【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「ちょっと買い物してから帰ろうと思ったのにもうこんな時間じゃん!!明日はライブだし早く帰らないとやばいって……!!」
りっきーにまた「は?」って言われながら怒られるのが目に浮かぶ……!!
それに「明日はライブなのに浮かれ気分で買い物とか本当最悪、やる気ある?」と言っているのがスピーカーみたいに私の頭の中で響いてしょうがない……!!だって、仕方ない。この前ショッピングモールで買おうとしていた洋服が今日再入荷されているという情報を学校で手に入れたんだもん。善は急げとも言うじゃん。もう買い終わったから、頭の中のりっきーも怒らないでよね……!今日は急いで帰ろう、と私はショッピングモールの外の階段を下りて行くと……一人の男の人が階段に座り込んで夜空を眺めている。
あの特徴的な髪の色、何処かで見覚えがあるような……。
あれ、間違いなく結人君だよね……?
「じゃあ……」
「うん、また何処かで会いたいな」
結人君、誰かと話してたみたいだけど誰だろう……。
帽子被っていて顔はよく見えない。話し方的にちょっと他人って感じだし知らない人と話していたのかな……。でも、なんだろう。話してた相手の人、いい意味で凄く普通の人っぽくない感じするけど芸能人の人とかだったりするのかな。
「こんばんは」
「あっ、こんばんは」
帽子を被った女性の人は私に挨拶をしてきていた。
やっぱり、声の出し方的に普通の人っぽくない感じがする……。うーん?でも顔が本当によく見えない。薄っすらと金髪っぽい髪色が見えたけど本当に一瞬だったからよく見えなかったし、誰なのかも分からなかった。「もういいや」となって興味が無くなった私は結人君の方へと上がって行き、手を振ると結人君が気づいていた。
「空見てたの?」
「ああ……、ちょっとな」
結人君は何処か元気がない様子。
見た限り、さっきの人と喧嘩したわけでもなさそうだし……。うーん、何かあったんだろうか。あっ、こういうときは友達の話をして元気づけてあげるのが良かったりするよね。お互いの友達の話をして盛り上がって笑い合ったり……。
「結人君、りっきーってさ……昔からあんな不愛想な奴だったの?」
「ああ、昔からあいつはあんな感じだよ。俺はあいつと初めて会ったとき、燈のなに?って直球で聞かれて困惑したよ」
「あーやっぱりりっきーってそんな感じなんだ」
燈ちゃんが前のバンドで色々あってそれでも誘おうとした私の責任でもあるけど、あのときのりっきーは「なにこの人……」ってなったな……。いきなり現れて燈ちゃんの騎士みたいなことを言い出して本当にビックリした。
「昔誤解させるような言い方して一度だけ燈のこと好きって言ったら、凄い睨まれたっけな」
「りっきーならやりそう……」
でも結人君と燈ちゃんって普通にお似合いだと思うけどなー。昨日出会ったばかりだし、話聞いた限りだからよく分かんないけども……。こんなことをりっきーの前で言ったらガン飛ばされそう。
「あいつは燈のことが大好きだし、燈の為ならなんだってやるタイプだからな」
「りっきー完全にそういうタイプだもんね」
なんだってやるタイプっていうのは例え方としてはちょっと怖いけど、りっきーの場合燈ちゃんの為なら本当になんでもしそうだしなぁ……。犯罪は流石にしないと思うけど……。
「燈、上手くやれてるか?」
「……え?うん、最近の燈ちゃんなんか超カッコいいよ」
「カッコいい……?」
りっきーの話がある程度終わった後、結人君がバンドでの燈ちゃんのことが気になるのか聞いていた。カッコいいと言われて、不思議そうに首を斜めに傾げていた。
「出会った頃はなんか不思議な子だなと思ったんだけどね、今はバンドのリーダーとして率先して私達のことを引っ張ってくれるんだ」
「なんか、意外だな……。そういうのはてっきり立希がやってると思った」
「基本的にはりっきーがまとめ役。最近は燈ちゃんが私達を引っ張ってくれることが多いかな。りっきーがステージ練習から逃げ出したりしたとき、楽奈ちゃんを探しに行ったとき率先して探しに行ってたんだ」
あれは驚いたなー。
燈ちゃんって小動物的な子だからてっきり周りに任せるタイプって印象に見えてたから自分の意志でああいうことを言い出すのは……。
「そうだったのか……。燈、昔は気弱だったのに成長したんだな……」
結人君、ちょっと嬉しそうにしている。
友達のことをこんなにも褒めてもらったんだからそりゃあ当たり前だよね。私もクラスでこんなふうに言われたら嬉しくなっちゃうだろうし。いや、でもやっぱり自分が褒められたいって気分はあるかも……。
「……燈ちゃんも色々あったからね」
「そよさん!!?」
後ろから振り向くとそこにはそよさんが階段から降りながらも私のところにやって来ていた。
そよさんの手には買い物の袋が入っていて多分服とかを買って来ていたと思う。月ノ森の人でこんな夜遅い時間まで買い物とかするんだ。
「結人君、明日は来てくれるんだって?燈ちゃんや立希ちゃんもきっと喜ぶと思うなー」
結人君は無言でいたが、小さく頷いていた。
「そよさん、あのさっきの燈ちゃんも色々あったって……」
「うーん、色々は色々かなー?」
そよさん完全に濁してる……!?
