだろうな。

 どうせ、奴の当初の思いついた作戦では、この時点で俺が土下座で頭を下げてゲスの提案を受け入れて修羅場を回避する選択を取ると予想してたんだろう。

 

「おい、どうするんだ北原!?」

「ええい、そう焦るな。まだ手は……ない」

 

ボコスカバキッ!!

 

「やれやれ、粗大ゴミを1つ出してしまったな」

「耕平、貴様……」

 

 とんだ期待外れだとばかしに北原へ容赦のない耕平の鉄拳制裁が与えられた。

 そのまま床に汚物として捨て置かれる。おい、ゴミ処理ぐらいしていけ。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「うぅ……、て……天使?ってか、あれ?」

 

 心配して駆け寄ってきたひとりの姿を見て、北原の奴もようやく気付いたようだ。

 普段は手入れもせずに顔を隠すほどの前髪で邪魔されてその顔をよく見ることは出来ないが、下から覗き込む形になったことで、その顔がはっきりと見えたことによってひとりが俺の彼女だと気付いたのだろう。

 

「おまっ、この子!?」

「まあ、そういうことだ。合コンのセッティング頑張れよ」

 

 そう言って、俺はひとりを連れて先に席を立って食堂から出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 番外編 死の団結力

 

 

 

 クズな大学生の楽しみといえば酒とギャンブルと相場は決まっている。

 ここ伊豆大学の学生は特に酒に関しては一家言あるぐらい拘りが強い。

 北原と耕平もその例に漏れず、週に1度は大学のサークル活動以外にも友人宅で宅飲みを実行するくらい酒好きである。

 

「ビール買ってきたぞ」

「ついでにスピリタスもな」

 

 現在、山本宅には北原、耕平、山本、野島、御手洗、藤原(影の薄い人)の6人が集まっていた。

 山本の自室は1LDKと一人暮らしならば問題ないが、男6人が集まれば流石に狭く感じる。

 だが、そんな窮屈な環境であろうとも、酒盛りをするのは大学生にとって最高の贅沢だ。

 

「おっせぇぞ、お前ら」

「焼き鳥が冷めちまったじゃねえか」

「罰として酒代はお前ら持ちな」

「ふざけんじゃねえ!」

「折半だ!折半!!」

「まあ、まあ、んじゃ乾杯っと」

「「「乾杯──」」」

 

 山本の音頭によって酒盛りが開催された。

 しばらくは各々が買った酒やつまみを食べながら雑談していたが、ふと山本が思い出したように話題をふった。

 

「そういやよ、この前の准教授の奴が出したレポートの課題で零士の奴に俺メッチャ助けられたんだよな」

「おっ、お前もか」

「野島もかよ。まあ、俺もこの前の授業のノート見せてもらって助けられたクチなんだけどもな」

「なんだ御手洗もかよ。ってか、この中で零士に助けられた覚えのない奴なんていないだろ」

「違いないな……」

 

 そう言って、北原は缶ビールを空にすると、残っていた酒を一気に飲み干して次の酒に手を付ける。

 酔いが回って気分もよくなり始めたのか、折角なのだからと日頃の感謝も込めて誘ってやるかと満場一致で零士を宅飲みに招待することを決めた。

 早速、北原が零士の電話で呼び出しにかかる。

 

「よっす、どうした?こんな夜更けに」

「いや、今さ山本の家で宅飲み中でさ、暇なら……」

「悪いな、今日は用事があるから行けねえわ」

「おっ、そうか……。ならまた今度……」

「……あの、お風呂上がりました」

 

 突如、電話越しに聞こえる女性の声に童貞の嫉妬の炎が揺らめく。

 

キサマ、彼女とヤるつもりだな

「「「「っ!?」」」」

「まあ、……ご想像にお任せするわ」

 

 余裕の笑みとともに送られた言葉に北原は血が滲むほど唇を強く噛んでしまう。

 ブツリと電話が切れると、北原は床に拳を叩きつけて立ち上がる。

 

「よ~し、お前ら!戦争にいくぞ!!!」

「「「「………………」」」」

「おん?どうしたお前ら?」

 

 いつもならば嫉妬の炎を燃え上がらせて北原に同調して立ち上がる筈の5人が、何故か立ち上がってこないことに北原は疑問を抱く。

 

