Side 上鳴
『上鳴のチルド速達便だァ!どうする轟ィ!?』
大氷壁とは比べるもないが、とんでもないデカさと重さを兼ね備えた氷塊を強引に動かして轟にぶん投げる。
地面から集められる砂鉄の絶対量があまりに少なく、砂鉄の量と反比例した膨大な出力で、俺のいわゆる残存バッテリーがゴリゴリ削れていく。
「ジリ貧だな⋯!!」
轟にも俺のようなバッテリー切れがあると思うのだが、その底が一向に見えない。
熱放射と冷却のサイクルがあるとは言え、出力を落とさずああも個性を使い続けられるのは異常だ。
どこかで限界は来る。でも、このペースで個性を使っていたら轟が限界に達する前に俺がアホになっちまう。
轟のこれまでの研鑽があってこそか、それともエンデヴァーと母親の血筋を引いているからなのか。
「ハハ⋯言ったら殺されそうだな」
ぶん投げた氷塊を轟が全て溶かし切る過程で大量の霧が生まれ、俺達の姿を覆い隠す。
すかさず轟が俺との間に氷壁を築き上げたことを、電磁レーダーで感知しながら策を練る。
俺に残された攻撃手段は、電撃と心もとない量の砂鉄だけだ。これでどうするか⋯⋯
まず思い付いたのは、電撃を雷撃のレベルまで引き上げ、何億ボルトもの超超高電圧で氷壁を貫通させ轟を気絶させる方法。
これは無しだ。想定よりも氷壁が薄い場合、そうでなくとも雷撃が直撃した場合、轟は良くて感電死、悪けりゃ消し炭になっちまう。
砂鉄で超振動ブレードや電熱線を作ろうにも、有効的な威力を出すのに砂鉄が足りない。
超電磁砲をぶっ放そうにも、威力の調整も出来ないし砂鉄の量が最低量に達していない。
巡る思考されど、答えは出ない。
それでも数秒の内で、俺の足りない脳みそで考え付く方法の中に、一つだけ勝ち筋に繋がるかもしれない奥の手があった。
「しゃーない、やるしかないな」
発生した深い霧の中、俺は汎用性が高くあらゆる相手に通用する電撃を捨てる覚悟を決めた。
捨てるのは電撃だけじゃない。電磁レーダーに磁力操作、およそ
捨てると言っても、あくまで副次的な効果で使用不可となるだけなのだが。
しかしこの奥の手を選べば最後、俺は試合終了まで電撃や磁力操作を失うことになる。
それでもだ。それでも勝つ方法がこれしか無いのならば、俺は躊躇なくそれを選び取る。
「
言葉を口に出し区切りを付けて演算を簡素化する。
演算、普段は意識してせず半ば無意識的に行うそれを今は、全神経の八割を集中させ行った。
奥の手の発動のために必要なのはただ二つ。
死中に活を見出し、轟の一切合切を打倒する覚悟だ。
「
人間は肉体の機能に無意識下でリミッターを掛けていて、その気になれば軽く鉄骨を振り回すことが出来る。
それを俺の個性で強引に外し、解除状態を維持するのが俺の新境地、『
体細胞の電気信号を直に弄っている都合上、余計な演算に頭を割けないから他の技は扱えなくなるが、この
なによりこの形態のメリットは⋯⋯
「行くぜ轟、俺とお前のファイナルラウンドだ」
⋯麦野をも凌駕する身体能力を発揮することにある。
深く踏み込んだ姿勢から一気にトップスピードへと到達、そのままの勢いで氷壁を殴り付ける。
氷壁には大きな亀裂が走り氷片が飛ぶ。
殴った時の反動からして予想通り、氷壁の厚さは電撃では貫通し切れず雷撃では殺してしまう、そんな塩梅の厚さだった。
まあ、今更関係ない。
今は目の前の分厚い壁をぶち破るだけだ。
「オラァッ!」
氷壁を跳び越えるコースや回り込むコースは予測されている。
だからこその拳を何度も叩き付けるだけの力押し、轟のような優秀で次の策を考えちまうような相手には案外これが利く。
「ご開帳っ!」
「なっ⋯!?」
氷壁を殴り破ると轟と目が合った。どうやら壁の間際に居たようで、壁を破り至近距離に現れた俺に大層驚いて目を剥いていた。
ククッ!見事にびっくりしてるぅ!!