これ燈ちゃん、完全になにかあった感じだよね……。そよさんもあまり詮索しないで欲しいと言いたそうにしているし……。
「……人の心は脆いからな」
「え?それって結人君やそよさんも……?」
思わず出てしまった言葉。二人共メンタル強そうだったから……。
二人は何も言わずに、黙り込んでしまう。それがあまりにも静かで逆に胸が締めつけられるようだった。風が吹き荒れ、顔には冷たい風を浴びたの同時にこの張り詰めた空気を溶かすべく私はこう言う。
「な、なんか寒くない……?」
正しい答えは間違いなくこれじゃなかった。
あんなにも強く見えていた二人が無防備に晒されているような気がしていると、結人君は立ち上がる。
「……そよ、愛音。俺は先に帰るわ」
「うん、じゃあね結人君。明日のライブ楽しみにしててねー」
「ああ……」
立ち上がった結人君は階段を下りて行く姿を後ろから見ていたけど、その背中は何処か悲しげに見えていた……。
「猫……?」
黒と茶色の混合の色、黄色の瞳……。
猫が私の横を早々と歩いていく行動が気になって私は追いかける。もしかしたら、この先に何かがあるのかもしれないとそんな好奇心が湧いて来て私は猫の追いかけて行く……。
周りの人から見ればきっと不思議な光景かもしれないけど、私には何処か呼ばれたような気もしていて猫を追いかけると、辿り着くと……そこは昨日の楽奈ちゃんを見つけた公園の場所だった。見覚えのある景色のなかで私は公園の周りを見ると、誰かが座り込んで猫たちと戯れていた。
「楽奈ちゃん……?」
コンクリートの塊の上に昨日と同じように座り込んでいる。
追いかけていた猫が何処に行ったのかを目で追っていると、楽奈ちゃんが「よくやった」と言いながらも顎の下を軽く撫でてあげていた。
「もしかして……楽奈ちゃんが呼んだの?」
「ともり、話ある」
「話……?」
話を聞くために、ブロックの上に座って楽奈ちゃんが話し出すのを待つ。
楽奈ちゃんから私に話……。いったい、どんな話なんだろう……。
「昨日の夜、ゆいとに会った」
「ゆいと、寂しそうだったから声掛けた」
「寂しそう……?」
結人君の寂しそうな表情……。
今までそういう表情を見かけたことがないからちょっと想像することができない……。でも、結人君もそんな表情をするんだ……。
「寂しそうなのはよく分からないけど言ってた。ともりのライブ、前のバンドのとき来れなかったから楽しみって」
「結人君……」
どうして寂しそうにしていたのかは分からない。
でも結人君はやっぱり今でもCRYCHICのときのライブに来れなかったことを悔やんでいるんだ。立希ちゃんのときも私のときも似たようなことを言っていたからこそ今回のライブは絶対見に行きたいと気持ちがあって楽しみにしてくれているんだ。
「ともり、ゆいとの
「一生の思い出に残るライブ……」
私は昨日まで結人君やお客さんに対して自分の叫びが響いてくれたらいいなと思うぐらいだった。でも楽奈ちゃんは結人君がCRYCHICのときのライブに来れなかったのを知った。結人君にとって私のライブは初。楽奈ちゃんはだからこそ結人君の一生記憶に残るようなライブにしてあげようと言ってくれているんだ。
「うん……!!結人君の一生の記憶に残るライブにしようね、楽奈ちゃん……!!」
楽奈ちゃんのこと、今まではよく分からなかったけど二人で話してみてようやく分かった気がする。自由な子だけど、結人君のことを気に入っているみたいで結人君の為に凄く頑張ろうとしてくれていることも分かった気がしていた。
ライブハウス、RINGの楽屋……。
楽奈ちゃんにもああ言われたことだし私は私の出来る限りを出したい。結人君にもそうだけど、お客さんに響くような歌を届けたい。
「燈、冷えるだろうから此処座って」
「うん……」
音出しを終えた私たち。
音出し中は色々なことがあった。楽奈ちゃんはいつも通り自由だったしそよちゃんは調整をミスしていた。立希ちゃんはAfterglowさんに見られていて凄く緊張しているようだった。愛音ちゃんもまた緊張しているようで少し空回っていた。
