夜の太陽   作:夜鷹ケイ

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夜神の後方保護者メンツ

 さて、伐難がウェシル……<夜神の後継者>の名を騙った件については、面倒なことにも遡った時代に居るシュバランケの耳にも届けられることとなった。

 それも、勇者として目覚ましく活躍の一歩を踏み出したばかりの若葉の頃の両肩に未来のナタの篝火を守れと言うのだから何事だって話だろう。しかして、シュバランケ将来の真っ直ぐぶつかりに行く性質のおかげで「未来の弟子か!なら守ろう!」と前向きな言葉に背を支えられることとなったウェシルは、自分のことをあらよっと棚にあげて「オッサン変わんねェなァ…」としみじみ思い耽っては呟く。

 ブーメランをぶん投げる彫刻のような、作品の世界から飛び出してきたと言われた方が納得できるうつくしさを曝け出す青年の姿に、過去と現在と未来のシュバランケは同じようにしみじみと「それをおまえさんが言うのか」と思ったものである。

 シュバランケもウェシルも。双方を知る者がいれば、なんとも物言いたげな表情で「似た者師弟め…」と呆れ返ってくれることだろう。マァとどのつまり、子どもは大人の背を見て育つと言うけれど、実にそう言うこと(似た者同士)だった。

 会談に応じてくれたのは、璃月もナタもまさしく国づくりの最中のことである。英雄として覚醒して最期までやり遂げた神として在する全てをやり遂げたシュバランケ(耀き太陽と睡む夜に託した英雄)から、名を挙げるシュバランケ(今を生きる英雄)に、直接ウェシルの相談事を語って聞かせて、せっかくだから対応しろと大昔の自分をせっつき回したのだと言うのだからなんとも言えない。

 そう言えば師匠(せんせー)って、成長期入ってからぐんと伸びたオレの顔見て何やら納得したような懐かしさを覚えたような顔をしていた。

 ふとそんなことを思い出し、冥界と一緒に生きていた時代が時代なだけにこうして過去に邂逅はしていたのだろう。合言葉のように繰り出される言葉は「まったくオマエは昔っからそうなのだ。」という呆れ声だったし。ある夕暮れ時に歴史を語って聞かされたこの時から先生のこと振り回してたんだなあ、とのちにマーヴィカに言われることになるのだが、そんな先生に育てられたといっても過言ではないウェシルはそれですら「せんせーならなんとかしてくれンだろ!」と前面の信頼と信用を振りかざしてくる。真正面から松明(信頼)を振りかざして迫ってくるんじゃありません、とほのほの気分で注意しつつも甘やかしてしまうので、比例してウェシルの遠慮レベルもゴリゴリ減ってくという循環は完成した。故に、シュバランケの苦労はとどまることを知らず、けれども何ならウェシルに振り回されて嬉しそうだ。

 余談ではあるのだが、その後「そういや一日しか先生っていらんないんだっけ? じゃあ大事なこと言うから聞いてくれ。師匠のところの弟子が一人マーヴィカの、娘さんの家族の枠を頂きたい!」などと返事も聞かぬまま間髪入れずに婚約宣言(告白しますよって報告)兼ねてしやがりもするので、やがてきたる未来で師匠と妹弟子は剥き出しの愛情にド直球に被弾することが確定した。

 前者は告白はまだしとらんかったんか!気が早過ぎる!流石はワシの弟子!と狂喜乱舞の末にひっくり返り、後者はくるっと向き直った兄弟子の真摯な瞳にぶち抜かれながら「ナタにおける懸念事項は解決した。だから、ちゃんとオレからもう一度言わせてくれ!」と追撃を受けて彼女の髪にも負けぬ暖かさを灯しながら言葉をなくしたままよろめくので、誰か早急にタンカと式場を連れてきてやってくれ。実質、はるか昔の彼女の妹が健在の頃にも「あなた達の宝である彼女に、そして彼女にとっての幸福の象徴であるあなた達に、家族って枠組みの仲間に入れちゃァくれねェかい。」と燃えるような熱を宿した瞳で家族には事前報告のような、真っ直ぐすぎる許可を伺ってくれてたのであの頃にもう結婚したと思ってた、とはヒネの発言だ。

 

 閑話休題。

 

 冥界の神の威光を広く見たとしても「楽だから」と理由で、つまり伐難が私欲で振り回したことに変わりはなく、岩神が統治する璃月で幼子でも分かりやすく例えるならば「岩神を騙って活動した詐欺師」という不敬そのもの。彼を慕う民草はあまりの出来事に眩暈がして、怒りのあまりに身分など関係なく感情を露わにするだろう。