遠距離攻撃を撃ち合う間合いからインファイトへ、交戦距離の突然の変化に轟の意識は追い付かず、次の一手が致命的に遅れる。
その一手が俺に勝機を与えた。
「チッィ⋯!!」
腕を伸ばして放つ軌道が丸わかりの雑な火炎。
ランペイジドレス以前から防御が可能だった火炎など、強化された俺の五感からすれば、容易に回避出来る。
折り紙付きの上昇率で強化された視覚で見て、強化された脚力で火炎の当たらない轟の右半身へ跳ぶ。
「歯ぁ食いしばれよ轟」
ランペイジドレス、この能力は恐ろしい。
あくまで体細胞のリミッターを外しているだけだから、動くたび俺の体は傷付き続け、細胞分裂も加速しているから怪我をしていることにも気付かない。
万が一、想定以上の出力で腕を回せば肩から腕が千切れ飛ぶ可能性だってある。
だから一瞬だ。
一瞬だけの全力、これで決める。
居合のように拳を中腰に溜め、腰を捻って拳のストロークを増やすと共に意識を集中、演算を始め即座に終わらせる。
「俺の拳は痛いじゃ済まねぇぞ!!!」
それらを一気に駆動。
腰から肩へ、肩から肘へそして拳へ。一連の動作を演算と完全に同調させて放つ。
「ッッ、ァ⋯!?!」
直撃、この言葉が今ほど似合う時はないと思える拳が人体最大の急所、鳩尾に打ち込まれる。
轟の口から声とも呼べない息が漏れる。
衝撃が腹部に伝わると、肺に残っていた空気が一気に押し出され、次に生理的な反応に従って轟の呼吸は一次的に止まった。
『なんということだァ!!上鳴が、轟にデカいの一発ブチ込んでいるぅ!轟動けない!!』
「上鳴ィ!!膝入れろ膝ァ!!」
「ちょ!?声がデカいですわよ麦野さん!」
「うぉぉぉ!!!良いぞ上鳴くぅぅん!!」
「葉隠さん!?」
『観客席からも熱い声援が飛ぶ!』
『あいつら⋯あとで説教だな』
弱々しく伸びる腕が俺の肩を掴んでもその握力は無いに等しい。
虚しく開閉する口は空気を吸い込むことも無く。膝も笑っていて、立っているのがやっとという具合だ。
「無理すんなよ。モロに入ったんだ、息が出来てッ⋯!?」
突如感じた左肩の冷たさ。
原因を確認するまでもなく前蹴りで轟を突き放して、反動で俺も距離を取る。
「おいおい⋯アレ喰らってまだ動けんのかよ」
当然それは轟の右側から発動された氷結だった。
肩に付いた氷は簡単に砕けるが、轟のあの打たれ強さは完全に予想外だ。
人間誰しも、鳩尾なんかにモロ喰らったら痛いのは当然として、横隔膜が痙攣して動けなくなったり神経が刺激を受け、力が抜けて立てなくなる。
「ま⋯だ⋯⋯まだだッ!」
はずなのに、いまだに轟は立っている。
末恐ろしい奴、前の競技から分かってはいたが、まさかあそこまでとは。しかも、強力な個性を持っていながら、フィジカルまで鍛え上げる人物に心当たりがあった。
「負けて⋯ッたまるかぁ゙⋯!!」
まるで麦野を相手しているような感覚を俺は覚える。
手負いのはずなのに、間合いに踏み込んだら首筋を食い千切られそうな底冷えするそれに、気を取られて足を止めてしまった。
「なんだよ⋯お前も殴られ慣れてる質か?」
「⋯ッうるせぇ!!!」
「うわッ⋯!地雷踏んじまったか?」
苦し紛れの半笑いで叩いた軽口のつもりが、轟からしたら対戦車級の地雷だったらしく氷の小連山を差し向けて来る。
ここはランペイジドレスの腕力で先頭の氷を拳で砕き即座に上方へと跳躍。砕いた時に拝借したこぶし大の氷を牽制として奴の左側に投げる。
野球ボールサイズの氷がぶつかれば体勢も崩れ、轟の行動をさらに遅延。
これで左側をこちらに指向させず火炎を封じ距離を詰める。
「麦野直伝!!頂天落としィ!!!」
強化もクソもない単なる踵落としだが、落下エネルギーはバカにならない。
対して、轟は自身をノックアウトして余りあるであろう踵落としの迎撃に、地面より直径4mはある氷の柱を作り出した。
踵落としで決めるのはやめ、氷の柱を真正面から砕き、砕いた半ばからほぼ直角の側面を走って轟に迫る。
