魔界にやって来た元神   作:さすらいの旅人

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予想外の展開

『兵藤選手、まさかのダウン!!』

 

 会場のモニターでは頬を殴られて吹っ飛んだ隆誠が仰向けに倒れてる事で、小兎が信じられないと言わんばかりに叫んでいた。

 

 予選を含めた今までの試合で、開始早々に初撃をまともに喰らったのは一度も無かった。既に隆誠の実力を知る者達は、この展開は一体どう言う事なのかと疑問だらけになっている。

 

「ま、マジかよ……!?」

 

「まさか、あの黄泉に勝った筈の兵藤が……?」

 

「と言うより、やっぱり黄泉との試合で疲弊してるんじゃ……」

 

 未だに起き上がらない隆誠に、観客達が思っていた事を口にしていた。

 

 いくら相手が幽助だからと言っても、彼は黄泉と比べれば実力はまだまだ劣る。それでも無防備に直撃したと言う事は、黄泉との試合で相当疲弊してるのではないのかと考えてしまうのは無理もなかった。

 

「そ、そんな、隆誠様が……!」

 

「嘘だ。何やってんだよ、兵藤! あんなパンチ避けられない訳無いだろう!」

 

 医務室の方でも、モニターを見ている迦楼羅と修羅も観客達と同様の反応を示していた。

 

 その声に反応したかのように、未だに意識を失い眠っている黄泉がピクリと身体を動かしている事に、二人の子供達は気付いていない。

 

 

 

 

「………おいリューセー、一体何の悪ふざけだ!?」

 

 攻撃が当たった事で放心していた幽助だったが、途端にハッとして、倒れている隆誠に向かって怒鳴り散らした。これまで修行相手として付き合ってくれていた際、こんな状況は初めてだったから、彼がこうなってしまうのは致し方ないだろう。

 

「もう一度わざと殴られやがったら、金玉蹴っちまうぞ!?」

 

「それは流石に勘弁して欲しいな」

 

 倒れても全く反応しなかった筈の隆誠は、突如むくりと体を起こす。

 

 すると、彼の口から一滴の血が流れる。すぐに指で拭うと、自身の血をジッと見ていたが、もう興味を失くしたかのように幽助の方へ視線を移す。

 

「悪かったな。三回戦の疲労が突然襲ってきた所為で動けなかったんだよ」

 

 そう言いながら隆誠はゆっくりと立ち上がる。

 

 端からだと冗談のように聞こえるかもしれないが、隆誠は本当に動けなかったのだ。回復アイテムを使って傷や体力を癒しても、黄泉との戦いによる疲労感は完全に取る事が出来ず、此処に来てソレが一気に襲い掛かってしまい今に至る。

 

「まぁそれとは別に、思っていた以上に強くなったじゃないか。これまでの試合で相当経験を積んだようだな」

 

 隆誠は攻撃を受けた際、幽助のパンチ力が修行していた時よりも上昇してる事に気付いた。力を抑える為に付けていたリストバンドを外し、上手く制御出来ている事も含めて。

 

「へっ! 動けなかったとは言え、テメェにそんなこと言われても嬉しくねぇよ!」

 

「本心で言ってるのに……」

 

 (イッセー)と違って素直では無い奴だと思いながらも、隆誠は途端に表情を変える。

 

 その直後――幽助の懐に入った。

 

「ッ!?」

 

「それじゃあ、今度は真面目にやるとしよう」

 

 何の予備動作もなく懐に入られて驚愕する幽助。出鱈目な実力を持っている事を理解してる筈だが、それでもこんな簡単に接近されるとは思いもしなかった。

 

 完全に隙だらけとなってる彼に、隆誠は空かさず腹部に正拳突きを繰り出す。

 

「ごっっ!!」

 

 予備動作もない攻撃なのに、強烈な一撃と示す為に幽助が軽く吹っ飛んでいく。

 

「おまけだ!」

 

 しかし、まだこれだけではなかった。隆誠は次にもう片方の手で大きな球状の光弾を形成し、投擲する。その瞬間、光弾が突如分裂して広がり、そのまま対象である幽助に向かっていく。