「燈、結人から連絡来た?」
「まだ来てない……」
スマホの画面からは自分の顔が映し出されている。
今にも不安に駆られそうになっているその顔をどうにか結人君は来ると言い聞かせて誤魔化していた。
「燈、もしあいつが来なかったらそのときは私があいつの家に行って数発殴ってくるから……。燈のライブに来るって言っておいて来ないとかありえないから」
立希ちゃんの目は本気だった。
立希ちゃんだったら本当に結人君のことを殴り込みに行きそうだ……。
「来た……かも」
「なんて来た?」
スマホに通知音が鳴ると、振動する。
私は送られて来た連絡を見ると、そこには結人君からは『絶対見に行くから……頑張れよ』という連絡が来ていて私はほっこりとした気分になっていた。良かった、結人君今回のライブはちゃんと来てくれる。心からの安心を得た私はペットボトルに入っている水を飲もうとしたときだった。先ほどの連絡の内容を思い出して何かが湧き出そうになっていた。
「っ……!!」
頭が割れそうな痛みが伴う。どうしてこんなことが起きているのかが分からない。
でも怖い、何かが怖い。スマホを握る手に力が入り、鼓動が速くなる。呼吸が速くなる。私はあの日も結人君になにかを言われたような気がする。それが今思い出しそうになっているけど、なんだったのかが全く思い出せない。
「燈、大丈夫!?」
鋭い痛みが、頭の中を駆け巡る。
隣にいた立希ちゃんが私の様子がおかしいことに気づいて、手に持とうとしていたペットボトルのキャップを開けようとしているのが見えているけど、意識が朦朧としていてよく見えていない。
「う、うん……」
きっと力のない笑顔だった。
私は立希ちゃんを心配させないためにも必死に自分の頭痛を抑えていた。次第に痛みは和らいできて私は落ち着きを取り戻すことが出来ていた。
「燈、本当に大丈夫……?」
「大丈夫、ありがとう立希ちゃん……」
立希ちゃんからペットボトルを受け取って喉に水を通して潤いを取り戻す。
「なにか」が近づいてたことは確かだけど、そのなにかが全く分からなかったがライブに集中しなきゃ、と深呼吸をする。結人君が今回のライブを見に来てくれると言ってくれているんだ。私も頑張らなきゃ……。
「結人君……」
既にライブ会場に来ており、お客さんは疎らではあったもののそれなりの数はいた。
必死に目で結人君を追いかけようとするが結人君の姿がない……。やっぱり、あのときみたいに来なかったのかな……。直前までやる気に満ち溢れていた私の心は揺れ動いていたがそれでも楽奈ちゃんが言っていたことを思い出す。
『ゆいとの一生の思い出になるライブにしよ?』
誰かの一生に残るなんてことはとても難しいことなのかもしれない。
頑張っているだけじゃ心の叫びは誰にも届かないのかもしれない。それでも愛音ちゃんが言っていた。頑張っていれば必ず見てくれる人達がいると……。だったら、私は最後まで頑張りたい。頑張ってみせたい。それで例え、「必死過ぎ」だと言われても私の歌は魂の叫び……。
私は周りを見る。
愛音ちゃんがギターの音がブレてしまっている。初めてのライブ、緊張のあまりに上手く弾くことが出来ていない……。一度演奏を中止して、演奏を仕切り直すが今度はぎこちない演奏だけが響いてしまった為、立希ちゃんがまた仕切り直すと愛音ちゃんは立希ちゃんの方へと行っていた。
「練習ではちゃんと出来てたんだから、ちゃんとして」
「わ、分かってる……」
「あ、愛音ちゃん……私も頑張るから頑張ろう」
今言える最大限の言葉を送りながらも私は愛音ちゃんに水を差し出す。ペットボトルに入っている水がかなりの量減っているのを見て愛音ちゃんがかなり緊張していたことが伝わって来る。私達が話している間にそよちゃんがMCで楽奈ちゃんのことを聞いて場を繋がせてくれていた。落ち着いた愛音ちゃんが所定の位置に戻ってから私も戻っていた。