「いや、零士に歯向かうとか自殺行為だろ」

「それに、アイツの彼女っていつも講堂の後ろにいる地味なピンクの子だろ?」

「わざわざ闇討ちするほどの相手じゃねえな」

「それに俺ら、アイツと喧嘩して勝てる自信あるか?俺はねえぞ?」

「俺もだ。北原は?」

「いや、俺もあるわけねえだろ……」

 

 5人の返答を聞いて、北原は冷静になって考え直す。確かに零士を闇討ちするのはリスクが高すぎる。もし仮に勝てたとしても、その後で報復されるだろう。

 それでもこうして自分らが寂しく宅飲みしている間に、恋人とお楽しみ中というのは許せない。

 

「確かにお前らの言い分も分かるが、それでも俺は奴に一矢報いてやりたいんだ!」

 

 北原の執念は固い。こうなったらもう何を言っても聞かないだろうと誰もが諦めたその時だった。

 

「だったらこれを見ろ!!」

「なっ、それは……!?」

 

 北原がスマホに保存していた写真を皆に披露した。

 その写真は、以前PaBが人手不足で零士をアルバイトとして雇い、迎えに来たひとりが宴会に巻き込まれた時のものである。

 

 これは梓さんが飲む度数の高い酒を誤って飲み、酔っ払ってはいつもと異なったひとりの姿になった時の写真であり、北原はその時の写真の隠し撮りに成功している。

 前髪が上がり、酔って頬が赤らみ、普段のおどおどした態度もなりを潜めて大胆になったひとりは、とても魅力的で北原も思わず見惚れてしまったほどだ。

 

「っく!これがピンクジャージの子だと!?」

「し、しかし、これだけで襲撃を仕掛けるのは……」

「なら、これでどうだ!?」

 

 更に畳み掛けるように写真をスライドしてもう1枚の写真を披露する。

 

「ぬおおぉぉぉ!!!」

「こ、これは……!?」

「ふおおぉぉぉ!!!」

 

 酔って暑くなったひとりがジャージを脱いだ状況を撮ったものらしく、シャツ1枚の状態で普段はジャージで隠されている胸部装甲が大胆に晒されている。

 写真越しに見ても巨乳と判断できるほど盛り上がっているそれに5人の視線が釘付けになる。

 

「けしからん!けしからんぞぉぉ!!」

「み、認めねえ。これは俺に対する挑戦か!?」

「まさかここまでのバストサイズを持っていたとは!?」

 

 ひとりが酔っ払った時の写真に5人の理性は崩壊寸前だった。

 その寸前をぶち壊すように北原が叫ぶ。

 

「いいか、これは生で見た俺の主観なんだが、ジャージで隠れた胸から察するに着瘦せするタイプと見た。そんな俺が予想するに、シャツを脱いだ彼女のサイズは……Hカップだ」

「「「「ゴクッ!!」」」」

 

 5人の理性が崩壊する音が聞こえた。

 美少女+巨乳とのセッ○スを許せるほど、クズ共の怒りは浅くはなかったのだ。

 

燃料()を補給しろ!」

手土産(凶器)の準備もバッチリだ!」

戦争(血祭)の開始だ!!」

 

 手当たり次第に酒をがぶ飲みし、恐怖する理性を溶かして、各々が釘バットを装備する。

 

「いや待て!肝心な事を忘れているぞ!」

「なんだ!?野島?」

「俺達の中で零士の家を知っている奴はいるのか!?」

「「「「っっっ!!?」」」」

 

 しまった!確かに野島の言う通り、零士は宅飲みに自宅を使うことはなく、大学近くに住んでいるようでもないみたいだし、誰も奴の家を知らない。

 これでは襲撃を掛けるのが不可能になってしまう。

 奴の行動範囲から絞りだして、手当たり次第に周囲を探索するという手もあるが、それでは発見した時には既にヤることヤった後になる可能性が高い。

 

「クソッ!時間がないっていうのによ!」

「神よ!何故我らにこんな仕打ちをするのですか!!」

「これでは奴がヤっている間、俺達は歯嚙みして待っていることしかできんではないか!?」

 

 神に祈り、天を見上げて涙を流す。しかし、神は救いの手を差し伸べてくれないと思っていた。

 まさにその時だった。

 

「いや、俺は奴の住処を知っている」

「本当か、御手洗!?」

 

 皆の絶望に光を与えてくれるかのように、御手洗が声を上げた。

 御手洗は何やらスマホを操作して、とある地図アプリの画面を北原に見せる。

 