「お前に何が分かんだよッ!!」
「なぁんも、分かんねぇよ!!」
続く二本三本の柱も徒手空拳と上昇した身体能力で砕く。
実戦での使用は初めてなのと、慣れていないのも相まってランペイジドレスの演算は想像以上に俺の残存バッテリーを削って、残る行動時間は三十秒あるか無いか。
次に距離を離されたら勝ち筋は途絶える。
様々な思考が脳内を巡り、尚も勝つために頭を回して考え続ける。
「このっ⋯!避けねぇと火傷するぞ!!」
火炎が尖塔の側面に沿って登り俺に向かって来た。
喰らえば火傷どころじゃ済まない、それを承知で更に速度を上げて火炎の中に飛び込む。
電気と同じで生物に対して特攻を発揮する炎。それを喰らう筈がない、避けると思わせての最短ルートを辿る正面突破。
轟もまさか自ら喰らいに行くと思って居なかったのか、火炎の勢いが大幅に弱まった。短時間の放射で終わった火炎から突き抜け、一足で足場を蹴り付け斜め下に跳ぶ。
着地地点は轟の背後、無防備な背中が正面に来る。
「死中に覚悟を見出す⋯そんなこと覚悟の上だ!!」
結論は出た、残るチャンスはここしかない。
今ある火傷を強引に治せば回復痛で意識が飛びかねない。さりとて火炎を浴びたこの体じゃ、どのみち激しい動きは出来ない。
時間的要因も、肉体的要因も、今ここで決めなければ勝てないと言っている。
「無差別放電⋯」
電撃やレーダーを捨てた。
ここで俺は演算すらも捨てる。
演算。それは俺の個性に指向性を与えるために行うテクニックであり技術だ。
そして俺が演算を行わず個性を発動して出力されるのは、俺元来のただ電気を纏うだけの個性。
「⋯130万V!!!」
残ったありったけの余力を注ぎ込んで発動する『帯電』。
しかし、この『帯電』だけは唯一、演算を経由せず使える。
「これが俺のありったけだぁぁぁ!!!!」
三秒か五秒か、それよりもっと長い時間続いたかもしれない無差別放電は先細るように次第に弱まる。
勝てたかどうか確認する間も無く、放電が終わると共に俺はアホになった。
Side麦野
「轟くん行動不能。上鳴くん決勝戦進出!!」
『決着ぅ!!半冷半燃vs
「ウェ〜イ!!!」
『上鳴もこの喜び様で⋯「ウェ〜イ!!」⋯あの上鳴さん?⋯「ウェ〜イ!」⋯⋯あれ?』
『上鳴電気。申請された書類によると、個性の過剰使用で脳がショートし思考能力の著しい低下⋯とあるな』
「思考能力の著しい低下ってより⋯」
「アホね。ハァァ⋯」
緑谷の言葉に付け足してクソデカため息を盛大に吐く。
「余裕が無いってのは理解出来るけど、もう少しなんというかスマートな勝ち方ってものが⋯」
「まあ、よろしいのではありませんか?一応は勝利したのですから」
「⋯それもそうね。面白いものも見れたし良しとしましょう」
『
身体能力と再生能力を大幅に上昇させ、インファイト勝負に持ち込めば圧倒的フィジカルで敵をタコ殴りに出来る。レベル4の発電系大能力。
理論上では超電磁砲にも再現できる能力であるが、それはあくまで再現。真の意味で天衣装着にはなれない。
でもアイツは『超電磁砲』じゃない、『電気使い』だ。
超電磁砲が使えるからと言って、上鳴の成し得る可能性はそこで終わらない。電気使いであるからこそ、上鳴は理論上全ての電気系能力者に成ることが出来る。
それでも、まさか『天衣装着』をあの段階まで仕上げてるなんて思いもしなかった。ライバルであり親友として喜ばしい限りだ。
方法や演算方式はなんとなく思い付くけど、これは決勝戦後の楽しみに取って置きましょうか
「にしても驚いたわ。いつかの日に話した他愛も無い話が、あそこまでになるとはねぇ⋯」
「⋯⋯?麦野さんは、後半のあの身体強化系みたいな技を知ってたの?」
「まあね。技というより形態だけど、詳しいことは本人から聞くのが手っ取り早いから、アホから復帰したら直に聞いてやりなさい」
「うん!存分に聞かせて貰うよ!」
「やっぱ決勝が終わってからで」