 幾ら当の本人であるウェシルがほのほのと許す気配を出したとしても、これには岩の神を敬愛し傾倒する璃月の子らの一人である浮舎も激怒し、弥怒も説教をすることで如何に愚かな行為であるか認識を植え付けざるを得なかった。彼だから、その首は胴体と今もなお繋がっているのだと知れとまで怒号が聞こえてくる。いくらなんでも脅かし過ぎじゃあないか、ウェシルはちょっぴしビックリした。

 

「妥当な教育だ。」

「そうなのか? オレァ夜神の後継者になってからは、オレが本当に小さな頃からを知ってる人たちばっか相手だったンだ。先生もそうだが、兄さんたちに守られてるってェのだけは理解してた。けど、視界に映っただけ(そンな理不尽)が罷り通っちまうのが、今の時代なのか?」

 

 理不尽が過ぎる、と呆然とした表情で呟くのは比較的平和な未来を生きるものであることの証拠であり、岩神の望んだ人民の平和は築かれることの証明だった。ナタに遊びに来た璃月人と口にしたその時からその傾向は見て取れたのだけれど、より確信的な希望の象徴であることを認識したのである。

 子どもや孫なんてものは居たことはないけれど人間たちが小さく幼きものたちにやるように、ほんのり琥珀の瞳に暖かな色を滲ませて悠々と頷く。

 

「なるほど。炎神の庇護下にあった稚児なら、その幼さの通りか。生まれたばかりの仙児……魔神の子として接するべきだろう。その強さにおける被害も、癇癪か。」

 

 うへえ、と岩の龍から放たれた言葉にわかりやすく顔を顰めてみせるウェシルの様子にモラクスに納得したように同意し、仙人たちは恐れ慄くような瞳の中に柔らかさが宿った。人ならざる身は子が成しにくく、無事に生まれてきた子どもは一族徒党で可愛がる愛し慈しみ育てる傾向にある。つまり、おまえはまご。

 なァに言っとンだ。ぶっ飛んだ発言に硬直しながら炎神シュバランケと事を済ませてくると言って立ち去ったモラクスを見送って。夜叉たちのお説教を見学する。数秒経ってモラクスインパクトから回復したことで今やってるのが悪趣味だと思い直し、なるべくお説教を聞かないようにして冥界の道を補強する作業を続けることにした。此処が職場なので、道が定まるまでは門を作るウェシルも動くわけにはいかない。遠く離れられないウェシルはむしろお家でやってくンねェかな教育ってのは、と遠目になる。一般市民が差し入れに持ってきてくれるたびに遮音するのは、別の意味で無駄な力を浪費するのだ。

 長兄と二番目の兄のような気配に彼らはウェシルに向き直るや否や伐難への対応が遅くなってしまったことを詫びてくるので、ひとまず認識の改めは必要だろうことで璃月を駆ける許可を受け取り、民らの記憶に「夜」を残すことに成功したウェシルはこれを許す。

 というかそもそも伐難の体に負荷がかからぬ程度であれば、姿を真似ることは以降も許可する方向だったのだが、夜叉一族たっての懇願で取りやめることとなった。そこまで徹底するべきものか? と思わんでもなかったウェシルだったが、それは彼が知る唯一の魔神が「炎神シュバランケ」であることの弊害が両者の認識の差に出たと言うべきことなのだろう。ナタじゃあ英雄の物語はウォーベンで語り継がれて、吟遊詩人の詩で寿がれ、子どもらは無邪気に英雄の真似事をするので。

 もうとっくに璃月の神とナタの英雄による二者面談が行われている。さっき出たばかりのモラクスは、ブエル。マハールッカデヴァータから国境を借りる許しを得て、ナタの炎神と夜神の後継者との関係性を見つめ直している頃だろう。

 ウェシルはその結果を知らねばならないのだが、謝罪は受け取ったし、誤解は解けていることを影の冥界門越しに伝えると会議の状況を教わった。しかも現代の方。

 

「シュバランケのおっさん、本気出し過ぎじゃねェか……?」

『何を言うか、異郷の土地でたった一人で奮闘する我が子のためとなる努力を惜しむ親が何処に居よう! とにかくひたすら汝が動きやすくなるよう、我々の方から取り付けられるだけの約束事を契約として結ぶつもりだ。少し待っておれ!』

「え、ちょ…おっさっ」

『ふーはーはっはっは!』

「押しの強さは全然変わってねェ……」

 