「こっ、この表示されている場所はまさか!?」

「そう、奴の住所だ」

「しかし、どうしてお前がそれを知ってるんだ?」

「ふっ、俺の家と大学までの道の中間地点に奴の家があってな、前に偶々一緒に帰った際に知ったんだ」

「でもいいのか、御手洗?前にあんなことがあったのに*1

 

 山本が御手洗に確認をとる。

 確かに、以前御手洗が一足飛びに邪魔を仕掛けた事があった。その時の怒りを御手洗は忘れてはいなかったはずだ。

 それなのに、今回のような妨害行為を助長するような真似していいのか? その質問に、御手洗はニヤリと笑って答える。

 

「何を言っているんだ?仲間同士なんだ。喜びは共有し、悲しみは分け合うものだろ?」

「へっ、お前ってやつは……」

「まったく、クズの癖していいこと言いやがるぜ!」

「そんじゃ、お前ら!襲撃に出掛けるぞ!」

「「「「おおぉぉ!!!」」」

 

 血走った目で凶器を持った集団が零士の家へ襲撃しに走る。

 

 

 

「あの、電話の邪魔しちゃいました?」

「ん?いや、ただの飲みの誘いだ。ひとりが気にすることはねえよ。そんなことよりも……」

「あっ///」

 

 ソファーに風呂上がりのひとりを押し倒し、寝る前のイチャイチャを楽しむ。

 顔にかかった前髪をどかしてじっくりとひとりの顔を見つめると、顔を赤らめながらも大人しくされるがままに受け入れる。

 そのまま、ゆっくりと顔を近づけて……。

 

 ピンポーン

 

 タイミング悪く家のチャイムが鳴った。

 このタイミングの悪さ、まさかと思いつつもいくらなんでも早すぎるし、あのクズ共もそこまでの命知らずではないだろうと無視を決め込む。

 

「鬼龍院さ~ん、郵便で~す!」

 

 玄関先から聞こえてきたのは郵便配達員の声だった。余計な心配だったかと思ったが、そもそも今日荷物が届くような買い物をした覚えがない。

 仮に実家からの仕送りにしても、時期が早すぎる。

 

「あの、出なくていいんですか?」

「いや、荷物の配達なんて頼んだ覚えがねえ」

 

 取り敢えず、配達員を待たせるのは悪いと応対に向かう。

 一応の用心として、ひとりに少し離れたところで待っているよう告げてから玄関へ向かう。

 

「ご注文のAV200本の詰め合わせセットお持ちしましたよー」

 

 玄関の扉を開けようとする動きがピタリと止まった。

 

「れ、零士君!?えっと、買っちゃったの?」

「いやいや、そんなわけねえだろ」

 

 極めて冷静にひとりの誤解を解かんと試みる。

 だが、ひとりは何やらもじもじと恥ずかしそうにして視線を逸らしてしまう。

 

「ひとり、俺がそんなもん見る暇があるなら、お前の裸を見て興奮する人間だって知ってんだろ?これはあれだ、大学のクズ共の仕業だろ」

「えっ?ああ、北原君達が来たってことですか」

 

 あの人付き合いとは無縁なひとりでも、クズという単語1つで北原だと1発で理解するとは。どんだけアイツのクズさが周知されているか理解できるというものだ。

 さて、これ以上の邪魔が入らないうちに寝室に移動するとするか。

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 御手洗の案内の元、無事に零士が住んでいる家に辿り着いた。

 

「クソッ!大学生の1人暮らしで一軒家とは生意気な!」

「これが実家の資本力の差ってやつなのか、妬ましい!!」

「ええーい!そんなことに目を向けている場合か!?あれを見ろ!」

 

 狭いアパート暮らしの山本と野島が同じ大学生の身でありながら、一軒家に住んでいる零士を妬む。

 だが、北原はそんなことをしている場合ではないとばかりに、外から見えるリビングの明かりを指さす。

 

 状況から察するに、奴らはまだベッドインはしていない。恐らくは本番前の雰囲気作りでイチャイチャを楽しんでいるのだろうと考察できる。

 死ぬほどムカつくが今回に関してはグッジョブだ!もし2階の寝室にでも移動されていれば邪魔をするのは困難だっただろう。

 

「最初はどう妨害する?」

「ここは前回の御手洗を妨害した策を再利用という形でどうだろうか?」

「いいんじゃないか。あれは普通に邪魔だったし」

「よーし!前回経験者のお墨付きだ!!早速仕掛けるぞ!!」

 

 北原がチャイムを鳴らして郵便配達員の偽装で誘き出す。

 リビングの方で人の動く気配がするが、中々玄関の扉が開く気配がない。

 

「どうだ?」

「いや、警戒されているみたいだ。早くせねば2階へ上がられるかもしれん。山本ぉぉぉ!!!」

「まかされよ!」

 

 その両手に掴んだAVを涙を流しながら玄関ドアのポストへと投下していく。

 御手洗の奴はゴリ押しの強行突破で切り抜けようとしたが、零士の奴はどう対処するのか見ものだぜ!