ドラムスティックでリズムが刻まれると音が聞こえると、私は一旦目を瞑る。
目を瞑っても開けてもそこには結人君はいなかった。愛音ちゃんのギターからは会場全体に響く音が放たれていた。今度は迷いのない、力強い音色に変わっていた。愛音ちゃんの中でも何かが起きたのかもしれない、もう一度観客席に目を向けるとそこには本来であれば此処にはいないはずの人がいた……。
その姿はこのライブ会場の中でも輝きを放っていた。
その姿からは気品の高さすらも感じられる、その観客の人は紛れもなく祥ちゃんだった……。祥ちゃんは何処か私のことをじれったいようにも見つめている。まだ足りていない自分を見せてしまっていいのだろうか、もっとやれるんじゃないのかと悩みに悩んでいると、そのとき祥ちゃんから「頑張れ」と言われたような気がした私は自分の音を……声を取り戻すようなことが出来た気がしていた。
順調そのものだった。
私は私自身の色を取り戻した世界で歌う苦しみから解放されていた。ただやっぱり、結人にこの場を見て欲しかった。あのとき見てくれなかったからこそ私は見て欲しかった。忙しかったのは分かる。それでも結人君には見て欲しかった……!
「……?」
結人君が来てくれなかったこと残念に思っていると、楽奈ちゃんの視線を感じるような気がしていた。演奏が楽しくてこっちを向いている感じじゃない、なにか私に訴えかけているような気がする。私は楽奈ちゃんの方を見ると、頭で「あっち見て」と言っている気がした私は扉を開けて入って来て少し歩いてから立ち止まって私のライブを見に来てくれている結人君の姿があった。
良かった……。
本当に来てくれたんだ、立希ちゃんの方からもなんとなく結人君の姿を確認できたのか、そんな感じがしていた。
私の
もう緊張だとか、お客さんの反応とかそういうのは気にしない。何故ならは……。
私は……必死にやるしか出来ない……!!
だって……私の歌は心の叫びだから……!!!
聞き覚えのある曲調だけど、かつてのあの曲とは違う。
弾き始めていた楽奈ちゃんの方を見ると、「やってやろう」と言わんばかりにこっちを見ていた。楽奈ちゃん、もしかして楽奈ちゃんが言っていた一生思い出に残るライブにしてやろうってそういうこと……?あの日結人君が見れなかった春日影を結人君に見せてあげようって言いたかったの……?
だったら、私は……!!
歌う……!あの日結人君が聞くことが出来なかったこの曲を……変わってしまったけどそれでもこの曲を聴かせたい春日影を……!!リベンジしたいから……!!
「ともり、ゆいとに届いてた……」
「うん、楽奈ちゃんもありがとうね」
楽奈ちゃんは満足そうにしながらも舞台裏からも下りて、楽屋の方へと向かって行った。
「燈ちゃん、滅茶苦茶良かったよ!!」
ライブのことは正直はっきりと覚えていない。
歌声ははっきりとしていたけど、夢中になり過ぎてて何がどうなったのかも覚えていない。ただ結人君や祥ちゃんに今の私を見せたかったという気持ちだけは今も残っている。二人に見せることが出来たかな、今の私を……。
「あいつ来るの遅過ぎなんだよ!」
「うん、でも結人君来てくれた……」
「怒ってるけどりっきー嬉しそうじゃん」
「はぁ?燈のライブに来るなんて当たり前だから……!!」
立希ちゃんは結人君が来ることが遅かったに対して少し不服そうにしながらも「あいつ後で文句言ってやる」と言っていたけど、それでも本当に良かったと安心しきった表情をしている。私も良かった、結人君が来てくれて……。
「そよちゃん……お疲れ……?」
私がそよちゃんがいる方を見ると様子がライブが始まる前と明らかに変わっていた。
ライブが始まるまでは暖かく包まれていたそよちゃんの光は何処かへと消失して今は深い深い海の底に沈んでいるかのようだった。それを表すようにして影がそよちゃんを深淵へと導いていた。
「なんで……?なんで……!?」
「なんで春日影やったの!!?」