緑谷の勤勉さは極まってるわね。まさか両腕やらなんやらバキバキに折れて完治もしていないのに、キラッキラ目ぇ輝かせてる⋯⋯これは一種の病気ね。
「ところで、葉隠が妙に静かなのが怖いんたけど」
「葉隠さんならそこで悶えてるよ」
緑谷が指さす見れば体操服の輪郭が不自然にウネウネしている。なにあれキモい。
「あっちがアホ鈍感ならこっちは色ボケね⋯
⋯⋯ほら葉隠。もう上鳴運ばれたんだから、とっとと医務室行ったら?」
「はっ⋯!分かった行く!!」
切り替えはや。そこまで上鳴好きなら、いっそのこと落ち着いた時に強行手段を勧めるべきかしらねぇ。
上鳴の好みはよく分からんけども、アホ鈍感なだけで心情的な部分では純真無垢な男の子だ。なに、すこーしばかりアプローチを変えればすぐに効果は出る。
「そんじゃ、私も行きますか」
そうして私は席を立ち、どこか浮ついた軽い足取りの、さながら内なる闘争心を抑えきれない様子で入場口へと歩を進める。
すれ違う通行人が怯えるほどにギラついた私の瞳が、そのまま次なる対戦相手、爆豪への期待への表だった⋯⋯⋯
Side上鳴
「起きたか」
出張保健室の天井が目に入る。
いまいち回らない頭で体を起こす。
「ウェイ⋯試合はどうなっウェイ?」
回らないんじゃない、使い過ぎでショートした頭を精一杯使って聞く。
「⋯⋯お前の勝ちだよ。上鳴」
「しゃッ!ウェェイ!!」
人目も憚らずにアホなままガッツポーズをして喜ぶ。
あれ程の激闘、限界まで個性を使い、出せ得る全力で戦ったあの試合の勝利が自分のものだと考えると、何にも増して嬉しくなってしまう。
そして答えてくれた隣のベッドに横たわる男、轟がこちらを見詰めてるのに気付いて喜びを慌てて抑える。
「ウェ、ウェイッ!?今のは違うウェイ!煽りとかじゃなくて、こうアホになってウェイウェイしちまって⋯」
「分かってる。そういう体質なんだろ、USJで見てるよ」
妙に落ち着いてる轟を見て、ようやく回り始めた頭で、放電が効き過ぎたのではと憂慮していた。
そんな時、轟は落ち着いて一息吸ってから吐き、ぽつりと始める。
「お前、試合前に言ったよな⋯⋯あれ嬉しかった。ありがとう」
試合前の少ない時間。
そこで一方的に言い放った言葉を思い出す⋯⋯
『轟、お前。本気を出す気はあるのか?』
『分からない⋯』
『分からない、か』
曖昧な答えだ。
本気とは即ち左側の炎を使って俺と戦うこと。
轟の過去は少しは知っているつもりだ。アイツがどんな思いで左側を封じていたのかも。
どんな思いで緑谷戦で左側を使ったのかは分からないが、それが轟の何かを変えたのは確かだ。
それは緑谷が何か特別な事をしたからじゃない、緑谷自身の思いを直接伝えたからだと思う。
だったら俺も、それに倣う。
『これだけは言っとくぞ轟、俺はお前の親父や母親を見てるんじゃない。轟焦凍っていう目の前のお前自身を見てるんだ。
だから、お前も轟焦凍として俺を見ろ。それだけだ」
ただ一方的で身勝手な言葉だ。
それでも、轟が常に何かに囚われて本気を出せていないのは凄くもどかしくて、凄く悲しいことだと思う。
ただ自由に戦って欲しかった。
それだけのことだった⋯⋯
「こっちこそウェイ!本気で相手してくれてサンキュ!」
「上鳴お前⋯⋯⋯
⋯⋯チャラいな、試合前のお前と同一人物と思えない」
「ハハッ!聞かなかったことにする⋯ウェイ」
「ッ⋯そうしておくか」
ほんの僅かな、笑っているかどうかも分からない程の微小を浮かべて応えてくれた。
有るか無いか勘違いかもしれないそれはきっと、心の底からの微小だった。
評価付与と感想お願いします!
上鳴くんは女誑しじゃない、人誑しなのだ!
実例もとい被害者の一覧
・麦野
・葉隠
・轟
まだ増えるかも⋯?
どれが好き?
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ギャグ要素多め シリアス少なめ
-
ギャグ少なめ シリアス多め
-
どっちも同じくらい