 

「あ、あの、これHなやつですよね?なんでこんな物を?」

「そりゃ、俺らの夜のお楽しみを邪魔する為だろ。おっ、見ろよ緊縛モノあるぜ。今度縄でも買って再現してみるか?」

「むむむ、無理です絶対!だって、零士君のおっきいですし、興奮するとすぐ激しくしちゃうんですもの。身動きできない状態でしちゃったら、私……壊れちゃいます///」

 

ぐっふぁっっっ!!!?

「「「「「や、山本ぉぉぉ──ー!!!」」」」」

 

 犠牲の成果(AVの投下)を確認しようと玄関の扉に耳を当てて中の様子を探っていた山本が、あまりの精神ダメージの大きさにその場から吹き飛んだ。

 それはさながら、スマブラで撃墜されたときのように綺麗に宙を舞い、背中から落ちた山本はピクリとも動かない。

 

 安否確認の為に山本に近づくと、嫉妬の赤い涙を流しながら股関にテントを張っている山本の姿がそこにはあった。

 永世不名誉童貞である山本が聞くには酷でH過ぎるリアルなカップルの会話に、一撃でKOダメージを受けて倒れたのだろう。

 

 しかし、これで邪魔者チーム1名撃破である。残るメンバーはクズ虫5人のみ。

 打てる手はまだあれど、下手を打てば山本の二の舞になりかねない。

 

「くっ、これが体目当てのカスの御手洗とは違う、純粋なカップルの実力か!?」

「ああ、クズの御手洗を妨害する以上の困難さだぜ!」

「クソォ!虫野郎の御手洗と違って、彼女の方も純情で可愛いじゃねえか!」

「お前らの敵って俺だったっけ?」

 

 いつの間にか攻撃対象が御手洗に切り替わっていたが、いつものことなのでご愛嬌だ。

 しかし、ここでいつまでも手をこまねいているわけにはいかない。

 ここは確実に2人の夜の邪魔をして、本懐を遂げさせてはならない。

 だが、あの純愛カップルに通用する手はあるのだろうか?

 

「っ!待て、俺は恐ろしいことに気づいてしまったかもしれん」

「どうした、野島?」

「さっき、山本が吹っ飛ぶ前に聞こえてきた奴らの会話。あの時の彼女の最後の台詞を思い出せ!!」

「最後の台詞って確か緊縛プレイを提案されて断った……っは!」

 

 ここで北原も野島の言いたい事が理解できた。

 そう、何故彼女が零士のブツのデカさとプレイする際の動きを知っているのか?

 導き出される結論はただ1つ。奴ら……もう既にヤっている!?

 

 その答えに至った瞬間、童貞共の嫉妬の炎が憤怒と化す。

 もはや手段など問う段階はとっくに過ぎ去った。殺るならば確実にイケるであろう、あの方法を使う他あるまい。

 

「耕平、もう小細工を弄する段階は終わった。こうなれば、御手洗を止めたお前のミックスボイスに全てを賭ける!」

「な、なにぃ!?いやいや、待て北原!なんで俺がそんなことをせないかんのだ。そもそも俺がここにいるのなんて酒で酔った勢いもある。お前も知っているだろう。前にPaBで宴会した際、零士の奴が時田先輩と寿先輩を腕相撲で両手で2人同時に倒したのを!あれを見て戦いを挑むなんて馬鹿にもほどがあるぞ!!!」

「ほぉ、どうしても嫌だというんだな?」

「そんなの当たり前だ!!!」

 

 北原からの頼みに耕平は断固として拒否する。

 そんな耕平の態度に北原はガシッと手を掴んで誠意をみせる。

 

「おい、気味悪いぞ!何をされたところで俺は協力はせんからな!だからその手を離せ!!」

「耕平、お前確か今期のアニメのグッズを買う予算が足りないと嘆いていたな?」

「……それがどうした?いやまさか!?」

 

 嫌な予感がするが、それでも恐る恐る自分の手を握っている北原の手の中を確認する。

 そこには大学生にとっては破格の五千円が握られていた。

 