 

 隆誠が使ったのは『ドラグ・ソボール』劇場版に出る極悪人キャラのヤサイ人リブロ―、銀河盗賊ジャーボックが使う技――『トラップシューティング』。片手にオーラを集め、放つと同時にオーラが複数に分裂して広がり、対象目掛けて当てる。『滅空包囲弾』より威力は低いが、それでも全て当たれば相応のダメージを与えられるので問題無い。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

 まるで追尾機能が備わっているかのように、分裂した光弾は吹っ飛んでいる幽助に命中し、小さな爆発が起きている。

 

(こ、この技、仙水のアレと同じじゃねぇか……!)

 

 分裂してる光弾を受けている幽助は途端に思い出す。以前に戦った仙水忍が使っていた技――『(れっ)(しゅう)()炎弾(えんだん)』を。隆誠と違って仙水は霊気球を蹴り飛ばしていたが、複数に分散させ放つのは全く同じだった。

 

 幽助がダメージを受けながら過去に浸っている中、残った光弾は全て命中した瞬間、連鎖爆発を起こす。

 

 爆発による煙によって見えなくなるも、それはすぐに霧散した。その先には幽助がうつ伏せで倒れているが、起き上がろうとする気配を見せない。

 

「………ちょっとやり過ぎたか?」

 

 トラップシューティングを見せたのは初めてだが、手合わせしてる時に光弾を撃っていた他、威力もそれなりに抑えていた。にも拘らず、幽助は何故か起き上がろうとしない為、威力調節を間違えてしまったかと内心不安になっている。

 

 いつもなら即座に起き上がってタフな姿を見せているのにと思いながら、隆誠はゆっくりと歩いて、倒れている彼の眼前で立ち止まる。

 

「どうしたんだ、幽助。今度はお前が悪ふざけか?」

 

 隆誠はそう言いながら幽助の頭を掴んで、無理矢理起き上がらせようとする。

 

 しかし、彼は両足を地面に着こうとしない。それどころか、全身が脱力しており、表情もまるで別人と思うほどに変わっていた。

 

「何だその顔は? いつものお前なら、あの程度の光弾を喰らってもピンピンしてる筈だ」

 

「………なぁリューセー、俺よぉ、一体何で戦ってるんだ?」

 

「はぁ?」

 

 突然ふざけた問いをしてくる幽助に、隆誠は一体何を言っているのかと思わず素っ頓狂な表情になってしまう。

 

 その直後――

 

「この大馬鹿者がぁ!!!」

 

「ごっ!」

 

 隆誠は完全に激昂して、幽助の顔面を思いっきり殴った。

 

「お前が言い出したトーナメントじゃないか! ふざけるのも大概にしろぉ!!」

 

 激昂が収まる気配を見せない隆誠は、只管殴り続けた。それを受けている幽助は抵抗する様子も見せず、ただされるがままの状態だった。

 

 余りにも無責任過ぎる発言だったから、隆誠は完全にキレている。今まで何度もバカな事をやっていた彼に呆れはしても、こうまで本気になって怒るのは一度も無かった。もし(イッセー)が此処にいたら頬を引き攣らせているだろう。

 

 因みにこの光景を見ている会場側も、幽助の異変に当然気付いているが、一体何があったのかと呆然と見ている。

 

「いい加減さっさと立て! 次にまたふざけた事を言ったら――」

 

「悪い。何かよぉ、急に、疲れちまったぜ……」

 

「――――ッ!」

 

 またしても無責任どころかトーナメント自体投げ出す発言をした所為で、隆誠の怒りは最高潮に達してしまう。

 

 同時にひどく失望した。周囲を巻き込む大会を提案しておきながら、急にやる気が失せたと聞いてしまえば無理もない。

 

 隆誠は殴るのを止め、その開いた手から光弾を作り出し、そして放った。光弾を直撃した幽助が上空へ吹っ飛ばされた後、彼は即座に跳躍する。

 