 通信切れたし!あまりの出来事にウェシルは漠然とする。あれは年越しを迎えるたびにモラを捩じ込んでくるシュバランケとなァンも変わりゃしなかった。

 ブルキナに「親戚のおじさんみたいなことしてる…」と言わせしめるように手持ちのモラをウェシルの衣服のポケットに、あるだけ捩じ込まれた時に感じた嵐風のような強引さは若くしても師匠そのものである。シュバランケと同一人物なのだな、と和めたのも会ったこともないウェシルを我が子と呼んでくれたところまで。

 必須科目と言わんばかりにやることなすこと豪快かつ盛大でなけりゃあ炎神にはなれないんだろうか。ウウン、否定するにゃあ、ウチの女神様も結構………なんとなく無茶振りが多かったような?

 そうなんだろうか。のほほんと脳裏で炎神の傾向を頭に浮かべて。結局は、最強が名を馳せることになるのだからと無意味なことはやめた。影から途絶えた連絡は、また後ほど璃月の神を通して「契約」とやらを聞かせてくれることとなったので、ひとまず人間たちの希望を纏めておく。

 安息の地といえば、というふんわりとした印象をだろう。イメージなんてものはそれでいい。ナタではとっくに夜神の国というものがあったけれど、よその国じゃあ明確な冥界というイメージはなかった。

 故に、後から具体的な空間を繕うことが出来るので、大元となる基盤を盤石なものにするために意識を合わせてもらうという意味でも理想となる園を思い描いてもらうのだ。順次機能も一緒に追加して、道を増やして開拓して、守りやすさを優先した造形にし、人と仙人の魂が安らぎを得ることもできる空間を生成していく。

 こんなもんか。出来上がったそこで魔神同士の戦闘が始まり、敗北した魔神を封印するために冥界へと続く門に瘴気を叩き込まれたウェシルは、門を守るのは人の役目であり、冥界を守るのは死の執政であり、道を守るのはウェシルだからと道中で浄化しようと力を練り上げて、酷く悶え苦しむことになったのは言うまでもない。例えるならば食道に熱湯をどばあっと無遠慮に流し込まれたような感覚だったと言う。自分で帰ってきた、なんて感覚はなかったが無意識なのだろう。

 管を通って体内を焼き尽くさんと暴れ回る瘴気に慣れた頃には、ウェシルが慣れ親しんだナタの冥界にその身はあった。身を案じるように、めんどくさがりのサンハジですら魂魄のまま姿形をとってウェシルのまわりを右往左往していたらしい。

 なんとか回復した頃にはシュバランケが憤慨しており、もも……なんたらって名前の魔神をあらんばかりの言葉で罵ろうとして、逆にシンプルな果し状のような言葉に変化してゆくのは人柄だろうと笑ってしまったのは余談である。ウェシルの特異性を利用して、地上に溢れた瘴気を門に流し込むだなんてことをしてくれやがったモンなので冥界への被害をなくすための無茶を押し通したウェシルとて怒りというか、不満というか、矜持を傷つけられたことに思うことはあるのだ。

 

「次に会うことがあればバシッと言ってやんねェとな、オレは浄化の力を持つ魔神だぞっつってな!」

「ナメた真似しやがってオトシまえつけさせてやれ!」

「恩を仇でぶん殴りやがって、ぶっ飛ばせー!」

 

 兄貴分たちが物騒すぎると細々と愚痴ったのは、いつの間にやら冥界入りを果たした穏やかな優男の顔を被った戦夜叉のそのひと弥怒である。細やかな装飾品を生み出した手腕に相応しく慎重かつ繊細な彼は表情の抑揚が少なく一定を保つ。

 

「それは…」

 

 けれども、そんな表情をほんの一部崩すほどには血走った戦士の有り様に、何かしらの既視感を覚え、尚且つ璃月の危機的事情があったとしても、璃月のために冥界の道や冥界の心地を良くしてくれたウェシルを強制的に帰還するほどのダメージを負わせた故郷に何かを言おうとして肩を落とし、「どうぞその時にはお好きなように。」彼らにとってウェシルは末の子なのだと事実を受け入れて、なんなら魔神として誕生したばかりだった幼児相手に大人が揃ってやったことを思えば彼らの怒りは当然のことだと思い至り、潔くそろりと息を吐き出した。

 これは、ウェシルが伐難にしてくれた注意のようなものではなく、璃月から夜神に対する手酷き裏切り行為であったのだから当然の感情なのだ、それは。…当の本人が何も分かってはいないようだけれど。

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