「き、北原、お前……!?」

「いうな、耕平。それもこれも全ては俺達の友情の為だ」

「北原、お前って奴は……」

「今村。俺も北原と同じ気持ちだ」

「死ぬときは一緒にってな!」

「おいおい、仲間外れは困るぜ」

「野島!御手洗!藤原まで!!」

 

 それぞれの手には札が握られており、身銭を切ってまで奴らの行為を邪魔したいという執念には感服させられた。

 決して、今期のアニメグッズを買うお金に余裕がないというわけではない、ないのだがアレは彼らの誠意というものだから受け取らないわけにはいかないだろう。

 

「よかろう!この今村耕平。友の助けを求める声を無視する薄情者ではない!!!」

 

 渡された賄賂を受け取った耕平が演技がかった台詞と仕草で拳を高らかに掲げた。

 その耕平の決意を全員が拍手で称える。クズ同士の友情も中々に悪くない。

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

「さて、色々と邪魔が入りそうだし、2階に行くか」

「あの、無視していいんですか?お友達……ですよね?」

「ああ、普段はな。けど、こういう状況じゃ悪霊よりもタチの悪いモノノ怪に成り代わる類の奴らだ」

 

 実際、顔の醜悪さは今村を除けば精神汚染レベルの化け物共だからな。

 特に野島と山本は頭1つ抜けた醜悪さだからな。なるべくひとりの目には触れさたくなはない。

 

 流石に2階へ行けばあのクズ共も邪魔だてすることは出来ないだろう。

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「零士君!会いに来ちゃった♡」

「ちょっと、零士君!この女誰よ!?」

「零士お兄ちゃ~ん♡寂しくて来ちゃった!!」

 

 外から聞こえてくる複数の女の声に俺は即座にこの声の持ち主の正体が誰なのか思い至った。

 

「れ、零士君?外に女の人が来てるみたいだけど?外にいる北原君の呼んだお友達かな?で、出たほうがいいんじゃ?」

「問題ねえ、クズ共に超えちゃいけねえラインってのを教えてくるから、ひとりはちょっと待ってろ」

 

 外から聞こえてくる女性の声を聞いて、ひとりが微塵も俺の浮気等を疑っていないから良いものの、俺はあのクズ共を生かして帰す気はない。

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

「ナイスだ耕平!」

「やはり、女声の真似をさせたらお前の右に出る者はいないぜ!」

「正直、まだあの件の事を忘れたわけじゃないが、今回はグッジョブだ!」

「ふっ、そう褒めるな!」

 

 見事なミックスボイスによる演技に北原達は拍手を送る。

 これならば、熟年夫婦であろうとも熟年離婚は確定の浮気現場を演出だ。

 さあ、俺達を置いて1人だけ彼女とイチャイチャした罰だ!!存分に土下座して言い訳でも垂れていろ!!

 

 ガチャ

 

 玄関の扉の鍵が開く音が聞こえた。

 その瞬間、気絶していた山本も立ち上がって全員が武器を構えて待ち構える。

 皆理解しているのだろう。ここまでやっておふざけでした!では済まされないことを。

 ここまできたら後はもう殺るか殺られるかのどちらかだと。

 そして、遂に扉が開かれて……。

 

「ついに観念して出てきたか!!」

「年貢の納め時だ!!」

「モテない俺らの恨みを知れぇぇぇ!!!」

「お前も道連れだ、零士ぃぃぃ!!!」

 

あ゛あぁん゛!?

 

 家から出てきた不機嫌さMAXな零士の顔と声を前に、生物的な格の差による恐怖から酒が抜け、全員が武器を放り投げて蜘蛛の子を散らすように急いで逃げ出した。

 

「御手洗がこの家の住所を教えました!」

「野島が酒飲んで襲撃かけようぜって言いだしました!」

「家に入れたAVは全部山本のです!」

「女の声で叫んでたのは今村です!」

「今回の一件の発端は北原からです!」

「ちょっと待てお前らぁぁぁ!!!」

 

 藤原、御手洗、野島、山本、今村の順にほぼ一列になって逃げだしたが、一番扉に近かった北原が逃げ遅れて零士に捕まった。

 そこから芋づる式に前を逃げるクズ共(同士)を道連れにせんと北原が手を伸ばして耕平を捕まえ、捕まった1人がまた前のクズを捕まえてを繰り返し、結果として全員が後ろの奴に捕まっているという奇妙な光景が出来上がっていた。