「こんのクソガキがぁ!! ふざけんじゃねぇ! テメェの提案に乗った軀や黄泉がどんな思いで全てを擲ったと思っていやがんだ!?」

 

 隆誠がここまで口汚くなるのは、それだけ怒りを露わにしている証拠だった。

 

 今の彼は幽助を徹底的に叩きのめしたいのか、空中で幽助を凄まじい速度で殴り続ける。

 

 

 

 

 

 

(分かってるさ、リューセー)

 

 隆誠の攻撃を只管受け続けている幽助は内心自覚していた。自分がどれだけ無責任な発言をしたのかを。

 

 しかし、理解しても本当に力が抜けてしまって何も出来ないのだ。動こうとしても身体が言う事を聞いてくれない為に。

 

 その際にある事を考えている。自分は一体戦い続け、その目的は一体何なのかと。

 

 幽助はこれまで強敵と戦っていた中で、印象強く記憶している存在がいる。自分を倒してくれる者を捜していた戸愚呂と仙水は、幽助からすると本当の意味で勝っていない二人だから。

 

 自分も二人みたく、結局は誰かに倒されるのが目的になってしまうんじゃないかと結論する矢先――

 

 ――何を情けねぇこと考えてんだ、ガキ。

 

 すると、何処かから聞き覚えのある声がした。

 

(親父)

 

 幽助はすぐに声の主が雷禅だと分かったのか、驚く様子を微塵も見せていない。

 

 ――おめェ、何か忘れちゃいねぇか?

 

(忘れてる? 何だ?)

 

 ――何の為に此処まで来たんだ? 人間界に大事な女を残してまで。

 

(ッ!)

 

 雷禅の言葉に幽助は思い出した。この魔界に来たのは、自分自身に決着を付けると幼馴染である雪村蛍子に約束した事を。

 

 その際に隆誠と出会ったお陰で強くなり、自分のやらかしたバカに最後まで付き合ってくれている。なのに体たらくな姿を見せたのだから、彼が激昂するのは当然だと改めて納得すると同時に反省もした。

 

(ったく。リューセーの言う通り、俺はホントに大馬鹿野郎だな)

 

 ――全くだ。まだ俺の血にも勝ってねぇのに、途中でやる気を失くされたら俺も困るんだよ。だが、それとは別に……。

 

 直後、雷禅が幽助に対してこう言った。

 

 ――ガキ、少しばかり俺と代われ。それまでにその腑抜けた面をどうにかしておけ。

 

(ちょっ、待てよ親父……!)

 

 

 

 

 

 

「これで終わりだぁ!」

 

 隆誠が渾身の一撃を繰り出そうと、右の拳にオーラを纏わせて幽助に止めを刺そうとする。尤も、あくまで意識を失わせるだけだが。

 

 拳が当たる寸前、突如変化が起きた。幽助が急に紙一重で躱した為に。

 

「なっ……ぐっ!」

 

 突然の回避に隆誠は思わず目を見開くも、直後に向こうからの反撃を頬に受けてしまう。

 

 予想外の反撃を喰らってしまった隆誠は地面に向けて落下するも、慌てる事無く態勢を整えながら両足で着地。その後ろでは幽助も同様に。

 

「やれやれ、やっとやる気に……ッ!?」

 

 隆誠が立ち上がりながら振り返ると、途端に驚愕した。幽助の姿が変異している為に。

 

 身体には見慣れない紋様が浮かんでおり、更には白い長髪となっている。

 

「お前、その姿……」

 

「久しぶりだな、隆誠」

 

「? 一体何を言って……ッ!」

 

 突然おかしな事を言う幽助に隆誠が訝るも、途中である事に気付く。目の前にいる人物は幽助ではないと。

 

 加えて今感じている妖気は、とある人物と全く同じだった。

 

「お、お前もしかして、雷禅なのか!?」

 

「クックック。随分な驚きようじゃないか、隆誠」

 

 死んだ筈の雷禅が幽助の身体を通じて戻って来た事に、隆誠が困惑してしまうのは無理もなかった。




ちょっと無理があるかもしれませんけど、雷禅が再登場する展開にしました。

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