 

「北原、は~な~せぇ~!!」

「誰が離すかぁ!!」

 

 耕平も必死になって逃げようとするが、それ以上に北原が腕を掴む力が強すぎて振りほどけないでいた。

 それは前を走っていた4人も同様で、後ろの奴が逃がさんと掴む力が強すぎるせいで逃げられずにいた。

 

「今村!この手を離せぇぇぇ!!」

「それはこちらの台詞だ!さっさと手を離せ永世不名誉童貞がぁ!」

「ええい!貴様らには友を逃がそうという気持ちはないのか!?」

「ここは任せて先に行けとぐらい言ってみろ!!」

 

 全員が後ろの手を振りほどこうと必死に腕を引っ張り合うが一向に離れる気配がない。

 そんな醜い綱引きをしている列の最後尾にいる零士が深呼吸を1つし、ありったけの力を込めて纏めて一本釣りにする。

 

「「「「「「うおわぁぁぁぁ!!?」」」」」」

 

 釣られた6人は仲良く宙を舞い、重力に従って地面へと落ちていく。

 

「「「「「「ぶぎゃっ!!!」」」」」」

 

 受け身もとれずに落下した6人が、呻き声を上げて痛みを堪える。

 そんな無様に地面へと落ちた6人が顔を上げると、そこには冷淡な顔で出荷前の家畜を見るような目をした零士が佇んでいた。

 

「何か言うことは?」

 

「「「「「「コイツらが勝手にやったことで、俺は一切関係ありません」」」」」」

 

 あらかじめ台本を用意していたかのように、クズ共は息のあった言い訳を吐き出した。

 当然の如く零士にそんな言い訳が通用するわけもなく。きっちり全員キツイお仕置きをされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日

 

 

 

「いてて……」

「どうしたの、伊織?」

「いや、昨日の夜にいつもの連中と宅飲みしてたんだが……」

「ああ、どうせまたいつものくだらないことしてたんだ」

「くだらないとはなんだ!?あれは男のプライドを傷つけられた、いわば聖戦なんだ!!」

「あっそ、それよりもさっさとその傷治しなさいよ。塩水は痛いからね」

「ぬぅ……」

 

 素っ気ない対応で流されてしまったが、それでも傷の心配をしてくれるあたり優しいのだろうか。

 これが俗に言うツンデレだとしたら、もう少しデレの部分を強く出してくれると助かるのだが。

 

「おいーっす!」

「おっ、やはり来たか!」

「昨日あれだけボコられて普通に出席できるとか、俺らもタフだよな」

 

 既に講堂に着いてた昨日のメンバーが顔に包帯を巻きながら普通に談笑していた。

 俺もそうだが、やはりコイツらの生命力はゴキブリ並みだな。背後霊にゴキブリの霊でも憑いているのではあるまいか。

 

「おーっす、クズ共」

「あっ、零士。おっす、昨日は激しい夜だったな」

「おい、言葉には気を付けろよクズ。昨日みたくボコすぞコラぁ」

 

 おっかない言葉だが、こいつがそんな簡単に拳を出す奴じゃないのを知っているので、俺はヘイヘイと答えて席に着く。

 

「あっ、そうだ山本。お前に渡すもんがあんだ」

「ん、なんだ?」

「野島が言ってたんだが、昨日の俺の家に入れたビデオ全部お前のなんだよな?これ、紙袋に入れておいたから、持っていってくれ」

 

 そう言って、零士は紙袋に入った10本以上のビデオテープを山本に渡した。

 

「おお、悪いな、わざわざ持ってきてもらって」

「いいって、気にすんな。なんせ、昨日は色々と勉強させてもらったんでな」

 

「「「「「「…………勉強?」」」」」」

 

 そういえば、いつもは一緒についてきている筈の零士の彼女の姿が今日は見えない。

 ここで北原達に電流走る。

 

「なあ、零士。山本のこれで勉強してたんだな?」

「ああ、そうなるな」

「もうひとつ質問いいかな。いつも一緒に来るはずの彼女の姿が見えないんだが、あの子は何処にいる?」

「「「「「っ!」」」」」

「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 その後、講義が始まるまで再びの喧嘩が勃発し、零士を除く全員が傷を増やしたのだった。

 

*1
原作5巻の番外編




もしかしたら、ぐらんぶる読み返してこのシーンに零士とひとりの絡みを入れたいって思ったら続編書くかも!?

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